はじめに
難関私立大学の一部で世界史の論述問題が課せられますが、教科書の内容を時系列に説明できれば答案になる出題が大半です。
そうした中で異彩を放つのが上智大学TEAP方式で、お困りの受験生が多いのか当ブログの該当回にアクセスが集中します。 (人''▽`)ありがとう☆
かつて上智大学の世界史は悪問・難問・奇問のデパートとして悪名高く、『絶対に解けない受験世界史』の常連でしたが、文科省の入試改革にあわせて現在世界史はTEAP方式の論述のみです。2025年度入試からは「歴史総合・世界史探究」からの出題です。
*今年に限り過年度生に不利にならないような出題とのことです。
問題は東進の過去問ライブラリーから。上智大学のHPにも問題と出題意図が掲載されます。その時にぶんぶんの解答例が大間違いならコソーリ直します(インチキ)。
解答例はぶんぶんのオリジナルであり正解ではありません。
東進さんは頼りになります。関関同立の問題も全部上げてください。
過去記事
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目次
1 上智大学 TEAP方式 過去の出題
史料1 | 史料2 | 小論述 | 中・大論述 | 大論述 | |
2015 | 権利章典 | フランス人権宣言 | 球戯場の誓いの意義40字 | 「世界を一回りしたのは1789年宣言だ」とはどういうことか120字 | 権利章典と人権宣言の「人権」の違い400字 |
2016 | 植民地の独立と課題 | 18世紀末のスペイン領ラテンアメリカとアメリカ合衆国の人口比率 | アメリカ合衆国の黒人の立場と解放の歴史20字程度×4 | スペイン領ラテンアメリカと13植民地の社会構造の違いを考察350字 | |
2017 | チェアダーエフの文章 | トルストイの文章 | 両者のロシアのあるべき姿の考え方の違い300字 | 両者と文明論的意味。同じ論争をした日本やトルコの例をあげつつ300字 | |
2018 | ヨーロッパ統合に関する文章 | 文中のヨーロッパ統合を加速させる要因と抑制する要因について300字 | ヨーロッパ統合の二つの形態とイギリスのEU離脱について300字 | ||
2019 | 第一次世界大戦の講和をめぐる複数の資料 | 中東欧に国民国家を適用する問題点120字 | WW1後のヨーロッパの覇権の揺らぎ350字 | ||
2020 | ザビエルについての記述 | ザビエルを取り巻く世界の動き200字 | イエズス会の活動が「香料と霊魂」と受け止められている理由と筆者の考え350字 | ||
2021 | ロシアの中央アジア支配 | カフカースにおける少数勢力の立場 | 19世紀を通じての国際的な綿花生産・供給の事情200字 | カフカースや中央アジアにおける少数勢力の立場について叙述した文章の続きを書く300字 | |
2022 | アメリカ合衆国の黒人について | モザンビークの植民地支配 | 19世紀から20世紀にかけての合衆国の黒人差別制度の変遷200字 | 植民地支配の理想と実態とはそれぞれどのようなものであったといえるか300字 | |
2023 | 「北の十字軍」に関する考察 | 大学生二人の「正しい戦争」についての話 | 北ヨーロッパ商業圏の特徴 200字以内 | 会話文の議論と問題文を結び付けて「北の十字軍」がどのようなものか説明 | |
2024 | 世界史の歴史に関する考察 | 大学生二人の「現代において世界史の過去のあり方を学ぶ意義」に関する話 | 大航海時代のヨーロッパへの影響200字以内 | 現代において世界史の過去のあり方を学ぶ意義について論ずる350字以内 | |
2025 | 歴史上の学生に関する考察 | 第一次世界大戦が参戦国の政治・社会に与えた影響 200字以内 | 学制になる、学生であるということが持ちうる普遍的な意味もしくは複数の地域や時代に共通する意味300~350字以内 |
正誤判定問題5題、200字論述1題、300~350字論述1題が定着しました。2023年、2024年と文科省の顔を立てて大学生の嘘くさい会話文とのダブルパッセージでしたが、今年は小細工なしです。
正誤判定問題は完答マストです。中論述は指定語句を使いながら教科書の内容を説明できるかが勝負の分かれ目です。200字になってからはグローバル化に関する出題が続いています。
大論述は2020年から世界史の知識を使って課題文を読解・要約した上で受験生の意見を述べる出題が続いています。出題の趣旨を理解した要約を書けば大差はつかない、それを外すと大幅減点になると考えます。
2 2025年 解答例
設問1
凡例
正:正文(×はダミー選択肢) 誤:誤文
難易度メーター
◎:必答 ○:まあ解ける △:やや難だか難関私大合格には必要
▲:かなり難しい ×:ドボン
(1) d
正:宋→殿試→皇帝の最終試験 ◎
a×郷挙里選→高祖からではなく武帝から b×九品中正→豪族は上級官僚から排除されたではなく独占した c×朝鮮王朝で科挙実施→世宗からではなく建国時から
(2) b
誤:ツンフトは商人ギルドではなく同職ギルド ◎
(3) d
正:三十年戦争の講和条約でルター派の他にカルヴァン派も公認 ◎
a×ルターはドイツ農民戦争の領主制廃止を支持してない b×サンバルテルミの虐殺はユグノー戦争中 c×プロテスタント諸侯と都市の同盟はカルマル同盟ではなくシュマルカルデン同盟
(4) c
誤:×インド初代首相はガンディーではなくネルー ◎
(5) a
解答に向けて
正誤問題パートは点を取らせる問題で、教科書の内容が理解できていればまず間違うことはありません。
私立の入試問題をこなして、人名や事件名からその5W1H、特に「なに=内容」を即座に思い出せるようにしましょう。
(5)は慶應経済スペシャル「年表のどこに入る」問題。年号問題ではなく冷戦体制構築→スターリン批判→雪解けの流れの理解が問われています。授業で旧版『映像の世紀』を視聴していればハンガリー事件の次にフルシチョフ訪米が出てくるので即答です。
これの「恐怖の均衡」の回
「キッチン論争」は1959年7月24日、モスクワで開催されたアメリカ博覧会でニクソン副大統領とフルシチョフ第一書記の間で通訳を介して行われた論争で、博覧会会場内のモデルハウスの台所で行われたことにちなみます。明治大学で出題されています。
『映像の世紀』ではこの後ビデオ撮影スタジオに場所を変えて二人がアメリカとソ連の優劣を論じ合う(ほとんど子どもの口喧嘩)が紹介されます。この時のニクソンの誘いで、1959年9月15日にフルシチョフが初のアメリカ訪問を果たします。
設問2
課題
第一次世界大戦が参戦国の政治・社会に与えた影響 200字以内
語群 植民地 女性参政権 総力戦 民族運動
解答例
1 語群の用語に絞った解答例
第一次世界大戦は消耗戦になり、参戦国は戦争継続のために総力戦体制を敷いた。国内では男性が戦場に動員され、労働力不足を補うため女性が軍需工場等で働いた。女性の社会進出と大戦前の女性解放運動が相まって戦後に参戦国で女性参政権が実現した。また戦争は参戦国の植民地にも及び、総力戦が長期化するとその人員、物資、資金が投入された。この影響で植民地で権利意識が高まり、戦後に自治や独立を求める民族運動が激化した。200字
解答作成のポイント
古くは一橋大学、最近は東京大学や九州大学で出題されている鉄板中の鉄板で、旧課程に配慮した歴史総合の問題としてふさわしいテーマ。
第一次世界大戦は総力戦→女性も動員→戦後女性参政権、植民地も動員→戦後民族運動という流れで書けば迷うことはない。
解答例は、戦争が消耗戦になり総力戦体制が必要になったことで字数を整えた。女性参政権については、歴史総合や世界史探究の教科書に大戦前から女性参政権運動があったことが記されているので、女性が戦争で活躍して急に参政権が認められたわけではないというニュアンスにした。
「第一次世界大戦が参戦国に与えた政治・社会への影響」は他にも山ほどある。その辺を加えて論じることも可能だが、今回の解答例は語群のものに絞った。
これ当日の朝に呟いたんだが、受験生は見てないよね…。
#虎に翼 の影響かもしれんが、関西圏の #世界史 で女性解放の話題が散見されるんで、これからが本番の首都圏の受験生もチェックした方がよいぞ。https://t.co/Io57BQUphj
— ぶんぶんさん (@tokoyakanban1) 2025年2月5日
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設問3
課題
学生になる、学生であるということが持ちうる普遍的な意味、もしくは複数の地域や時代に共通する意味を論じる。300~350字
条件 論の裏付けとなるような歴史的な出来事や具体的な事例を複数挙げて説明を加える
リード文の雑なまとめ、学生の定義、具体例
- 西洋中世後期は人々が遍歴する時代であり、学者、教師、学生も学ぶために遍歴していた。彼らが身を守るために作った組合が大学の起源である。
- ☆学生は「学びを求めて遍歴する人」
- 例:オックスフォード大学とケンブリッジ大学
- ドイツでは神聖ローマ皇帝による支配とそれに対抗する諸侯の領邦内の集権化が進む中で、君主が大学を作り、領邦国家を支える人材を育成しようとした。
- ☆学生は「官僚の予備軍」
- 例:科挙 ボローニャ大学
- 19世紀ドイツでは国家の近代化のために大学が作られ、人文学や自然科学についての専門分野の研究機関となった。
- ☆学生は「専門化された学問を追求する人 その成果で国家に貢献する人」
- 例:ベルリン大学 日本の旧制大学
- 同時にドイツでは学生は卒業後に資格を取り社会のエリートになることが求めら、彼らもそれを理解してそのようにふるまった(行き過ぎも含めて)
- ☆学生は「エリート予備軍」
- 例:旧制高校のバンカラや教養主義 留学生
- 20世紀になると大学は女性を含むより多くの若者に門戸を開放した。しかし大学(特に名門大学)は「社会的上昇の近道」でありつづけた
- ☆学生は「間口の広がったエリート予備軍」
- 例:アメリカの私立大学
- 20世紀後半に大学は国家や社会の在り方を批判し行動を起こす公共圏という側面を強めた。
☆学生は「既存の権威に異議申し立てを行う社会集団」- 例:ブルシェンシャフト、ベトナム反戦運動、フランス五月危機、安保闘争
- 20世紀末から21世紀にかけて大学進学率が上昇し、学生のニーズが多様化すると、大学は多様な価値観を抱擁する場となった
- ☆学生は??(本時の課題)
- 例:日本の大学のレジャーランド化 就職予備校化 面倒見のいい大学
ケンブリッジ大学は13世紀初頭に町の人々と対立してオックスフォードから逃れてきた学者たちがこの町に住み着き、研究・教育活動を始めたのを起源とします。中世の大学が設備を持った組織ではなく学者や学生の組合であったことを示す例です。
Selwyn Collegeの写真 パブリックドメイン。
解答例
1 学生は「学問を志すエリート候補生」という視点から
歴史を紐解くと学生は「学問を志すエリート候補生」である。西欧中世では学生は学びを求めて遍歴し、近世には学問を修めて官吏として国家を支えることが求められた。国民国家のもとで大学は近代化のための知の府となり、学生は専門性を持つエリートとみなされた。明治政府も国家の近代化のために大学を設置し留学生を欧米に派遣した。当初は一部のもののための大学も20世紀には女性をはじめ多様な人材を受け入れたが社会的上昇の近道でありつづけた。しかし学生は従順な候補生ではない。学問の最前線にいるがゆえに社会の矛盾に敏感である。ベトナム反戦運動、北京や香港の民主化運動など学生が異議申し立てを行う例は多い。大学がマス化した今日だからこそ多様な問題に向き合い、解決の糸口を学問に見出し行動することが学生であることの意味であろう。350字
解答作成への道筋
参考図書
これとか
続き
ドイツ資格社会の古典 望田先生は学生時代に授業でお世話になった記憶が。
昨年に比べれば、リード文を要約しながら世界史で習った大学や学問の歴史、学生が中心になった社会運動を構成すれば文章になります。ぶんぶんのような年寄りにはもう少し字数がほしいです。
解答例はリード文中の「学ぶ学生」「将来は国家に貢献することが求められている学生」「エリート候補生とはいえ国家に(U^ω^)わんわんお!ではなく、既存の政治や社会の矛盾に気が付き、行動できる学生」という3点に着目して論じてみました。これで×だったら謝ります。
ぶんぶんは長年入試問題を研究していて感じるのは、権力(政府・民間に関わらず)の中枢に近いところに卒業生を輩出する大学ほど、入試問題では権力に虐げられてきた側の抵抗運動や融和に努めた人名が出題されます。
おそらく大学は「権力の中枢に行く人にふさわしいのは、社会的に弱い立場の人の思いがわかる人であって、権力を握って悦に浸りたい人ではない」と考えているからと拝察します。
*うちの子どもふたりは就職して現在法曹関係と公務員ですが、仕事場で相対するのは社会の矛盾の中で困りごとを抱えている人たちが中心です。
大学進学率が多様化し、大学生は「エリート」とは言えない昨今ですが、それでも大卒で就職すれば多くは管理職候補です。かつての旧制高校生のような「浮世離れしたエリート」ではなく、多様な人々と多様な価値観の中で大学生活を送るのですから、それと学問を結び付ければ、今の世の中にふさわしい管理職になれるはずです。
今回の上智大学の問題は「これから学びに向かう学生へのエール」とぶんぶんは勝手な解釈をします(一番ダメな指導法)。
なお解答例で香港の民主化運動を無理やり入れたのは、ぶんぶんがアグネス・チョウさんをフォローしているから。
入試直前の鉄板
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