ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

アニメ・特撮ヒーローとピアノ協奏曲

はじめに

 テレビはまったく面白くないので、1960~70年代の文化を調べるためにアニメや特撮のDVDを観ています。

 今回は有名なピアノ協奏曲を劇中に使っている番組を紹介します。

 曲の紹介および動画(パブリックドメイン)は「ピティナピアノ曲事典」を利用しています。

enc.piano.or.jp

目次

  

1 シューマン ピアノ協奏曲

 ヒーローはいきなり「必殺技」を出さないものですが、特撮に使われたクラシック音楽としておそらく最も有名です。 『ウルトラセブン』(TBS系、1967~68)第49話で使用されています。ネットで検索するとファンの愛情がうかがい知れます。

  宇宙から来て地球を侵略する宇宙人と戦い続けてきたウルトラセブン(人間の時はウルトラ警備隊のモロボシダン)は疲労がたまって体調を崩し、当直の日にウトウトして宇宙人の侵入を許してしまいます。

 その宇宙人が地下に基地を作り、世界の都市を次々と破壊します。責任を感じたダンは変身して敵の怪獣(バンドン、バンドン会議とは関係ない)と戦いますが力が出ず返り討ちにあい、瀕死の重傷を負います。

 ウルトラ警備隊はマグマライザー(地下をドリルで掘り進む兵器)を突入させて敵基地を爆破しようとしますが、そこには隊員のアマギが捕まっています。ダンは過去アマギに命を救ってもらっていて、彼を助けるためには変身して敵基地に潜入するしかない、助けに行こうとしたところをアンヌ隊員(恋仲♡)に見つかってしまいます。

 ダンはアンヌに自分がウルトラセブンであることを告白し、変身してアマギを救出し、ボロボロの状態でバンドンとの最後の戦いに挑みます。

 有名シーンを消しゴムハンコにしました。©円谷プロ

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 シューマンの曲は告白直後に入り(消しゴムハンコ絵はそこ)、その後マグマライザーの進撃、セブンとバンドンとの戦い、ウルトラ警備隊の援護のバックで流れます。途中テーマ曲のアレンジをはさみますが、冬木透の劇伴はクラシックを基調にしているので違和感がありません。

*発展:DVDを見返したのですが、セブンがアイスラッガー(ブーメラン)を投げますがへなちょこなのでバンドンにキャッチされ、投げ返されそうになります。その時ダンの失敗を叱責した宇宙ステーションのクラタ隊長の「詫びの一撃」で一瞬バンドンがひるみ、その隙にセブンは体勢を立て直し、逆転勝利をおさめます。セブンはふらつきながら立ち上がり、仲間を見遣ってから宇宙へ飛び立ちます。( ;∀;)

曲紹介

 シューマンのピアノ協奏曲はこの1曲だけが完成されたもので、第1楽章は1841年、第2、3楽章は1845年の作です。

 たくさんのピアノ曲や歌曲を書きつづけたシューマンでしたが、1838年には自ら「ピアノは私にとってあまりに窮屈になってきた」と語り、その前後に4つの交響曲をはじめ数々のオーケストラ作品を作曲しました。 

*発展(世界史の時間)

 ロマン派の作風を支えたのがピアノの改良です。ベートーヴェンの時代のピアノは鍵盤及び弦の数が増え、2本の複弦から3本の複弦に、また低音弦には巻線という技術が導入され、音量・音域が拡大しました。しかし弦には強度の低い真鍮線や鉄線が用いられていました。

 産業革命で鋼線(スチール)が大量生産されると音量が飛躍的に向上しました。同時にアクション機構やハンマーの改良も進んで多様な表現が可能になり、19世紀の半ばにほぼ現在のピアノが完成、価格も下がり中産階級の家庭にも普及しました。

参考

www.sgw.nipponsteel.com

 ロマン派のピアノ協奏曲は表現力が高まったピアノを使い、「いかにピアノをきらびやかに聴かせるか」「演奏者の腕前を見せるか」を優先する傾向があります。

 それも悪くないですが、シューマンの曲は、ピアノがオーケストラの伴奏を受け持ったり、ひとつのメロディーをかけあったりと、お互いの持ち味を引き出すような構成が聴きどころです。

 第Ⅰ楽章冒頭のオーケストラヒットの後ピアノが入り、叙情的なオーボエの主題、ピアノの掛け合いへと続きます。第Ⅲ楽章の晴れやかな感じも素敵です。 


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 作品ではリパッティカラヤンの音源を使っています。

 ディヌ・リパッティ(1917~50)はルーマニアのピアニスト、作曲家です。彼は33歳で病に倒れますが、命を削るかような演奏はボロボロになりながら戦うウルトラセブンと重なります。

 

2 リスト ピアノ協奏曲第1番

 『マッハバロン』(日本テレビ系、1974~75)はララーシュタイン率いるロボット軍団と村野博士(団次郎=『帰ってきたウルトラマン』の郷秀樹)率いるKSS(キス)との戦いを描きます。

*前番組『レッドバロン』より知名度は低いですが、OP、ED曲は阿久悠井上忠夫の作、OP曲は「グラムロック」で今聞いても古さを感じさせない名曲、バラード調のED曲も心にしみます。 

 所々に『ウルトラセブン』へのオマージュを感じます。グニャグニャする背景の上にメカのシルエット(フィルムのネガ風)が飛び込むオープニング、マッハバロンが基地から出発する一連の流れ(ウルトラホーク1号の出撃シーンを意識)などです。

 ピアノ協奏曲が劇中に使われているのもおそらくそのひとつです。

 第24話、東京に向けて水爆ミサイルが発射されます。曲をバックにミサイルが日本の上空を飛ぶ(途中神戸のポートタワー(これもオマージュ)上を通過する)場面と、それを追うマッハバロンと邪魔する敵ロボットが戦う場面が交錯します。

曲紹介

 リストはピアニストとして活躍していたためにピアノ作品は非常に多いですが、ピアノ協奏曲と呼ばれる作品は2曲しか残されていません。いずれもピアノの華やかな技巧が前面に押し出されています。

 第Ⅰ楽章は冒頭オーケストラがガツンときた後、ピアノのきらびやかなテクニックが全開、オーケストラも負けずと応戦します。


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 ツィマーマンはぶんぶんのお気に入り。

リスト:ピアノ協奏曲第1番&第2番

リスト:ピアノ協奏曲第1番&第2番

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3 チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番

 『新造人間キャシャーン』(フジテレビ系、1973~74)はタツノコプロ製作のテレビアニメです。

 東教授が作った公害対策用のロボットが落雷による異常電流で覚醒し、「アンドロ軍団」を組織して人類を奴隷化しようと企みます(たしかに公害をなくすには人類をやっつけるのが最適解)。東教授の子鉄也は自ら人間であることを捨てて「新造人間」キャシャーンとなり、アンドロ軍団に立ち向かいます。  

 第9話、アンドロ軍団の次なる標的は音楽の都です。市民は次々と逃げ出しますが、指揮者とピアニストの兄妹(妹は爆撃で視力を失う)は音楽を学んだこの街にとどまり、戦火の中で演奏会を企画します。

 各地から演奏家や観客が集まる一方、頭にきたアンドロ軍団のボスは普段を上回る数のロボットを街に出撃させます(最後にこれが仇になる)。

 演奏会が始まり、キャシャーンフレンダー(ロボット犬)、ルナ(恋人♡)は軍勢の侵入を阻止するため戦いますが多勢に無勢、追い詰められます。

 『ウルトラセブン』と違うのは、演奏会とキャシャーンの戦いが同時進行し、演奏がそのまま戦闘シーンの劇伴になっているところです。

 キャシャーンは間一髪勝利します。演奏会は無事終了し、拍手の中市民たちはアンドロ軍団に屈しないことを誓います。

 兄妹は礼を言おうと会場を飛び出しキャシャーンを呼びますが、エネルギーを使い果たしたキャシャーンは答えることができません。「キャシャーンの働きは誰にも知られず、誰からの拍手もない」とナレーションが締めくくります。

 キャシャーンは同じタツノコの『ガッチャマン』とは違い、人間側を助けるヒーローでありながら人間側からも支持を得られない孤独のヒーローとして描かれていて、それが放映終了から約50年経った今でも根強い人気と支持を集める理由のひとつです。

 キャシャーンの孤独、戦争の恐怖、人間の無力さと希望、そして音楽の力がピアノ協奏曲を通じて表現される「神回」で、本放送中に再放送も行われています。

 なおこの回は第二次世界大戦レニングラード包囲戦中に作曲され上演されたショスタコーヴィチ交響曲第7番の話を彷彿とさせますが、関係は未確認です。

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曲紹介

 初演は1875年、第1楽章冒頭に雄大な序奏、ピアノが鐘のように重い和音を弾き鳴らし、第一ヴァイオリンとチェロが主題を奏で、ピアノが引き継ぎます。非常に劇的で、数あるピアノ協奏曲の中でも人気の高く、一度は聴いたことのある名曲です。


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チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番、他

番外 ショスタコーヴィチ交響曲第7番


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 おわりに

 今回紹介の作品はすべてぶんぶんがリアルタイムで視聴し、明確に記憶している回です。どれも生きるか死ぬかの瀬戸際、クラシック音楽が強い演出効果を生み出しています。この手法は現代にも(ファンの多いあのアニメなど)引き継がれています。

 「クラシック音楽は苦手」という方も、推しのコンテンツの挿入曲から芋づる式に他の曲も聴いてみてください。