立命館大学2020年の世界史の入試問題を解答しながら、大学が受験生に求めている歴史的思考力を読み解きます。
第3回は「入試問題で復習」です。私立大学の入試問題では「財政=軍事国家説」など最新の知見が出題されることがあります。
2020年の立命館大学と早稲田大学で「先史時代」が出題されていました。このところ新しい発見が相次ぎ、教科書の記述が書き換わっています。今回はその集中解説です。
通常なら新学期の一番最初の単元ですが、新型コロナウイルスのために授業もままならないところもあるので、その代わりとしてください。
問題はこちら 同志社大学2月3日の第Ⅲ問、早稲田大学文化構想学部の第Ⅰ問。
Ⅳ 入試問題で復習 先史時代
問い1:何をもって「人類」とする?
2008年の『改訂版 詳説世界史B』の記述
人類は猿人・原人・旧人・新人の順に進化した。直立二足歩行を特徴とする人類が誕生したのは,今から約 500万年前のアフリカにおいてである。最初に出現した人類を猿人といい,アウストラロピテクスやホモ=ハビリスなどがこれに属する。そのなかには簡単な打製石器をもちいるものもいた。
現行の『改訂版 詳説世界史B』の記述
人類はさまざまな系統の誕生と消滅をへて進化したが,大まかな進化のみちすじとしては,猿人・原人・旧人・新人の各段階が考えられる。直立二足歩行を特徴とする人類が誕生したのは,今から約700万年前のアフリカにおいてであると考えられている。最初に出現した人類を猿人といい,アウストラロピテクスなどがこれに属する。そのなかには簡単な打製石器(礫石器)をもちいるものもいた。
現行の東京書籍『世界史B』の記述
人類と識別できる最古の化石骨は、アフリカで発見されたサヘラントロプスであり、およそ600万年から700万年までさかのぼる。さらに一群のアウストラロピテクスがあり、その出現はおそらく400万年前であった。やがて250万年前までには、彼らは自然石を打ちかいてつくった打製石器(礫石器)を道具として使いながら、サハラ地帯の豊富な動植物を狩猟・採集して生活していた。これがヒト科の最初の猿人であり、とくに脳容積が大きくなったホモ=ハビリス(240~170万年前)が出現するようになったころから、考古学上の旧石器時代がはじまる。
新しい考古学的知見によって大きく変化したのは、次の3点です。
1 最初の人類とされるものが700万年前までさかのぼった
2 猿人→原人→旧人→新人は単線的に進化したのではない
3 現生人類の祖先はアフリカ単独祖先説が有力
「人類」の定義、言い換えると人類と類人猿を区別する決め手は「直立二足歩行」とされています。それによって両手を自由に操り、大きな容量の頭脳を発達させて「文化」(自然を加工する技術や知恵を育み、後世に伝える)を発展させることが可能になりました。
つまり人類の定義は「文化を持つ」動物、科学的な根拠(人類とチンパンジーの違いをゲノムレベルで考察する研究はある)以上に「何をもって人類とするか」という認識の問題といえます。
2020年現在、2001年に中央アフリカのチャドで見つかった700万年前頃の化石人骨(サヘラントロプス トゥーマイ猿人)が人類の最古とされています。その頭蓋の形状、脳容量が類人猿並みの320〜380ccであることなどから、彼らが半樹上生活ではあるものの地上では直立二足歩行していたことが知られています。
*ただしこの人骨を「最古の人類」とみなすことには異論もある模様です。
現在まで発見された化石人骨のうち猿人に分類されているものはすべてアフリカで発見されています。サヘラントロプス(700万〜600万年前),ラミダス猿人(550万〜440万年前)など森に暮すもの,顎と歯が大きく草原の食物を採取したり肉食をしていたと考えられるアウストラロピテクス(420万〜200万年前)、脳容量が500cc以上で,礫石器の製作を特徴とするホモ= ハビリス(240万〜180万年前)などです。
約180万年前になると,ホモ=ハビリスの子孫と考えられるホモ=エレクトスと呼ばれる原人(240万〜50万年前)が出現し、アフリカから各地に分散したと考えられています。
問い2:化石人類の「進化」?
もうひとつ過去の教科書から大きく変わったのは、猿人・原人・旧人・新人の順に進化したのではなく、それぞれ共存していた時代があるという点です。
新種の原人として研究されているのが、2003年にインドネシアのフローレス島で発見さえた化石人骨で、フローレス原人(ホモ= フロレシエンシス)と呼ばれています。
この人骨化石は身長106cm,チンパンジー並みの380ccほどの脳容量しか持ちません。非常に小型であることから「ホビット」とも呼ばれます。
仮に原人が小型化したと考える場合は、「島嶼化」と呼ばれる、資源の乏しい島で生きる生物が食料をあまり必要としない小さい体になっていく現象が原因でしょう。
フローレス原人が絶滅するのは5万年前かもう少し後と考えられているので、新人と同時代に生きていたことになります。
1980〜90年代には,原人から旧人を経て新人に至る多地域多系統同時進化説が唱えられていましたが、現在では,新人に連なる系統はアフリカのサハラ以南に住み,そこで進化を遂げ、10万年前頃には世界に広がったという「アフリカ単一起源説」が定説になっています。
DNA分析の結果などから,旧人と新人が共通の祖先(ハイデルベルク人と考えられる)から分岐した時期が60万〜40万年前に遡ることがわかり,旧人は新人へと進化したのではなく、新人と共存した時期を経て絶滅してしまったと考えられています。
また一部の旧人と新人との間に交配が起きていたとする説が出されるなど,両者の関係性について研究が進んでいます。
そういえばインダス文明も、昔は「アーリヤ人に滅ぼされた」=弱肉強食史観から、「河川の流路の変化で街が放棄された」=環境史観に変りつつあります。私たちの歴史への「まなざし」が変れば見えるものも変るということでしょうか。
参考
3 まとめプリント
「人類」の出現
人類の定義:(1 )歩行ができる→文化を発達させる
人類の出現…地質時代では(2 )世
① 猿人
約700万年前:(3 )…トゥーマイ猿人
人類と識別される最古の化石骨。アフリカ、チャドで発見
約550万年前:(4 )猿人…エチオピア
約420万年前:(5 )…南アフリカ、アフリカ各地
約240万年前:(6 )
文化…(7 )石器(礫石器)を作製・使用
② 原人
約180万年前:ホモ=エレクトス…アフリカで出現 各地に分散
約70万年前:(8 )原人…インドネシア、トリニール
約60万年前:(9 )原人…中国、周口店
文化…ハンドアックス(握斧)などの改良された打製石器
洞穴に住み、狩猟・採集生活を営む
(10 )の使用、(11 )の使用(会話の能力)
③ 旧人
約70万年前 ハイデルベルク人…ドイツで発見 アフリカ、中国にも
ネアンデルタール人と現生人類の共通の祖先
約20万年前 (12 )人…ドイツ
脳容積は現代人とほぼ同じ,ヨーロッパ~西アジアに居住
文化…用途に応じた打製石器の使用(剥片石器)・毛皮の衣服
死者の(13 )、道具や身体への彩色
→宗教意識、美意識の芽生え?
④ 新人
約20万年前…ハイデルベルク人から分化。アフリカ単一起源説
約4万年前:(14 )人(南フランス)
グリマルディ人(イタリア)(15 )人(中国)
文化…石刃石器など石器製作技術の進歩、(16 )器の使用
→狩猟・採集・漁労技術の向上
女性裸像…多産や豊穣を祈る宗教儀礼?
洞穴絵画…スペインの(17 )、フランスの(18 )
ユーラシア、アフリカのほとんどの地域に広がる
→地域ごとの文化的な差異や人類の形質の違いが出現、言語の形成
空欄
1 直立二足
2 洪積
3 サヘラントロプス
4 ラミダス
5 アウストラロピテクス
6 ホモ=ハビリス
7 打製
8 ジャワ
9 北京
10 火
11 言語
12 ネアンデルタール
13 埋葬
14 クロマニョン
15 周口店上洞
16 骨角
17 アルタミラ
18 ラスコー