ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2024年大学入学共通テスト世界史B徹底研究(1本試験)

はじめに

 2024年1月1日に能登半島を中心としたエリアで発生した地震等により、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧を心からお祈りいたします。

 2024年の共通テスト、余震によるトラブルもなく何とか無事終了しました。被災地の受験生はこの後も不自由な生活が続くかもしれませんが、第一志望合格に向けてできる限りのことをしてください。

 2024年の共通テストを徹底研究し、現受験生はこの後控える一般入試の抜け漏れチェックに、次世代の受験生は研究に使っていただければ幸いです。

問題 東進の特設ページ 

www.toshin.com

他年度のリンク集

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

目次

  

1 大問構成

第1問    世界史上の政治体制や制度

A:中国封建制と郡県制 B:ノルマンコンクェスト C:イギリスの福祉制度

第2問    世界史上の諸勢力の支配や拡大

A:アレクサンドロス大王(授業) B:アメリカ19世紀 C:社会主義国

第3問    交通の発達についての教室シチュエーション問題

A:インドの鉄道 B:アメリカの鉄道輸送の衰退 C:ロシアの鉄道開発

第4問    歴史上の様々な言語と文字、それを用いた人々の文化とアイデンティティ

A:シリア語とイスラーム B:コロンブススペイン語 C:顔真卿と唐の文化

2 凡例

① タイプ

一問一答:歴史的用語(または内容)を選ぶ

年号:年号の知識が必要 時代整序もこの分類

内容理解:教科書の記述内容(背景・経過・影響)を問う

資料:地図、写真、グラフを使った問題で一問一答的な内容

読解:資料問題のうち内容の読み取りを必要とするもの

*「組み合わせ問題」(例:一問一答と資料の読解)は正解を導くためにより必要な力の方に分類した

② 時代

前近代:アジアは18世紀まで、ヨーロッパは中世まで

近代:ヨーロッパの16世紀~18世紀まで

19世紀:19世紀

20世紀:第二次世界大戦まで

戦後:第二次世界大戦

またぎ:時代をまたぐもの

③ 難易度

◎:「あれといえばこれ」の単純知識問題。正解マスト

○:教科書の記述内容が理解できていれば解答可能。

△:高校生には手が回りにくい範囲、細かい知識、抽象的な思考が必要

▲:高校生には難しい、かなり細かい知識や高度な抽象化が要求される

④ 傾向

セ:センター的

新:ここ2年の共通テストで現れた新傾向

私立:私立個別の短答問題で既出

国立:国公立二次試験で既出

*地域の凡例は省略(「またぎ」は地域またぎ)

⑤ 概念

概念知識が必要な問題 空欄はその内容

⑥ 正答率

 2年続けて平均点管理ができていないことに批判が相次いだことを受けて、大学入試センターは2023年から設問別正答率を一般に公開しはじめました。③(ぶんぶんが同日に解答してつけた経験と勘による難易度)と併せてみてください。

*公開され次第追加します。

3 全33問の出題内容ダイジェスト

2024/7/8 大学入試センター発表の正答率を追加しました。

  タイプ 話題 時代 地域 出題内容 傾向 概念 正答率
1 読解 政治 前近代 東アジア 李斯の郡県制と封建制の認識 統治理念 81%
2 一問一答 政治 前近代 東アジア 西晋の建国者と反乱名   78%
3 一問一答 政治 前近代 東アジア 一族に対する分権の先例と明の出来事 統治理念 40%
4 一問一答 政治 前近代 ヨーロッパ オットー1世のしたこと   50%
5 読解 政治 前近代 ヨーロッパ ノルマンコンクェストの史料の読み取り 史料批判 76%
6 一問一答 政治 前近代 ヨーロッパ イングランドとヨーロッパの関係   44%
7 年号 政治 19世紀 ヨーロッパ ドイツの老齢年金制度の成立の時期 私立   69%
8 一問一答 政治 19世紀 ヨーロッパ イギリスで公的年金制度を導入した政党のしたこと   59%
9 一問一答 政治 戦後 ヨーロッパ サッチャーのしたこと 新自由主義 51%
10 一問一答 文化 前近代 ギリシアローマ アテネの悲劇作家   60%
11 読解 経済 前近代 ギリシアローマ アレクサンドロス大王の評価 帝国意識 74%
12 一問一答 政治 19世紀 アメリ ルイジアナ買収とミズーリ協定 BLM 53%
13 内容理解 政治 19世紀 アメリ インディアン強制移住法とカンザスネブラスカ BLM 62%
14 内容理解 政治 19世紀 アメリ 12の法律がきっかけでおきたこと   44%
15 内容理解 政治 戦後 東アジア 朝鮮戦争について3つの穴埋め 私立   57%
16 一問一答 政治 戦後 ヨーロッパ チェコスロヴァキアのこと   43%
17 内容理解 経済 20世紀 ヨーロッパ 中国とソ連の第一次五か年計画   59%
18 一問一答 政治 前近代 南アジア アショーカ王のしたこと   71%
19 一問一答 政治 前近代 南アジア デリーのこと   74%
20 資料 政治 またぎ 南アジア 大学生の図の読み取りの正誤   76%
21 年号 政治 20世紀 アメリ 債務国から債権国、TVA、武器貸与法の整序   34%
22 資料 経済 またぎ アメリ グラフを見て鉄道の旅客輸送量と貨物輸送量の推移の理由を述べる   76%
23 読解 政治 19世紀 ヨーロッパ ロシア・ドイツ。フランスの関係に関する資料の読み取り   88%
24 一問一答 政治 19世紀 ヨーロッパ ロシアに関する学生のメモの正誤   43%
25 一問一答 政治 前近代 ギリシアローマ コンスタンティヌス帝がしたこと   51%
26 一問一答 文化 前近代 西アジア イスラームの文化 私立   64%
27 読解 文化 前近代 西アジア シリア語を使うキリスト教徒とイスラームの関係 グローバル化 75%
28 一問一答 文化 近代 ヨーロッパ ルターは新約聖書をドイツ語訳した   78%
29 内容理解 政治 近代 ヨーロッパ ポルトガルコロンブスを支援しなかった理由   37%
30 読解 政治 またぎ ヨーロッパ 国語と国家の関係の読み取り 国民国家 87%
31 一問一答 政治 前近代 東アジア 安史の乱の内容   67%
32 一問一答 文化 前近代 東アジア 唐の文化の潮流 私立   38%
33 読解 政治 前近代 東アジア 乾隆帝の中国の伝統文化に対する態度の評価 統治理念 27%

4 正解と正誤判定ポイント解説

 問題は各自でダウンロードし、解答したうえで答えあわせしてください。リンクは「ズバリ的中!」ではなく、私立・国公立大学に向けて復習するためのもの。

1.    即答で①

 立命館の過去問、「始皇帝の御前で封建制と郡県制について議論する」のダウングレード版。①は資料1の言い換え。封建制は一族間の争いにつながるから統治は官僚に任せて(郡県制)、王族は税金から手当を出して大人しくしてもらう。②、③、④は封建制と郡県制の内容がごっちゃになっている。

2.    即答で④(司馬炎八王の乱

 知識問題。曹操曹丕は親戚を切り捨てたため武将の司馬炎に国を乗っ取られた。そこで司馬炎は一族を優遇したが、それが八王の乱の原因になった。これも立命館大学の過去問と同じ。

3.    正解は⑥(うーY)

 知識問題。中国の反乱の中で一族の争いは呉楚七国の乱、八王の乱、靖難の役。ダミー選択肢の黄巾の乱後漢赤眉の乱(新)は農民反乱。したがって、う:呉楚七国の乱とY:靖難の役の説明(建文帝に永楽帝が反発)の組み合わせが正解。なお朱元璋が一族を王として北方に封じたのはモンゴル対策のため。

*追記

 この問題は正答率が40%、評価した外部団体は「建文帝が細かい」との指摘でしたが、ぶんぶんは受験生の記憶の中で反乱の名前と内容(農民の反乱か一族の内戦か)が一致していない気がします。歴史的用語は名前だけではなく「いつ」「どこ」「なに」「なぜ」まで記憶するしましょう。教科書の索引で「反乱」「戦い」をピックアップし、内容が言えるかどうかを試す「逆引きトレーニング」をしましょう。

4.    即答で④

 単純知識問題。ヒント「神聖ローマ皇帝の起源」からオットー1世がしたことを選ぶ。カール大帝アヴァール人、オットー1世はマジャール人というのは紛らわしい用語の鉄板。

「カールがない!」と暴れる、おっとっとはまだある。

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5.    正解は②(あーY)

 人物名「あ:ウィリアム」は即答。資料2を読むとウィリアムがハロルドの約束違反を出兵の口実にしていることがわかるのでYが該当する。「いつの時代も戦争するときの大義はおおむねこじつけ」という出題者の控え目なメッセージ。

バイユーのタペストリー。ハロルドが玉座につく様子。さすがに今は難関私立でエドワード懺悔王とかハロルド2世は問わないですよね?パブリックドメイン

6.    正解は②

 「イングランドの羊毛がフランドルに輸出された」は私立の正誤問題ではマスト知識。①×:フェリペ2世はメアリ1世と結婚、その死後エリザベス1世にも言い寄るが、エリザベスは「私は誰とも結婚しません。私は国家と結婚しました」と断る。だから彼女は「処女王」(ヴァージンクィーン)と呼ばれ植民地が彼女にちなんでヴァージニアと呼ばれた。世界史の先生が熱弁するところ。③×:ジョン王と争ったのはフィリップ2世。数字の入れ替え。④×:大陸封鎖令はナポレオン。

*追記

正解率44%とやや出来が悪いです。「百年戦争フランドル地方の争奪が原因」としか記憶していないのかもしれません。「イギリスの方が工業化が進んでいてフランドルから原料を輸入していた」と思った人は、もっと授業中に「従属地域の下克上」を楽しんでほしいものです。

7.    正解は③

 慶應大学経済学部的「これ年表のどこに入る?」問題。社会保険制度はビスマルクがはじめたので1871年以降、「世界政策の名のもとに海軍を増強」はヴィルヘルム2世で1890年代(露仏同盟1894年はマスト年号)、本文中にイギリスの老齢年金法が1908年とあるので、ドイツの老齢年金制度は1871年と1912年の間に入る。

8.    即答で①

 問題文は「老齢年金法を成立させた政党」とまどろっこしいが、自由党に変換しなくてもグラッドストンアイルランド自治法案で即答。②マクドナルド④フェビアン協会労働党、③スエズ運河株買収はインド帝国と同じくディズレーリで保守党。なお私立大学では「内政改革を行い若き日にはアヘン戦争に反対したグラッドストンもウラービーの乱とマフディーの乱には派兵している」ことが問われる。

9.    即答で⑥(いーZ)

 サッチャー(保守党)といえば福祉の削減=新自由主義成功したとは言えないサッチャーレーガン新自由主義を日本の政財官界がいまだ有難がっていることへの出題者のささやかな抵抗。

10.    即答で②

 資料文は4つもあって読むのが大変だが、試験本番ではソフォクレスエウリピデスを見た瞬間に②にマークして次の問題に行く。①×:バビロン捕囚をしたのは新バビロニア(私大はネブカドネザル2世まで出る)で、アケメネス朝はそれを滅ぼしてバビロン捕囚からヘブライ人を解放した。③×:アケメネス朝がギリシアの神殿を破壊したのはペロポネソス戦争ではなくペルシア戦争。単純な用語の入れ替え。④×:父フィリッポス2世が率いたのはデロス同盟ではなくコリントス同盟。紛らわしい用語のすり替え問題で、誤文は資料を読まなくても誤文と判断できる。

11.    正解は③(あー誤 いー正)

 あ×:評価1「マニ教」はササン朝(224年成立)なので共和政(前27年まで)より後。年号は大事。い○:評価Ⅱに書いてある通り。19世紀に提唱された「ヘレニズム」の「ギリシア文明がオリエントに伝わった」的価値観は「進んだ西洋が遅れたアジアを文明化する」という当時のヨーロッパ人の優越意識の表れが背景にある。「歴史は叙述であり、私の問題意識とは無関係ではいられないが、意識的または無意識に現代の「フィルター」で歴史を見てしまうことに自覚的でなければならない」という出題者からの熱いメッセージ。

 新課程の世界史探究の記述の先取りだが、旧課程の受験生も解答できたはず。

*追記

正答率74%とよくできていました。共通テストの世界史は読解ではなく細かい知識の有無で差がつくようです。

 かつての遊牧民に関する叙述にもこの西洋中心主義的価値観があった。

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12.    正解は④(フランス ミズーリ

 資料1「ミズーリ」は隠されているが「北緯36度30分以北に新しい奴隷州を置かない」からミズーリ協定は即答で、ミシシッピ川以西ルイジアナがナポレオンから購入した(対英戦争の準備。ハイチ独立承認も同じ理由。大阪大学の過去問)を知ってるかが勝負の分かれ目。

これ

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13.    即答で②(あーY)と④(いーX)

 あ:資料2はインディアンから「インディアン強制移住法」(今はインディアンとは言わないが法のタイトルはこれ)、い:資料3は「ネブラスカ」から「カンザスネブラスカ法」。したがって「あ」と関係するのはYジャクソン、「い」と関係するのはX「ミズーリ協定の廃止」

14.    即答で②なら①(涙の旅路)、④なら⑤(共和党が結成された)

 共通テスト試行調査にあった連動問題。山川出版社の『ムービー世界史』で「涙の旅路」を見た受験生は即答。世界史の教員が授業で流すビデオ教材は大事

*追記

正答率44%といまいちですが、ぶんぶんの生徒は「ビデオキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!」と思ったらしくほぼ全員正解。全国の世界史の教員は視聴覚教材はつかわないの?

涙の道で死んだチェロキー族の記念碑 パブリックドメイン

15.    正解は②(イ:国連軍 ウ:人民義勇軍 国際組織:東南アジア条約機構)

 龍谷大学スペシャルである3つの組み合わせ問題。戦後史をちゃんとやっていないと難しい。文中に「ウと朝鮮民主主義人民共和国」と並んで書かれているのでウは人民義勇軍、これと相対するイは国連軍と解釈できる。「アジア・太平洋地域における安全保障」のヒントから三つめはSEATOだが、ASEANとごっちゃになっている受験生もいる模様。なお私立ではSEATOの加盟国まで聞かれる。

www2.nhk.or.jp

16.    戦後史をちゃんとやっていれば即答で④

 1948年のクーデターで東側陣営に組み入れられたのはチェコスロヴァキアで、これがきっかけで北大西洋条約機構のもとである西ヨーロッパ連合条約(ブリュッセル条約)ができる。したがって選択肢の④「ドプチェク」(プラハの春)が適当。①×:ポズナニ暴動はポーランド、②×:チャウシェスクルーマニア、③×:ブルムはフランスで、すべて私立大学ではマスト知識。

*追記

正答率43%と多くの受験生は戦後史までは手が回らない模様だが、4割台で踏みとどまっているのはたいしたもの。

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17.    即答で⑤(いーY)

 い:はグラフから明らか。Yもグラフからソ連社会主義は重工業重視とわかる。Zはニューディール政策

18.    正解は③

アショーカ王は第3回仏典結集をパーリ語で行った」は私大知識。ダミー選択肢が外しすぎなので消去法で解答可能。①:×サータヴァーハナ朝クシャーナ朝と一緒に習う、②④×:エフタル侵入、法顕の来朝はグプタ朝

19.    即答で④

 奴隷王朝からのデリースルタン朝はデリーが都。①×:インド国民会議の第1回はボンベイで開催。②×:四大綱領はカルカッタ大会、③×:タージ=マハルはアグラでデリーの南。

20.    一瞬迷うけど即答で②(メモ2のみ正しい)

 メモ1「インド亜大陸の南端まで支配が及んでいた」が間違い。南端はチョーラ朝など別の勢力が存在。出題者は曖昧な「南端」よりも「最南端」とした方がよい。

21.    即答で②

 あ:債務国から債権国へ(WW1後)→う:TVA(世界恐慌)→い:武器貸与法の順。細かい年号は不要。私立では「あ」で債務国と債権国のすり替え、「い」の前後問題の「中立法」が聞かれる。

*追記

正答率34%!今回最大のビックリ。16よりも悪い。学校によっては第二次世界大戦の終了まで終わらない、やってあってもバタバタで定着しづらいのかもしれません。

22.    即答で③(おーX)

 授業で『映像の世紀』を視聴していればWW1後にモータリゼーションが進んだことがわかる。したがって自動車の普及が進んだこと、さらにWW2後は航空機の普及で鉄道輸送は旅客については激減、貨物輸送はほどほどになる。ビデオ視聴は大事。

23.    即答で①(あーX)

 資料1に「ロシアとオーストリアと同盟」とあるので三帝同盟とわかるので空欄は「あ」ドイツ、資料2で「フィガロ」=フランスのメディアがロシアを非難しているのでXが適当。

24.    正解は②(西原さんのみ正しい)

 アクティブラーニング風だが単なる知識問題。藤井さん「ロシアがクリミア戦争で得た黒海北岸地域において」が間違い。この地域はエカチェリーナ2世のロシア=トルコ戦争で獲得している(入試でよく出るクリム=ハン国)。2022年からロシアとウクライナとの戦争が始まっているので、この辺を張っていた人はラッキー。西原さん「1860年代ロシアのアラスカ売却」は正しいが受験生には盲点。

*追記

正答率43%、私立的細かい知識問題で差が出るところ。

25.    即答で⑤(いーY)

 単なる「コンスタンティヌス帝がしたこと」問題。い:コロヌスの移動禁止とY:アリウス派の異端が該当。なおX:「単性論が異端とされた」は2023年の本試験に出た451年のカルケドン会議という私立大学マスト知識。

26.    即答で③

 私立大学必須のイスラームの特徴を一言で表すアラビア語問題。マドラサ教育機関はマスト知識。要復習。①×ゼロの観念はインドから、②×ミニアチュールは中国から、④×:イクター制ブワイフ朝で創始されセルジューク朝で一般化、もちろんマムルーク朝でも実施された。オスマン帝国のティマール制も同じ内容。

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27.    即答で③

 読解問題。文意に沿うのはこれしかない。

シリアのキリスト教は最近紹介したところ

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28.    即答で①

 私立ではルターはヴォルムス帝国会議で皇帝カール5世から自説の撤回を求められたが拒否したので法律の保護下に置かれた。それでザクセン選帝侯フリードリヒにかくまわれヴァルトブルク城新約聖書をドイツ語訳した、まで出る。

29.    正解は④

 「バルトロメウ=ディアスがポルトガルジョアン2世の命で航海」と、世界史教員の「イサベルは最初コロンブスを相手にしなかったが、ポルトガル喜望峰発見を聞いて賭けに出た」という話を思い出せばこの選択肢にたどり着くはず。推理問題風だが、授業を聞きながら自分なりに教科書の行間を埋めているかが正解の鍵。

*追記

正解率37%。世界史教員の話はちゃんと聞かないと!

30.    正解は①(あーX)

 読解問題。Xの「言葉と国家」の問題は、古参の世界史教員はドーテ『最後の授業』(アルザスとロレーヌの話)を例に出すことが多い。4点配点なので、国民国家と国語について世界史探究で学んでほしいという出題者の強力なメッセージ?

31.    即答で④

 隠した空欄は安禄山から安史の乱なので(ネタバレ)、「ウイグルの援軍を得て反乱を鎮圧」が正解。③「反乱を鎮圧した節度使が新たな王朝を創設した」は、「安禄山が大燕皇帝を名乗った」という私大知識がある人がひっかかる可能性あり。①×:塩商人の反乱は黄巣の乱。②×:反乱の後節度使が内地にも置かれて藩鎮勢力が拡大した。事件について背景→契機→経過→結果→影響が整理できているかを問う出題。なお私立大学ではこの時期に吐蕃長安を一時占領したこともよく出題される。

32.    正解は③(いーX)

 文化史のやや細かい知識だが私立では魏晋南北朝→四六駢儷体、唐宋七大家→古文の復興はマスト知識。現代文と古文に絞り切っている私立専願組には厳しい問題。

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33.    正解は④(ふたつとも誤り)

 メモ1×:「乾隆帝漢人に対して自由な言論活動を認め」が誤り。2021年の共通テスト本試験の焼き直し(禁書、文字の獄)。メモ2×:高校教科書レベルだと、孝文帝の漢化(中国化)政策は胡族の風習を禁じるなど「自文化を維持しつつ進められた」とはいえないので誤り。

 ただし孝文帝の中国化政策は宮廷内にとどまり、胡族の軍隊では引き続き遊牧民の風習が守られていたという説もある。つまり孝文帝は中国の文化を王朝の権威に利用して漢族を懐柔しようとしたともいえる。高校世界史でやたら「北魏=漢化」が目につくのは、後世の中華を正統としたい歴史家が必要以上に孝文帝を持ち上げているのをそのまま受け入れているから、とのこと。

参考

*追記

33は難しいと思いましたが案の定正答率27%と33問中最低の正答率。世界史探究になるとこういう抽象的な問題が増えるので、特に統治理念や外交理念(冊封主権国家体制)については要注意。

5 過去回との比較

① タイプ

タイプ 2021本 2021追 2022本 2022追 2023本 2023追 2024本
一問一答 13 10 14 16 19 15 17
年号 5 8 2 5 2 2 2
内容理解 5 3 6 1 4 11 5
資料 3 7 5 2 3 3 2
読解 8 5 7 9 6 2 7
小計 34 33 34 33 34 33 33

 読解問題が8題程度、半分が一問一答、残りが時代整序や教科書の内容を問うもの、グラフの読み取りという構成はおおむね同じです。

 2023年の読解問題は「マラトンの戦いの証言者で誰が最も信用できるか」という歴史学の方法という名のパズル問題や、複数の資料を行ったり来たりして思考力ではなく忍耐力を試す問題で受験生は時間を消費させられましたが、2024年は1,5,23、27、30は資料文の言い換えで簡単、11と33はアレクサンドロスと孝文帝の政策を俯瞰的に評価する問題がやや時間を使う程度だったので、受験生の負担は減りました。

② 傾向

傾向 2021本 2021追 2022本 2022追 2023本 2023追 2024本
17 15 19 21 11 18 15
6 13 8 8 14 9 14
国立 5 1 1 1 1 0 0
私立 6 4 6 3 8 6 4
小計 34 33 34 33 34 33 33

 共通テストからの新傾向問題(知識問題と読解問題の組み合わせ、文章を読ませて情報を取り出したり言い換えたりする問題)は昨年と同程度ですが、先述のようにマイルドになりました。

 昨年「私立」を多めとしたのは「ピウスツキ」「ソリドゥス金貨」「カルケドン会議」「グレゴリウス1世」「ルーム=セルジューク朝」「アブー=バクル」など細かい知識が正解・ダミー選択肢・ヒントに使われていたからです。受験生の失点は読解問題ではなくそちらでした。

 今回は形式面から慶應龍谷テイストを1題ずつ、内容面からアショーカ王の仏典結集と唐代の古文の復興を私立に分類しましたが、4題とも限りなくセンター試験に近いです。

③ 話題

ジャンル 2021本 2021追 2022本 2022追 2023本 2023追 2024本
政治 24 26 28 21 21 32 26
経済 4 4 2 2 7 1 2
文化 6 3 4 10 6 0 5
小計 34 33 34 33 34 33 33

 社会主義の経済政策と鉄道輸送の話を経済に分類しましたが、前者はほぼ政治史、文化史はギリシア悲劇イスラーム文化、ヨーロッパ文化、唐の古文復興で、ルターの新約聖書ドイツ語訳もほぼ政治史なので、政治史中心は相変らずです。

③ 時代

時代 2021本 2021追 2022本 2022追 2023本 2023追 2024本
前近代 11 10 13 13 21 14 16
近代 6 3 4 6 6 4 2
19世紀 10 7 8 7 2 3 7
20世紀 2 5 4 5 4 6 2
戦後 3 4 4 0 0 0 3
またぎ 2 4 1 2 1 6 3
小計 34 33 34 33 34 33 33

 2023年は「前近代で教室シチュエーションドラマを作る」のが狙いだったようで、偏った出題でした。2024年は前近代がやや減り、19世紀と戦後史が増えました。戦後史はサッチャー朝鮮戦争チェコスロヴァキアと共通テスト対策問題集の常連が出題されました。

④ 地域

地域 2021本 2021追 2022本 2022追 2023本 2023追 2024本
東アジア 11 7 10 7 9 5 7
東南アジア 0 2 1 0 3 0 0
西アジア 1 2 4 4 3 1 2
南アジア 3 1 0 1 0 1 3
ギリシアローマ 1 3 0 3 3 2 3
ヨーロッパ 16 12 13 15 14 18 13
アメリ 0 0 1 3 0 2 5
アフリカ 0 2 0 0 0 0 0
オセアニア 0 0 3 0 0 0 0
日本 0 0 0 0 0 0 0
またぎ 2 4 2 0 2 4 0
小計 34 33 34 33 34 33 33

 「アレクサンドロス大王の評価」でヨーロッパ中心主義を批判している割には、出題エリアは東アジア(すべて中国)とヨーロッパ(アメリカ合衆国ギリシア・ローマ含む)と中心史観のふたつの本丸に振り切っています。

 これは4年間同じ傾向で、歴史学のトピックを出題すれば必然的にヨーロッパと東アジアの問題が増えます。また「史料を活用する」(なるべく初見のもの)という縛りがあるので、使える資料が少ない地域からの出題が難しくなります。

 来年度から「歴史総合・世界史探究」になりますが、前者が近代以降のヨーロッパと日本(東アジア)に振っているので、後者が前近代の資料問題を出す(2023年本試はその実験?)流れになると予想されるので、ますます出題が西洋中心、中国中心になりそうな気がします。

⑤ 難易度

難易度 2021本 2022本 2021追 2022追 2023本 2023追 2024本
16 18 16 17 17 19 22
10 10 11 11 10 9 8
8 6 6 3 7 5 3
0 0 0 2 0 0 0
小計 34 34 33 33 34 33 33

参考 本試験の平均点(2024年は1月19日発表の中間集計)

2021年 63.49

2022年 65.83

2023年 58.43

2024年 60.28

河合塾の共通テストリサーチ、世界史Bの度数分布。教員向け全国動向の資料より引用

www.keinet.ne.jp

 問題の難易度は従来の本試験と同程度とぶんぶんは評価します。

 2023年は文字資料が多いこと、何度も資料を行ったり来たりする煩雑な出題があったこと、ダミー選択肢に私立大学の知識ものが混じっていたこと、正解選択肢に読解ものと知識ものが混在したこと(知識ものが正文でも念のため読解ものが誤文か確認する必要あり)などから、受験生が時間に追われて自信をもって答えることができなかったことが難しく感じた原因と分析しました。

 それと比較すると2024年は読解問題の大半が「言い換え」問題で資料も短め、ダミー選択肢も大外し気味だったので、受験生(特に世界史は割と得意な人)には取り組みやすかったと考えます。

 1月15日時点の河合塾と東進は61点(昨年度より+3点)、ベネッセ・駿台連合は57点(同-1点)と予測しています。

 なおぶんぶんの講座で正答調査をしたところ、2年連続で関関同立第一志望組が8割以上を連発、一方国公立第一志望で世界史は共通テストまでの生徒が伸び悩みました。前者は知識量が多いので、資料中のヒント(人名、事件名、年号)から素早く正解にたどり着く一方、後者は資料を隅から隅まで読んでしまう傾向にあります。

 共通テストの第一義的な目的は国公立大学の一次試験なので、ぶんぶんは多少違和感を覚えます。

今後に向けて

  • 教科書レベルの知識が定着していれば、どんな試験にも対応可能。ただし必ず5W1Hとともに覚える
  • 教科書の記述内容を理解する(意味あるものとして暗記する)ためには、授業中から比較と関連付け、抽象化を欠かさない
  • アウトプットは用語から内容・内容から用語の双方向で行い(出し入れ)、さらに用語から関連する別の用語を次々と連想する(芋づる)を心掛ける
  • 年号の記憶は不可欠。ただし覚える年号は必要最小限にとどめ、知っている年号から事項をつないで年代を判断する

おわりに

 ぶんぶんは2023年本試験問題解説で、出題者が「高校は用語の暗記ばっかり」のような上から目線の物言いを架空教室問題の中でしたので、「高校を挑発する割に私立的な細かい知識問題を出してるのは矛盾しているし、思考力問題もスキャニングとパズル問題」と書きました。腹が立ったのでツイッターでも同じ話をしました。

 2024年の本試験は、教科書レベルの一問一答を中心に、細かい知識問題は減り(あってもダミー選択肢が親切)、読解問題は「言い換え」問題中心になり、高校生が解答できる範囲で歴史学に関わる問題が1,2題混じるという構成になりました。

*無駄話:教室シチュエーション問題では「これは高校で習いました」という台詞がありました。エゴサーチしてる?ただし問題に出てくる学生のメモ(20、24、33)は「間違い」の方が多いです(基本的な事項がわかっていないメモもある)。

  共通テストはたかだか4年目、ヨイショではなく多方面からの批判があってこそよりよくなると信じます。実際に生物は2023年の批判があって2024年は解きやすくなったそうです。ただし解きやすくなることがいいことではなく、受験生の高校での学習の量と質が正当に評価される、国公立大学一次試験にふさわしい問題が目標です。

 朝日新聞のEduAに南風原先生の手厳しい評価が載っていて、我が意を得たりでした。

www.asahi.com

少し引用

共通テストの出題者は、問題をシンプルにすると、「これは知識問題ではないか」と批判されるのが怖いのでしょう。共通テストは知識よりも思考力を問おうとして、結果として特殊な試験になっていると思います。

(中略)

共通テストは知識問題と言われることを回避しようとしています。回避の先の方向性がはっきりしていればいいのですが、そもそも思考力とは何かがはっきりしていません。そのため、会話文だったり、複数資料を比較対照したりするという設問の形式に逃げている印象があります。その結果、ページ数の多い、長い問題になっています。

(中略)

共通テストの問題は、じっくり読み込むことを必要としているかといえば、必ずしもそうではありません。使われているグラフも、その意味を理解するのが難しいものがありますが、理解していなくても解けるような問題があります。深層の情報処理を求めていないのです。しかし、スピードは必要ですので、「高速表層処理」が求められているといえます。

(中略)

知識の質、知識の応用と言ってくれればシンプルなのに、そこからどんどん離れています。そして、会話を入れる、複数資料を入れることがパターン化していて、そのことが自己目的化しているように思います。

 新課程の2025年度の共通テストでは南風原先生の批判が活かされて、共通テストの目的にふさわしい問題になることを願ってやみません。