ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

国立・私立大学世界史直前チェック(文化史②17・18世紀ヨーロッパ)

 受験生が後回しにしがちな一方、受験生の学習の「質」を問うのに効果的な文化史、第二回は17・18世紀のヨーロッパ文化史です。

 このブログはあくまで世界史の講座なので、思想家の深い説明は倫理の時間にお任せし、世界史の大きな流れ(政治・経済・社会)との関連性に注目します。

 偉人の似顔絵は「いらすとや」さんのをお借りしました。妙に充実しています。絵画はウィキメディアコモンズパブリックドメインからの借用です。

前回

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

目次

 

2 17~18世紀ヨーロッパ文化

特徴

  • 主権国家体制のもとで宮廷文化と市民階級の文化が形成される
  • 17世紀 科学革命の時代→近代的合理主義の思想・学問の確立を促す
  • 18世紀 合理的な知の重視→啓蒙思想が発展

 

1)自然科学

[1      ](英)『(2      )』

          ニュートン力学万有引力の法則、微積分法

          ピョートル1世と面会

[3      ](英)生理学者,血液循環を立証

[4      ](スウェーデン)植物学者,植物分類学を確立

[5      ](仏)化学者,燃焼理論の確立→質量不変の法則

          フランス革命で刑死

ラプラース(仏) 天文・数学者,宇宙進化論を説く

[6      ](英)医師,種痘法を開発

補足

 17世紀には実験や観察(いわゆる「再現可能な方法」)を通じて新しい科学的知見や理論が生まれます。

 トマス・クーンは『科学革命の構造』(1962年)でいわゆる「パラダイムシフト」を提唱しています。

 私たちは「科学」を「しがらみ」からフリーに真理を追究するもので、そこで出た結論は正しいと思いがちですが、実際には科学者は「パラダイム」(一定の発想、前提、枠組み、ルール)にしたがって研究を進め、できるだけその枠内で問題解決を図る傾向にあります。

 しかしこれが行きづまると、枠組み自体が疑われることになり、枠組みそのものが大きく変更されます。これが「科学革命」または「パラダイムシフト」(パラダイムチェンジ)です。

 ニュートンの力学からアインシュタイン相対性理論へのシフトはその好例です。

科学革命の構造

科学革命の構造

 

 「世俗化」という言葉もあります。ヨーロッパでは長くキリスト教が物事の説明の正しさの根拠(神の怒りだとか因果応報だとか)でしたが、それが合理性や科学が正当性の根拠に変わります。これもパラダイムシフトです。

 とはいえキリスト教の考えと近代科学が相いれないという訳ではありません。

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近代科学の祖とされるニュートン(1642~1727)は現在では「オカルト研究」に分類される分野の著作も多く著しています。年代学・錬金術・聖書解釈(特に黙示録)についても研究していたそうです。
 

2)哲学

①イギリス経験論

 実験観察から一般法則を導く(7      )法哲学

 [8      ] 経験論の基礎確立,『新オルガヌム

 ホッブズ ロック ヒユーム…経験論から懐疑論

②大陸合理論

 数学的な論証法を用いる(9    )法哲学

 [10      ](仏)『(11     )』「われ思う,ゆえにわれあり」

 [12      ](仏)『瞑想録(パンセ)』「人間は考える葦」

 スピノザ(蘭)汎神論

 ライプニッツ(独)単子論 微積分法

ドイツ観念論

 [13      ](独)『(14      )』 経験論と合理論を統合

補足

 キリスト教は人間中心的世界観で、自然は人間のために作られたと解釈します(創世記)。人間は神から「理性」(物事を正しく判断する力)を、自然は神から「法則」を与えられています。

 17世紀の最新テクノロジーは時計です。時計はねじを回せば後は自動的に時を刻みます。この時代には「人間を含むあらゆるものは機械」という言説が流行します。神が人間に理性を与え、自然に法則を与えた後は自動的に物事が進むイメージです。

 つまり人間が自然法則を明らかにしていくことはきわめてキリスト教的な営みです。帰納法は観察から法則を見いだし、演繹法は経験を越えた「正しさ」から事象を説明する、ということです。

 大陸合理論のデカルトスピノザライプニッツなどが揃って神の存在を証明しようとしたのはそのためです。

 これに対してカントは、経験論に対しては「見る」という人間が生来の能力が必要、合理論に対しては「知る」ためには経験が必要と批判し、両者を統合します。

 またカントは人間が認識できるのは「現象」であって「物自体」ではないと考えます。だから神の存在を証明することは不可能、私たちが人間が研究できるのは認識することのできる現象の世界、とします。

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イマヌエル・カント(1724~1804年)は東プロイセンの首都ケーニヒスベルクで一生のほとんどを過ごしています(小中高大職場と市内から出ていない私の知り合いみたい)。リスボン地震津波で壊滅したことにショックを受けたそうです。『永久平和のために』は1795年、フランス革命の時代に発表されました。
  

3)政治思想

①王権神授説絶対王政を正当化

 [15      ](英)ジェームズ1世

 [16      ](仏)ルイ14世

自然法思想…人間の本性にもとづく不変の法を唱え,王権神授説を批判

 [17      ](蘭)

 『海洋自由論』公海の自由を主張→オランダの利益

 『(18      )』国際法を提唱→三十年戦争の反省

③社会契約説自然法の考え方を国家に適用

 [19      ](英)『(20      )』

 「万人の万人に対する戦い」自然権を譲渡→王政復古を擁護

 [21      ](英):『(22      )』

 人民の反抗権を擁護 名誉革命を支持,アメリカ独立宣言に影響

啓蒙思想…人間の理性に絶対の信頼 伝統・権威を否定

 [23      ]『法の精神』イギリスを讃え,三権分立を提唱

 [24      ]『哲学書簡』→フランスの後進性を批判

         フリードリヒ2世・エカチェリーナ2世と交際

 [25      ]『(26     )』『人間不平等起源論』『エミール』

         フランス革命に影響

 [27      ]、ダランベール『百科全書』

重農主義

  • 富の源泉を土地にもとめ、その土地から財を生み出す農業が基本
  • 生産性を高めるには商業活動を自由に行わせる(レッセ=フェール)

 [28      ]『経済表』

 [29      ]:ルイ16世時代の財務長官

⑥古典派経済学

  • 冨の源泉を労働など国民の生産活動の全体に求める
  • 労働生産性を高めるためには市場における自由な競争が必要
  • 国家は企業の経済活動に対し規制や介入を加えるべきではない

 [30      ](英)『(31      )』 

補足

①②③王権神授説と社会契約説

 王権神授説というと偉そうな雰囲気ですが、ヨーロッパ中世では王権は弱体で、特権を保障された貴族や高位聖職者の制約を受けていました。つまり「伝統」に対抗して、王権は神から授かったもの(ということにする)として、国王を中心とする主権国家体制を作ろうとしました。

 これに対抗して人民には神から授かった侵すことのできない生来の権利がある(ということにする)立場が自然法思想、社会契約説、啓蒙思想です。

ホッブズリヴァイアサン』(1651年)の表紙。

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 ホッブズは、対等な人間が互いに自然権を行使し合うと「万人の万人に対する闘争」になるので、自然権を国家(コモンウェルス)に対して全部譲渡(社会契約)するべきとしました。『リヴァイアサン』の表紙の国王の身体が人民からできているのは、自然権の元の持ち主が人民であることを表わしています。

 彼は内戦直前の1640年にフランスに亡命し、チャールズ2世の家庭教師も務めています。その間に『リヴァイアサン』が執筆され、クロムウェルが内戦に勝利した後帰国してこれを発表しています。

 これに対してロックは「自然権は代表者に信託しているのであって、政府が自然権を侵害したら主権者である人民は取り替える権利がある」と主張します。これは名誉革命の論理であり、後にアメリカ独立革命の正当性の根拠となります。

 

啓蒙思想

 啓蒙思想は文字通り「蒙(物事に暗いこと)」を「啓(明るく)」することです。

 人間は神から理性を与えられていますが、不合理なもの(歴史・伝統・信仰)が理性を働かせて物事を正しく見ることを邪魔します。

 非合理なものから解放されるには「知ること」です。18世紀、重商主義の時代にはヨーロッパ人に新しい知見が広まります。ルネサンス以来の文化や科学の発達に加えて、イエズス会宣教師から中国の事情がもたらされます。

*人権教育では「啓発」という言葉を使います。「あの人たちって怖いヒソヒソ」という偏見が、実際に当該の人の話を聞いたりおつきあいすると「あら、全然そんなことないじゃん」になります。

『百科全書』の表紙 光を放つ天使が書籍や新しい技術の上に乗っています。知や理性など普遍的なものを重視し、「知れば知るほど世の中はよくなる」という進歩思想といえます。

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⑥ 古典派経済学

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 アダム=スミスは『諸国民の富』(1776)で「見えざる手」、すなわち個人が自由な市場において、個々の利益を最大化するように利己的に経済活動を行えば、最終的には全体として最適な資源の配分が達成される、としています。

 ちょうどイギリスで新技術が導入され、新しい資本主義が勃興する頃です。

 もうひとつスミスは『道徳情操(感情)論』(1759)という本も出していて、近代市民社会では独立した個人の「共感(sympathy)」(同情ではなく「第三者の目で見る」イメージ。今流行のメタ認知?)が大切と述べています。

 資本主義も人間の社会も「フェア」が大事です。特定の人が儲かるルールを作って利益をむさぼり、批判されたら「自己責任」と開き直る似非自由主義者はアンフェアの極み、アダム・スミスの爪の垢を煎じて飲むべきです。


4)建築 美術 音楽

バロック:17世紀の豪壮華麗な様式 (32      )宮殿

ロココ:18世紀の繊細優美な様式 (33      )宮殿(ポツダム

バロック絵画

 [34      ]:フランドル画派 『マリー=ド=メディシスの生涯』

 ファン=ダイク:ルーベンスの弟子,イギリスで宮廷画家

 [35      ]:オランダ画派,近代油絵画法を完成『夜警』

 [36      ]:ギリシア生まれ,スペインで多くの宗教画

 [37      ]:スペイン画派,スペインで宮廷画家

ロココ絵画:[38     ]:フランス,優美な田園・宮廷画

バロック音楽:18世紀前半 [39      ]、ヘンデルが完成

古典派音楽:18世紀後半 ハイドン交響曲の父)、モーツァルト 

補足

 ルーベンスといえばアントウェルペンの聖母大聖堂の『キリスト降架』です。以前はカーテンが掛けられ、お金を払わないと見ることができませんでした。あれ、なんだか眠くなってきた…。(*+_+)ノ。o○

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 対面にある『キリスト昇架』

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 『聖母被昇天』。マリア様は人間なので自分で天に昇れないから「被昇天」。あのアニメのクライマックスの元ネタ。

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 レンブラント『夜警』。洗浄作業をしたら実は昼だったとのこと。当時のアムステルダム市長を中心に市民隊(火縄銃手組合による市民自警団。少女の傍らにその紋章である鶏の爪が描かれている)が出動する瞬間を描いた集団肖像画。顔が前の人の手で隠れている人カワイソス (´・ω・`)

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 ベラスケス『ラス・メニーナス(女官たち)』。お姫様の準備が整わないところに国王夫妻が部屋に入ってきて(鏡に写っている)緊張が走ります。その一瞬を切り取った傑作。絵筆を持っている人物はベラスケス本人。

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 フラゴナール『ブランコ』。ロココ式。どこみてんのよ~!

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気分転換タイム


コレルリ:合奏協奏曲第8番ト短調『クリスマス協奏曲』

 

5)文学

フランス古典主義:ルイ14世の時代

悲劇:[40      ]、ラシーヌ,喜劇:[41      ]

フランス学士院(アカデミー):リシュリューが創設(1635)

               フランス語の統一に貢献

ドイツ古典主義:18世紀半ば~19世紀初め

 疾風怒濤(シュトゥルム=ウント=ドランク)ロマン派につながる

 [42      ]『若きウェルテルの悩み』『ファウスト

 [43      ]『群盗』

イギリス

 17世紀:ピューリタン文学

  [44      ]『失楽園』,バンヤン天路歴程

 18世紀:[45      ]『ロビンソン=クルーソー奴隷貿易

     [46      ]ガリヴァー旅行記→国教会批判 

補足

 イギリスの17、18世紀の市民文化を代表するものがコーヒー・ハウスです。客はコーヒーなど海外の嗜好品を楽しみながら(酒は出ない。純喫茶?)新聞や雑誌を読んだり(字が読める人が音読する)政治談議や世間話をしたりしていました。

ウィキメディアコモンズパブリックドメインの画像

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 こうした談義や世間話は、近代市民社会を支える世論を形成する重要な空間となり、イギリス民主主義の基盤としても機能したといわれています。 

 ロイズ・コーヒー・ハウスには、船主たちが多く集まり、店で船舶保険業務を取り扱うようになり、これがロイズ保険会社の起源になりました。『沈黙の艦隊』で「ライズ保険会社」が「やまと保険」を売るというってのがありました。

コーヒー・ハウス (講談社学術文庫)

コーヒー・ハウス (講談社学術文庫)

  • 作者:小林 章夫
  • 発売日: 2000/10/10
  • メディア: 文庫
 

 デフォーの『ロビンソン=クルーソー』は無人島でのサバイバル生活が有名ですが、そこに行くまでにブラジルでの農園開発や大西洋の三角貿易(奴隷を購入しようとアフリカに航海中に船が難破して無人島に漂着)の話が出てきます。

 また無人島(といっても絶海の孤島ではない)にやってくる原住民(食人族)との争いなど、当時の非ヨーロッパに対する偏見を含んだまなざしも感じます。  

ロビンソン・クルーソー (河出文庫)

ロビンソン・クルーソー (河出文庫)

  • 作者:デフォー
  • 発売日: 2011/09/03
  • メディア: 文庫
 

 

 『ガリヴァー旅行記』はアイルランド出身のスウィフトによるイングランド批判の塊のような作品です。

 有名なちっちゃい人の国の話には第二次英仏百年戦争、トーリーとホイッグ、国教会とカトリックへの風刺が見られます。また空飛ぶ島ラピュータに収奪される地上のバルニバービ(反乱が発生するとラピュータがインドラの矢ならぬ石を落として鎮圧する)はアイルランドそのものです。 

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

 

 

まとめ

 17・18世紀の文化を概観すると、キリスト教そのものは表に出なくなるものの、科学、理性、自然権などヨーロッパ近代のなものの見方や考え方の基層で息づいていると感じます。進歩主義キリスト教的な単線的な歴史観です。

 文化の担い手はまずは絶対王政の権威を高めたい宮廷、そして重商主義で沸き立つ富裕な市民層へと広がります。この文化が「環大西洋革命」の下地になります。

 次回は19世紀の文化。

 

空欄の答え

1 ニュートン
2 プリンキピア
3 ハーヴェー
4 リンネ
5 ラヴォワジェ
6 ジェンナー
7 帰納
8 フランシス=ベーコン
9 演繹
10 デカルト
11 方法序説
12 パスカル
13 カント
14 純粋理性批判
15 フィルマー
16 ボシュエ
17 グロティウス
18 戦争と平和の法
19 ホッブズ
20 リヴァイアサン
21 ロック
22 統治論二篇
23 モンテスキュー
24 ヴェルサイユ
26 社会契約論
26 ルソー
27 ディドロ
28 ケネー
29 テュルゴー
30 アダム=スミス
31 諸国民の富
32 ヴォルテール
33 サンスーシ
34 ルーベンス
35 レンブラント
36 エル=グレコ
37 ベラスケス
38 ワトー
39 バッハ
40 コルネイユ
41 モリエール
42 ゲーテ
43 シラー
44 ミルトン
45 デフォー
46 スウィフト