はじめに
新型コロナウィルス感染症は第5類に格下げになるも感染は衰えず、1月1日には能登半島で地震が発生、急遽金沢大学も追試会場になり、追試受験者は1,628名でうち 19名が震災特例、また19名が地歴公民の終了時間早すぎや監督者の指示誤り等が原因で再試験を受験します。
国公立大学の出願は前期・後期・中期とも来週の月曜日(2024年1月22日)からその翌週の金曜日(2024年2月2日)です。
受験生は自己採点の結果をもとに三者懇談を経て最終的な出願先を決めると思います。国公立大学は基本的に全国を視野に入れますが、急に「○○大学はどうだ、B判定だぞ」「ボーダーまで後何点」と言われても??な保護者もいると思います。
本日は河合塾およびベネッセ・駿台連合の自己採点の結果と分析(受験者の8割程度を補足)をもとに、国公立大学の2024年度入学者選抜の行方を占います。
なお予備校は「果敢にチャレンジ(浪人するなら我が校へ)」がビジネスモデルだと「メタ認知」した上でお聞きください。
文中の「ボーダーライン」は河合塾の話なので合否五分五分を意味します。他社さんのはそれぞれのサイトで確認してください。
本文中のグラフは河合塾が公開しているスライドのスクリーンショットです。営業さんに「公開しているものは河合塾作成とクレジットすれば使用OK」と許可をいただいています。
参考
ベネッセ・駿台連合
自己採点の見方
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
目次
1 データ編
① 共通テスト受験者数
*2024年2月5日の発表を追加
2021 | 2022 | 2023 | 2024 | |
1 志願者数 | 535,245 | 530,367 | 512,581 | 491,914 |
2 受験者数 | 484,114 | 488,383 | 474,051 | 457,608 |
本試験のみ | 482,624 | 486,847 | 470,580 | 456,173 |
追試験のみ | 1,021 | 915 | 2,737 | 1,085 |
再試験のみ | 10 | 0 | 0 | 0 |
本試+追試 | 407 | 438 | 707 | 344 |
本試+再試 | 51 | 182 | 26 | 6 |
追試 + 再試 | 0 | 0 | 1 | 0 |
本試 + 追試 + 再試 | 0 | 1 | 0 | 0 |
特例追試験のみ | 1 | ― | ― | - |
受験率 | 90.45% | 92.08% | 92.48% | 93.03% |
全教科欠席 | 51,131 | 41,984 | 38,530 | 34,306 |
*受験者は人口減少とともに減少
2023年度の18歳人口は推定1,063,451人(昨年度1,097,416人)33,965人の減少です(前年比96.9%)。共通テストの出願者は20,667人減(同95.98%)で同程度の減少です。
18歳人口推定について
https://souken.shingakunet.com/research/pdf/202302_souken_report.pdf
大学入試センターの発表によると、各地域の外国語(筆記)の受験者(450,535人。欠席率91.6%)は、私立志向の関東(首都圏含む)で5,435人減、国立志向の強い東海・近畿も合わせて4,638人減と昨年と同程度の減少です。大都市圏ほど「共通テスト離れ=国公立離れ」が進んでいるようです。
英語の欠席率は昨年度の90.7%から91.6%とやや改善、受験率も0.5ポイント上昇しました。国公立人気に加えて新型コロナウィルス感染症の第5類に格下げされたことも一因でしょう。病気そのものは収まる気配はありませんが。
② 自己採点 総合成績平均
自己採点の集計 900点満点
2024 | 2023 | 2022 | 2021 | 2020セ | 24-23 | |
5教科7科目文系(900) | 548 | 542 | 520 | 564 | 559 | 6 |
5教科7科目理系(900) | 569 | 562 | 523 | 581 | 564 | 7 |
ベネッセ駿台
2024 | 2023 | 2022 | 2021 | 2020 | 24-23 | |
5教科7科目文系(900) | 536 | 532 | 508 | 551 | 548 | 4 |
5教科7科目理系(900) | 559 | 551 | 513 | 571 | 559 | 8 |
*センター試験時代の平均点にかなり近づく
共通テスト初年度(2021)の平均点はセンター試験ラスト(2020)と同程度でしたが、2022年は数学ⅠAの難化で文系・理系とも平均点は大きく下がり、センター試験から約5%ほどボーダーラインが下がりました。
2023年は数学は平均点を戻しましたが生物が難しすぎて得点調整という失態、2024年度は「英語筆記が時間内に解けない事件」が発生するものの他教科が易化して平均点はセンター試験時代に近づきました。
河合塾の自己採点の推移。KeiNet上記リンク「共通テスト特集」に公開中の記事より引用
特に理系が上昇しているのは理系の飯の種である化学および国立理系の関門である国語と地理Bの易化が影響しています。
進路指導でご飯を食べているぶんぶんは平均点より度数分布の山型カーブを重視します。理系はカーブの形は同じ、位置は高得点側にやや動いていて8割以上(旧帝チャレンジゾーン)と6割(地方国立理系限界ゾーン)~8割(拠点大学ゾーン)がやや上がり、それ以下は減っています。文系はカーブの形は同じで8割以上は増加、7割以下(地方国立文系限界ゾーン)が減っています。
河合塾の自己採点の分布。KeiNet「共通テスト特集」に公開中の記事より引用
つまり例年だと出願を諦めていた人が国立崖っぷちゾーンに滑り込み、難関は無理かなと思っていた人が難関崖っぷちゾーンに入ってきた感じです。予備校が「旧課程最終年だが受験生は攻めの姿勢」というのは、営業トークが多少入っているとはいえこの分布が理由でしょう。
分布の安定は共通テストが4年目を迎えて出題者側が匙加減をわかってきたからと推察します。しかし出題者側が「試験で授業を改善する」や「教養よりも実用重視」など共通テストの本来の機能である「国公立大学の一次試験」とは別のプレッシャーを受けているうちは、再度平均点の乱高下が起こる可能性があります。
なお「暗記中心のセンター試験を潰したのは俺」としたり顔で答えていたご本人は2024年1月現在こういう状態。
③ 科目ごとの平均点
大学入試センターの発表 2024年は1月19日現在の中間集計。2023年~2020年は確定平均点。矢印上向きは増、下向きは減 1点~5点刻みで1本
教科科目 | 2024 | 2023 | 2022 | 2021 | 2020セ | 24-23 | 増減 |
国語 | 116.5 | 105.74 | 110.26 | 117.51 | 119.33 | 10.76 | ↑↑↑ |
世界史B | 60.28 | 58.43 | 65.83 | 63.49 | 62.97 | 1.85 | ↑ |
日本史B | 56.27 | 59.75 | 52.81 | 64.26 | 65.45 | -3.48 | ↓ |
地理B | 65.74 | 60.42 | 58.99 | 60.06 | 66.35 | 5.32 | ↑↑ |
現代社会 | 55.94 | 59.46 | 60.84 | 58.4 | 65.37 | -3.52 | ↓ |
倫理 | 56.44 | 59.03 | 63.29 | 71.96 | 53.75 | -2.59 | ↓ |
政治・経済 | 44.35 | 50.96 | 56.77 | 57.03 | 57.3 | -6.61 | ↓↓ |
倫理、政治・経済 | 61.26 | 60.59 | 69.73 | 69.26 | 66.51 | 0.67 | |
数学Ⅰ・数学A | 51.38 | 55.65 | 37.96 | 57.68 | 51.88 | -4.27 | ↓ |
数学Ⅱ・数学B | 57.74 | 61.48 | 43.06 | 59.92 | 49.03 | -3.74 | ↓ |
物理基礎 | 28.72 | 28.19 | 30.4 | 37.55 | 33.29 | 0.53 | |
化学基礎 | 27.31 | 29.42 | 27.73 | 24.65 | 28.2 | -2.11 | ↓ |
生物基礎 | 31.57 | 24.66 | 23.9 | 29.17 | 32.1 | 6.91 | ↑↑ |
地学基礎 | 35.56 | 35.03 | 35.47 | 33.52 | 27.03 | 0.53 | |
物理 | 62.97 | 63.39 | 60.72 | 62.36 | 60.68 | -0.42 | |
化学 | 54.77 | 48.56 | 47.63 | 57.59 | 54.79 | 6.21 | ↑↑ |
生物 | 54.83 | 39.74 | 48.81 | 72.64 | 57.56 | 15.09 | ↑↑↑↑ |
地学 | 56.67 | 49.88 | 52.72 | 46.65 | 39.51 | 6.79 | ↑↑ |
英語(リーデ) | 51.54 | 53.82 | 61.8 | 58.8 | 116.31 | -2.28 | ↓ |
英語(リス) | 67.24 | 62.35 | 59.45 | 56.16 | 28.78 | 4.89 | ↑ |
*昨年難しかった科目はシレっと修正
2023年度は生物がとんでもなく難しく8割以上がいない有様、物理との平均点が20点以上開いて得点調整になりました。今年はコソーリ問題を差し替えたようで、平均点は跳ね上がりました。化学も易しくなりました。
ただし政治・経済は二年続けての難化です。「高校生はこの科目を選択するな=お上の指示に従順でいなさい」という出題者からのメッセージかと邪推してしまいます。
天海さんの児童へのメッセージシーンが有名。
試験が終わった後に「読む量が多かった」と嘆きの声が上がった英語リーディングは中間集計では平均点はやや下がった程度です。河合塾は速報で「全体としてやや難化」と講評していましたが、最終版では「昨年並み」になっています。
河合塾の講評 KeiNetより引用
難易度 昨年並み
昨年と比べ,第1問B・第3問B・第5問に,正解を選ぶのに時間を要する問題があったが,全体としては昨年並み。与えられる情報が多く、読解力と高度な思考力を必要とする問題が増加した。仮説を検証するための実験を考える問題も複数出題され、正誤の判断に迷うような紛らわしい選択肢も多かった。
出題分量
問題本文・図・設問・選択肢すべて含めて約6300語で,昨年と比較して200語程度増加。
駿台の講評 データネットより引用
題材は昨年同様、日常的な文章や説明文など様々なものが扱われた。設問では記述内容の順序を問う問題や、プレゼンテーションの骨子を完成させる問題などが出題され、昨年同様に多面的に情報を処理することが求められた。読解量はやや増加したものの、難易は昨年並。
一方でリスニングは平均点を爆上げしました。予備校各校は「語数は昨年並みながら聴き取りやすい内容だった」としています。問題がパターン化し、教材も揃ったので学校での対策の成果と推察します。んー、リスニングの力がついたってこと?
国語はセンター試験テイストの取り組みやすい問題と感じました。おそらく2025年度から実用文問題が入るので嵐の前の静けさでしょう。
試験作成委員が記述式問題の例題集を出版するという事件が原因で、これまで共通テストでの実用文出題は封印されていました。
2 分析編
① 全体
受験生は難関10大学、準難関・地方拠点大学、地方国立大学ともリサーチの志望欄にしっかり書いているようです。
5教科7科目を課す大学は、河合塾の冊子を見たところ多くの大学が昨年よりもボーダーラインが2%ほどアップしています。受験生は手ごたえがあったようで強気の出願を考えているようです。
また平均点が上がる年は中期・後期を積極的に出願する生徒が増えます。リサーチ段階ではそれほどでもありませんでしたが、この後の三者面談で担任の指導が入るかもしれません。
国公立大学後期は前期と同時に出願し、前期に合格した人は欠席しますし、先に意中の私立に合格した人も欠席するので、例年半数以上は欠席します。
仮にリサーチで判定が悪くても、上位層が前期でごっそり合格すれば後期がスカスカになる可能性はありますが、それは受験当日までわかりません。「是が非でも国立」というなら「出願しなければ合格はない」ので、後期までしっかり受験しましょう。
参考
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
② 地域別
リサーチでは昨年に引き続き大都市圏が人気、北海道、北陸、四国は引き続きいまいちです。北陸は新幹線開業で近畿地方からアクセスしづらくなることが影響していますが、地震の影響も考えられます。東北と中国は持ち直しました。
大学に入学すればその地域で4年+αは過ごします。判定システムでA判定だからという理由だけで選ばず、教育内容もよく調べましょう。
③ 系統別
文系では経済系が人気継続、コロナ禍が直撃した外国語学部は回復傾向です。
理系ではコロナ禍で過熱気味だった薬学部が敬遠され、昨年不人気だった歯学部、工学部の応用化学が反動で復調しています。情報は文理融合型は高止まりで工学部の情報系は人気薄です。理学部、農学部は引き続き堅調な一方、生活科学は女子が他学部に移動したようで不人気です。教育系は昨年並み、看護系は敬遠気味です。
3 エリア別トピック
ぶんぶんの縄張りで国公立の選択肢が多い近畿圏と国公立志向が強い東海圏で気になる点についてです。もっと知りたい人は最初のリンク先を見てください。
① 近畿圏の特徴
近畿圏は難易度順で京都→大阪→神戸→大阪公立大学(大阪市立大学と大阪府立大学が統合。いい略称がないので以下「ハムちゃん」)の序列に変化はありません。
この4大学は偏差値帯が重なりながら連続していて、例えば神戸D判定だとハムちゃんC判定で、志望を下げると同学力のライバルが待ち構えています。さらに特色のある国公立大学が入試難易度別に隙間なく控えています。
1)京都大学工学部
京都大学工学部は共通テストの国語、地歴公民、英語のみを点数化します。今回の国語・地理Bバブルで高得点を取った受験生がリサーチに京大工学部を書いていて、上位からボーダーライン付近まで膨張しています。
この割を食って模試段階から不人気だった大阪大学の工学部と基礎工学部はリサーチでも不人気です。もちろん京都大学の過熱を嫌って戻ってくる可能性もありますから、阪大第一志望の人は油断せず準備しましょう。
2)リスニングの点数比率に注意
関西圏の教員養成学部はおおむね同難易度で、大阪教育と奈良教育は共通テスト重視です。ただし大阪教育はリーディングとリスニングの比率が1:1、奈良教育は4:1なので、リスニングの点数で持ち点に差が出ます。三重県の看護師志望者がどちらにするか迷う三重大学医学部看護学科(R100:L50)と三重県立看護大学(R50:L50)も同様です。
② 東海圏の特徴
東海圏は名古屋大学が生態系の長で、スーパー進学校は東大・京大・医学部志向ですが、それに続く進学校は名大の合格者数にこだわります。そのため地元率7割というスーパーローカル大学になっています。
名古屋市立大学と名古屋工業大学は、名古屋大学との併願関係を持ちながら、名古屋大学と重ならない生徒も同時に確保する(受験科目数を変える等)という戦術を取っています。
生徒・高校教員とも国立志向、地元志向が強く、近隣の三重・静岡・北陸はもとより全国(鳥取大学は愛知県民が多い)津々浦々まで視野を広げ、「昨年度不人気」と聞けば殺到して「隔年現象」を引き起こしたりもします。
1)名古屋市立大学データサイエンス学部
数年前に名古屋大学理学部の併願先を意図して後期のみの理学部系を立ち上げた名古屋市立大学は、2023年度は名古屋大学情報学部の人気過熱を見てデータサイエンス学部を立ち上げました。共通テストで発展理科1が必須なので理系型です。
初年度は志願者を集めましたが、2024年度も成績上位者がリサーチ段階で書いているので志願予定者は注意してください。
2)三重大学生物資源学部
三重大学生物資源学部は大正時代に設立された三重高等農林学校を源流とし、新制の農学部と水産学部が統合してできた、三重大学のオリジンです。
ただし「学科の名前(資源循環、共生環境、生物圏生命科学、海洋生物資源)を聞いても何研究しているかピンとこない問題」がありました。2024年からは生物資源学科1学科に改組し、その中に農林環境科学、海洋生物資源学、生命科学の3コースに「生物資源総合科学コース」(2年次に3コースのどれかを選択する)を加えた4コースでの募集となりました。
すでに工学部が同様の「総合工学コース」を置いていますが、初年度入試が荒れた(最初は様子見で締め切り直前に膨張)ので、志願者は注意が必要です。
まとめ
- 国語と地理Bの易化、化学と生物の「正常化」で理系は旧センター試験並みのボーダーの気配
- 難関国立チャレンジ層と国立チャレンジ層が増えたので積極的な国公立への出願が行われる気配
- 他の受験生もできているから油断は禁物。二次の勉強は怠らない。特に今回は二次試験までの期間が最長なので途中で気持ちが折れる危険性もあるから注意
- 隔年現象に注意
- リサーチの話を聞いて受験生は動く。業者の情報は話半分で
おわりに
共通テストは50万人規模が受験し、「国公立大学の一次試験」が主要な役割、一次試験で基礎・基本を問い、二次試験で発展的な内容を課すというのが共通一次以来の制度設計です。
一次試験であれば平均点管理は重要です。今回やっと「こなれてきた」感はあるものの、来年は新課程初年度です。作問の方針から「授業改善」はなくなりましたが、今回の英語リーディングのように出題者の「どうだ、参ったか!」病が発症すると、生徒が「対策」ができていたからよかったものの、ふたたび平均点の乱高下や得点調整が起こりかねません。
SNSでは「共通テスト不要論」も起きています。まさかそれが狙いで、将来的に共通テストを業者テストにするつもりじゃないですよね?(´・ω・`)
*これはネットの情報です。受験生は担任とよく話をして志望校を決定してください。
応援しています! パブリックドメインQより。