ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2022年関西私立大学の世界史の出題トレンド

はじめに

 関西圏では2月上旬で私立大学の前期入試が一巡し、この後2月中旬には中期、3月上旬には後期入試が控えます。首都圏では今日から「ラスボス」が登場します。

 今回は新聞社がアップしている入試問題に加えて、生徒から提供いただいた入試問題をもとに2022年度の入試問題のトレンドを検討し、この後のラストスパートの参考とします。

代ゼミの解答速報 問題は読売新聞のページにリンクします。

sokuho.yozemi.ac.jp

目次

 

1 龍谷大学

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1月29日 先史時代~オリエント・ギリシア フランス革命~アフリカの植民地化~独立

 いきなり先史時代がきて受験生は面食らったそうです。第1問、第2問は定番から、第3問は戦後史まで視野に入れたテーマ史という構成はいつも通りです。

先史時代について

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

2 近畿大学

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1月29日 ビザンツ帝国 清19世紀~滅亡
1月30日 ドイツ・ナチ党政権 アッバース朝以後のエジプトと中央アジアイスラーム政権

 この2日は関関同立の併願組が受験するので、受験生の手が回りにくい範囲が出題されます。今回は東欧や中央アジアが出題されました。先史も一問出ていました。

ユスティニアヌス1世の有名なモザイク画はラヴェンナサン=ヴィターレ聖堂にあります。ラヴェンナ東ゴート王国の首都でもあります。Michlebさんの作品。クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0 非移植

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3 関西大学

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2月2日 ヨーロッパの科学的な方法論 日本の近代化と中国・朝鮮 チャーチルと戦後史 宦官と中国王朝の政治・社会・文化
2月5日 英露のグレートゲーム ラテンアメリカ 朝鮮半島儒教 朝鮮王朝~戦後 日本の欧米使節団と19世紀後半のヨーロッパの政治
2月6日 長安 19世紀ヨーロッパの科学の発達 東南アジア18世紀~19世紀 オリエントとギリシア
2月7日 ヨーロッパ統合 儒教の朝鮮、東南アジア、日本への波及 17世紀~19世紀ヨーロッパの文学と絵画 15世紀のアジアとヨーロッパの動向

 ぶんぶんの手元にある2014年度以降の関西大学の入試問題集を見ると、従来から文化史は頻出です。ヨーロッパ文化史が4試験日出題されるのは2017年以来です。 

4 立命館大学

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2月2日 古代東南アジア 北京の歴史 マグレブシチリア島地中海世界 BLM運動で破壊されたモニュメント
2月3日 中国王朝における権力の学問への介入 尖閣諸島周辺の海洋アジア ロンドン塔をめぐるヨーロッパ中世史 スリナムをめぐる新大陸でのヨーロッパの抗争

 リベラルと教養をモットーとする「立命館節」が全開です。

 毎年第1問は中国王朝、第2問は東アジア近現代ですが、この2試験日は海域や農耕と遊牧の境界世界という現在の研究のトレンドが繁栄された出題です。「胡錦濤」など書きにくい問題も通常通り出ています。

アフリカ系アメリカ人について

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

5 同志社大学

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2月5日 中世の神聖ローマ帝国 朝鮮王朝と儒教 帝国主義とアジアの抵抗
2月6日 ギリシア・ローマ~ヨーロッパ中世の文化 唐~明の経済 ドイツ帝国の成立と滅亡
2月7日 ルネサンス 東南アジア 港市国家~大交易時代 イギリスの帝国主義
2月8日 西ローマと東ローマ アッバース朝 ティムール朝 ワッハーブ王国 スペインとオーストリアハプスブルク家

 毎年アジアと非アジアから高校1年~高校3年1学期までの範囲で1題ずつ、もう1題は19世紀後半~戦後史で特にアジアの民族運動は頻出です。文化史は思想・文学・芸術・科学技術について細かい人名や内容が問われます。

6 かぶり問題

用語 出題
アカプルコ  
アユタヤ  
イヴァン3世  
一条鞭法  
ヴァンダル
ウイグル  
オラニエ公ウィレム  
科挙  
紅巾の乱  
港市国家  
広州  
コペルニクス  
シーア派  
シパーヒー  
小中華  
ストウ  
セルジューク  
宋学  
台湾  
中山  
鄭和
テノチティトラン  
テマ制  
バーブ  
プトレマイオス  
ブルガール人  
ポルトガル  
琉球  
レコンキスタ  

① 海域のネットワーク

 「ポルトガル」「アカプルコ」「一条鞭法」などヨーロッパ主導の大航海時代とその影響だけでなく、それに先立つ海域のネットワーク、具体的には古代の「港市国家」、大交易時代の「鄭和」「アユタヤ」「中山王」「広州」が出題されています。

 大学では昨今の「グローバル化」を歴史の中に位置づけるため、各国史にとらわれず、各地域を移動と交流、関係性で見直すことに関心が集まっています。その観点から海域と中央ユーラシアに関する話題が最近の入試で頻出です。

② 中央ユーラシア

 「ウイグル」「セルジューク朝」「ブルガール人」などトルコ系の移動、ソグド人の活動は、中央ユーラシアに関する研究成果を踏まえて最近出題が増えています。

③ アフガニスタン 

 最近の関心事です。関西大学の「グレートゲーム」はどストライクです。ムガル帝国創始者バーブルが最初はアフガニスタンを拠点にしていたことも出題されています。

 ブハラを都とするサーマーン朝、ヘラートを拠点とし天文台を作ったティムール朝のウルグ=ベクも最近の入試でよく見かけます。

こちら

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

チベットも復習。ぶんぶんは「シムラ会議」が頭から離れません。

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

④ 朱子学

 宋学の内容だけでなく、朝鮮王朝における朱子学の受容や「小中華」が出題されています。すでに東京大学一橋大学の論述、共通テスト初年度に出題されています。

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

⑤ 文化史

 入試問題を見ると、文科省とその背後にいる勢力が「マーク式は暗記もの」という誤った認識から、私立大学に記述式やマーク式でも思考力を測る問題を増やすように迫っている模様です。

 文化史はたしかに細かいことが出題されたりしますが、帰納法演繹法・観念論、社会主義思想、天動説と地動説(プトレマイオスコペルニクス)など概念知識を問うことで、受験生の思考力(ちゃんと納得して勉強しているか)を測ることが可能です。

 また文化史を政治・経済とリンクさせると、その地域・時代のあり方を俯瞰的に理解できます。受験生は文化史で他の領域の理解を深めるようにしましょう。 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

まとめ

  • 学会の関心を反映して、海域や草原地帯の移動と交流が出題
  • 現代の課題を反映して、疫病、アフガニスタン、人種差別などが出題
  • 文科省の指導を反映して、抽象的概念や学習の統合を問う文化史が出題

おわりに

 関西の難関・中堅私大の入試問題は、従来から形式に関係なく思考を働かせないと解けない出題が多いですが、文科省が「マーク式は(以下略)」と言ってくるので、近畿と関西は正誤判定問題を増やし、同志社は共通テストの組み合わせ問題の真似をして、役所の顔を立てています。(´・ω・`)

 その一方、立命館大学は出題の中で「国家による学問への干渉」を批判し、同志社大学は「実用ばかりではなく教養が大事」と説いています。(`・ω・´)シャキーン

 また近畿大学オリエンタリズムを提唱した「サイード」、立命館大学は「多文化主義」を出題して、受験生に「世界史学習の中に自民族中心主義やレイシズムを克服する鍵がある」と訴えています。

 こう考えると、受験生の手が回りにくい範囲は「差をつける」部分でもありますが、それ以上に現代の課題でもあります。

 世界史の学習が大学での学問の入り口になること、そして社会に出てから「だまされない」ための武器になることを期待します。