ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

国立・私立大学世界史直前チェック(文化史③19世紀ヨーロッパ)

 難関私立大学で必ず出題される文化史、第3回は頻出の19世紀のヨーロッパ文化です。革命・反動・国民国家・科学と社会の流れとともに文化の潮流も変容します。

前回

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

目次

 

3 19世紀の文化

① 特徴

  • 「科学の世紀」:自然科学のめざましい進歩→文学や芸術にも影響
  • 資本主義の発達→市民層の成長と市民文化の成長

② 文学

1)ドイツ古典主義~ロマン主義 

ドイツ古典主義 18世紀末~19世紀初

 疾風怒濤(理性に対する感情の優越)啓蒙主義ロマン主義の移行期

 ゲーテ『若きウェルテルの悩み』『ファウスト

 シラー『群盗』『ヴァレンシュタイン

ロマン主義 18世紀末~19世紀半ば

 個性や感情,歴史・民族文化の伝統を尊重

ドイツ

 ノヴァーリス青い花

 [1     ]兄弟『グリム童話』フランクフルト国民議会

 [2      ]『歌の本』ユダヤ人、マルクスと親交、「革命詩人」

イギリス

 [3     ]『チャイルド・ハロルドの遍歴』ギリシア独立戦争に参加

 ワーズワース 詩人。湖水地方の自然をうたう

フランス

 [4      ]『レ=ミゼラブル』→王政復古~七月革命の様子

アメリ

 ホーソン『緋文字』 ホイットマン『草の葉』

ロシア

 [5      ]『大尉の娘』→プガチョフの乱

 補足

 ウィーン体制期を象徴する思想の潮流がロマン主義です。

 啓蒙主義は進歩と理性に信頼を置き、フランス革命の支柱となりました。しかし革命は普遍的な正義の名の下に反対派を次々とギロチンに送ったりもしました。

 一方ロマン主義は歴史に基づく多様性と人間の感性を重視します。

 ロマン主義は、一方では革命を否定して「古き良き時代」を懐かしむ保守主義に向かい、また一方ではナショナリズムと結びつき、各地の独立運動国家統一運動を思想的に支えました。

 『グリム童話集』(1812年に初版第1巻)はヤコプとヴィルヘルムのグリム兄弟が編纂したドイツのメルヒェン(昔話)集です。

 当時はドイツはナポレオンに占領されていて、ナショナリズム高揚の動きがひろまりつつありました。そうした中でドイツ・ロマン主義運動は土着の民衆文化に目を向けるようになり、その一環として民謡やメルヒェンの発掘収集が始まりました。

 似た昔話を共有するのが「ドイツ民族」ということでしょう。ヤコブドイツ統一を議論したフランクフルト国民議会の代議士でもあります。

表紙と中絵。ウィキメディアコモンズパブリックドメインの画像。

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2)写実主義~世紀末 

写実主義 19世紀後半

 科学・技術の発達を背景に,人間・社会をありのままに描写

フランス

 [6      ]『赤と黒』王政復古の貴族社会

 バルザック『人間喜劇』

 フローベール『ポヴァリー夫人』

イギリス

 ディケンズ二都物語』ロンドンとパリ

ロシア

 トゥルゲーネフ『父と子』

 [7      ]『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟

 [8      ]『戦争と平和』→ナポレオン戦争

 チェーホフ桜の園

自然主義 19世紀後半

 写実主義を徹底。現実を科学的に捉える

フランス

 [9      ]『居酒屋』『ナナ』→ドレフュス事件

 モーパッサン女の一生

ノルウェー

 [10      ]『人形の家』 近代演劇の祖 女性の自立を描く

世紀末

 耽美主義 内面性の表現や美的な質を問題とする ワイルド

 象徴主義 伝統的形式を棄て象徴的な表現を重視する ボードレール

補足 

 『赤と黒』(1830年刊)貧しい生まれのジュリアン・ソレルがその美貌と頭脳を駆使して成り上がる様子を通じて、復古王政期の鬱屈した状況をリアルに描きます。赤と黒は軍人と聖職者の服を表すといわれます。二時間サスペンスみたいです。

赤と黒(上)(新潮文庫)

赤と黒(上)(新潮文庫)

 

 『人形の家』(1879年初演)は、弁護士ヘルメルと妻ノラは一見幸せな生活を送っていましたが、ある事件をきっかけにノラは自分が一人前の人間と扱われていない、人形のように可愛がられているだけだと気づき、家を出るというストーリーです。

 リアリズム劇の代表作品であるだけでなく、女性解放の視点からも語られる作品で、日本の「新劇」にも影響を与えています。

 坪内逍遥邸で行われた『人形の家』初演(1911年)『毎日新聞20世紀2001大事件』(2014年8月4日)ウィキメディアコモンズパブリックドメインの画像

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人形の家 (岩波文庫)

人形の家 (岩波文庫)

  • 作者:イプセン
  • 発売日: 1996/05/16
  • メディア: 文庫
 


③ 美術・絵画

古典主義

 ギリシア・ローマを理想 均整を重視

 [11      ]『ナポレオンの戴冠式』 アングル(仏)

ロマン主義

 感情 寓意を表現

 [12      ](仏)『民衆を率いる自由の女神』→七月革命

写実主義 自然主義

  [13      ](仏)『落ち穂拾い』『晩鐘』

 ドーミエ(仏) [14     ](仏)『石割り』→パリ=コミューン

 彫刻…ロダン(仏)近代彫刻確立。『考える人』

印象派

 19世紀後半 感覚的印象表現を重視

 マネ(仏)『草上の昼食』

 [15    ](仏)印象派の確立者。『睡蓮』

 ルノワール(仏)…多くの女性肖像画を描く

後期印象派

 19世紀末 印象派から発展,自己の感覚の上で構成

 セザンヌ(仏) ゴーガン(仏)晩年をタヒチで過ごす

 [16     ](蘭)『ひまわり』

アール=ヌーヴォー

 19世紀末 建築や家具・工芸品

補足

 アングルとドラクロワはフランスの二大巨匠で作風が全く違い、当時はライバルだったそうです。現在はルーヴル美術館のそれぞれの部屋で展示されています。

 アングル『グランド・オダリスク』1814年

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 ドラクロワ民衆を導く自由の女神1830年 女神の下手の山高帽がドラクロワ、上手の男の子は『レ・ミゼラブル』創作のきっかけになったそうです。f:id:tokoyakanbannet:20200928131656j:plain

 マネとモネは同時代に活躍した印象派の画家ですが、”Manet” ”Monet”と現地表記でも紛らわしく、展覧会でマネが入選したと聞いて見に行ったらモネの絵が飾ってあったとか。

 マネ『草上の昼食』1862~1863 「はしたない」と酷評されたそうです。 

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 モネ『印象・日の出』1872年 「印象派」の由来。当時は酷評されたそうです。

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 印象派写実主義と同様に自然をモチーフにする作品が多いですが、写実主義が自然を「客観的に存在するもの」と描いたのに対し、印象派は自然を自己の感覚に反映されたもの、つまり主観的な「印象」としてキャンバスに再現しています。

 19世紀の中頃から写真技術が発達します。絵画は「客観的なリアル」を表現する点では写真にかないませんが、主観を描くことに活路を見出したといえます。印象派の発想は20世紀のフォービズム、キュビズムの先駆けになりました。 

④ 音楽

古典派

 モーツァルト(墺) ベートーヴェン(独)が集大成

ロマン主義

 シューベルト(墺)近代歌曲を創始

 シューマン(独)近代的ピアノ技術を開拓

 [17     ](ポーランド)ピアノの詩人

 [18     ](独)楽劇の創始者 ヒトラー民族意識高揚に利用

印象派 

 ドビュッシー(仏)音のもつ情感を尊重 印象主義音楽を創始

 シェーンベルク(墺)無調、十二音技法を創始

補足&休憩タイム

 ショパンの「革命のエチュード」(練習曲作品10-12)は、1831年ポーランドで発生した11月蜂起におけるロシアによるワルシャワ侵攻に対する怒りが込められているといわれています。民衆の蜂起とそれを鎮圧する軍の様子が思い浮かびます。


ピアノ300年記念 根津理恵子:ショパン / 「革命」

 「マズルカ」はポーランド周辺の民俗舞踊に基づいて作曲されています。


ショパン/マズルカ 第13番 イ短調, Op.17-4/演奏:金澤 攝

 ドビュッシー『喜びの島』。装飾音とテンポの変化でキラキラ感満載です。 


喜びの島(ドビュッシー)Debussy - L'Isle joyeuse - pianomaedaful

⑤ 人文学 社会科学

歴史学 [19      ]:厳密な史料批判→近代歴史学の祖

歴史法学 サヴィニー:法の歴史性・民族性を主張

歴史学派経済学 [20      ]:保護関税政策→ドイツ関税同盟

哲学

 [21     ]:主観的観念論を樹立,講演「ドイツ国民に告ぐ」

 [22     ]:弁証法哲学を唱え,カントに始まる観念論哲学を完成

 フォイエルバッハヘーゲル学派左派,唯物論を唱えマルクスに影響

 [23      ]:弁証法唯物論唯物史観

 『共産党宣言』(48)『資本論』(67)、第一インターナショナル(64)

 ショーペンハウエル:厭世哲学

 [24      ]:「神は死んだ」→新しい価値の樹立,「超人」思想

功利主義 イギリスの経済発展が背景

 [25      ](英)「最大多数の最大幸福」を主張

 ジョン=スチュアート=ミル 幸福の質的な面も考慮

社会進化論

 ハーバート=スペンサー(英)ダーウィンの進化論を人間社会に通用

経済学

 [26      ](英)『人口論』人口増加による食糧不足。

            穀物法で地主階級を擁護

 [27      ](英)『経済学および課税の原理』

            穀物法で資本家を擁護

社会学 [28      ](仏)実証主義を提唱

実存哲学 キェルケゴールデンマーク

補足 

 ヘーゲルは、カントが世界の「外」から物申しているっぽいのに対し、私の理念もまた世界の「中」にあり、その理念は絶えずアップデートしていると考えます。

 マルクスはこれを批判し、社会の変化は理念の変化ではなく経済の変化で決まる、つまり生産力がアップしたり新しい技術が生み出されて経済構造が変わるから政治や社会のあり方も変わると考えます。これが「史的唯物論」です。

 これらが想定する歴史がいわゆる「段階的発展論」、原始共産制→古代奴隷制→中世封建制→近代資本主義→社会主義共産主義という単線的な発展です。

 資本主義が進めば進むほど貧富の差は激化して没落するのは必然であり、労働者階級の政権獲得と国際的団結によって貧富の差のない平等な社会(社会主義社会)の実現を目指すのがいわゆる「マルクス主義」の理念です。

*発展:「日本資本主義論争」は「今はまだ封建制だからまずブルジョワ革命だ」「いや明治維新ブルジョワ革命だから次は社会主義革命だ」と争っていました。

マルクスは『経済学批判』の序言で唯物史観を定式化しています。 

経済学批判 (岩波文庫 白 125-0)

経済学批判 (岩波文庫 白 125-0)

 

  功利主義マイケル・サンデル先生で有名になりました。

 ベンサムが設計した刑務所施設「パノプティコン」は、円形に配置された収容者の個室が多層式看守塔に面するよう設計されています。収容者たちにはお互いの姿や看守が見えなかった一方で、看守はその位置からすべての収容者を監視することが可能です。

 少ない人数で囚人を監視するというメリットだけでなく、収容者が「常に見られていると意識する」ことが彼らの更正にも役立つとベンサムは主張しています。

 試験監督やオフィスの机の間取りにも「外部の視線の内在化」の例です。

 ミシェル・フーコーは『監獄の誕生』で、「パノプティコン」を社会のシステムとして管理、統制された環境の比喩として用いています。そういえば最近「忖度」とか「自粛ポリス」とか…、おや、誰か来たようだ。

ベンサムの構想図。ウィキメディアコモンズパブリックドメインの画像

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⑥ 自然科学

[29      ](英)電磁誘導の法則・電気分解の法則を発見

マイヤー、ヘルムホルツ(独)エネルギー保存の法則を発見

[30      ](独)放射線を発見

[31      ]夫妻(仏)ラジウムを発見

リービヒ(独)有機化学の基礎を確立

[32      ](英)『種の起源』で進化論を提唱

[33      ](オーストリア)遺伝の法則を発見

[34      ](仏)狂犬病の予防接種,微生物の研究

[35      ](独)結核菌・コレラ菌を発見

ダイムラー(独):内燃機関

ディーゼル(独):ディーゼル機関を発明

通信技術

 [36      ](米)電信機

 [37      ](米)電話機

 マルコーニ(伊)無線電信機

映像・録音技術

 リュミエール兄弟(仏)映画の実用化

 エディソン(米):蓄音機・映画・電灯などを発明

化学工業

 [38      ](スウェーデン):ダイナマイトを発明

補足

 自民党憲法改正キャンペーン漫画で、ダーウィンが言ってもいないことを言ったよう書いてネットで炎上したのは記憶に新しいです。

 ダーウィンの進化論は、環境により適応した個体が子孫を残していく(自然選択説)ことで、変化の結果で生き残ることはあっても、生き残ろうと変化するのではありません。主権者教育には知識が不可欠、勉強はだまされないためにあります。

ダーウィン『種の起源』 2015年8月 (100分 de 名著)

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  19世紀後半にパスツールが細菌論を、リスターが消毒法を確立しますが、その前に「手洗い」と「消毒」を説いたのがセンメルヴェイス・イグナーツです。

 彼が勤務する病院では産褥熱で死亡する患者が多く、しかもふたつの産科で死亡率が違ったそうです。調べるうちに、死亡率が高い産科は午前中に解剖の実習をした医師が手を洗わないで診察していたことをつきとめ、手洗いと塩素消毒をすることで死亡率を激減させました。

 しかし彼の考え方は当時は評価されず、病院を追われて精神病院で衛兵の暴力がもとで死亡します。一年後パスツールが細菌論を発表して彼の先見性があきらかになり、現在ではセンメルヴェイスは殺菌消毒法の先駆者として評価されています。

 みなさんも感染症に負けないように、手洗いとうがいを励行しましょう。センメルヴェイスさんありがとう(青い航空機は省略)。

1956年ドイツ連邦郵便発行 ウィキメディアコモンズパブリックドメインの画像

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 ⑦ 探検 

タスマン(蘭)17世紀 タスマニア島ニュージーランド到達

[39     ](英)18世紀 太平洋諸地域の探検

リヴィングストン(英)スタンリー(米)アフリカ内陸部の探検

ヘディン(スウェーデン中央アジア、西域の調査

[40     ](米)20世紀 北極点に到達

[41     ](ノルウェー)、スコット(英)20世紀 南極点に到達

 補足

  ぶんぶんは中学の国語の教材でアムンゼンとスコットを知りました。冒険家らしい合理的な装備と作戦で南極点に先んじたアムンゼンに対し、イギリスの威信を背負う軍人で、全滅直前まで地質調査を行い続けたスコットに涙腺が崩壊しました。

 しかし今世界史を教えていて、当時の列強がアフリカを筆頭に地球上で「先占権」を巡って「一番乗り争い」を繰り広げていたことを知ると、 複雑な気分です。 

  ロプノールは、タリム盆地タクラマカン砂漠北東部(現在の中国・新疆ウイグル自治区)にかつて存在した塩湖です。現在は干上がっています。

 『漢書』によると水量も豊富で西岸に楼蘭が栄えていましたが、その後乾燥が進み、この部分を通るオアシスの道は衰退しました。

 19世紀にこの地を調査したへディンは、この地域は標高差が少ないために、河川の堆積や浸食の作用によって、タリム川の流路が変化し、それに伴って湖の位置が移動するという学説を打ち立て、ロプノールを「さまよえる湖」と呼びました(異説もあります)。

 『機動戦士ガンダム』の「塩が足りない」の回でそれらしき湖が登場します。

さまよえる湖 (中公文庫BIBLIO)

さまよえる湖 (中公文庫BIBLIO)

 

 

 まとめ

 19世紀の文化史の流れ

  1. 啓蒙の時代は均整の取れた古典主義
  2. →それは息苦しい。人間の不合理なものを表現するロマン主義
  3. →それは非科学的。科学を芸術に持ち込んだ写実主義自然主義
  4. →それは人間的でない。もやもやを表現する印象派 耽美主義

 19世紀は「科学の時代」と呼ぶにふさわしいです。この時代の人々は「科学は人類を幸せにする」と信じていていました。しかし科学は第一次世界大戦で「野蛮」をもたらします。

 次回は20世紀の文化。

空欄の答え

1 グリム
2 ハイネ
3 バイロン
4 ユーゴー
5 プーシキン
6 スタンダール
7 ドストエフスキー
8 トルストイ
9 ゾラ
10 イプセン
11 ダヴィ
12 ドラクロワ
13 ミレー
14 クールベ
15 モネ
16 ゴッホ
17 ショパン
18 ワグナー
19 ランケ
20 リスト
21 フィヒテ
22 ヘーゲル
23 マルクス
24 ニーチェ
25 ベンサム
26 マルサス
27 リカード
28 コント
29 ファラデー
30 レントゲン
31 キュリー
32 ダーウィン
33 メンデル
34 パストゥール
35 コッホ
36 モールス
37 ベル
38 ノーベル
39 クック
40 ピアリ
41 アムンゼン