ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

国立大学教員養成課程が倍率1倍台続出ってマジ?!

はじめに

 先日2023年度入試の結果をまとめましたが、その時に参考にした河合塾の話で「国立大学の教員養成課程が倍率2倍を切る専攻が続出」とありました。

 ゆゆしき事態なので、大学の公表および河合塾の調査を資料として検証します。

www.mext.go.jp

旺文社の記事 大学別のまとめあり

https://eic.obunsha.co.jp/file/educational_info/2023/0420_1.pdf


いらすとやさんの有名なイラスト

日本教育大学協会

www.jaue.jp

追記

 週刊誌やネット記事は「倍率の低い大学ベスト3!」と実名を挙げて煽ったりしますが、ぶんぶんの目的はどの系統が不人気かを検証することです。ご自分の行きたい大学の倍率はこちらで確認してください。

河合塾のまとめ

www.keinet.ne.jp

目次

 

0 調査対象

 国立大学の教育学部のうち、「教員養成課程」がある48大学の532専攻を調査対象にしています。京都大学名古屋大学など「教育学」の教育学部は除き、神戸大学と金沢大学の人文系学部内の初等教育専攻は入れました。

 専攻別の調査は専攻が明示されているものとし、人文系、理数系など複数の専攻がくくられている専攻は「その他」に分類し、初等教育専攻、中等教育専攻は「統合型」に分類しました。

 教科の専攻以外のコース(かつて「ゼロ免」と呼ばれた)のうち、生涯教育(スポーツや音楽など)や地域教育(環境なども)に該当するのは「生涯・地域」に、教育行政系は「教育学」、教育心理系は「心理」に分類しました。

 数値はすべて第一志望で受験する(はずの)前期の数字です。

 河合塾さんの上記HPに載っている数字を元データとして利用しています。

1 調査結果

① 地域別倍率

  2023 2022 志願者
大学 志願者 受験者 合格者 倍率 志願者 受験者 合格者 倍率 23/22
北海道東北 80 3061 2803 1550 1.8 3172 2911 1559 1.9 97%
関東甲信越 147 5119 4697 2438 1.9 4909 4525 2301 2.0 104%
北陸東海 78 3010 2600 1386 1.9 3185 2724 1451 1.9 95%
近畿 83 2819 2495 1267 2.0 2787 2481 1276 1.9 101%
中国四国 73 2321 2025 1132 1.8 2210 1939 1121 1.7 105%
九州沖縄 71 2612 2256 1218 1.9 2627 2268 1215 1.9 99%
合計 532 18942 16876 8991 1.9 18890 16848 8923 1.9 100%

 

(;゚Д゚)(゚Д゚;(゚Д゚;)ナ、ナンダッテー!!

 

 昨年度と比較すると全体では微減ですが、国立大学の前期が3倍を少し切る程度なので、トータル1.9倍は不人気系統といえます。

 細かく見ると大学数の少ない北陸と四国の倍率が低いですが、国立は地域をまたいで受験するのが普通なので、やや広めにエリアを設定すると各地区全国平均程度です。

 どの地域も一定数の教員志望者は確保しているということです。 

② 教科・職種の教員養成課程

1)実質倍率
  2023年度 2022年度
  調査数 志願者 受験者 合格者 倍率 志願者 受験者 合格者 倍率 志願者23/22増減
国語 35 1095 1009 540 1.9 1140 1054 539 2.0 96%
社会 34 1370 1245 590 2.1 1069 988 522 1.9 128%
数学 30 1011 939 486 1.9 1045 983 474 2.1 97%
理科 32 1160 1062 637 1.7 1286 1193 626 1.9 90%
保健体育 36 1015 926 407 2.3 1145 1052 414 2.5 89%
音楽 34 371 313 228 1.4 452 400 254 1.6 82%
美術書 34 397 357 241 1.5 441 406 262 1.5 90%
技術 26 370 353 182 1.9 293 277 171 1.6 126%
家庭 29 614 544 265 2.1 558 488 259 1.9 110%
英語 32 677 611 354 1.7 624 560 342 1.6 108%
幼児 18 561 519 242 2.1 520 487 240 2.0 108%
養護教諭 11 406 366 194 1.9 414 368 194 1.9 98%
特別支援 35 949 845 479 1.8 1091 969 480 2.0 87%
統合型 30 3365 2792 1651 1.7 3479 2965 1573 1.9 97%
その他 37 2116 1935 1004 1.9 1876 1734 922 1.9 113%
小計 453 15477 13816 7500 1.8 15433 13924 7272 1.9 100%

 2年続けて2倍以上の倍率を保つのは、中高で部活動に目覚め、教員になって青春の延長戦に明け暮れたい特技を活かしたい人が目指す保健体育と、子どもが好きな人に人気の幼児教育です。

 どの校種も同じですが、時に幼児教育は教員の小さな働きかけがバタフライエフェクトのように影響します。受験生には大学で学んで「子どもが好き」からひと皮剥けることを期待します。

2)倍率2倍を下回る専攻の数・比率
  2023年度 2022年度  
  調査数 2倍を下回る数 比率 2倍を下回る数 比率 志願者23/22増減 増減
国語 35 21 60% 20 57% 96% 1
社会 34 20 59% 19 56% 128% 1
数学 30 19 63% 16 53% 97% 3
理科 32 22 69% 17 53% 90% 5
保健体育 36 11 31% 10 28% 89% 1
音楽 34 30 88% 26 76% 82% 4
美術書 34 31 91% 29 85% 90% 2
技術 26 15 58% 16 62% 126% -1
家庭 29 14 48% 16 55% 110% -2
英語 32 21 66% 25 78% 108% -4
幼児 18 8 44% 9 50% 108% -1
養護教諭 11 6 55% 6 55% 98% 0
特別支援 35 26 74% 21 60% 87% 5
統合型 30 24 80% 15 50% 97% 9
その他 37 18 49% 17 46% 113% 1
小計 453 286 63% 262 58% 100% 24

 倍率2倍未満が60%を大きく上回るのは、芸術系、初等教育で一括募集する統合型、特別支援です。ぶんぶんが知っている卒業生は「この道に進みたい」という強い意志がある人たちばかりなので、倍率が低くても問題ありません。

 英語が低倍率なのは意外ですが、中高は私立の外国語学部に行けば教員免許は取得可能です。最近は「初等教育英語」という専修がありますが、また母語もおぼつかない小学生に外国語を教えるのは並大抵ではなく、英語嫌いを増やす危険と隣り合わせです。

朝日新聞 EduA

www.asahi.com

 国語と社会が比較的安定した人気を保っています。国公立の文学部は準難関以上に多く、文学や歴史をやりたい国立志望者が一次試験の点数を見て志願する例をぶんぶんは何件か知っています。

 文学部生が食いっぱぐれないために教員免許を取るのは普通ですし(ぶんぶんも)、教員養成課程の教員の中には文学や歴史が専門の人が必ずいます。

3)参考 三重大学教育学部

 三重大学は毎年HPで詳細な入試結果データを公開しています。入試問題も専攻ごとではなく共通問題を使っているので好事例として引用します。

 筆記試験型の専攻は共通テスト450点(900点を1/2に圧縮)、二次試験は国語・数学・英語から2教科400点の計850点満点で、国語は国語、英語は英語、数・理・技術は数学が必須です。

 選択した教科で志願可能な専攻を第3希望まで(同専攻の初等・中等も併願できるので最大第6希望まで)書くことができ、点数の上位者から希望の専攻に振り分けます。例えばある人が理科を第一志望にしていても、自分より点数が上で数学が第一希望不合格で理科を第二志望に書いている人が先に理科で合格します。

詳細

www.mie-u.ac.jp

合格者最高点・最低点・平均点

国英で受験可能な専攻

  国語 社会 英語 家政 特別支援 幼児
2023 最高点 555.33 564.5 585.67 476.33 491.83 594.17
最低点 460.17 482.33 470.33 457.33 454.33 468
平均点 487.26 503.02 505.29 462.53 465.96 500.57
2022 最高点 579.5 613.67 607.17 500 508 626.83
最低点 459.83 454.17 472.83 477.17 443 468.5
平均点 493.63 500.72 524.83 461.02 466.5 499.62
2021 最高点 633 610.5 583.67 539.33 559.67 * 
最低点 532.83 536.67 523.5 503.5 513 * 
平均点 559.23 558.26 543.56 516.53 523.83 * 

*幼児教育の2021年度は合格者が10名未満なので非開示

数学必須の専攻

  数学 理科 技術
2023 最高点 623.5 578.33 507
最低点 461.67 416.5 408.83
平均点 529.98 485.74 443.94
2022 最高点 702.33 580.17 466.83
最低点 524.17 443.33 414.5
平均点 571.16 500.96 443.21
2021 最高点 699.83 566.67 537.33
最低点 560.83 495.67 493.67
平均点 606.04 520.72 512.03

倍率

文系で受験できる専攻

倍率 全体 国語 社会 英語 家政 特別支援 幼児
2023 2.6 2.8 2.9 2.2 2.2 2.6 4.7
2022 2.2 1.9 2.2 1.7 2.5 1.2 3.1
2021 4.9 5.1 8.6 3.8 1.8 6.2 4.9
定員   18 13 13 10 11 10

数学必須の専攻

倍率 全体 数学 理科 技術
2023 2.6 2.1 1.3 1.8
2022 2.2 3.3 2.3 1.8
2021 4.9 3 2.5 2.2
定員   17* 19 8

*数学専攻は2023年からは定員14名

 文系は全国動向と同じく幼児教育が合格者平均点・倍率ともに高く、次に国語と社会で合格者平均点は拮抗しています(このふたつを第一希望・第二希望に書くのは得策ではない)。理系は数学が一番人気で理科、技術とは併願の「スジ」があるようです。

 見た感じ人気の専攻に合格するためには、共通テストは素点で600点(66% 圧縮300点)以上、二次試験は55%(220点)以上が目標です。

 共通テスト60%(540点)を下回っても合格可能な地方国立大学の工学部があるので、三重大学の教員養成課程は倍率はそう高くなくても、受験生たちはそこそこの実力者です。倍率だけ見て安易な気持ちで受験してはいけません。

 これだけ教員のブラック労働環境が叫ばれる中でも教員を志す三重大学生は肝が据わっているということです。

*なお2021年の倍率が異常に膨張しているのは某塾が「三重大学教育学部はリサーチで人が集まっていない」と研究会で吹聴したためです(アナウンス効果)。

③ 旧「ゼロ免」系専攻

1)倍率
  2023年度 2022年度
  調査数 志願者 受験者 合格者 倍率 志願者 受験者 合格者 倍率 志願者23/22増減
教育学 25 1058 973 424 2.29 870 787 404 1.95 122%
心理 21 736 664 317 2.09 584 531 290 1.83 126%
生涯地域 31 1607 1471 727 2.02 1591 1469 714 2.06 101%
小計 77 3401 3108 1468 2.12 3045 2787 1408 1.98 112%
2)倍率2倍を下回る専攻の数・比率 
  2023年度 2022年度  
  調査数 倍率 2倍を下回る数 比率 2倍を下回る数 比率 志願者23/22増減 増減
教育学 25 2.29 12 48% 16 64% 122% -4
心理 21 2.09 9 43% 8 38% 126% 1
生涯地域 31 2.02 17 55% 17 55% 101% 0
小計 77 2.12 38 49% 41 53% 112% -3

 2022年度が人気薄だったため、その反動で2023年度は志願者が増加しています。

3)参考 三重大学

*合格者最低点等は合格者少数なので非開示

倍率 全体 教育学 教育心理
2023 2.6 7 4.1
2022 2.2 1.8 2.8
2021 4.9 20.3 4.6
定員   7 7

 2021年は教科専修以上にとんでもないことになっています。2022年は反動で敬遠されましたが、隔年現象で2023年は倍率上昇です。まあ募集人数が少ないため多少の変動で倍率は派手に上下します。

 心理学は人気系統で、一時期私立大学で公認心理師資格取得を売りにする学部が雨後の竹の子のように林立しました。国公立では文学部、教員養成ではない教育学部、生活科学部に基礎心理(マウスを使った実験とか)や臨床心理の専攻が存在し、けっこう激戦なので、教員養成の心理コースはそちらからの流入も考えられます。

 ただし三重大学では、教育学や教育心理コースは小学校教員免許の取得が卒業要件です。教員の仕事のなんたるかを知らないで教育行政や教育心理を学んでも無意味ということです。

 いらすとやさんで「心理」を検索したらこれがありました。

2 教員関係のヤバい記事まとめ

① 国立教員養成課程を卒業して教員になるのは約60%

「国立の教員養成大学・学部及び国私立の教職大学院の令和4年3月卒業者及び修了者の就職状況等について」のスクリーンショット

www.mext.go.jp

 文科省の発表によると、2022年度国立の教員養成課程を卒業した11,405人のうち教員に就職したのは正規採用が5,012人、非正規が1,838人では60%程度(大学院や保育士になる人を分母から除くと66%)、それ以外に就職したのが2,890人です。

 ぶんぶんの学校に来校する私立の教育学部を持つ大学が「地元教員採用試験の合格者数は本校の方が多い」と営業することもあります。

AERA 2023/06/28

news.yahoo.co.jp

 これだけ教員の労働環境がブラックだと知れ渡れば、教員養成課程に進学したものの、気が変わってもっと待遇のよい仕事を目指しても不思議ではありません。

② 全国の公立小・中学校で教員が足りていない

日テレNEWS 2023/05/20

www.youtube.com

 ある団体が全国の公立小中学校、およそ1800校から回答を得たアンケートによると、今年4月の時点で教員の欠員が発生している学校の割合は、小・中いずれも2割を超えているということです。

 学校には児童・生徒数に応じて教員数が配当されますが、すでにその定数内で正規採用ではなく臨時採用の講師がおかれていることがしばしばです。加えて育休・産休、病休、加配(文科省や県の事業に対する人的保証)による臨時採用、非常勤講師が常時必要になります。こうした臨時採用が確保できず、県教委が隣県にまで声をかけるという事象も発生していると聞きます。

 仕事内容が多岐にわたり、労働時間は管理されず、責任だけは重いという労働環境に一年契約(初任給程度の賃金)で来てもよいと言ってくれる奇特な人が簡単に見つかると思ったら大間違いです。

③ 「ペーパーティーチャー」の発掘

大分テレビ 2023/06/27

news.yahoo.co.jp

(゚Д゚)ハァ?

 大分県は2022年の教員採用試験で小学校が倍率1.0倍とかなり深刻です。

参考 NSK教採ネット

nsk-japan.sslserve.jp

 大分県には同情を禁じ得ませんが、記事中の「教員免許を取得した時の気持ちも思い出してもらいながらー緒に大分県の子どもたちを育てていければと思っている」はいただけません。皆それぞれ理由があって他の仕事をしています。子どもを「人質」に取るかような情緒的な訴えは、いくらお困りとはいえするべきではないです。

④ 免許を持たない社会人を採用する対象教科を拡大

中国新聞 2023/04/16

news.yahoo.co.jp

(゚Д゚)ハァ?

 教員のなり手がいないのは仕事量に見合う待遇がないからであって、教員免許のない人に採用を拡大しても問題が解決するとは思えません。

 山口県は社会人向けに免許取得費用を補助する制度を新設するそうですが、あの悪名高い教員免許更新制度に現役教員はウン万円払いました。お金返して欲しいです。

 しかしこうした教育委員会の教員集めがとんちんかんに見えるのは、ひとえに文科省がポ○コツだからです。

⑤ 教員採用試験の前倒し

リシード 2023/06/02

reseed.resemom.jp

 文部科学省は2023年5月31日、公立学校教員採用選考試験の早期化・複数回実施などについて方向性を取りまとめ提示しました。

 何でも民間の就職活動が早期化したために教員採用試験の前に人材がそっちへ行ってしまうからとのことです。

 

本日最大級の(゚Д゚)ハァ?

 

 文部科学省が大好きな「民間の知見」である「市場原理」によれば、教員が不足するのは待遇が仕事量に見合わないからです。新卒生に来て欲しかったら給料をはずんで勤務時間を遵守するなど労働環境を魅力的にすることです。それが可能なのは文科省だけです。なぜしない?なぜ話を採用試験の時期や「教員の魅力を発信」にすり替える?

 また採用試験を6月に前倒しすると、現行では5月末から6月初旬にかけて教育実習があるところが多いので、志願者は実習でクタクタになって準備も整わないうちに試験です、教員第一志望の学生にとってもデメリットです。

⑥ 教員の働き方改革は2024年度から3年間かけて検討

教育新聞 2023/06/20

www.kyobun.co.jp

 

 「集中改革期間」の重要な目標は「教員の時間外労働を月45時間、年360時間以内とする上限指針を実現」で、それを3年間かけて中教審で「具体的な制度設計の検討を速やかに進めていく」とのことです。

 

またもや最大級の(゚Д゚)ハァ?

 

 今現在教員は膨大な時間外労働で(そもそも月45時間、年360時間上限は調整額4%に比べて多すぎ)、それに嫌気がさして教員志望者が減り、教育委員会は教員集めに四苦八苦しているのに、来年度から三年かけて「検討」ですか?

おわりに

 検証の結果、倍率2倍を切る教員養成課程の専攻が多数あることがわかりました。ただし倍率が低くても少数精鋭という大学もあります。

 教員養成課程は医療系のように入学したらほぼその職に就く訳ではありません。気が変わって待遇のよい民間企業を目指すのは、「必ず教員をします」という約束で合格した場合を除いて問題ありません。

 とはいえせっかく教員目指して教育学部に入学したのに、ブラックな職場環境に嫌気がさして志望変更するのは文科省の責任です。ぶんぶんも今の受験生が教員に就職する頃には待遇が改善されるように、微力ですがSNSの発信を続けます。