ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2023年大学入学共通テスト世界史B徹底研究(1本試験)

はじめに

 2023年の共通テストが無事終了しました。生物の問題が8割以上激減で得点調整、世界史Bと生物でOCRの読み取りミスのような誤植(「科拳」と「匂配」)と、詰めの甘さが目立った年となりました。

 実際に「武科挙」という武芸の腕前で官吏を採用する試験もありました(筆記のほうは「文科挙」)。パブリックドメインQより

*解説に際してぶんぶんの考え

  • 「世界史は暗記もの」という前提が誤解あるいは思想浅薄
  • 「歴史的な知識」は、事象を時間や空間や論理の中に位置づけたもの
  • 教科書の太字は時系列の道標でありその時代のあり方を圧縮したもの。試験でそれが出題されるのは丸暗記を求めているのではなく、それを知っているなら該当の単元内容が理解していると判断できるから
  • 「知識」と「思考」を分けて考える前提がナンセンス。「知識」は思考の過程を経て習得されるし、「思考」は知識の積み上げ
  • 「思考」には様々な知識や論理が混在しているので、「歴史的思考」だけ切り離して議論するのは意味がない
  • 思考の中で「歴史の知識を多めに使う思考」を「歴史的思考」と呼ぶのは差し支えないし、その際に地理や論理などを援用することもあり得る
  • 本文中の「知識問題」は「些末な暗記もの」という意味ではなく「思考を経て獲得した世界史の知識が解答に必要」という意味
  • 本文中の「読めばわかる問題」は「歴史的な知識を使わなくても論理で解答可能な問題」という意味

問題 東進の特設ページ 

www.toshin.com

他年度のリンク集

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

目次

  

1 大問構成

第1問 歴史の中の女性

A女性参政権(授業) B中国史の中の女性(大学のゼミ)

第2問 世界史上の君主の地位の継承方法

Aフランス王家(授業) Bケネディ

第3問 教室シチュエーション問題

Aナポレオン B科挙 C中国の書籍分類

第4問 歴史上の出来事や人物に対する異なる解釈

Aマラトンの戦い(授業) Bアングル人

第5問 歴史統計(教室)

 A東南アジア各地の輸出先とその比率

 Bイングランドの都市人口と都市人口比率、農村人口と農村人口100人当たりの総人口

 イギリスとアイルランドからのアメリカ合衆国への移民数

2 凡例

① タイプ

一問一答:歴史的用語(または内容)を選ぶ

年号:年号の知識が必要 時代整序もこの分類

内容理解:教科書の記述内容(背景・経過・影響)を問う

資料:地図、写真、グラフ、文字資料を使った問題で一問一答的なもの

読解:資料問題のうち内容の読み取りを必要とするもの

*「組み合わせ問題」(例:一問一答と資料の読解)は正解を導くためにより必要な力の方に分類した

② 時代

前近代:アジアは18世紀まで、ヨーロッパは中世まで

近代:ヨーロッパの16世紀~18世紀まで

19世紀:19世紀

20世紀:第二次世界大戦まで

戦後:第二次世界大戦

またぎ:時代をまたぐもの

③ 難易度

◎:「あれといえばこれ」の単純知識問題。正解マスト

○:教科書の記述内容が理解できていれば解答可能。

△:高校生には手が回りにくい範囲、細かい知識、抽象的な思考が必要

▲:高校生には難しい、かなり細かい知識や高度な抽象化が要求される

④ 傾向

セ:センター的

新:ここ2年の共通テストで現れた新傾向

私立:私立個別の短答問題で既出

国立:国公立二次試験で既出

*地域の凡例は省略(「またぎ」は地域またぎ)

⑤ 概念

概念知識が必要な問題 空欄はその内容

⑥ 正答率

7月19日追記

 2年続けて平均点管理ができていないことに批判が相次いだことを受けて、大学入試センターは2023年から設問別正答率を一般に公開しはじめました。③(ぶんぶんが同日に解答してつけた経験と勘による難易度)と併せてみてください。

 

3 全34問の出題内容ダイジェスト

  タイプ 話題 時代 地域 出題内容 傾向 概念 正答率
1 一問一答 政治 またぎ ヨーロッパ フィンランドを支配していた国の歴史 私立   40%
2 一問一答 政治 20世紀 ヨーロッパ 第一次世界大戦について正しいもの 総力戦 64%
3 年号 政治 20世紀 ヨーロッパ 女性参政権についての正誤 女性参政権 33%
4 一問一答 政治 前近代 東アジア 平城に都を置いた王朝   67%
5 一問一答 政治 前近代 東アジア 女性皇帝が出現した背景 国立 胡漢融合国家 35%
6 一問一答 文化 前近代 東アジア 唐の文化   43%
7 読解 政治 前近代 ヨーロッパ 紋章の意味   56%
8 一問一答 政治 近代 ヨーロッパ プロテスタントに関係すること   71%
9 一問一答 政治 近代 ヨーロッパ ルイ14世のしたこと   68%
10 一問一答 経済 前近代 西アジア 後ウマイヤ朝のあったイベリア半島の歴史   59%
11 一問一答 政治 前近代 西アジア カリフに関して正しいこと 私立   64%
12 読解 政治 前近代 西アジア ファーティマ朝のカリフに関する正しいこと 権力 75%
13 一問一答 政治 近代 ヨーロッパ ナポレオン退位の時の国王のしたこと   57%
14 資料 政治 近代 ヨーロッパ ハイティとセントヘレナ島の位置   61%
15 内容理解 文化 前近代 東アジア 宋学の説明 私立   61%
16 一問一答 政治 前近代 東アジア 顧炎武の時代の書院を拠点とした争い   63%
17 内容理解 政治 前近代 東アジア 科挙以前の官吏任用制度と朝鮮や日本の官吏登用の考え方   63%
18 一問一答 文化 前近代 東アジア 18世紀の叢書の名とそれが編纂された王朝の様子   48%
19 一問一答 文化 前近代 東アジア 漢書に整理されていると思われる文献   71%
20 内容理解 文化 前近代 東アジア 書籍分類の歴史   55%
21 一問一答 経済 前近代 またぎ ビザンツウマイヤ朝について適切な文   63%
22 一問一答 経済 前近代 またぎ 金貨の説明のうち誤りを含むもの 私立   45%
23 読解 政治 前近代 ギリシアローマ 史料批判をしてマラトンの戦いの使者はだれが妥当か推論する 史料批判 63%
24 内容理解 政治 前近代 ギリシアローマ ペルシア戦争に関して適切な文 私立   53%
25 読解 政治 前近代 ギリシアローマ マラトンの戦いの使者に関する適切な文   40%
26 読解 政治 前近代 ヨーロッパ 資料中のアングル人が意味すること   70%
27 年号 政治 前近代 ヨーロッパ 三つの資料の整序   40%
28 一問一答 政治 前近代 ヨーロッパ キリスト教が社会に与えた影響に関する適切な文 私立   63%
29 一問一答 政治 19世紀 東南アジア マラヤの宗主国について適切な文   47%
30 一問一答 経済 20世紀 東南アジア フィリピンと最も取引が多い国と、そこがマラヤのゴムを求めた理由 グローバル 78%
31 資料 経済 20世紀 東南アジア グラフを参考に東南アジア各地の経済について適切な文を選ぶ   61%
32 年号 経済 近代 ヨーロッパ 18世紀のイギリスの経済   75%
33 資料 経済 19世紀 ヨーロッパ 19世紀のグラフの読み取り 私立 グローバル 70%
34 一問一答 文化 近代 ヨーロッパ 産業革命に関して適切な文 私立   60%

4 正解と正誤判定ポイント解説

 問題は各自でダウンロードし、解答したうえで答えあわせしてください。リンクは「ズバリ的中!」ではなく、私立・国公立大学に向けて復習するためのもの。

1.正解は④

 フィンランドスウェーデン支配下にあったが19世紀にロシア帝国支配下に入り(フィンランド大公国)、ロシア革命の時に独立した。選択肢にスウェーデンのことがないのでロシア共和国のこと(BRICsの一員)を選ぶ。戦後史というよりは政治・経済の問題。ロシア帝国と今のロシア共和国を同一視するのはちょっとどうかと。

 ①北方戦争でロシアが戦ったのはスウェーデン。②シュレスヴィヒ・ホルシュタインプロイセンと争ったのはデンマークまたはオーストリア。③ピウスツキはポーランドでダミー選択肢とはいえ共通テストとしては細かい知識。

2.即答で③

 『映像の世紀』で植民地の人員が戦場に動員されている様子を観た人は即答。

 ①トルコは同盟国側。②タンネンベルクの戦いは東部戦線。④レーニンは平和に関する布告で十四カ条はウィルソン。

これの第2集

3.正解は②

 アクティブラーニングは見せかけの単なる年号記憶問題。速攻で②が正解だが①を自信をもって誤文というのは難しい。

 ①室井さん間違い。ニュージーランド自治領化は1907年で19世紀ではない。詳説世界史の帝国主義の単元でオーストラリア(1901)や南アフリカ連邦(1910)の自治領化と一緒に出てくる。

 ②渡部さん正しい。イギリスの全6回の選挙法改正の年号はイギリス史の座標になるのですべて記憶。

 ③佐藤さん間違い。キング牧師公民権運動は1950年代。公民権法1965年は北爆とセットでマスト知識。

 当ブログは2021年にこの話題を準備済み

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

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4.即答で②

 リード文「6世紀後半の分裂時代」と資料文「平城に都を置いた」から北魏が適切。資料読解ではなくスキャニングでヒントを見つけて首都から王朝を思い出す一問一答問題。

5.正解は①

 やや難。「北方の状況が女性皇帝(唐の則天武后)誕生に影響した」とある。隋や唐が鮮卑族の流れをくむ(漢族の軍閥鮮卑系貴族に婿入りした)「拓跋国家」(胡漢融合国家)という知識があれば即答できる。実教出版の教科書の「世界史のなかのとジェンダー」というコラムに「唐で女性が活動的なのは支配者が遊牧民の系譜だからではないか」という話が載っている。

 これも準備済み

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 拓跋国家(胡漢融合国家)について

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6.即答で④

 ④五経正義は唐代の孔穎達でマスト知識。

 ①清談=魏晋南北朝時代 ②董仲舒前漢 ③寇謙之北魏。事項から時代を思い出す一問一答知識問題。

 これ間違った人は中国文化史を復習

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7.正解は②

 読解問題だが何度も選択肢と文章を行き来させられる情報処理問題。

 ①誤文。右の図柄は「アンリの母方の家系(ナバラ家)」。②正文。会話文に同じことが書いてある。③誤文。イングランド王家(プランタジネット朝)はカペー家ともつながりがあるからユリの紋章を使っている。「統合の象徴」ではない。④誤文。文章に「女王から王家を継いでいる」とある。

8.即答で①

 私立の正誤判定問題では「サン=バルテルミの虐殺でユグノーカトリックを虐殺した」と用語をすり替えることあり。

 ②ツヴィングリはチューリヒで改革運動。③国王至上法はヘンリ8世。④イエズス会カトリック

*発展

 ユグノー戦争の「手打ち」のためにフランス王アンリ3世の妹マルグリットとユグノーの指導者ナバラ王ブルボン家)アンリが結婚しますが、その宴会の未明にカトリックの有力者であるギーズ公がユグノーを襲撃し虐殺しました。

 この後アンリ3世も暗殺され、妹の夫であるアンリが1589年にアンリ4世として即位ししました。彼はカトリックに改宗し、ユグノーの市民的権利を認めて(ナントの王令 1598年)ユグノー戦争を終結させました。

 アンリは襲撃の時はその場でカトリックに改宗して命拾いをし、ナバラに逃げ帰ってユグノーに復帰、フランス王になって再度カトリックに改宗と、権力のためには節操など気にしている場合ではありません。そういえば都教委にいる教員出身の人も栄達のためには入試の公平性を破壊して平気(以下略)。

虐殺を描いた絵画。パブリックドメインの画像

9.即答で②(あ-Y)

 知識問題。文中に「宰相マザランが死んだあと親政」とあるので、あ:ルイ14世で、「Y:度重なる戦争で戦費が膨れ上がる」を選ぶ。X:ネッケルはルイ16世。私立ではルイ14世の対外戦争が内容まで聞かれるので要復習。

10.正解は③

 知識芋づる問題。空欄ウは資料文の下の解説に「複数のカリフが長時間並立していた」から後ウマイヤ朝、そこが支配したのはイベリア半島なので③「ベルベル人ムワッヒド朝が進出」が適切。

 ①ルーム=セルジューク朝セルジューク朝解体後アナトリア半島に建国(かつてローマが支配していた地域なので「ルーム」)。この結果アナトリアにテュルク系軍人が定住してイスラームが根付き、オスマン朝につながる。ダミー選択肢だが難関私立や国立論述の知識。②最後のイスラーム王朝はナスル朝。④ワッハーブ派アラビア半島

トルコ系の西進

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11.正解は①

 ムハンマド死後にカリフに選ばれたのは親友のアブー=バクル。「正統カリフ4人の名前を順番通り全部言う」は私立大学的知識問題。

 ②アブデュルハミト2世はミドハト憲法を停止して独裁した人。カリフ制の廃止はトルコ共和国。③ブワイフ朝はカリフから大アミールの称号を得た。④アッバース朝滅亡後にその縁者をカリフを擁立したのはマムルーク朝のバイバルス

12.正解は④

 資料2に「ファーティマ朝がアリーの子孫であることをアッバース朝カリフの手紙が証明している」とあり、④がその言い換えで正文。

 ①②③は資料を読まなくても誤文。①ファーティマ朝アッバース朝より後の成立、②ファーティマ朝シーア派、③ファーティマ朝はエジプト・シリアを支配していた。

13.即答で④

 知識問題。ナポレオンが退位してブルボン朝が復活した(ルイ18世)。

 ①アルジェリア占領はシャルル10世ルイ18世の弟)、②恐怖政治はジャコバン派、③ヴァレンヌで捕らえられたのはルイ16世

 ◯◯x世がゴッチャになる人は私大入試の前にこれで復習。

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14.正解は②

 ア:ハイチ=aは即答。b:エルバ島 c:セントヘレナ島で、ナポレオンが没したのはc。文章中に「地中海の島から脱出し」とヒントあり。

15.即答で③

 文中の「宋代に新しい学問」「官学」からウは朱子学。「南宋で大成され四書を重視」が適当。「朱熹は四書を重視」は私立大学の鉄板。

 ②は全真教(王重陽)、④は陽明学の説明

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16.正解は④

 知識芋づる問題。17世紀、顧炎武→王朝の交替を目の当たりにした→明末→「東林派の政府批判」が適当。世界史が苦手な人には細かい知識だがダミー選択肢が親切なので消去法で正解可能。

 ①黄巾の乱後漢、②岳飛と秦檜は南宋、③土木の変は1449年(マスト年号)

17.正解は①(あ-X)

 知識があれば選択肢だけで正解可能。下線部aは「科挙の前の官吏登用制度」なので、郷挙里選か九品中正のいずれか、「い:九品中正で貴族の高官独占が抑制」が誤文なので「あ」の郷挙里選の説明を選ぶ。後半は文章に適合するのはXで、朝鮮王朝では科挙を実施し、日本では行われなかったことを知っていれば即答。

 資料中の、日本側の「科挙は暗記ばっかり」という批判は共通テスト出題者が有する「日本の高校は暗記ばっかり」と同じ(的外れな)批判で、朝鮮王朝側の「日本の官僚は世襲」という批判は3世、4世議員への批判ともとれる。ただ残念なことに資料文を読まなくても解ける。

 なお朝鮮王朝の科挙両班など上流階級しか合格しないので事実上の世襲

参考 「朝鮮王朝時代の科挙答案」 https://koara.lib.keio.ac.jp>modules>xoonips>download.php

18.即答で④(四庫全書-漢人男性に辮髪を強制)

 知識問題。文中の内藤さんは「高校では用語として覚えただけ」と言っているが、問題は用語知識のみで解答可能。どうも出題者の中に「高校教員は用語の暗記だけさせている」と見下している人がいるらしい。

19.即答で①

 『詩経』は五経の一部で、『資治通鑑』は宋代なので漢書に収録されているはずがない(収録されていたらオーパーツ)。作りが凝っているが見掛け倒し、『資治通鑑』の成立時期を聞く知識問題。

20.即答で③

 知識問題。私立大学では本紀と列伝の内容まで聞かれるので、この問題のように用語を覚えただけでは正解できない。

 ①本文に1世紀には史部は存在しないと書いてある。②木版印刷は宋代から。④リード文に「18世紀に四庫全書ができた」と書いてあるから「18世紀に分類がすたれた」は誤文なのは明らか。①④が言い換え問題で②③が知識問題。

21.即答で③

 知識問題。資料1はコンスタンティノープルからビザンツ帝国なので、ローマ法大全が適当。

 ①②ササン朝。④資料2はムアーウィヤ(誤植あり)からウマイヤ朝で、バグダードアッバース朝の都なので誤文。

22.正解は②

 私立大学的知識問題。ソリドゥス金貨はコンスタンティヌス帝の頃から製造されているので広田さんの「ヴァンダル王国を滅ぼした皇帝によって発行がはじめられた」が誤文。佐々木さん、鈴木さんは文章の言いかえ。

 18で「高校世界史は暗記ばっかり」と言いながら、出題者は私立並みの細かい知識を正解にしている。

Anastasius IIのソリドゥス金貨。クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0 非移植

帰属: Classical Numismatic Group, Inc. http://www.cngcoins.com

23.正解は⑤(い-Y)

 史料批判の方法を問う。問題と文章を行ったり来たりする上にギリシア・ローマ史の年号知識が必須の難問。パズル的な難しさ。

 あ:資料1(プルタルコス)と2は五賢帝の時代の人なので1~2世紀。マラトンの戦いは前490年、ヘラクレイデスが学んだとされるアリストテレスアレクサンドロス大王の家庭教師なので前4世紀。したがってヘラクレイデスの方が資料1。2の人よりも戦争のリアルタイムに近い時代の人。松山さんは「マラトンに時代が近い人の言がより正しい」と判断しているので、ヘラクレイデスが言うテルシッポスが適当。

24.即答で①

 知識問題。ウはペルシア戦争なので①「イオニア地方の反乱がきっかけ」が適切。

 ②エフタルを滅ぼしたのはアケメネス朝ではなくササン朝。③ペルシア戦争後に結成されたのはデロス同盟コリントス同盟はカイロネイアの戦いの後。④プラタイアの戦いはアテネとテーベ連合軍が勝利。③④は出題者が嫌いな知識偏重の私立大学入試の定番。

25.正解は③

 ③「使者の名前について異なる説を併記」が資料に即している。

 正解は読めばわかるが誤文①②は知識問題で、①ペイシストラトスは前6世紀。②ペルシア戦争の話はトゥキディデスではなくヘロドトス。④資料2に出てくるフィリッピデスはヘロドトスの書物では別の使者とリード書かれている。

*ちなみにぶんぶんの講座生は難問の23番は6割以上正解しているのにこちらは多く間違えています。アテネの民主政治の人名・時代・したことがごっちゃになりやすいので要注意です。

26.正解は③

 読解問題。空欄エは資料の「ゲルマン人の三つの民がブリテン島を訪れた」からゲルマン人の移動、資料1はサクソン人、アングル人、ジュート人を並列に扱っているから「あ」が適切。資料2はアングル人をゲルマン人の総称として扱っているので「い」が適切。

27.正解は②(1→3→2)。

 年号問題。資料1はカルゲドン会議(451)から5世紀、資料2はリード文に731年とある。資料3はグレゴリウス1世(ゲルマン人に布教した教皇)から6世紀。

 年号を知らなくても文章を読めば同じ結論に達する。1アングル人がブリテン島にやってきた→3市場でアングル人が売られていた→2アングル人がブリテン島に定着した。ただしこちらの方法は結論を出すのに時間を要する。

28.即答で②

 センター試験的正誤問題。②ジョン=ボールは試作問題にも登場。

 ①クローヴィスは改宗によってガリアに住むローマ貴族の支持を得た。③コンスタンティヌス帝が出したのはミラノ勅令。統一法はエリザベス1世。④第一回十字軍を提唱したのはウルバヌス2世でボニファティウス8世はアナーニ事件の教皇

 教科書によく載っているジョン=ボールの絵 パブリックドメイン

29.即答で①

 センター試験的正誤問題。シンガポールの成り立ちや独立の経緯は私立、国立ともに頻出。

 ②イギリス東インド会社の貿易独占権の廃止は1833年なので19世紀後半ではない。奴隷貿易奴隷制の廃止、穀物法や航海法の廃止も19世紀前半。③公行の廃止は北京議定書ではなく南京条約。④オタワ会議でスターリング=ブロックを取り決めた。

30.正解は③

 フィリピンとの取引が圧倒的に多いことからアは宗主国アメリカ合衆国。さらにアがマラヤからゴムを大量に輸入しているのは「Y:自動車の大量生産」が理由。

31.正解は②

 インドからマラヤに労働者が送られてきたことは国立頻出のインド系移民(印僑)の話題。

 ①宗主国インドネシアはオランダ、マラヤはイギリス)向けの輸出はマラヤの方がインドネシアより低い。③強制栽培制度(政府栽培制度)はフィリピンではなくオランダ領の話。④インドシナ輸出最大の香港はフランスではなくイギリスの植民地。①②がグラフの読み取りで③④は知識問題。

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32.正解は①

 文中に「18世紀」とあるので、その出来事は選択肢の中では第二次囲い込みだけ。

 ②鉄道建設と④穀物法は19世紀、③農業調整法は20世紀アメリカ。

33.正解は①

 センター試験的な年号知識でグラフの説明の正誤を判断する問題。1840年代のジャガイモ飢饉とアメリカ合衆国への移民は国公立・私立では頻繁に出題されている。

 ②クロムウェルピューリタン革命だから17世紀、③南北戦争1861年、④グラフでは1890年代のフロンティア消滅宣言の後イギリスからの移民は減少している。

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34.即答で②

 ダービー父子と言えばコークス製鉄法で私立では定番。

 ①大西洋の三角貿易は日用品や武器・黒人奴隷・砂糖やコーヒーの取引、綿製品・茶・アヘンは東アジアの三角貿易。③選挙権拡大運動はチャーティスト運動。④1833年の工場法は若年労働者の労働時間制限。

5 共通テストとの比較

① タイプ

タイプ 2021本 2021追 2022本 2022追 試作 2023本
一問一答 13 10 14 16 10 17
年号 5 8 2 5 5 4
内容理解 5 3 6 1 2 5
資料 3 7 5 2 5 3
読解 8 5 7 9 11 5
小計 34 33 34 33 33 34

② 傾向

傾向 2021本 2021追 2022本 2022追 試作 2023本
17 15 19 21 13 13
6 13 8 8 9 14
国立 5 1 1 1 2 1
私立 6 4 6 3 3 6
試作問題         6  
小計 34 33 34 33 33 34

 形式では共通テストからの新傾向問題(知識問題と読解問題の組み合わせ、長い文章を読ませて情報を取り出する問題)が増えましたが、それらはほとんど教科書の用語・年号・記述内容の知識問題です。

 資料読解問題は複数の資料を行ったり来たりするため、思考力ではなく忍耐力を試す印象です。

 史料批判を扱った23番はたしかに「頭を使う」問題ですが、年号と論理で正解を選ぶ「パズル」問題に近く、歴史的思考力の問題かは疑問です。

 「私立」を多めと評価したのは、「ピウスツキ」「ソリドゥス金貨」「カルゲドン会議」「グレゴリウス1世」「ルーム=セルジューク朝」「アブー=バクル」など細かい知識が、正解・ダミー選択肢・ヒントに使われているためです。

 代ゼミの佐藤幸夫さんがYouTubeの配信で「去年より簡単」と言うのは、佐藤さんが受け持つ難関私立の受験生にとってこの程度は当然の知識だからでしょう。

③ 話題

ジャンル 2021本 2021追 2022本 2022追 試作 2023本
政治 24 26 28 21 28 22
経済 4 4 2 2 1 7
文化 6 3 4 10 4 5
小計 34 33 34 33 33 34

 金貨と東南アジアのプランテーションの話題を経済に分類しましたが政治史といってもいい部類なので、いつも通り政治史中心。文化史は産業革命の発明以外は中国の儒教関係。

③ 時代

時代 2021本 2021追 2022本 2022追 試作 2023本
前近代 11 10 13 13 11 21
近代 6 3 4 6 2 6
19世紀 10 7 8 7 3 2
20世紀 2 5 4 5 4 4
戦後 3 4 4 0 5 0
またぎ 2 4 1 2 8 1
小計 34 33 34 33 33 34

 今回は前近代で教室シチュエーションドラマを作るのが狙いだったようで、偏った出題になっています。戦後史は「またぎ」の正解であるBRICsのみ。

④ 地域

地域 2021本 2021追 2022本 2022追 試作 2023本
東アジア 11 7 10 7 5 9
東南アジア 0 2 1 0 4 3
西アジア 1 2 4 4 1 3
南アジア 3 1 0 1 0 0
ギリシアローマ 1 3 0 3 2 3
ヨーロッパ 16 12 13 15 8 14
アメリ 0 0 1 3 0 0
アフリカ 0 2 0 0 2 0
オセアニア 0 0 3 0 0 0
日本 0 0 0 0 2 0
またぎ 2 4 2 0 9 2
小計 34 33 34 33 33 34

 東南アジアに分類した問題もヨーロッパによる植民地化の話題なので、東アジア(ほぼ中国)とヨーロッパ(ギリシアローマ含む)に偏っています。

 これは2021年の本試験も同じで、歴史学のトピックを出題すれば必然的にヨーロッパと東アジアの問題が増えます。世界史選択者全員が歴史系に進むことを前提とするような問題もありますが、史料批判はどの学部に進むにしても必要な素養です。

⑤ 難易度

難易度 2021本 2022本 2021追 2022追 試作 2023本
16 18 16 17 17 17
10 10 11 11 11 10
8 6 6 3 5 7
0 0 0 2 0 0
小計 34 34 33 33 33 34

参考 本試験の平均点(2023年は中間集計)

教科科目 2023 2022 2021 2020セ 23-22
世界史B 58.43 65.83 63.49 62.97 -7.4
日本史B 59.75 52.81 64.26 65.45 6.94
地理B 60.42 58.99 60.06 66.35 1.43

度数分布(河合塾の共通テストリサーチ説明会資料 教員向けより引用)

 問題の難易度は従来の本試験と同程度とぶんぶんは評価します。

 ただし文字資料が多いこと、何度も資料を行ったり来たりする(考えるというより探す)煩雑な出題があったこと、ダミー選択肢に私立大学の知識ものが混じっていたこと、正解選択肢に読解ものと知識ものが混在したこと(知識ものが正文でも念のため読解ものが誤文か確認する必要あり)などから、受験生が時間に追われて自信をもって答えることができなかったことが難しく感じた原因だと推察します。 

 それを証明するのが度数分布です。生物とは違って上位層がしっかり残っていることから、知識が定着している人は予定通りの点数で、2022年の「思わぬ高得点を取った」層が減ったと推察します。ぶんぶんの講座生も同傾向でした。

今後に向けて

  • 教科書レベルの知識が定着していれば、どんな試験にも対応可能。ただし必ず5W1Hとともに覚える
  • 教科書の記述内容を理解する(意味あるものとして暗記する)ためには、授業中から比較と関連付け、抽象化を欠かさない
  • アウトプットは用語から内容・内容から用語の双方向で行い(出し入れ)、さらに用語から関連する別の用語を次々と連想する(芋づる)を心掛ける
  • 年号の記憶は不可欠。ただし覚える年号は必要最小限にとどめ、知っている年号から事項をつないで年代を判断する

おわりに

 出題者は教室での学習の風景や資料読解をふんだんに取り入れて「高校は用語の暗記ばっかり。こんな風にアクティブラーニングしなさい」と上から目線の割には、正誤判定は一問一答、資料問題もスキャニングとパズルで思考力問題とは言い難いです。

 したがってぶんぶんは、今回の出題は「内容の難化ではなく面倒化」、つまり共通テストのダメな部分がもろに出た出題と評価します。

 代ゼミの佐藤さんが速報で「知識でほぼ解ける」と言ってましたし、ぶんぶんの講座(中間発表より平均点は上)では私立の準備を多めにしていた生徒の方が高得点です。

 朝日新聞のEduAに南風原先生の手厳しい評価が載っていて、我が意を得たりでした。

www.asahi.com

少し引用

共通テストの出題者は、問題をシンプルにすると、「これは知識問題ではないか」と批判されるのが怖いのでしょう。共通テストは知識よりも思考力を問おうとして、結果として特殊な試験になっていると思います。

(中略)

共通テストは知識問題と言われることを回避しようとしています。回避の先の方向性がはっきりしていればいいのですが、そもそも思考力とは何かがはっきりしていません。そのため、会話文だったり、複数資料を比較対照したりするという設問の形式に逃げている印象があります。その結果、ページ数の多い、長い問題になっています。

(中略)

共通テストの問題は、じっくり読み込むことを必要としているかといえば、必ずしもそうではありません。使われているグラフも、その意味を理解するのが難しいものがありますが、理解していなくても解けるような問題があります。深層の情報処理を求めていないのです。しかし、スピードは必要ですので、「高速表層処理」が求められているといえます。

(中略)

知識の質、知識の応用と言ってくれればシンプルなのに、そこからどんどん離れています。そして、会話を入れる、複数資料を入れることがパターン化していて、そのことが自己目的化しているように思います。

 2023年本試験の世界史Bはまさにこれです。「逃げている」は重い言葉、出題者は「思考力」と言いながら急かして答えを選ばせることに矛盾を感じないのでしょうか。

 ただしぶんぶんは「知識でほぼ解ける」は歓迎です。

 ぶんぶんにとって世界史で習得する知識とは「生きた知識」、すなわち正確な5W1Hと紐付けられた知識で、比較や関連づけをしながら、その時代の様子を理解します。つまり生徒は知識を習得する過程で必ず「思考」(事項を時間軸の中に位置づけ評価)し、思考(何らかの仮説を建てる)する際にはその知識を使っています。

 佐藤さんの解説も受験生に用語の5W1Hを大事にすることを訴えていました。

 ですから知識を評価してもらえるのは歓迎です。皮肉ではありません。実は同じ年の追試はそうなっています。(次回解説)

 新課程の2025年度の共通テストの問題作成方針から「授業改善のメッセージ性も考慮し」の文言が消えています。生徒の知識が「生きた知識」かを試す問題をベースに、知識の運用を試す問題を、制限時間内で生徒が余裕を持って解答できる分量で出題することを求めます。