はじめに
報道によると、大学入試センターが2026年1月に実施する共通テストから出願の手続きをオンライン化する方針を固めた模様です。
リセマム
読売新聞
すでに私立大学はほぼネット出願、国公立大学もネット出願が主流になっています。とはいえ共通テストは50万人規模が受験するナショナルテスト、はたしてネット出願はフィットするでしょうか。
今回は教育系ブログ風(本文に関係ない外国人モデルの写真入り)にしてみました。
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目次
1 各社の記事のまとめ
- 2026年1月に実施予定の共通テストから出願の手続きをオンライン化する
- オンライン出願を導入すると、これまでの教員の確認や修正などの負担を軽減できる
- オンライン出願を導入すると、受験生がオンライン上で名前や受験教科などを登録し、修正も随時行うことができる
- 検定料の支払いもオンライン上で決済することが可能となる見込み
- 受験票は受験生が印刷する
- 希望者への成績提供時期について、現行の4月から個別試験の出願前に早めることも今後の検討課題とする
- デジタル環境が整っていない志願者が受験できないといった事態が起きないよう、対応を検討中
- システムの準備などが順調に進めば来年6月ごろをめどに、高校などに周知を行っていく予定
- 今回の電子出願は、富士通の子会社「富士通Japan」がシステム開発を請け負っている(マイナンバーカードのトラブルで知られる会社)注1
- 将来的には、マイナンバーカードとの連携も視野に入れる注2
注1 産経新聞
注2 読売新聞にしか載ってない
( ;゚Д゚)ナ、ナンダッテー!!(゚Д゚;(゚Д゚; )
2 今はどういうシステム?
① 共通テスト
共通テスト出願の裏で教員が何をやっていたのかについて、料理記者歴40年進路指導歴20年のぶんぶんが解説します。
現役生の場合
- 学校が「受験案内」をテレメールに申し込み(冊子は無料、送料は有料)、生徒に配付する
- 受験生は願書に必要事項を記入する
- 受験生は受験料を郵便局や銀行で支払い、その領収書を願書に貼る
- 受験生が特別措置を希望する場合は、別紙申請書に必要事項を記入し、医師にハンディキャップに対する必要な対応を証明してもらい、願書と同時に提出する。事前提出も可能
- 受験生はリスニング用イヤホン(カナル式)が耳に合わない場合、申請書に必要事項を記入し、実施大学で署名してもらった上で願書に貼る
- 願書および添付書類が整ったら受験生は担任に提出する
- 担任は記載ミスはないか、領収書が貼ってあるか、受験教科数と払い込んだ金額に矛盾がないかをチェックする
- 担任はクラスの生徒の出願状況(出願の有無、教科数、得点開示)を進路指導部が用意したリストに入力する
- 進路指導部は改めて願書をチェックし、リストに漏れがないか確認する
- 進路指導部は願書に連番を記入し、200部ごとに束にして表紙を付ける。特別措置を希望する願書は別の束にする。全日制・定時制も別の束にする
- それぞれの束に「受け取りましたはがき」(大学入試センターが束を受け取ったら受け取りの判を押して学校に返送する)をつける
- 学校長が各束の表紙に公印を押して、生徒の卒業見込みを証明する
- 願書を梱包し、郵便(簡易書留)で大学入試センターに送付する
- 「受け取りました」はがきが返ってくる
- 10月末に出願者全員分の「確認はがき」が学校に届く。願書に記載した内容が書かれているので、記入間違いや訂正(科目数を増やす・減らす)があればはがきに記入して所定の用紙に貼り、学校経由で大学入試センターに返送する
- 12月初旬に受験票・写真票・成績請求票が学校に送られてくる。同時に「受験上の注意」も送られる
- 受験票と写真票を持って受験会場に行く
※過年度生・高認生は、1.自分でテレメールに申し込んで取り寄せ、9.卒業校(高認生は文科省)から卒業証明書を発行してもらう 10.自分で黄色い袋に入れて送付する 11~13 自宅に届く
参考
工エエエエェェェェ(ノд`o) ェェェェエエエエ工
進路指導部はこのような煩雑な段取りを毎年ミスなく粛々とこなしています。
ぶんぶんがこれを進路指導部(部員+主事)で十数年やりましたが、願書は何度も確認し、梱包する時は机の下にポロッと落ちてないか目視し、郵便局に出しに行く時は途中でコンドルに持って行かれないかヒヤヒヤしました。
参考 秘密結社鷹の爪 2分20秒ぐらいから
生徒個人が自己の責任で共通テストに出願するようになれば、この手順のうち、学校は願書のとりまとめと送付、大学入試センターは受け取りはがき、確認はがき、受験票の送付が省略できます。「教員の確認や修正などの負担」はすべてなくなる訳ではありませんが、多少は軽減されます。
② 国公立・私立のネット出願
※近畿大学、名城大学などが使用している「UCARO」を例とします。「お試し版」で体験をすることもできます。
- インターネットに接続できるパソコン、スマートフォン等を用意する
- 各大学のネット出願サイトにアクセスし、出願したい方式を選ぶ。指定校推薦など特別な生徒しか出願できない場合はパスワードが必要
- メールアドレスとパスワードを入力し、ウェブ出願システムにログインする(ウェブ出願を代行する会社が複数ある)
- 受験する試験日、学部、オプション(高得点重視、併願など)、受験科目(必要な場合)を登録する
- 各方式ごとに提出が必要な書類(調査書は必ず必要。推薦選抜では学校長の推薦書、総合選抜では個人の資格等の証明書など、共通テスト利用では成績請求票が必要)を確認する
- 受験生の個人情報(出身校・住所・電話番号など)を登録する
- 写真をアップロードする(受験票および入学した際の身分証に使用)
- 出願登録が完了すると登録番号が表示されるのでメモする。出願内容を確認・変更するときや、次回再出願時に必要
- 入学検定料の支払い方法を選択する(受験料は自動的に計算される)
- 大学へ送付する書類を入れる封筒の宛名を印刷する(受験案内に同封されている封筒を使う場合もある)
- 必要な書類を封筒に入れて大学に送付する
- 受付が完了すると、ウェブ出願サイトから受験票と写真票がダウンロードできるので、各自で印刷する
( ゚ ▽︎ ゚ ;)エッ!! 完全ペーパーレスじゃないの?
ウェブ上ですべて完結するわけではありません。在籍及び在籍中の成績や活動を証明する調査書、学校長の推薦書、資格の証明書、共通テスト成績請求票は現物(学校が発行するものには公印あり)を郵送で送ります。
ネット出願は保護者同伴で行ないましょう。パブリックドメインQの画像
3 問題ないの?
以上ふたつを総合した場合、今回の大学入試センターの発表についていくつか疑問があります。
① 在校生の卒業見込み証明をどうするの?
現状は校長が表紙に公印を押して受験生の在籍を一括証明しますが、共通テストを個人で出願した場合はどうするのでしょう。もし現状の私立大学と同じ方法を採ると、50万通の封筒が大学入試センターに送られてきます。個人が公印を押した証明書をアップロードするのは変です。
学校で一括証明するなら、大学入試センターが高校別の共通テスト出願生徒一覧(生徒名、出席番号、登録番号)を高校別のページに置き、校長がダウンロードして校長印を押して郵送するか、電子決済するかでしょう。
昔「英語成績提供システム」というポンコツシステムが頓挫しましたが、実施されていたら高校現場に多大な負担が発生するところでした。その二の舞はご免です。
② イヤホン不適合は?
今までは実施大学で証明をしてもらったものを願書に添付していましたが、どうするんですかね?
③ 特別申請は同じ段取り?
これをネットで送るのはどう考えても無理なので、従来通り事前または出願時に郵送ですよね?
④ 受験科目が勝手に変更できちゃう?
これは学校側の問題ですが、国公立大学合格者数至上主義の高校では全員5教科7科目受験必須です。個人で登録になれば科目を減らして登録したり、後でコソーリ科目を減らしたりできそうです。
⑤ ネット環境がない人はどうするの?
もちろん郵送もOKですよね?
4 それ本当にやる気?
① 希望者への成績提供時期は出願前に可能?
「ネット出願になれば出願前に成績が開示できる」かですが、大学入試センターがデータが確定した時点で生徒のマイページに登録すれば可能です(ネット出願じゃない生徒は郵送?)。すでに模擬試験では成績個人票が帰ってくる前にマイページで点数を見ることができます。
しかし問題は採点と確認と登録に要する時間です。
共通テストは3回実施で2回も得点調整を実施していています。2023年は1月14日・15日の実施で得点調整の換算表は1月20日に発表されています。つまり得点調整が判断できる量の採点は2,3日で可能ということです。
2023年2月6日には確定した共通テストの平均点が公開されています。同時に大学に成績が提供され、2月初旬から私立大学の共通テスト利用の合格発表や、国公立大学推薦や一般試験の二段階選抜が行なわれます。
一方国公立大学の出願は共通テストの翌週の月曜日から次週の金曜日(追試が2週間後になったので2日伸びた)です。これを維持するなら出願前に成績を開示するなら最速実施7日後です。
以上から、出願前に全員に確定した成績を開示できるかは、センターが50万人全員の答案を疑義のあるもの(塗り方が悪いとか)も含めて一週間以内に採点と確認して成績を確定し、すぐにマイページに間違いなく登録できるか(他人の点数だったら一大事!)にかかっています。
② マイナンバーカードとの連携も視野って?
現在行なわれている国公立・私立大学のネット出願にマイナンバーカードは全く使われていません。大学「受験」では高校が発行する調査書で本人確認をしますし、成績開示も受験番号やパスワードで十分です(「入学」手続きは別)。
共通テストに際しても高校卒業(見込み)が受験の条件です。ネット出願に移行した場合でも、過年度生等は従来通り卒業証明書は郵送、現役生は先述の方法(一覧に公印を押して郵送または電子決済)で十分です。
そもそもマイナンバーカードは本人確認のためのもので、在学先や成績とは紐づけされていませんし、今後も紐づけ必要はまったくありません。
「共通テストの本人確認や国公立大学出願前に共通テストの点数がわかるためにはマイナンバーカードをつくらなければならない」は、いわば入試を「人質」にとってマイナンバーカードを強制しようとたくらんでいるように思えます。
マイナンバーカードの保有はあくまで任意であり、保険証の廃止のように持っていないと不利益が生じるような政策をして、任意と言いながら事実上義務化するのは不正義の極みです。
デジタル庁の見解
マイナンバーカードは、国民の申請に基づき交付されるものであり、この点を変更するものではありません。
加えて、かつて高校の成績をオンライン化して大学が調査書の郵送なしで生徒の成績を確認できるようにするという壮大な計画が入試改革でちらっと出ました。
しかし主体性評価をネット上で管理するJAPAN e-Portfolio(文科省から事業を引き継いだ教育情報管理機構が運営)は、生徒の非常に個人的な情報を大学入試に利用するのに、民間企業(ベネッセ)のサイトを入り口にしている、プライバシーマークなど運営要件を満たす資格を取得していないなどの問題が指摘され、結局2020年に運用停止に追い込まれました。
この調子ではさらにデリケートな全国の高校生の成績をオンラインでやりとりなど夢のまた夢です。他人の住民票を発行するようなマイナンバーカードの運営会社が入る隙間は1ミリもありません。
パブリックドメインQより
おわりに
大学入試センターが共通テストをネット出願にすると腹を決めたのであれば、
- 高度なセキュリティで責任を持って運用すること
- 受験生も学校現場も大学入試センターも負担が軽減されること
- イレギュラーなことにも従来通り対応すること
- 頑張って出願前点数開示を実現すること
- マイナンバーカードはお呼びでないこと
など受験生目線、高校現場目線の制度設計をしていただきたいです。
最後は定番のいらすとやさんで締めます。本文とは関係ありません。