ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

どうなる?旧課程最後の2024年度入試(① 模試動向編)

はじめに

 2024年度入試は旧課程入試のオーラスです。センター試験ラストの時は受験生が共通テストに嫌気を指してを現役志向が強まりました。今年度はどうなるでしょう。

 今回は河合塾の「模擬試験の結果から入試動向を分析する会」で聞いた話を著作権の範囲内で引用し、2024年度入試について展望します。

*予備校は経営上チャレンジを進めるのでそのつもりで聞いてください。

 「公開されているものは出処を明記すれば引用OK」と営業さんから許可をいただいています。こちらの2024年度入試分析が出処です。

www.keinet.ne.jp

目次

 

1 基本編

① 受験生を取り巻く環境

  • 2023年度の高校三年生は約106万人 1994年度の約205万人から半減
  • 2023年 3 月に高校を卒業した 101 万1,000人のうち、大学・短大には 55 万 1,000人、進学率54.5% 
  • 2023年度の大学募集人数は、国公立(前期。中期。後期)9万8,727人、私立大学(600校調査)50万2,635人。
  • 選り好みしなければほぼ大学に行ける状態

大学志願者数と入学定員の推移


参考:大学入学者選抜関係資料「Ⅰ.18歳人口及び高等教育機関への入学者・進学率等の推移」

https://www.mext.go.jp/content/20201209-mxt_daigakuc02-100014554_2.pdf

② 入試改革の余波

  • 文科省は「学力の三要素」(知識理解、思考・判断・表現、主体性)をマントラのように唱え、大学にその観点で入試を行なうよう迫っている
  • 文科省は主体性評価については調査書を活用するように迫っている
  • 文科省は「英語成績提供システム」頓挫後も大学ごとに英語民間検定の活用を迫っている
  • 大学入学共通テストの英語はバランスを欠く出題のまま
  • e-ポートフォリオは認可取り消し、調査書6分割記載は新課程で廃止

③ 政府の国立大学への干渉強化

  • 文科省は大学に推薦・総合型選抜の拡充や実学重視を迫っている
  • 政府は「国立大学法人法改正案」で「国際卓越研究大学」のみに設置するとした委員の半数以上は学外者とする「合議体」をすべての国立大学に設置するということを抜き打ち的に閣議決定し、大学への干渉を強めようとしている

これ絶対あかんやつ。ESATJでも鋭い追及をされている犬飼淳さんの記事

shueisha.online

2 国公立大学トピック

① 新設学部・学科は国策追従?

 第二次安倍内閣の私的諮問機関であった「教育再生実行会議」に代わる「教育未来創造会議」は、産学連携や文理横断など実学重視を掲げる一方、大学助成の見直しを掲げています。

 まず「デジタル・グリーン等の成長分野」(デジタルは情報、グリーンは環境)の学部・学科に転換する公立・私立大学については支援金支給(大学独自の給付型奨学金の原資)、国立大学については入学定員の増加を認めています。

 2024年度入試では応募のあった大学の中から国立大学9大学(北海道・東北・東京工業・電気通信・金沢・岡山・愛媛・佐賀・大分)の工学部の情報に関する12学科、計365名の増員が認められました。さらに東京23区にある大学の定員抑制について、2024年度から情報系分野に限って条件付きで緩和します。

 こういうイラストはやはり「いらすとや」さんに限ります。

 次に文科省は文理横断教育(STEAM)に加えて「レイトスペシャライゼーション」と称して、入試科目を文理両方から受験できるようにしたり(筑波の社会・国際が地歴公民1科目選択に)、入試は学部単位または1学科で行って入学後に「進振り」することを大学に促しています。

 たしかに新しい学問は「すきま」から興るものですが、かつて大学には教養部があり、そこで様々な知見を獲得したものです。文科省は「早い段階から専門教育」とか言って教養部を解体したことをどう総括しているのでしょうか。

 このように省庁カースト最下位の文科省は政府・財務省・財界に頭が上がらず、「競争的予算配分」「選択と集中」ともっともらしいことを言って「改革」した振りをしますが、学問は進化論の中立説のように無数の研究の中から起こる突然変異から進みます。学問の発展には広く浅く種をまく方が適切と考えます。負けるな!文科省

参考

成長戦略 | 首相官邸ホームページ

 大学ジャーナル

univ-journal.jp

② 理系で女子推薦?

  名古屋大学工学部は2023年度入試から一部学科で学校推薦入試に女子枠を設定しました。今年度は名古屋工業と熊本(情報融合)が学校推薦選抜で、また北見工業、東京工業(理、工を除く)、金沢(理工)、山梨(工)、大分(理工)が女子枠の新設に伴い総合型選抜・学校推薦選抜を拡大します。

東京工業大学

www.titech.ac.jp

今回の入試制度「女子枠」の導入は、理工系分野における女性研究者・技術者を増やすことを目指したものであり、日本の将来の科学技術の発展に女性の活躍が必須と考えたためのものです(HPより引用)。

 技術革新には多様性と包括性、言い換えると視点の違う人が忌憚なく議論することが必要です。またぶんぶんの勤務校の卒業生で物理の教員をしている女子が「女子の『物理食わず嫌い』をなくしたい」と常々言っています。「女子枠」にはそうした効果も期待できます。

 「女子枠」を「逆差別だ」という人もいるようですが、国立の推薦・総合型は見合う受験生がいなければ定員割れにして一般入試に定員を回すことができます。

 もちろん入試で女子枠を設けることが理系の女子比率を上げるための「最適解」ではないとも思います。他の取り組み(研究環境の整備、卒業後のキャリアサポート)も必要でしょう。

③ 学校推薦・総合型選抜の拡充

 国の「ニンジン作戦」によって2024年度の国立大学の入学定員は9万6,067人で、前年度より440人増加しました。また公立大学の新設(周南公立:200人)や定員増(高知工科:70人)もあり、受験人口が戦後最低なのに国公立大学の定員は増えました。

 ただし一般試験の定員は前期(+59)後期(-106)中期(-25)と減り、学校推薦(+564)・総合型(+252)が増えています。一般選抜は76%(うち前期は62%)と昨年より1%減りました。

 知り合いの塾経営者に聞くと、ウェブセミナーで講師が「これからは推薦・総合型対策が集客ポイントだ!」と煽っていたそうです。

 料理記者歴もとい進路指導歴30年のぶんぶんから言わせていただくと、国公立大学の推薦、総合型は次のようなルールや準備すべきことがあります。

  • 第一志望でであること
  • 専願で合格したら必ず入学する
  • 学校推薦選抜は1年度に1大学1学部(学科)しか受験できない(同じ学部・学科が共通テストあり・なしの両方を実施している時に限り、なしを落ちてからありを受験するのは可)
  • 受験生は膨大な志望理由書、活動報告書、学習計画書を作成する
  • 担任は膨大な推薦書、受験生の活動報告書を作成する
  • 面接の練習は一度や二度では済まない
  • 落ちたことも考えて一般入試の準備も並行して行う

 「勉強が間に合わないから総合型や推薦で入学したい」「○○大学の総合型は入れ食いなので成績がいまいちの生徒を送り込んで数を稼ぐ」など目的をはき違えて安易に出願する(させる)と、志望理由書や面接の指導で悲惨な現実が待ち構えます。

 教員の浅薄な入れ知恵(「○○先生の研究はまさに私がしたかったこと」とか)など大学教員は一瞬で見破ります。推薦・総合型選抜は趣旨を理解して志願しましょう。塾は勝手に生徒と話を進めないでください。

3 国公立大学模試動向

① みんな強気?

 河合塾の話では、第3回全統共通テストの受験者は受験人口減以上に減っています。国公立大学を志望欄に書く生徒は昨年と同程度いる一方で私立専願の人は大幅に減少しています。

 昨年から引き続いて私立専願者の共通テスト離れが進んでいるといえます。たしかに共通テスト(特に英語)は私立一般入試とはまったく違うので、私立専願生にとっては勉強の邪魔です。

 模擬試験の志望欄によると、難関10大学(旧帝大(北海道・東北・東京・名古屋・京都・大阪・九州)+東京工業・一橋・神戸)、準難関(大阪公立、広島など)とも受験人口減の割には人気です。

 難関10大学では東京工業、一橋が引き続き人気、推薦・総合型の比率が高く地元愛に支えられている名古屋、東北は堅調、国立志向が強い関西圏では京都が人気で大阪、神戸はいまいちです。10月段階ではまだ強気の構えです。

 統合初年度は閑古鳥が鳴いていたハムちゃんこと大阪公立大学は旧市大の看板である法学部・経済学部が二年続けての人気です。また京大残念組の受け皿として有名な旧府大工学部中期も志望校に書いている人が多いです。

 センター試験ラスト年は現役生の中に超安全志向が働き浪人生が激減しましたが、今年は10月時点では強気なので、各予備校は胸をなでおろしているかもしれません。

 その影響で地方国立大学は昨年に引き続き不人気です。味を占めた国立至上主義高校が再度受験生を送り込んでくる可能性がありますが、データを見ると地元の優秀な受験生が一定数いる感じです。

② 系統別…やっぱり実学系? 

 文系では経済学部を志望欄に書く生徒が増えています。法学部が人気が回復した去年並みで、いずれも女子の志願者が増えています。法学部が増えているのは北川景子💛のドラマの影響でしょうか。その影響で従来女子の人気系統であった生活科学、コロナ禍が直撃した国際系・外国語系が不人気継続です。

 ちょっと前は助産師とかフライトナースとか言う生徒がいました。


www.youtube.com

 教員養成系も相変わらず低空飛行で、河合塾絶対領域である東海地方では各大学とも地元率が高まっているそうです。

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 医療系では医学部が人気継続、このところ加熱気味の薬学部が敬遠されて歯学部が人気です。看護は昨年並みですが成績上位の女子が他学部に流れた影響で競争は緩和する可能性があります。

 獣医学部を志望欄に書く生徒が増加しています。現在地方の公務員獣医師が不足しています。ぜひ家畜のお医者さんを目指してください。

 そういえば四国に新設された私立獣医学部は今どうなってるの?

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 理系では理学部、農学部が人気、工学部では建築、化学、生物と従来から女子志願者が多い系統が増えているそうです。

 情報系は工学部の情報よりも学際的な学科の人気が根強いです。ただし政府のニンジン作戦で情報系の学部が続々と誕生しているので、志願者が分散して競争は緩和する気配です。人気過熱気味だった名古屋大学のコンピューター学部から名古屋市立大学のデータサイエンス学部に人が流れる可能性があります。

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

3 私立大学編

① 定員割れ続出なのに定員増?

 日本私立学校振興・共済事業団の「令和5(2023)年度私立大学・短期大学等入学志願動向発表」によると、調査した四年制大学600校について定員割れ(入学定員充足率100%未満)の大学は320校(53.3%)、入学者は定員502,635人に対し500,599人(99.59%)と過去最低でした。100%を割ったのは共通テスト初年度かつコロナ禍の2021年度(99.81%)に続き2度目です。

元ネタ

https://www.shigaku.go.jp/files/shigandoukouR5.pdf

  規模別では1,500人以上3,000人未満および3,000人以上の中規模上位および大規模校は100%を上回りましたが、それ以下の規模の大学では定員割れ、地域別では東京都、愛知県、京都府大阪府だけが100%を上回っています。

 定員管理厳格化の緩和(1年単位でカウントしてきた定員管理を1~4年生の総定員数で超えなければよいとした)で大規模校が合格者を増やしたために受験生の間で都心回帰が始まったと考えられます。中小規模校の「バブル」は終了です。

 そこで文科省は定員未充足の大学に対する私学助成の減額率の引き上げや不交付を厳格化し、就学支援新制度(給付奨学金の原資)の交付について2024年からは3年連続で定員充足率8割未満なら他の条件(経営状態)がよくても一発不交付にするなど、学生集めに汲々とする中小規模校の経営改善や整理縮小を促進する腹積もりです。

 すでに短期大学は定員割れが90%を越えていて、名の通った大学でも短大を閉校にしたり、四年制大学では女子大を中心に募集停止や入学定員減(女子大に多い人文・国際系と飽和状態の薬学部)がはじまっています。

 一方で大都市圏の私立大学が新設大学・学部改組による増員(先述のデジタル系)をしているので、トータル2,400人程度の定員増が見込まれています。

 このように受験人口は過去最低で充足率も過去最低なのに定員は増えるという倒錯した状態になっています。

② 模試の動向

 首都圏の大学は一般入試で希望欄に書く生徒が減少しています。特に女子大の落ち込みが目立ちます。一方共通テスト利用は増えていて、国立狙いの人が併願校を分厚く検討していると考えられます。関西圏も国立の併願先である関関同立が人気です。

 慶應と早稲田は志望者が減少(少数精鋭)、「MARCH」は昨年志願者を減らした立教大学が人気など、「とにかく首都圏の大学」という受験生の動向で「隔年現象」が起きる気配です。

 北海道、東北、九州の拠点私立大学を志望欄に書く生徒が減っています。コロナ禍は収まったのかどうか判然としませんが、受験生の「都会に出たい」という気持ちと、保護者も「後の就職も考えて」という考えからでしょうか。

 学部系統では国公立とほぼ同じで文系で経済経営が人気、外国語系は低調、理系では理、農(獣医含む)、医、歯が人気で薬と看護は低調です。情報は雨後の筍のように学部学科ができたので競争は緩和する気配です。

まとめ

  • 受験生が減って定員は増えている
  • 国立大学の難関大学、準難関大学が人気。私立も大都市圏は人気継続
  • 文系は経済人気、理系は理、農、歯が復調。増加分は女子比率の高まりと考えられ、従来女子が多かった系統(国際、生活科学、看護)が低調
  • 大企業重視の政府の教養軽視・実学重視に逆らえない文科省がカタカナ言葉を乱発して大学に予算の奪い合いをさせている模様

*最新情報については必ず各大学の募集要項で確認してください。