ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

国立・私立大学世界史直前チェック(文化史①ルネサンス)

はじめに

 一般入試は「相対的選抜」、その日の試験の1点2点の違いで合否が決まります。

 大学は長距離走の駆け引きのように「ギア」をアップさせながら受験生をふるいにかけようとします。すなわち「必ず解答できる問題」→「しっかり準備していれば解答できる問題」→「完全解答は難しくても部分的には解ける問題」です。

 表は同志社大学の2018年~2020年の一般入試(1~6は試験日)、大問3題のテーマです。

2018 1 ギリシアの歴史家 東南アジアの大交易時代 ロシア革命ソヴィエト連邦
2 イベリア半島古代~16世紀 トルキスタン10世紀~19世紀 大西洋革命
3 イスラームの発展 ルネサンス宗教改革 中華民国
4 中国の首都と社会 ○○体制について 戦間期のヨーロッパ
5 インド古代史 第二次英仏百年戦争 ルネサンス~18世紀ヨーロッパ文化史
6 20世紀の中国の戦争 社会主義運動の歴史 冷戦の時代
2019 1 唐末~清の儒教 大西洋地域の歴史 19世紀~20世紀のヨーロッパ文化
2 イスラームの拡大 オーストリアの歴史 ラテンアメリカ
3 オリエント ポルトガル大航海時代 ブレトン=ウッズ体制
4 地中海世界 朝鮮半島 アメリカ合衆国
5 アフリカ北岸の世界 フランス絶対王政 中華人民共和国
6 東アジアの遊牧勢力 17,18世紀のヨーロッパ文化 アジアとアフリカの戦後史
2020 1 中世ヨーロッパ 東南アジア 人権思想の広がり
2 ギリシア文化史 北米大陸 李承晩と朝鮮半島
3 インド古代史 ルネサンス宗教改革 ラテンアメリカ
4 イラン ルネサンス 19世紀のヨーロッパ経済
5 アフリカ 大航海時代 中華人民共和国
6 東南アジア 三十年戦争プロイセンの台頭 アフリカ分割

 大問合計54のうち、文化史が9題、戦後史が8題あります。大問3のうち1つは文化史または戦後史が入っている計算です。

 首都圏では、早稲田大学を筆答に人文系学部の個別入試で文化史がよく出題されます(「ル・コルビュジエ」を出題するのはやりすぎ)。

 国立大学では、京都大学2016年「18世紀イギリスとドイツの啓蒙思想の受容」、大阪大学2018年「17~18世紀の学問の動向」、一橋大学2018年「歴史派経済学と近代歴史学の相違と背景」など、ヨーロッパの政治状況と文化の関連が問われます。

 「手が回りにくいところで差をつける」という意味もありますが、関西大学の2020年度入試問題集の「全体講評」にはこうあります(下線は筆者)。

高等学校の世界史の教科書に載せられている文化史関連の事項の多くは、同時代の政治史などさまざまな歴史の趨勢と連関する。事項をただ暗記するのではなく、時代背景と合わせて学習しておくことで、各時代の時代性をつかみやすくなり、また教養としても大いに役立つものになるだろう。

 時代背景を深く理解し教養を深めるためには文化史は不可欠、言い換えると文化史は「大学予備知識」です。

 今回から文化史を集中して取り上げます。まずは頻出のヨーロッパ文化史を、ルネサンス、17・18世紀、19世紀、20世紀と4回に分けて見ていきます。 

 基本空欄は人名ですが、作品名も書けるようにしてください。最後の晩餐やガルガンチュアとパンタグリュエルの物語は過去問にあります。

目次

 

1 ルネサンス

1) イタリア=ルネサンス

文学

[1      ] ルネサンスの先駆者,トスカナ語、『神曲

ベトラルカ 人文主義の先駆者,『叙情詩集』

[2      ] 小説の先駆『デカメロン』→ペストから避難

[3      ] フィレンツェの外交官。『君主論』 現実的政治思想

絵画・建築

ジョット    ルネサンス絵画の先駆者『聖フランチェスコの生涯』

[4      ] メディチ家の保護 『』『ヴィーナスの誕生

[5      ] 万能の天才。『最後の晩餐』(ミラノ)『モナ=リザ』

[6      ] 『天地創造』『最後の審判』(システィナ礼拝堂

        『ダヴィデ』

[7      ] 『アテネの学堂』 多くの聖母子像

(8      )大聖堂…フィレンツェ ブルネレスキ設計

(9      )大聖堂…ヴァチカン ブラマンテ設計 ミケランジェロ縮小

補足

① ルネサンスとは?

 「ルネサンス」とはフランス語で「再生」を意味し、19世紀の歴史家ミシュレによって使われ、スイスの歴史家ブルクハルト(『イタリア=ルネサンスの文化』 )に受け継がれて世界中に普及しました。

 14世紀のイタリアは東方貿易によって繁栄します。その担い手は商人です。しかし神を規範とするキリスト教的文化の中ではお金を扱う商人の地位とは決して高くはありませんでした。

カトリック教会は中世後期に「煉獄」という教義を作ります。天国と地獄の間にあり、ここで火にあぶられて罪が浄化すれば天国に行けます。当時台頭してきた商人への配慮だと考えられます。 

  商人は一獲千金もあれば無一文もある、個人の力量が成功を左右します。しかも折からの黒死病で死んだら終わりです。

 ちょうどそこへビザンツの文化がイタリアに入ってきます。15世紀にオスマン朝の圧迫から逃れたビザンツの学者が、イタリア半島の遠い祖先の人間性あふれる文化を紹介します。

*憶測ですが、イタリア商人が、亡命してきた学者がローマの遺跡を見て「これは〇〇だ!見たかったの!」とはしゃいでいるのを見たら「え、この石の塊ってそんなにスゴイの?」だったでしょうね。( ゚д゚)ポカーン

 こうしてフィレンツェメディチ家に代表されるイタリアの大商人や都市貴族が、「祖先」かもしれない古代の人間味あふれる文化をモチーフにした新しい文化で、自らを権威づけようとします。

 ルネサンスの「再生」とは「人間性の再生」と「古典古代文化の再生」というダブルミーニングといえます。 

② 人文主義

 『神曲』は、暗い森の中に迷い込んだダンテが古代ローマの詩人ウェルギリウスに導かれて地獄、煉獄、天国を遍歴する筋立てです。

 キリスト教的な世界観にたっていますが、ギリシアやローマの文献が各所に引用され、ダンテの政敵がことごとく地獄行きになってる(笑)など、ダンテ自身の生と死に対する想いが描かれています。 

 ルネサンスの文化傾向のことを人文主義ヒューマニズムといいます。ギリシアやローマのように人間の理性や意志、肉体の美など現世的かつ一回きりのものを尊重する傾向です。

 ルネサンスの文学は他にもペストを逃れた10人の男女の話を通じて人間の欲望や乱れた世相を批判する『デカメロン』など、人間をありのままに描きます。

 この「ありのままに見る」姿勢は、人間だけでなく社会(マキァヴェリの『君主論』)、自然(地動説)、キリスト教(聖書の原点研究)にも向けられます。

マサッチオ『貢の銭』1420年代

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同 『楽園追放』 1420年代

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 両者ともフィレンツェブランカッチ礼拝堂に描かれた壁画です。裕福な商人のファミリー専用礼拝堂です。

 前者は遠近法、明暗法、人物の影(実際の窓から光が差し込むのに合せて描かれている!)など革新的な表現手法によって、ルネサンス芸術の発展にも大きな役割を果たしたとされています。

 後者はアダムとイブの表情が痛恨の極みです。

 なおこの絵を修復したらアダムさんの立派なものが出てきましたが、掲載は控えさせていただきます。隠蔽という批判はあたりません。 

ボッティチェリ『春』1478年頃

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 懐妊したヴィーナスを挟んで、上手では春の到来、下手では三美神のうち貞操の女神(下手のメルクリウスをガン見している)が恋に目覚める(目隠ししたキューピッドが貞操の女神を矢で狙っている)ストーリーが展開します。

 神々はみな肉体美を誇り、足元にはフィレンツェで咲く花(約200種類)が描きこまれています。「神話を題材に人間と自然をありのままに描く」というまさにルネサンス的な絵画です。

 この絵はメディチ家の娘の嫁入り道具として発注されたそうです。娘の幸せを祈るのは今も昔も同じです。

 写真はいずれもウィキメディアコモンズパブリックドメイン。 

2) 西欧諸国のルネサンス 

ネーデルラント:商業の繁栄をうけて展開

絵画

 [10      ]兄弟 フランドル画派,油絵画法を改良

 [11      ] 民衆の生活を描く『農民の踊り』

文学

 [12      ] 『愚神礼讃』で教会を批判。ルターに影響を与える

 

ドイツ

絵画

 [13      ] 聖書を素材『四人の使徒

 ホルバイン    ヘンリ8世・エラスムスらの肖像画

聖書研究

 メランヒトン 古典研究をヘブライ語に広げる

 

イギリス:エリザベス1世の文化振興

 [14      ] 『カンタベリ物語』…イギリス版『デカメロン

 [15      ] エリザベス1世時代の戯曲家 『ヴェニスの商人

 スペンサー:叙情詩人『神仙女王』

 [16      ] ユートピアで囲い込みを批判(羊が人を食う)

          ヘンリ8世の離婚に反対し刑死

 

フランス:フランソワ1世の文化振興

 [17      ] 『ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語

          →イタリア戦争批判

 [18      ] 『随想録

 

スペイン

 [19      ] 『ドン=キホーテ』 レパントの海戦に参加

 補足

 ルネサンス芸術はヴェネツィアやローマに広がり、ローマでは教皇の保護のもと、壮麗なサン=ピエトロ大聖堂が建設されます。

 さらに都市市民が台頭したネーデルラント主権国家体制を構築しつつある王宮でもその権威付けのために新しい芸術様式が広まります。

ヤン・ファン・アイク『アルノルフィーニ夫妻像』1434年

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凸面鏡の拡大図

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 精緻な油絵の嚆矢として、西欧美術史で極めて重要視されている作品です。家具や調度品、凸面鏡(縁にキリスト受難が描かれている)に反転して写る宣誓の情景、犬・サンダル・窓辺の果実などに含まれる寓意など、多くの情報が描き込まれています。

 そういえばさっきのヴィーナスもおなかが大きかったですが、「デキ婚」とかではなくて絵画的表現なんですかね?

 シェークスピアの『ロミオとジュリエット』(16世紀末初演)、舞台は14世紀のイタリアのヴェローナ、背景には教皇派(ゲルフ)と皇帝派(ギベリン)の対立が織り込まれています。「皇帝派=ギベリン」って「コウテイペンギン」みたいですね! 

 「対立する二つのグループと、それに翻弄される恋人たち」という筋立ては時代や文化背景を越えた普遍性を持つので、場所や設定を変えて(有名なのは『ウエスト・サイド物語』)演じられています。『ロミジュリ』自身もシェークスピアが「元ネタ」を翻案して製作したものです。

ロミオとジュリエット [DVD]

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3) 科学技術の発達

ルネサンスの三大改良

 (20    ):戦術が変化→騎士が没落

 (21    ):遠洋航海を可能に→大航海時代

 印刷術:15世紀半ばにマインツの[22     ]が活版印刷を改良

     聖書の印刷→宗教改革に影響

地動説

[23      ](ポーランド16c)天体観測から地動説を主張

        『天球回転論』

ジョルダーノ=ブルーノ(イタリア16c)地動説と汎神論を主張

        →宗教裁判で火刑

[24      ](イタリア17c)望遠鏡で木星を観察し地動説を主張

        『天文対話』

[25      ](ドイツ)「惑星運行の三法則」を発見

[26      ](フィレンツェ15c)大地球体説を唱え,世界地図作製

         →コロンブスに影響

補足

 活字は宋や高麗で開発されました。グーテンベルクはワイン用ブドウやオリーブの油料種子の圧搾機をヒントに印刷機を作ったと言われています。アルファベットの方が文字数が少なく活版印刷にフィットします。

 グーテンベルク印刷機を再現したもの。カーソン (カリフォルニア州)の国際印刷博物館 クリエイティブコモンズ 表示 2.0 権利関係はリンク先

commons.wikimedia.org

 四十二行聖書。1455年。同じころに贖宥状も印刷していたそうです。宗教改革マッチポンプ? ウィキメディアコモンズ パブリックドメインの写真。

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 おまけ

ルネサンス音楽で休憩


Italian Renaissance Music - Classical Guitar Collection : 19 Songs(ルネサンス音楽集 《イタリア》:全19曲)

まとめ

 ルネサンス文化はパトロンの庇護のもとに栄えますから、社会の在り方そのものを否定するまでには至りませんでした(『詳説世界史』だと「貴族的傾向」)。

 しかし人文主義の「ありのままに見る」姿勢は、神学では聖書の原典研究となり、宗教改革へとつながります。また火薬は主権国家体制、羅針盤大航海時代、印刷術は宗教改革で花開きます。

 そういう観点からは新しい時代を準備した文化だといえます。 

空欄

1 ダンテ
2 ボッカチオ
3 マキァヴェリ
4 ボッティチェリ
5 レオナルド=ダ=ヴィンチ
6 ミケランジェロ
7 ラファエロ
8 サンタ=マリア
9 サン=ピエトロ
10 ファン=アイク
11 ブリューゲル
12 エラスムス
13 デューラー
14 チョーサー
15 シェークスピア
16 トマス=モア
17 ラブレー
18 モンテーニュ
19 セルバンテス
20 火薬
21 羅針盤
22 グーテンベルク
23 コペルニクス
24 ガリレイ
25 ケプラー
26 トスカネリ
  

次回は17・18世紀の文化