ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

オープンキャンパス、何を見る?

 夏休みはオープンキャンパスのピークです。今回はオープンキャンパスの見どころについて、料理記者歴30年進路指導歴20年のぶんぶんが、業者の営業記事とはひと味違う、表・裏・斜めからの目線で解説します。

 大学の対面型の話題がメインです。記事は2023年7月現在の情報です。

いらすとやさんの鉄板イラスト

目次

 

1 オープンキャンパスって?

Q1 何の目的で実施されているの?

A1 大学と受験生のマッチングが最大の目的です

 オープンキャンパスに行く前に考えるべきことは「なぜ大学に行くか」です。

 もっと勉強したいことがある、将来なりたい仕事がある、それらを実現するためには大学で学ぶ必要があるから大学に進学します。

 学生は専門的な学びを通じて自分を磨き、資格が必須の職種を目指すならそれを修得して社会人になります。もちろん入学時点で将来が明確でなくても今やりたい学びを極める中で展望が開けることもあるし、新しい進むべき道に出会うこともあります。

 したがって大学を選ぶときには「やりたいことができるか」「自分の可能性が広げられるか」の2点が大事です。

 受験生は偏差値、就職や取れる資格、通学(家から通える等)、学費など「条件」に目が行きがちです。その観点も大事ですが、ランキング表で見つけた大学が実際どのような大学か、自分のしたいことをができるかどうか、直接行って確かめる機会のひとつがオープンキャンパスです。

*発展

 文部科学省の調査によると、2021年度大学の中途退学者は57,875人(1.95%)、同休学者は65,143人(2.19%)です。

引用元:大学等における令和4年度前期の授業の実施方針等に関する調査及び学生の修学状況(中退・休学)等に関する調査の結果について 

https://www.mext.go.jp/content/20220614-mxt_kouhou01-000004520_01.pdf

上記のスクリーンショット

 これによると、中退のうち「ミスマッチ」が理由と思われる「転学」「学生生活不適応」「学力不振」を足すと22,976人(39.7%)です。

 興味がないのに「就職に有利だから」等の理由で選ぶ、高校時代の大半を部活動に費やし、受験勉強せずに合格できる指定校推薦に流れたり、志望校に全落ちして唯一合格した大学に進学、などから生じる不本意入学は中途退学につながります。ぶんぶんはそういう生徒を何人も知っています。

 他方、大学側にとってオープンキャンパスは大学の良さをアピールして学生を確保する絶好の機会です。「こんな研究をしてます」「こんな設備が使えます」を説明会、模擬授業、キャンパスツアーを通じて受験生に示し、彼らに「ここなら自分のしたいことができる」と思ってもらうことが最大の目的です。

 ただし一部大学は「学生確保」が自己目的化し、いいことしか話さない、送迎完備・学食無料などサービス良すぎ、模擬授業が総合型選抜の一部でいつの間にかエントリー許可になっていて、書類を出せば即合格(即授業料入金)、という話も聞きます。

 これらは大学の「企業努力」なので問題ありませんが、オープンキャンパスに臨むに当たって受験生には「紹介」と「勧誘」を見分ける批判精神が求められます。

Q2 いつ実施されているの?

A2 最大は夏休みで他の時期にも行われています。

 国公立大学・難関私立大学は夏休みがピークです。中堅私立大学は春休みに実施したり、6月末から秋にかけて複数回実施する場合もあります。

Q3 どこで開催されるの?

A3 基本は当該大学・学部のキャンパス。コロナ禍でオンライン実施が定着

 コロナ禍前はどの大学もそれぞれのキャンパスで実施していましたが、コロナ禍で対面型は中止、人数を制限してのオンラインオープンキャンパスが行われていました。

 その後「コロナ禍慣れ」で対面型も人数を制限して行なわれるようになり、2023年は新型コロナウイルス感染症が5類に格下げされたため、多くの大学が予約制の対面型オープンキャンパスを再開しています。

 東京大学は2023年もオンライン実施、立命館大学は対面の一部の企画について、開催日当日にLive配信を行います。詳しくは各大学のHPを見てください。

こんな感じ

www.u-tokyo.ac.jp

ritsnet.ritsumei.jp

Q4 いつの学年で行けばいいの?

A4 いつでもいいですが志望系統や志望大学が決まりつつある頃

 ぶんぶんの知っている高校では文理選択が済み自分の志望系統が固まりつつある高校二年生の夏休みにオープンキャンパスに参加して報告するレポートを課しています。

 三年生の夏休みは勉強した方がいいですが、第一志望の大学は行っておいた方がいいです。特に総合型選抜や学校推薦選抜を視野に入れるなら入試説明会でその情報は聞いておいた方がいいですし、個別相談会で質問もできます。

2 オープンキャンパスの心得

Q5 事前準備は何をしたらいい?

A5ー1 まず予約しましょう

 コロナ禍の影響でオープンキャンパスは事前予約が必要です(対面型・オンラインとも)。夏休みのオープンキャンパスは7月上旬から各大学の特設サイトで予約受付なので、注意事項を見て来場および体験したいプログラム(模擬授業や研究室訪問)を予約してください。なお大規模総合大学は学部ごとに実施日が違う場合が多いです。

 龍谷大学はアプリをダウンロードして申し込みます。

www.ryukoku.ac.jp

 

 オープンキャンパスリンク集を貼っておきます。意中の大学がある人は直接その大学のHPを見てください。

スタディサプリ(リクルート

shingakunet.com

テレメール

telemail.jp

A5ー2 効率的にプログラムを回れるように段取りしましょう

 オープンキャンパスのプログラムにはこのようなものがあります。

  1. 大学紹介
  2. 入試説明
  3. 下宿・奨学金・留学説明会
  4. キャンパスツアー
  5. 個別相談
  6. 大学生との懇談会
  7. 学部・学科紹介
  8. 模擬授業
  9. 研究室公開

 6までは複数回実施、その隙間に学部・学科紹介や模擬授業が組まれているので、一日で一通り体験することが可能です。ただし全部参加するのは結構大変なので、タイムテーブルを見ながらどれに参加するか計画し、予約が必要なものは予約しましょう。

 ぶんぶん的には4,7,8がマスト、理系は9もマストです。2,3、5はそれぞれの事情に合わせて参加してください。いまいち大学生活に実感が湧かない人には6もおすすめです。1はプログラムの隙間に。

A5-3 見どころと質問事項をリストアップしておきましょう

 高校で宿題が出ている場合はワークシートが渡されていると思うので、大学のHPである程度調べた上で、現場で確かめたいことを決めておきましょう。

 河合塾のサイトにあるチェックリストを紹介します。

www.keinet.ne.jp

A5ー4 行き方を調べましょう

 公共交通機関を使いましょう。京都産業大学は文理一体型キャンパスが魅力ですが、けっこう人里離れた勉強に集中できる環境にあります。そのため複数の最寄駅からシャトルバス、路線バスが運行されています。HPに詳しい説明があります。

A5ー5 その他種々Q&A

Q:服装は制服?私服? A:どちらでもいいです。学校から「制服着用」と言われているならそれに従いましょう。まあオーキャンで制服によるマウント合戦は無意味です。

Q:保護者同伴の方がいい? A:入学する気がある大学は保護者同伴を勧めます。学費を出してもらう人に大学の様子は見てもらっておくべきです。もちろん友達同士で行くのもOKですが、その際は必ず保護者に様子を報告しましょう。

Q:お小遣いはどれぐらい必要? A:往復の交通費、昼食代、お土産代、水分補給に必要なお金。私立大学では会場でノベルティグッズの水のペットボトルを配っています。

Q:他に何を持っていけばいい? A:筆記用具、メモ帳、カメラ、日傘や帽子、飲み物、資料を入れるバッグ。会場で案内パンフ入りのエコバッグをもらえますが、総合大学だと各会場で各学部の入学案内を配るのですぐパンパンになります。折りたたみ式のエコバッグがあると重宝します。

追記 7月17日

 祇園祭に行く途中地下鉄に乗ったらこんな広告発見。京都橘大学は大学案内のQRコード入りのどら焼き(「大学餡内」)でチェックし、身軽な状態でキャンパスツアーに参加してくださいとのこと。用が済んだら食べてOK。

www.tachibana-u.ac.jp

 郊外型キャンパスは緑が美しい反面、建物と建物の間が離れていて外を歩くことが多いので、時々休憩しましょう。

Q6 何を見たらいい?

A6 「ここで4年間勉強と学生生活をしたい」と感じられるかが重要で、「授業」「教授」「学生」「施設」「学生支援」が判断基準です。

A6ー1 大学・学部紹介は「紹介」か「勧誘」かを見分ける

 ぶんぶんが参加した大学はどこも「どういう学生に来てほしいか」「どういう教育や研究をしているか」「それを通じて学生にどういう力をつけてほしいか」を具体例をあげて説明していました。

 これは入試要項に書かれている3つのポリシー(アドミッション、カリキュラム、ディプロマ)ですが、営業トークではなく、大学が「自信を持って自分の言葉で語っているか」はチェックしたいです。

 同志社大学の複数の学部の説明会では就職や資格の話はゼロでした。「オーキャンでは研究や教育内容を見てください、就職は心配ご無用」ということでしょう。

 なお理系の場合は、大学によって4年で就職が前提か、修士2年込み6年間教育が前提かに分かれます。説明を聞きましょう。

 国家試験受験資格修得が目標の学部は、国家試験合格率だけでなく、ストレートで受験している数(定員と受験者の差)にも注目しましょう。噂によると合格倍率をあげるためにヤバい学生は国家試験を受けさせ…、おっと誰か来たようだ。

 就職が気になる人は、説明に出てくる大企業の就職者は前年度の話なのか、通算の話なのか、聞き逃さないようにしましょう。

A6ー2 模擬授業は「わかりやすさ」より「発見と驚き」

 ぶんぶんが昔旧大阪市立大学文学部の模擬授業に参加したら哲学の話で、文学部出身のぶんぶんにも難解な話でしたが、大学の学問は「人間という存在の本質」に迫るものだということは実感できました。理学部も物質の本質に迫る実験でした。

 ぶんぶんとしては、難しいことを言って悦に浸る教授は困る、高校の授業の延長は物足りない、学問の入り口の面白さをチラ見させる模擬授業がお気に入りです。

A6ー2 キャンパスツアーでは図書館・研究棟の量と質を見る

 文系にとって図書館(メディアセンター)は最重要ポイントです。蔵書の量や質、開館時間は要チェック、自分がしたい研究に関する蔵書があるかどうかは質問してください。なお各学部にも図書館があります。

 宇都宮大学が学生の図書館利用にマイナンバーカード取得を強制するような文面をHPに発表して批判が殺到しています。最高学府がお上のご機嫌伺いをするようであれば世も末です。

news.yahoo.co.jp

 理系にとって研究設備は最重要ポイントです。置いてある機械や研究内容についてどんどん質問してください。教えてもらっても??かもしれませんが、スタッフ(研究室の学部生か院生)がちゃんと説明できるかどうかも見どころです。

 なお本キャンパス以外にも研究施設があったりするので(農学部は演習林、水産学部練習船)その辺も質問してください。

 ただし院生以上でないと使えない施設もあります。また施設は必ず他大学と比較してください。

A6ー4 個別相談会ではとにかく知りたいことを聞く

 大学に行くにはお金がかかります。また不慣れな土地では下宿先やバイトが不安です。就職活動も高校生にはイメージしづらいです。こうした疑問は個別相談会で質問してください。

 奨学金に関しては、大学独自のもの、企業や団体が大学に依頼しているものがあります。貸与か給付か、給付の場合他の奨学金との併給は可能か、など質問してください。

 就職に関しては、就職先より大学のキャリアサポート体制の方が重要です。

 また医療系の大学は実習先が自分の生活範囲の近所でできるか(基本病院に朝8時に集合)も気になるところです。

 ハンディキャップを抱える受験生はこの時に相談してください。今はどの大学も対応が構築されているので、自分のハンディキャップを伝えれば入試の時や入学後にどのような配慮があるか教えてもらえます。

A6ー5 その他種々のみどころ

学食:オーキャン時はメニューが限定されている可能性もあるので、通常のメニューや学食の広さを見ておきましょう。大きな大学で学食が狭いと昼食時は大混雑で、外に食べに出たり業者が売りに来る弁当を買うこともしばしばです。

生協:特に本屋、専門書が充実しているかが重要ですが、オーキャンの日は休みかもしれません。私立大学は生協の代わりにコンビニが入っている場合が多いです。

大学周辺のアメニティ:関西では近畿大学関西大学が最寄駅からキャンパスまでの間に昔ながらの学生街があって、飲食店、古本屋、雀荘(今は衰退)が立ち並んでいます。大学周辺に学生相手の店が多いのはその大学が地域に愛されている証拠です。

学生オープンキャンパスには現役大学生がスタッフとして参加していて、みな親切に案内してくれます。学生相談会では大学の裏話を聞けるかもしれません。

他校生:模擬授業に臨む際には、しっかり授業を受けつつ他校生の様子もチラ見しておきましょう。この大学がどういう生徒層に愛されているかがうかがえます。

おわりに

 大学の学費は4年間+αでかなり高額、下世話な言い方をすれば「高い買い物」、しかもみなさんの人生を大きく左右するかもしれない「買い物」です。それを支払うは保護者、つまりみなさんの「未来への投資」です。

 パンフレットもオープンキャンパスも基本よいことしか見せないし、「宣伝」の部分が入るのは当然です。「セールストーク」を真に受けて行き先を決めるのは避け、それぞれを批判的に吟味し、複数の大学と比較しましょう。

 また大学生の「生の姿」も知りたいです。ぶんぶんの知り合いの高校には平日の大学界隈を散策する遠足がありますが、大学生の普段の生活(通学や空き時間の様子、学食の混雑や生協の充実度)を見るのもよい経験です。

 オープンキャンパス以外にも、高校生向けの連続講座(研究室実習またはオンライン)や、女子の理系志望者に特化したイベントなどが行われています。こうした機会も積極的に利用しましょう。

 このように「相手が今どのような意図でこの話をしているのか」を俯瞰的に認知し、複数の大学について様々な角度から情報を集め、共通点や相違点を批判的に整理し「ここで勉強したい!」と思える大学を選択する力こそ「実生活に即した学力」です。

 高校生の真似をした大人の会話文問題や、とってつけたような複数テキスト問題を解く力とは違います。

参考:大阪大学 基礎工学部

www.osaka-u.ac.jp

神戸大学 インクルーシブキャンパス&ヘルスケアセンター

www.office.kobe-u.ac.jp

 最後に、進路指導歴20年のぶんぶんが卒業生の京都大学農学部生にインタビューした時、「オーキャンに行って『ここしか考えられない!』と思った。理屈ではない、恋愛みたいなもの💛合格のために猛烈に勉強したけど苦にはならなかった」と言ってました。

 みなさんにもこうした刺激的かつ知的な出会いがあることを期待します。