はじめに
今夏休みの自由研究で「世界史のなかのジェンダー」をまとめていて、次に1970年代の「特撮ヒーローもの」を調べる予定です。
ぶんぶんは「特撮ヒーローもの」が何を「悪」として描いているのかを数量的に考察したいのですが、その前に魅力的な女性幹部が気になって仕方がないです。(*≧∀≦)ノ
悪の組織を「ジェンダー」の観点から考察すると面白そうですが、今回はまずぶんぶんが幼少期にときめいた(笑)1970年代特撮の女性幹部を、リアルタイムで視聴した記憶とDVDや設定資料を使って紹介します。
近年の女性幹部では『仮面ライダードライブ』に出演した馬場ふみかさんがお父さんのハートを撃ち抜いたと聞きました。
DVDのキャプチャ等は著作権的にあれなので、消しゴムハンコにしました。このアプリにお世話になっています。
ジェンダーフリーの21世紀では使用しない語彙がたまに出てきますが、昭和の時代を考察しているのでそのまま使用します。
目次
1 賀川ゆき絵 ©東映
『スパイダーマン』(東京12チャンネル(現・テレビ東京)1978~1979)は地球侵略を企てる宇宙人、鉄十字団の首領モンスター教授と、スパイダー星人から力を授かった山城拓也ことスパイダーマンの戦いを描きます。
*「え、東映?スパイダーマンってマーベルやん?」という人はググってください。CGをつかわないガチのアクションが秀逸です。
賀川さんはアマゾネスという女性幹部役で、モンスター教授(安藤三男。プロフェッサーギルやガイゼル総統でおなじみ)のお世話をしながら怪人や戦闘員を連れて作戦の陣頭指揮をとり、市中では女性週刊誌の編集長に扮して情報収集し、様々な変装で破壊活動を行ないます。
部下には冷血で、へまをやらかした怪人には鞭でお仕置きです。ある回でカブトムシの怪人はパワハラ上司に嫌気がさし、親切な拓也の妹に入れ込んだために自滅します。暴力は何も生みません。
アマゾネスも最終回には教授に裏切られて悲惨な最期を遂げます。
アマゾネスのコスチュームは黒のレオタードにマント、脚はタイツと賀川さんの要望が取り入れてられていて、本人も気に入っているそうです。
変装時は清楚なミセス風が多く、「婦人警官」や土木作業員の回もあります。和装の回は「さすが東映女優」とうならせる着こなしです。
*拓也の恋人(三浦リカ)はアマゾネスが編集長を務める『週刊ウーマン』に出入りするフリーランスのカメラマンで、拓也を「尻に敷いて」います。劇中に「ウーマンリブ」というセリフが出てきます。
賀川さんは東映の映画に数多く出演していて、『明治・大正・昭和 猟奇犯罪史』では阿部定を演じています。『太陽戦隊サンバルカン』(曽我町子をはじめ多くの女性悪役が登場)でも悪役を演じています。
2 高樹蓉子 ©東宝
『レインボーマン』(NET系、1972~1973)に登場する秘密結社「死ね死ね団」は日本人を根絶やしにすることを目的とし、精神を破壊して死に至らせる薬をばらまいたり、偽札を大量に印刷して日本をハイパーインフレーションに陥れたりと、他の悪の組織とは一線を画する知能犯です。
死ね死ね団は、首領のミスターKのもとに複数の男女の幹部がいて、女性幹部のひとりが高樹さん演じるキャシーです。
秘書以外の女性幹部は陣頭指揮を執ります。劇中で男性幹部が「作戦のために女性隊員を回してほしい」とこぼすシーンがありますが、日本人を「皆殺し」にするためならジェンダーロールも利用するでしょう。
幹部と隊員の服装に大きな違いはなく、男性はストッキング生地のマスクをつけていますが女性は素顔です。制服の上着は男女とも共通仕様、女性は白のロングブーツと膝上マイクロミニスカート(中はホットパンツっぽい)です。
失敗すれば幹部だろうが即処刑、平隊員は使い捨てのブラック企業ですが、抜擢されて結果(=日本人を殺す)を残せば男女問わず出世の道が開かれているようです。
古参の幹部ダイアナ(山吹まゆみ)は仲間の粛清を目の当たりにして動揺するなど人間くさい一面も見せますが、若く眼光鋭いキャシーは「眼の奥は笑っていない」という表現が似合います。子どもを人質にとることも厭いませんし、「もう用はない」と解放したふりして爆弾を仕掛けるなど悪辣です。失敗は死で償う掟なので部下がミスをすると責任を押し付け容赦なく殴ります(「ヒス女」と陰口をたたかれます)。
しかしレインボーマンの邪魔で作戦はことごとく失敗、他の女性幹部ともどもサイボーグに改造されてしまいます。キャシーがサイボーグにされた我が身を嘆いて目からオイルの涙を流す場面は、「20世紀特撮の名シーン」です(迷シーン?)。
サイボーグ化したキャシーは目から発する光線(アイビーム)を武器にレインボーマンを追い詰めますが、最後は「レインボー光返し」という、デスラー砲を弾き返した真田さんの「光学磁力メッキ」のような技の前に敗れます。
日活に入社した高樹さんの同期は丘みつ子、同時期の女優は松原智恵子、和泉雅子、山本陽子、梶芽衣子とそうそうたる顔ぶれです。時代劇や刑事物にゲストで出演していましたが、1970年代後半に引退しました。
参考
3 藤山律子 ©ピープロダクション
藤山律子さんは『レインボーマン』『宇宙からのメッセージ・銀河大戦』『科学戦隊ダイナマン』でも悪役を張っていますが、ぶんぶんは『電人ザボーガー』(フジテレビ系、1974~1975)のミスボーグが一押しです。
『電人ザボーガー』は秘密刑事の大門豊と、彼の父を殺して新エネルギー「ダイモニウム」を奪った「Σ(シグマ)団」の悪之宮博士との戦いを描きます。
藤山さん演じるミスボーグはΣ団の幹部の一人で副官です。当初はマスクを付けたサイボーグ体(クレジットでは「変身ミスボーグ」)もありましたが、第3話から人間体のみでの活躍です。こっちの方が可愛いから?
コスチュームは全身を覆う銀の「つなぎ」に大きなマント、頭にはパンを顔にする国民的ヒーローの敵役のような触覚がついています。自動二輪を乗り回し(『レインボーマン』や『仮面ライダー』でも腕前を披露)、人間の女性に変装して破壊工作をすることもあります(これがまたキュート)。
ロボットや戦闘員を率いて陣頭指揮を執りますが、悪之宮博士の車椅子(自走も可能)を押しながら登場するので、博士の秘書や介助も任務のようです。
しかし大門とザボーガーの前にことごとく失敗、悪之宮博士に小型爆弾を飲まされ、数話後に責任を取らされて爆死します。
端正な顔立ちのまま意地の悪い笑みを浮かべるので腹が立ちますが、どことなく中間管理職の悲哀が漂います。本放送を観たぶんぶんは、キャシーが爆死した時は「やっと成仏した」と安堵しましたが、ミスボーグの時は不憫に感じました。
ムック本のインタビューによると「ファンレターで『藤山律子が演じる悪役は憎たらしいだけでなく、切なさのようなものがある』と書かれていたのを嬉しく感じ、自身のやり甲斐としている」そうですが、まさにそれが藤山さんの魅力です。
藤山さんは『特別機動捜査隊』の女性刑事役が有名、刑事ドラマや時代劇にも多く出演しています。
おわりに
1970年代の特撮ヒーローものは、今観ると突っ込みどころ満載ですが、脚本には人間ドラマが盛り込まれていて、考えさせられることもしばしばです。
女性幹部の登場は、横で見ているお父さんを取り込んで視聴率アップ等の理由もあるでしょうが、今回上げた3作はストーリーの中で必然性が保たれています。
女性幹部たちは陣頭指揮もこなしながら首領のお世話もする、男性幹部よりも優遇されてはいるが失敗すれば切り捨てられる、悩みながらも戦い続けるしかありません。
その切なさが描かれているからこそ、彼女たちの魅力は今見ても色あせません。