はじめに
2023年度入試に志願した受験生は、入学したときからコロナ禍(政治の不手際を含む)に振り回され、本当に気の毒でした。
今回は河合塾、駿台、代ゼミの2023年度入試の分析を著作権の範囲内で引用し、大学入試センターや文科省の発表も参考にしながら、2023年度入試についてふり返ります。
参考
「実施結果等」を参照
河合塾の営業さんから「公開されているものは出所を示せば引用OK」と許可をもらっています。文中の表・グラフはここから。
目次
0 入試改革のゴタゴタ
- センター試験→共通テストに
- 英語成績提供システム→2019年11月にストップ
- 国語と数学に記述式→2019年12月にストップ
- 主体性評価→Japan e-ポートフォリオが2020年4月に運用停止
- 国公立大学の態度→文科省に忖度から一転し、英語民間検定必須化は相次いで中止、主体性評価もコロナ禍を理由に入試での活用は保留が相次ぐ
- 共通テスト→「思考・判断力をより試す」は情報処理能力勝負、「実生活の場面」は非現実。国語は出題者の利益相反疑惑から実用的文章は一旦消滅(2025年に復活)、平均点管理ができず3度の実施で2度の得点調整実施
- 入試改革→そもそも「入試で教育を変える」という理念が間違い、さらに理念を制度に落とし込むことができず、改革の多くは土壇場で次々挫折、共通テストだけが残り、改革は文科省の各大学への個別攻撃依頼に場所を移す
1 国公立大学編
① 共通テスト 志願者は減少・受験者は微増
1)センター試験・共通テスト 志願者・出願者数推移
年度 | 志願者数 | 昨年比 | 受験者数 | 昨年比 | 受験率 |
2013 | 573,344 | 103% | 543,271 | 103% | 95% |
2014 | 560,672 | 98% | 532,350 | 98% | 95% |
2015 | 559,132 | 100% | 530,537 | 100% | 95% |
2016 | 563,768 | 101% | 536,828 | 101% | 95% |
2017 | 575,967 | 102% | 547,892 | 102% | 95% |
2018 | 582,671 | 101% | 554,212 | 101% | 95% |
2019 | 576,830 | 99% | 546,198 | 99% | 95% |
2020 | 557,699 | 97% | 527,072 | 96% | 95% |
2021 | 535,245 | 96% | 484,114 | 92% | 90% |
2022 | 530,367 | 99% | 486,848 | 101% | 92% |
2023 | 512,581 | 97% | 474,051 | 97% | 92% |
*2023年追試験受験者:2,737人 (2022年:915人 2021年:1,021人)
2023年度は現役生は436,873 人(昨年:449,369人)と人口減少分を考えれば昨年並み、浪人生は71,642 人( 昨年76,785人)と2年続けて約5,000人減少しました。
申し込んで受験しなかった生徒は共通テスト初年度、つまりコロナ禍の時期から増加しています。
高校では私立や国公立(共通テストなし)総合型や学校選抜で進学先を決めた生徒にも共通テストの受験をすすめる傾向にあります(合格が決まる前に共通テストの出願〆切がある)。四月から共通テストや一般試験をくぐり抜けた学生と机を並べる訳ですから、進学先が早くに決まって「ふぬけ」になったら大学に入ってから困ります。とはいえ感染不安を感じる生徒に無理強いはできません。
追試者はコロナ禍を反映してセンター試験時代を含めて過去最大になりました。
2)受験科目数の推移
2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
8科目受験者 | 8,952 | 7,915 | 7,021 | 6,656 | 6,621 |
受験率 | 1.64% | 1.50% | 1.45% | 1.36% | 1.40% |
7科目受験者 | 295,090 | 287,427 | 272,914 | 273,368 | 269,454 |
受験率 | 54.03% | 54.53% | 56.37% | 55.97% | 56.84% |
6科目受験者 | 24,967 | 24,544 | 21,924 | 21,291 | 20,535 |
受験率 | 4.57% | 4.66% | 4.53% | 4.36% | 4.33% |
5科目受験者 | 28,453 | 27,086 | 24,496 | 24,587 | 22,119 |
受験率 | 5.21% | 5.14% | 5.06% | 5.03% | 4.67% |
4科目受験者 | 45,547 | 44,287 | 41,943 | 43,032 | 41,940 |
受験率 | 8.34% | 8.40% | 8.66% | 8.81% | 8.85% |
3科目受験者 | 123,605 | 115,639 | 100,843 | 104,049 | 97,537 |
受験率 | 22.63% | 21.94% | 20.83% | 21.30% | 20.58% |
2科目受験者 | 17,155 | 17,690 | 13,025 | 13,394 | 13,755 |
受験率 | 3.14% | 3.36% | 2.69% | 2.74% | 2.90% |
1科目受験者 | 2,429 | 2,484 | 1,947 | 2,006 | 2,090 |
受験率 | 0.44% | 0.47% | 0.40% | 0.41% | 0.44% |
受験者合計 | 546,198 | 527,072 | 484,113 | 488,383 | 474,051 |
平均受験科目 | 5.53 | 5.54 | 5.62 | 5.59 | 5.62 |
国公立大学の基本である5教科7科目受験は、人数は昨年より約4,000人減少していますが比率は増加しています。一方私立アラカルトの中心である3科目受験は人数が約7,000人減少しています。私立専願生が共通テストを見限った可能性があります。
そもそも共通テストに記述式を入れるとか言い出した理由のひとつが私立大学のセンター利用拡大です。「暗記で解答できるセンター試験だけで大学に合格するのはまかりならん」という趣旨のようで、「大学入試センターが私立大学向けに記述式問題を提供する」という現実離れした話題も検討会議で出ていました。
私大センター利用が広まったのは受験機会を増やす(受験料を稼ぐ)という経営上の戦略です。多くの受験生にとってセンター利用は国立の併願や安全校の押さえなど「保険」みたいなもので、合格者の大半は辞退します。
中堅以上の私立大学のボリュームゾーンは一般試験です。センター試験は暗記や鉛筆転がして解けるような問題ではなく基礎基本を問う良問だったので、関西の私立大学は一般試験をセンター試験の貯金が使えるような仕様にしてありました。しかし「ガラパゴス化」した共通テスト(特に英語)は勉強の足しにならないどころか邪魔にすらなります。
「ベンチがアホやで野球ができへん」は元南海・阪神の江本さんの言ですが、政策決定者が実態に疎いのは受験生には迷惑な話です。
*ただし昨今は私立大学も共通テストの形式を真似た問題を出すようになっています。しかし2年かけて2セット作る共通テストとは違い(それで誤植多発に平均点管理ができないとはとんだ体たらく)、私立大学はわずかな期間に多くの問題を用意する必要があるので真似にも限界があります。
ガラパゴスバットフィッシュ いらすとやさんより。本文とは関係ありません。
② 一般選抜志願者数は前期後期とも昨年並み
2022年度 | 2023年度 | 23-22 | ||||||
募集人員 | 志願者数 | 倍率 | 募集人員 | 志願者数 | 倍率 | 増減 | ||
国立 | 前期 | 63,637 | 179,320 | 2.8 | 63,648 | 176,484 | 2.8 | -2,836 |
後期 | 12,962 | 123,633 | 9.5 | 12,679 | 121,821 | 9.6 | -1,812 | |
公立 | 前期 | 16,320 | 54,676 | 3.4 | 16,584 | 54,966 | 3.3 | 290 |
後期 | 3,367 | 39,647 | 11.8 | 3,388 | 38,246 | 11.3 | -1,401 | |
中期 | 2,349 | 31,380 | 13.4 | 2,428 | 31,663 | 13.0 | 283 | |
合計 | 前期 | 79,957 | 233,996 | 2.9 | 80,232 | 231,450 | 2.9 | -2,546 |
後期 | 16,329 | 163,280 | 10.0 | 16,067 | 160,067 | 10.0 | -3,213 | |
中期 | 2,349 | 31,380 | 13.4 | 2,428 | 31,663 | 13.0 | 283 | |
合計 | 98,635 | 428,656 | 4.3 | 98,727 | 423,180 | 4.3 | -5,476 |
*2021年度の国公立合計:募集90,197 志願 425,415 倍率4.3
第一志望で受験する(はずの)前期日程は昨年に引き続き3倍を割りました。公立大学は新規参入があったのでトータルの倍率はやや下がりました。
国立後期は岡山大学が廃止したので定員が減り、志願者も減っています。
受験生減少の割に国公立大学の出願はまあまあなのは、今回は共通テストの平均点が多少上がり、国立大学出願のボリュームゾーンである6割以上の生徒が増えたからだと考えられます。
河合塾のGuideline4,5月号(2023)より引用
③ 欠席率は過去最高
第1日目の欠席者集計(文部科学省発表資料から)
前期
2022年度 | 2023年度 | |||||||
受験対象者数 | 出席者数 | 欠席者数 | 欠席率 | 受験対象者数 | 出席者数 | 欠席者数 | 欠席率 | |
国立 | 170,531 | 159,124 | 11,407 | 6.7% | 167,052 | 155,542 | 11,510 | 6.9% |
公立 | 46,633 | 42,313 | 4,320 | 9.3% | 47,369 | 42,709 | 4,660 | 9.8% |
合計 | 217,164 | 201,437 | 15,727 | 7.2% | 214,421 | 198,251 | 16,170 | 7.5% |
後期
2022年度 国立70校 公立60校 | 2023年度 国立69校 公立60校 | |||||||
受験対象者数 | 出席者数 | 欠席者数 | 欠席率 | 受験対象者数 | 出席者数 | 欠席者数 | 欠席率 | |
国立 | 116,496 | 43,572 | 72,924 | 62.6% | 113,027 | 42,127 | 70,900 | 62.7% |
公立 | 32,384 | 11,728 | 20,656 | 63.8% | 32,114 | 11,300 | 20,814 | 64.8% |
合計 | 148,880 | 55,300 | 93,580 | 62.9% | 145,141 | 53,427 | 91,714 | 63.2% |
第一志望で出願する国公立前期の欠席の理由は、ぶんぶんの高校だと意中の私立に先に合格したから(共通テストで失敗して意中の国公立に出願できなかった)、共通テストあり推薦に合格したから(合格発表が2月中旬なので一般も出願する)のふたつです。今後国公立大学の推薦が拡充すると欠席者のさらなる増加が見込まれます。
後期は前期合格者は欠席するので欠席率が高いのは当然、前期の欠席理由も当てはまります。②の表と照らし合わせると後期の実受験倍率は平均3~4倍です。何としても国公立の人は3月12日までは気持ちを切らしてはいけません。
③ 地域別動向…大都市圏は堅調も地方で落ち込み
河合塾のGuideline4,5月号(2023)より引用
落ち込みが目立つのは特に四国で、九州、東北、北陸も減少しています。
ぶんぶんが衝撃だったのは、山形大学の工学部が54名もの二次募集(しかも化学系ばかり)を行なったことです。長崎大学の多文化共生学部も5名の二次募集と、系統不人気をモロに受けました。
リセマムさんは親切
一方難関10大学は受験生は減少したものの受験人口の減少を考えれば例年通りの少数激戦で、中でも東京工業大学、一橋大学、京都大学は志願者を増やしました。
国公立大学の合格者数に執着する高校(地域の2番手校に多い)は生徒により合格可能性が高い地方国公立を強く勧める傾向にあり、今回はそういう高校には追い風が吹いたといえます。一方浪人覚悟で難関を目指させる地域のトップ校には厳しい戦いだったかもしれません。
2022年度 | 2023年度 | 増減 | |||||
募集人員 | 志願者 | 倍率 | 募集人員 | 志願者 | 倍率 | ||
北海道 | 1,941 | 5,409 | 2.8 | 1,881 | 5,284 | 2.8 | -125 |
東北 | 1,603 | 4,392 | 2.7 | 1,601 | 4,239 | 2.6 | -153 |
東京 | 2,960 | 9,507 | 3.2 | 2,960 | 9,306 | 3.1 | -201 |
名古屋 | 1,734 | 4,339 | 2.5 | 1,731 | 4,258 | 2.5 | -81 |
京都 | 2,677 | 7,210 | 2.7 | 2,622 | 7,417 | 2.8 | 207 |
大阪 | 2,878 | 7,501 | 2.6 | 2,878 | 7,398 | 2.6 | -103 |
九州 | 1,984 | 5,143 | 2.6 | 1,979 | 5,067 | 2.6 | -76 |
東工 | 930 | 3,802 | 4.1 | 930 | 4,167 | 4.5 | 365 |
一橋 | 825 | 2,588 | 3.1 | 817 | 2,641 | 3.2 | 53 |
神戸 | 1,929 | 6,071 | 3.1 | 1,921 | 5,885 | 3.1 | -186 |
新課程で情報が追加され国語では念願?の実用的文書が登場と、ますます国立志望者の「共通テストにしか使わない勉強をする」が増加するので、現在共通テスト6割前後が合格ラインの地方国立大学の倍率は今後も低下する懸念があります。国公立大学の合格者(以下略)高校にはさらなる追い風です。
④ 学部系統別 文系は経済人気、理系はおおむね堅調
文科省のリンク先より作成
2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | 22/21比 | 23/22比 | |
文・人文 | 28,744 | 29,670 | 26,768 | 103% | 90% |
外国語 | 5,473 | 5,423 | 4,995 | 99% | 92% |
教育 | 37,172 | 35,650 | 35,988 | 96% | 101% |
法・政治 | 21,337 | 20,372 | 20,005 | 95% | 98% |
経済・経営・商 | 45,268 | 45,778 | 47,195 | 101% | 103% |
社会・国際 | 21,138 | 21,824 | 20,284 | 103% | 93% |
教養・総合・情報 | 21,755 | 22,305 | 19,568 | 103% | 88% |
理 | 20,286 | 20,990 | 22,132 | 103% | 105% |
工 | 118,570 | 120,308 | 116,934 | 101% | 97% |
農・畜産・水産 | 28,755 | 30,365 | 30,007 | 106% | 99% |
薬 | 7,863 | 8,136 | 8,668 | 103% | 107% |
医 | 33,182 | 33,860 | 34,474 | 102% | 102% |
歯 | 2,831 | 2,759 | 2,953 | 97% | 107% |
看護・健康・福祉 | 20,036 | 18,583 | 20,244 | 93% | 109% |
家政・生活 | 1,933 | 1,882 | 1,955 | 97% | 104% |
芸術 | 10,414 | 10,303 | 10,352 | 99% | 100% |
体育 | 655 | 716 | 658 | 109% | 92% |
合計 | 425,412 | 428,657 | 423,180 | 101% | 99% |
文系で3年連続で志願者が減ったの外国語系統で、東京外国語大学は今回から数学2科目必須となり敬遠材料になったこと、国際関係学部で昨年堅調だった東京外国語大学、宇都宮大学が隔年現象で激減したことなどが理由と考えられます。
そろそろコロナ禍も収まりつつある(本当?)ので来年あたりは反動で人を集めるかもしれません。
法学部系統が昨年並みですが、河合塾によると昨年と逆で難関の法学部は低調な一方で公務員系の学科は人気を集め、特に福島大学の行政政策は昨年は志願者半減だったことを聞きつけてとんでもない人数が殺到しました。
2022年 | 2023年 | ||||||
志願者 | 受験者 | 合格者 | 倍率 | 志願者 | 受験者 | 合格者 | 倍率 |
158 | 154 | 114 | 1.4 | 416 | 390 | 115 | 3.4 |
経済学部は難関・中堅とも志願者が増えました。大阪公立大学(ハムちゃん)は旧商大以来の伝統を持つ経済学部と商学部は大学統合初年度はどちらも倍率が2倍を切り、ぶんぶんも「え、その持ち点で合格?!」という話を聞きました。その噂を聞きつけたのか人が集まりました。
2022年度 | 2023年度 | |||||
募集定員 | 志願者 | 倍率 | 募集定員 | 志願者 | 倍率 | |
経済 | 185 | 337 | 1.8 | 185 | 540 | 2.9 |
商 | 198 | 365 | 1.8 | 198 | 556 | 2.8 |
理系は理学部が躍進、農学部が堅調です。情報系は文科省調べでは減っていますがそれは教養・総合系の減少のせいで、情報学部は人気高止まりです。
工学部は旧帝大では前年並みですがそれ以外の大学(地方の県にたいがいある)で減少しました。知り合いが勤める国立(以下略)の高校が過去最大の国公立合格者を出して大はしゃぎでしたが、これが原因でしょう。
医療系は人気継続、表では看護保健系が人気ですが、看護単体ではやや減少です。
医学部医学科のうち名古屋大学は第一次段階選抜を点数で行なうため、昨年は「数ⅠAショック」で志願者が激減しましたが、今年は数学・理科の易化で志願者が増加しました。倍率よりも点数で「門前払い」の方が受験生は前期の受験機会を無駄にしなくて済みます。平均点管理ができない共通テストが諸悪の根源です。
教育学部は、表では頑張っているようですが、河合塾のKeiNetのサイトを見ると昨年度以来大学によっては2倍を切る専攻が続出しています(現在調査中。後日追加)。
一日12時間労働は当たり前で残業代4%で定額働かせ放題、休憩時間ほぼなし、土日祝は部活でつぶれ、責任だけは山ほどあり、休職者が後を絶たないブラックな労働環境が人口に膾炙しつつあるようです。(´・ω・`)
まとめ
- 受験人口減少と私立アラカルト受験者の減少で共通テストの受験者は減少
- 数学と理科の易化で国立大学に出願可能なゾーンが増加し、受験生の減少の割には国公立の出願はそれなり
- 持ち点の増加で大都市圏の大学に人気が集まり、地方国立大学は不人気
- 受験生は各大学の特色よりも昨年の倍率やトレンドで動く
- 国公立大学の実質倍率は約3倍、点数をみてフラフラするよりは、早めに志望大学を決めて、合格に必要な点数を取る力を養成しましょう
次回は私立大学編