ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

国公立大学に出願する(4 割増率・辞退率・追加合格2022)

はじめに

 ぶんぶんの知り合いの高校は国公立大学の「合格者」数を近隣の進学校間で競い合い、共通テストは全員5教科7科目受験、前期も後期も中期も出願、前期に不合格で意中の私立大学に合格しても後期を受験するよう奨められると聞きます。

 私立志向の首都圏の方からは ( ゚д゚)ポカーン かもしれません。

 一方ほとんどの国公立大学は入学辞退者に備えて割り増し合格者を出し、辞退者が多ければ追加合格を出し、さらに一部の大学では二次募集も行なわれます。

 今回は国立大学が公表している入試統計をもとに、『学研・進学情報』2022年12月号の記事を著作権の範囲内で引用し(営業さんの許可は過去に確認済み)、国立大学の割増率・辞退率・追加合格について考察します。

 数値の間違いがあればごめんなさい。老眼なもので。🔍

学研の古い記事

http://www.gakuryoku.gakken.co.jp/pdf/articles/2015/12/p6-11.pdf

2023年度はこちら

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

目次

 

1 割増率

① 割増率の多い大学

  大学名 募集人員 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率
1 北見工業大 286 506 76.9% 0 221 43.7%
2 室蘭工業大 330 498 50.9%   161 32.3%
3 愛知教育大 599 813 35.7% 1 45 5.5%
4 横浜国立大 1,332 1,712 28.5%   289 16.9%
5 茨城大 1,278 1,642 28.5%   284 17.3%
6 滋賀大 550 700 27.3%   107 15.3%
7 山梨大 587 739 25.9% ★17
(1)
75 10.1%
8 奈良教育大 215 265 23.3%   18 6.8%
9 徳島大 862 1,055 22.4% ★*
(2)
164 15.5%
10 埼玉大 1,369 1,669 21.9% 6 244 14.6%
11 鳴門教育大 83 101 21.7% 2 9 8.9%

追加合格の欄は★は追加合格者数(*は最終合格者数に追加合格者数を含む大学)、下段の( )が二次募集での合格者数

参考 2021年度

No 大学名 募集人員 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率
1 北見工業大 286 471 64.7%   197 41.8%
2 横浜国立大* 1,329 2,041 53.6% 174 740 36.3%
3 室蘭工業大 330 455 37.9%   115 25.3%
4 宇都宮大* 716 902 26.0% 21 183 20.3%
5 愛知教育大 599 746 24.5%   32 4.3%
6 山梨大* 587 720 22.7% 25 80 11.1%
7 滋賀大 550 673 22.4%   99 14.7%
8 茨城大* 1,313 1,604 22.2% 11 278 17.3%
9 京都工芸繊維大 530 614 22.1% 33 95 15.5%
10 宮崎大 828 1,007 21.6%   144 14.3%
11 琉球 1,157 1,401 21.1%   192 13.7%
12 佐賀大 935 1,132 21.1%   150 13.3%
13 福島大 655 792 20.9%   92 11.6%
14 徳島大 862 1,041 20.8%   154 14.8%
15 埼玉大 1,380 1,653 19.8% 32 227 13.7%

*の大学は追加合格に二次募集を含む数

② 考察

 毎年北見工業大学室蘭工業大学が割増率、辞退率ともにブッチギリです。入学する気もないのに受験するんですかね。

 室蘭工業大学はロケットの研究で有名。

muroran-it.ac.jp

 2021年度の横浜国立大学は、コロナ禍対策のためほぼ全学部で個別試験を中止して共通テストの成績のみで合否判定を行ないました。

 その結果本命の受験生から敬遠され大学全体で志願者数は前年比65.8%と大幅減少、大学側も辞退者を見込んで多めに合格者を出したものの辞退者は700人越え、二次募集も実施しました。

 2022年度は通常の入試に戻したので辞退者も減って追加合格はありませんでした。それでも前期で128人も辞退があるのは「首都圏難関私立大学の併願校」ポジションだからでしょう。

 地方国立大学は例年通り10%~20%ほど割り増し合格を出しています。業者の合否予想システムでボーダーラインよりやや下でも爪の先がひっかかる可能性があるので、受験生は判定システムとにらめっこする暇があったら勉強しましょう。

 

2 辞退率

① 辞退率の高い国立大学

no 大学名 募集人員 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率
1 北見工業大 286 506 76.9%   221 43.7%
2 室蘭工業大 330 498 50.9%   161 32.3%
3 茨城大 1,278 1,642 28.5%   284 17.3%
4 横浜国立大 1,332 1,712 28.5%   289 16.9%
5 和歌山大 720 867 20.4% 6 141 16.3%
6 徳島大 862 1,055 22.4% ★*
(2)
164 15.5%
7 滋賀大 550 700 27.3%   107 15.3%
8 佐賀大 938 1,126 20.0%   169 15.0%
9 埼玉大 1,369 1,669 21.9% 6 244 14.6%
10 宮崎大 815 986 21.0%   134 13.6%
11 鳥取 907 1,079 19.0% 5 137 12.7%
12 福井大 675 788 16.7% 10 96 12.2%
13 京都工芸繊維大 503 600 19.3% 14 73 12.2%
14 上越教育大 110 132 20.0%   16 12.1%
15 福島大 655 794 21.2%   95 12.0%

参考 昨年度

  大学名 2021年度 2020年度
募集人員 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率 入学辞退率
1 北見工業大 286 471 64.7%   197 41.8% 56%
2 横浜国立大* 1,329 2,041 53.6% 174 740 36.3% 16%
3 室蘭工業大 330 455 37.9%   115 25.3% 20%
4 宇都宮大* 716 902 26.0% 21 183 20.3% 12%
5 茨城大* 1,313 1,604 22.2% 11 278 17.3% 18%
6 信州大 1,651 1,954 18.4% 46 321 16.4% 11%
7 京都工芸繊維大 530 614 22.1% 33 95 15.5% 13%
8 徳島大 862 1,041 20.8%   154 14.8% 16%
9 滋賀大 550 673 22.4%   99 14.7% 18%
10 宮崎大 828 1,007 21.6%   144 14.3% 13%
11 鳥取 912 1,084 18.9% 3 152 14.0% 12%
12 埼玉大 1,380 1,653 19.8% 32 227 13.7% 14%
13 琉球 1,157 1,401 21.1%   192 13.7% 12%
14 佐賀大 935 1,132 21.1%   150 13.3% 13%
15 山口大 1,504 1,774 18.0%   230 13.0% 13%

② 考察

 国立の辞退者の推移

入学年度 志願者 辞退者
2019 330,153 6,881
2020 307,192 7,703
2021 295,931 7,991
2022 302,953 7,329

 2020年はセンター試験最終年で、共通テストの先取りのような問題も出て平均点が下がり、浪人してポンコツ入試改革に巻き込まれるのが嫌で安全に出願するものの不本意だったのか辞退者が増加しました。

 2021年もさらに増加したものの横浜国立の「やらかし」のせいで他大学は減少傾向、2022年度は辞退率が10%を超える大学は前年の32校から36校と増加しましたが人数は減少しました。

 これは共通テストの平均点低下が原因と考えられます。数学ⅠAの影響で各大学のボーダーラインが約5%低下しました。つまりどの受験生もできていないため、持ち点が低くても積極的に第一志望を志願したため「不本意合格」が減ったのでしょう。

 ツートップ以外では、首都圏(難関私立の滑り止め)、大都市圏から遠い地域(国立至上主義校の「出願指導」で受験し合格するも私立に進学か浪人)の大学が上位に並びます。

 京都工芸繊維大学は毎年後期で辞退者が多く出ますが(たぶん阪大や神戸の前期残念組)、2022年前期の辞退者は1名です。コアなファンに支えられているようです。

www.kit.ac.jp

 滋賀大学は辞退者が107名と国立王国の関西では多めですが、辞退者の大半は経済学部(前期は同志社とのダブル合格組、後期は前期神戸残念組)で、データサイエンス学部は前後期合せて辞退者12名、この系統の人気をうかがわせます。

③ 辞退率の低い大学

大学名 募集人員 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率
東京藝術大 471 471 0.0%   0 0.0%
長岡技術科学大 50 58 16.0%   0 0.0%
東京大 2,960 2,997 1.3%   13 0.4%
京都大 2,677 2,743 2.5%   12 0.4%
一橋大 885 958 8.2%   11 1.1%
大阪大 2,878 3,102 7.8% 4 48 1.5%
東京工業大 930 973 4.6%   16 1.6%
宮城教育大 244 278 13.9%   5 1.8%
名古屋大 1,739 1,813 4.3%   35 1.9%

 辞退率が低いのは第一志望の生徒しか来ない東京藝術大学(割増合格を出さない)や各エリアの国立志望者の目標である旧帝大+αで前期しか実施しないまたは後期の定員が極端に少ない(北海道や九州は後期を実施するので辞退率は高い)大学です。

 大阪大学は前期のみの割に毎年辞退者数が多く、外国語学部(旧大阪外国語大学)が19名と最多です(去年は30名)。「倍率の低い言語専攻を探すチキンレース」が毎年締め切り直前まで繰り広げられます。そのため不本意受験が増えると思われます。

 名古屋大学は医学部保健学科(旧医療短期大学)が辞退者10人と最多です。医療系は合格すれば就職が決まるので、数稼ぎのような受験指導はないと信じたいです。

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3 追加合格  

① 追加合格の多い大学

no 大学名 募集人員 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 うち二次募集 入学辞退者数 入学辞退率
1 新潟大 1,631 1,908 17.0% 53   198 10.4%
2 筑波大 1,474 1,584 7.5% 43 8 97 6.1%
3 北海道大 2,326 2,567 10.4% 33   153 6.0%
4 長崎大 1,243 1471 18.3% 21   149 10.1%
5 愛媛大 1,239 1,439 16.1% 21   152 10.6%
6 富山大 1,414 1,683 19.0% 20   193 11.5%
7 山梨大 587 739 25.9% 17 1 75 10.1%
8 信州大* 1,644 1,879 14.3% 14   192 10.2%
9 京都工芸繊維大 503 600 19.3% 14   73 12.2%
10 金沢大 1,539 1,691 9.9% 13   89 5.3%
11 九州工業大 640 722 12.8% 11   75 10.4%
12 群馬大 760 864 13.7% 10   94 10.9%
13 山形大 1,160 1,327 14.4% 10   152 11.5%
14 福井大 675 788 16.7% 10   96 12.2%

追加合格内訳

大学名 追加合格者数  前期
(学部,人数)
 後期
(学部.人数)
新潟大 53 経済科学14,医(医)4,医(保健)1,歯3 経済科学29.歯2
筑波大 35 総合4、社会・国際11.人間2,生命環境1,理工5,情報1.医(医療科学)1 人間1.生命環境2,理工6,芸術1
北海道大 33 稔合理系5,医(医)1,医(保健)2,歯1 教育2,法1,理8,
工8,農5
愛媛大 21 法文5.社会共創6,医(医)1、医(看護)1,工5 工3
長崎大 21 教育4,医(医)3,医(保健)11.歯2 工1
富山大 20 経済5.理6,医(医)3,医(看護)3,都市デザイン3
山梨大 16   医(医)16
信州大 14 理2,医(医)4,工8  
京都工芸繊維大 14 工芸科学1 工芸科学13
金沢大 13 人間社会1,医薬保健(医)1,医薬保健(薬)1、医薬保健(保健)3,文系一括6.理系一括1  
九州工業大 11 工2 工9
山形大 10 医(医)1 理5.医(医)3,医(看護)1
群馬大 10 共同教育1.医(医)4,医(保健)5
福井大 10 医(看護)2,工3 医(医)3,医(看護)1,工1

② 考察

  地方の国立大学は辞退者を見越して定員の1.10~1.20倍を取り、辞退者が多ければさらに追加合格を出して最終的に全定員の1.05倍以内に収める、という戦略です。

 首都圏私立大学の併願先である筑波、信州、新潟は例年水増し合格は少ないかわりに追加合格を出すという戦術です。新潟は後期(浪人または私大へ)、筑波は前期(難関私大に合格した)の追加が多いです。

 医学部は国からの予算が大きいため、定員を下回ると予算を適切に執行していないことになるので、できるだけ定員に近づくように、欠員が出た数だけ追加合格を出しています(学研の記事より)。

  追加合格があるかどうかは各大学のHPに告知されます。3月26日以降は携帯電話を肌身離さず持ち歩きましょう。すでに他の国公立大学に手続きしている人、当該大学を前期や後期で振った人は対象外です。

 初使用 shigureni free illust さん 「きた!」と思って出たらセールスの電話だったらがっかり。

www.shigureni.com

③ 具体例

信州大学の追加合格(令和5年度入試)一般選抜募集要項より

www.shinshu-u.ac.jp

10 追加合格
 令和5年3月26日(日)の入学手続締切後,入学手続完了者が募集人員に満たないときは,追加合格を行います。追加合格者には3月28日(火)から3月31日(金)までの間に出願確認票に記載されている「受信場所(志願者連絡先)」へ電話により直接連絡しますので,直ちに電話連絡がとれるようにしておいてください。
なお,本学からの連絡の際,再度にわたる電話連絡にもかかわらず,追加合格候補者が不在等のため,本人の意思確認ができなかった場合や,すみやかに意思表明されなかった場合は,入学の意志がないものとして取り扱うことがあります。
(注1) 他の国公立大学への入学手続を完了した方は,それを取り消して本学の追加合格による入学手続を行うことはできません。
(注2) 本学の前期日程・後期日程の合格者で,それぞれの入学手続期間内に入学手続を行わなかった方は,追加合格の対象とはしません。
 3月26日(日)入学手続締切後から3月31日(金)までインターネットで追加合格実施状況をお知らせします。詳しくは19ページの「13 インターネットによる情報提供について」を参照してください。
 ※必要に応じて第2次募集を行うことがありますので,ご留意ください。  

 電話に出ないと次の人に権利がいく(テレビの懸賞?)みたいです。また速やかな意思表示が必要なので、保護者と事前に相談しておきましょう

 すでに私立に二次手続き(授業料その他)している場合、返還手続きをすれば入学金以外は戻ってきますが、先に国立に振り込むお金が必要になります。

4 第二次募集 

① 二次募集を実施した大学

no 大学名 募集人員(2022年度) 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 二次募集合格者数 入学辞退者数 入学辞退率
1 静岡大 1,540 1,823 18.4% 9 202 11.1%
2 筑波大 1,474 1,584 7.5% 43 8 97 6.1%
3 北海道教育大 919 1,011 10.0% 5 51 5.0%
4 琉球大* 1,157 1,382 19.4% 4 4 165 11.9%
5 岡山大 1,587 1805 13.7% 9 3 100 5.5%
6 徳島大 862 1,055 22.4% 2 164 15.5%
7 山梨大 587 739 25.9% 17 1 75 10.1%

二次募集数は追加合格の内数。*は最終合格者数に追加合格者を含む

② 考察

 2021年度は9大学で161名の二次募集合格を出しましたが、うち横浜国立大学が101名でした。2022年度は辞退者が減ったため追加合格・二次募集とも減少しました。

   追加合格を含めてもなお定員が埋まらない大学は、おおむね3月26日ぐらいに欠員補充のための第二次募集が発表されます。

 ただし希望の学部学科はあるとは限りません。静岡大学教育学部はよく二次募集をしていますが実技系が多いです。また共通テストのみでの合否判定なので、持ち点が低くて全滅した人はノーチャンスです。

 出願には共通テスト成績請求票の二次募集用が必要です。怒りに任せて受験票や成績請求票を捨てたりしませんよね?

初使用 イラストACさんの画像

www.ac-illust.com

まとめ

  • 国立大学は辞退者を見越してあらかじめ定員より多めに合格者を出す
  • 辞退者が予想を超えて多いと追加合格を出す
  • 首都圏は私立大学志向で、準難関の国立大学さえ私立の併願扱い
  • 地方の国立大学は合格者の割増率が高い。その1点が合否を左右する
  • 第一志望者がほとんどの大学は水増しも辞退も追加合格も見込めない

おわりに

 合格しても辞退するなら最初から受験しないで私に席を譲ってよ!と思いますが、「できる人は総取り、できない人は全滅」が受験の世界の掟です。私たちはそういうシビアな世界にいるのです。

 勝ち抜くためには勉強しかありません。最後まで気持ちを切らさず受験し、運が巡ってくるのを待ちましょう。チャンスの女神は前髪しかありません

 この方。いらすとやさんには何でもありますね。