ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

毒@大阪市立自然史博物館2023

はじめに

 春休みは引継ぎや新学期の準備で大忙しですが、土日に仕事をしすぎたぶんぶんは労働基準法違反なので平日に振替休日を取って、大阪市長居公園内にある大阪市立自然史博物館の特別展「毒」に行ってきました。

 沢山の人に観にきてほしいので、今回は展示の見どころを撮影OKのものを利用し、展示の説明および図録を参考に特別展の様子を宣伝します。

公式HP

www.ktv.jp

看板 毒々しいです。

公園内は桜が満開でたくさんの人がお花見をしていました。

目次

 

展示のみどころ

1 毒の世界へようこそ

 最初は「毒とは何か」についての展示です。

 一般に、外来性物質で生体の生命活動に悪影響を与えるものを毒と呼びます。毒の作用は多様ですが、有名なものは次の3つです。

① 神経毒:神経系に作用

 感覚器官で得られた情報は神経細胞を通じて脳に伝わり、さらに脳からの指令が神経細胞を通じて筋肉に伝わります。神経細胞と筋肉の間にはシナプスという隙間があり、そこを神経伝達物質が移動することで情報が伝わります。神経毒はこの伝達物質を阻害して麻痺・痙攣・呼吸困難・精神錯乱を引き起こします。

 ボツリヌス菌は伝達物質のアセチルコリンの放出を阻害して手足を麻痺させ呼吸をできなくします。またトリカブトの毒(アコチニン)やフグの毒(テトロドトキシン)は伝達に関わるナトリウムチャネルの正常な機能を阻害します。

 全身の9割がアニメと特撮でできているぶんぶんは、『ウルトラセブン』のメトロン星人の回や、『レインボーマン』の「キャッツアイ作戦」を真っ先に思い出しました。ちなみにタバコも神経毒の一種です。(´・ω・`)

② 血液毒:血管や血液に作用

 毒蛇のヤマカガシが身体を咬むと、牙から毒が体内に注入されます。毒は血管に入り血液を凝固させて血栓を作り、血流が止まってそこから先の細胞に酸素や栄養分が行かなくなります。

 通常は血管が傷つくと止血を行うたんぱく質フィブリノゲン)や血小板が傷口をふさぎますが、血栓が多くできるとフィブリノゲンが消費されてしまい、出血が続いてしまいます。

 さらに血液が本来持っている血栓を溶かそうとする働きが強くなりすぎ、毛細血管での出血が発生して腎不全や脳内出血を引き起こすこともあります。(*_*)

 フン人の大帝国を築いたアッティラは結婚式の祝宴で鼻血が止まらなくなって死亡したそうですが、血液毒を盛られた可能性も捨てきれません。

 なお人間にとっては毒ではない玉ねぎやニンニクは、犬や猫が食べると溶血性貧血(赤血球が破壊されることによって起こる貧血)を起こすので。いくらウルウルとした目で見つめられても人間の食べ物を安易に与えてはいけません。🥺

③ 細胞毒:細胞膜を破壊したり細胞内の酵素の働きを阻害

 タンパク質の合成は、DNAからコピーされたタンパク質を作る遺伝情報が含まれたメッセンジャーRNA(mRNA)によって行われます。

 mRNAを作るのはRNAポリメラーゼⅡというタンパク質ですが、ドクツルダケに含まれるαーアマニチンが肝臓の細胞に入り込むとRNAポリメラーゼⅡに結びつき、mRNAを作れなくしてしまいます。この結果細胞が壊死し、肝臓そのものが機能しなくなり、肝不全や腎不全を引き起こして最悪死に至ります。

 無機物では硫化水素や亜砒素、硫化ジクロロジエチレル(マスタードガス)なども細胞の呼吸を破壊して壊死させます。((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

2 毒の博物館

 メイン展示です。動物、植物、菌類など毒を持つ生物について、毒の使用目的や働きを標本・模型を使って解説しています。

 毒の使用目的でまず思いつくのがヘビやハチの「攻撃」です。毒を使えば俊敏な獲物や自分よりも大きな獲物を容易に仕留めることができます。動物は毒の力を最大限発揮できるように注入器や毒の成分を進化させてきました。

 ハブの頭部の模型。頭部の左右後方にある毒腺で毒を合成し、管を介して毒牙に送ります。

 次に思いつくのが「防御」です。植物にとって根・茎・葉は栄養分を作る大事な機関です。棘は物理攻撃なら毒は生化学攻撃といえます。

 ジャガイモの新芽にはソラニンと呼ばれるアルカロイドが蓄積されています。ちゃんと調理しないと中毒になります。

 両生類は多くの種が防御のために毒を持っています。成分はアルカロイドなど神経毒が大半で、捕食した無脊椎動物から毒を摂取していると考えられています。

 こちらのカエルは頭に毒を持っていて頭突きをお見舞いするそうです。

 人体に有害な無機物では、水俣病イタイイタイ病の原因物質として知られる水銀やカドミウムなどが展示されていました。亜ヒ酸はサスペンスの定番です。

 ただしある種の金属は適量であれば人体にとっては有益です。何事もとりすぎは禁物ということです。

3 毒と進化

 生物は毒に対してやられっぱなしではありません。次の展示は毒を持ったハチに擬態して身を守る、他の生物の毒を盗用する、毒に対する耐性を得るなど、毒がもたらした生物の進化についてです。

 深海では有毒な元素が溶け出して熱水になることがあり、とても生物が住める環境とは思えませんが、深海の生物は毒に耐性があるばかりか、毒をエネルギー源にしているものもいます。

 ヤマカガシはヒキガエルを捕食しますが、ヒキガエルも身を守るために毒を持っています。ヤマカガシはこの毒に対する耐性を持つだけでなく、ヒキガエルの毒を蓄積して捕食者から身を守るために使います。

 梅は生育期(青梅)は毒を持ち、成熟期には毒がなくなり動物に食べてもらって種を拡散します。

 毒は生物に有害ですがそれを利用して身を守ったり、種の保存に使ったりと虚々実々の駆け引きが繰り広げられます。

4 毒と人間

 人類が毒をどう利用してきたか、毒をどう解明してきたかについての展示です。

 人類が毒を最初に使ったと考えられる遺跡は、南アフリカのボーダー洞窟で見つかった切れ目のある棒で、約2万4000年前と推定されています。毒矢は世界中で広く使われていて、アイヌ文化でもクマを仕留める仕掛けでトリカブトが使われています。

 棒の切れ目からトウゴマの種子に由来するリシンが検出されています。

 歴史で毒と言えば、ソクラテスは毒杯で刑死した、プリニウスがヴェスヴィオ火山の噴火で中毒死した、第一次世界大戦毒ガスが使用された、白粉(おしろい)で鉛中毒になったなどが思い浮かびますが、すべて展示されています。(`・ω・´)シャキーン

 フリッツ・ハーバーはドイツ出身の物理化学研究者で空気中の窒素からアンモニアを合成するハーバー・ボッシュ法で知られます。彼が発明した窒素肥料は現在でも広く使用されています。

 彼は第一次世界大戦時に毒ガスの開発に携わり、イープルの戦いでは彼の指揮で初めて毒ガス(塩素ガス)が実戦で使用されました。しかし毒ガス使用には反対意見も多く、科学者である妻のクララはこれに抗議して自殺したといわれています。

 ドイツ敗戦後、ハーバーは研究所の資金繰りに苦しみ、星薬科大学の創業者である星一の支援を受け、彼自身も日本を訪問しています。

 しかしナチ党が政権を取るとユダヤ人であるハーバーは冷遇されて(彼自身はプロテスタントに改宗していた)研究所を辞職、毒ガスの開発者であることから国際的なアカデミーから疎まれ、パレスティナに渡る準備をしている時にスイスで亡くなりました。

1918 年、ドイツ軍の攻勢で催涙ガスで目がくらんだ英国第 55 師団の部隊。パブリックドメイン

5 毒とはうまくつきあおう

 最後の展示は人類と毒の関係についてです。

 人類は毒を利用するだけでなく、動物や植物の毒を抜いて食用にしたり、毒から薬を作り出すなど文明の力で毒を克服する一方、文明が毒を生み出したり(プラスチックやDDT)、移動で毒を拡散させる(セアカゴケグモヒアリ)こともあります。

 クリソタイル(白石綿)。かつては建材など重宝された鉱物でした。ぶんぶんも小学生の頃理科の実験で「石綿付き金網」を使っていました。石綿自身に毒素はありませんが、結晶の構造が毒になります。

おわりに

 ここで紹介した以外にも興味深い展示が満載です。理科(生化学、物理化学)、歴史の教科横断的な展覧会でした。

 春休みということもあり会場は家族連れの小学生でいっぱいでしたが、毒を通じて自然の驚異に触れることができ、生物と生物、人間と自然の毒をめぐるせめぎ合いがスリリングで、年齢を問わず楽しめます。

 会期は5月28日までです。休日のお出かけにどうぞ。

 お土産。毒饅頭は大事な掛け軸を破ったり壺を割ったら食べます。(´・ω・`)