はじめに
首都圏は私立大学が充実していて、私立大学間で網の目のような併願関係を持っています。国公立大学の中には「難関私立大学のすべり止め」を自覚して、辞退者を見越して多めに合格者を出すところもあります。
このところのコロナ禍で地方から首都圏への受験が減っていましたが、模試動向では回復傾向です。また定員管理厳格化は緩和されましたが油断大敵です。
「どうなる?」シリーズ2023年度、第3回は首都圏の私立大学の入試方式の変更と模擬試験の生徒の志望動向を考察し、一般選抜の動向を占います。
首都圏の大学はリンクを貼るときには許可が必要とか面倒くさいところが多いので、各自でHPを見てください。リンクフリーのところはつけてあります。
河合塾、駿台、東進(五十音順)の分析を参考にしています。河合塾さんからは許可をもらっているので貼り付けデータは河合塾のサイトからです。
目次
1 基本編
① 受験生を取り巻く環境
- 2023年度の高校三年生は約110万人 1994年度の約205万人から半減
- 現役の進学率約53%。現役受験生は推定約58万人
- 2022年度の大学収容力は約63万人
- ポンコツ入試の余波で浪人生が減少(共通テスト志願者約7万人)
- つまり選り好みしなければほぼ大学に行ける状態
大学志願者数と入学定員の推移
参考:大学入学者選抜関係資料「Ⅰ.18歳人口及び高等教育機関への入学者・進学率等の推移」
https://www.mext.go.jp/content/20201209-mxt_daigakuc02-100014554_2.pdf
② 入試改革のゴタゴタとその影響
- 文科省は「学力の三要素」の観点で入試を行なうよう指導している
- 文科省は主体性評価について調査書を活用するように迫っている
- 文科省は大学に英語外部試験の活用を迫っている
- 首都圏の私立大学では、文科省の入試改革に忖度して合わせて大胆な改革を行うところが偏差値上位校で多いが、新方式は受験生からは敬遠されがち
- ただし志願者が減った翌年には人が集まるなど、入試が落ち着かない傾向
- 英語外部試験の活用は偏差値上位大学ほど積極的
- 定員厳格化は各大学が歩留まりになれてきたこと、今年から「4年総定員数」で判断することになったので、合格者は多少増える模様
2 首都圏私立大学編
① 首都圏私立大学の様子
首都圏の志願者の多い私立大学
- 「早慶」:早稲田大学、慶応義塾大学。私立大学生態系の長で私立専願生の目標。その人脈は政財界で大きな位置を占める、慶應は医、薬、看護を有する
- 「上理」:上智、東京理科。「早慶上理」と呼ばれることもあるが、総合大学の早慶とは違って上智は文系、東京理科は理系メインの大学
- 「MARCH」:明治・青山学院・立教・中央・法政。1、2の併願先。首都圏では知名度が高く同難易度の国立より好まれる。学習院も仲間に入れて「GMARCH」と呼ぶこともある
- 「日東駒専」:日本・東洋・駒澤・専修。3の併願先。
*そのほかにも理系(芝浦工業大学など)、文系(明治学院大学など)、女子大(東京女子大学など)と首都圏はさながら「私立王国」で難易度、系統別に多数の私立大学があります。関西人のぶんぶんはあまり詳しくないので今回は省略。
② 2023年度入学者選抜の変更点
1)早稲田大学
教育学部で大きな変更があります。
従来はA方式(文系)B方式(理系)の2方式でしたが、C・D方式(共テ+一般)を新規に実施し、その分定員が増加します。
まず教育学科初等教育学専攻はB 方式が廃止、理学科生物学専攻はB方式が廃止でC・D方式のみになります。また理学科地球科学の地学選択募集枠が廃止されました。選択教科では「政治・経済」「生物基礎、生物」「地学基礎、地学」の選択が不可になりました。
大学の発表のスクリーンショット。
C方式は共通テスト5教科7科目、D方式(生物学専修のみ)は同3教科5科目と個別試験からなり、後者は学科・専修ごとの問題が出題されます。
なおA~D方式は併願できない(どれかひとつを選ぶ)ので、一試験日にオプションをつけまくることに慣れている関西圏の受験生は注意してください。
早稲田大学は私立3教科に絞った生徒が「何としても早稲田」とローラーで各学部を受験するイメージですが、そういう受験生よりも国立教育学部志望者に来てもらう戦略に見えます。そのためか模擬試験の志望動向では不人気です。
早稲田大学は昨年度から政治経済学部で共通テスト4科目を必須+総合問題にして3教科絞り組を放逐しようとしています。仮に倍率が減っても国立併願組が増えればヨシ!という考えでしょう。
模試での志望者数は大学全体で昨年よりやや増加で、共通テスト方式を書く生徒が増えています。大学の狙い通りかもしれませんが、現在の共通テストの内容が早稲田大学の求める学力に見合っているのかは気がかりです。
小泉癸巳男 「早稲田大学街」 (1934)パブリックドメインQより
2)慶應義塾大学
慶應大学は文科省のポンコツ入試改革は無視して大きな変更はなし、受験生も安心できるのか、ここ2、3年は志願者は安定しています。今年度は特に「薬学」「理学」「医学」の志望者が増えています。
3)上智大学
入試改革で一般入試をTEAP方式、共通テスト併用、共通テスト利用(4教科型)の3方式にしました。今年度は新方式として「共通テスト3教科型」を追加しました。
模擬試験ではその方式を書く生徒が増加していますが、4教科型をはじめ他の方式の志望者が減少しているので、長期的な不人気傾向に歯止めがかからない状態です。
上智大学は文系・外国語系の老舗で昨今の系統不人気の煽りをもろに受けています。ただライバルが減るのは上智LOVE♡の人には朗報です。
4)東京理科大学
理工学部(野田キャンパス)が創域理工学部に名称変更します。それに伴い複数の学科で名称が変更しますが、数理科学、先端物理、情報計算科学など名称変更した一部の学科は認知が進んでいないのか、志望欄に書く生徒は激減しています。
新規実施するS方式(創域理工学部の数理科学科、電気電子情報工学科)は、特定の専門分野への関心・意欲が高い志願者を対象とし、出願時に専門コースの系を選択することができます。試験は一般方式のB方式と共通で併願はできません。
先進工学部では新たに物理工学科、機能デザイン工学科を設置し、入学定員も360名から575名と大きく増加しました。こちらは昨年度志願者が大学内で「一人負け」だったこともあり、志望欄に書く生徒が増加しています。
理学部は応用物理学科が募集停止して先進工学部の物理工学科に再編され、学部全体の入学定員は減りましたが、志望欄に書く生徒は増えています。
東京理科大学は「たこ足」キャンパスで、神楽坂(経営・理)、葛飾(工・先進工)、野田(創域理工・薬)、長万部(国際デザイン経営の1年次)にキャンパスがあるので注意してください。昔は東京で入学式が終わったらスーツケースを押しながら新入生が空港を目指すのが風物詩だったとか。
野田といえばこれ パブリックドメインQより
5)立教大学
新設のスポーツウエルネス学部はコミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科の学部昇格です。募集人員120名と増加になりますが、志望欄に書いている生徒は増加分を超えるほどは増えていないようです。
なお立教大学は入試改革初年度(2021年度)から大学独自の英語試験を廃止し、全学部で共通テストか英語外部試験のスコアを利用します。
受験生が「私のスコアが何点になるのか」を知りたいのは当然、彼らが何度も立教大学に直電するみたいで、立教大学のQ&Aにその返事が載っています。
立教大学入試Q&Aより引用
一般入試では、提出された英語資格・検定試験のスコアまたは大学入学共通テストの「外国語 (『英語』)」の得点に統計的処理を行い、本学独自の方法により得点化します。出願締め切り後にすべての受験生のスコア・得点に対して統計的処理を行いますので、事前に換算点をお伝えすることができません。
共通テスト利用入試については、得点換算例を参考値として公表しています。
使える検定はケンブリッジ英検、英検、GTEC(4技能版)、IELTS、TEAP、TEAP(CBT)、TOEFL(IBT)です。
元京都工芸繊維大学の羽藤先生が「用途が違う英語検定のスコアを比べて点数化するのは全く違う競技を比べるようなもの」と述べていました。さらにそれらと2技能にグレードダウンした共通テストを比較します。立教大学には秘策があるのでしょうか。
またリストの中に高校の教員が問題の仕分けや監督を行なう「模擬試験みたいな検定」が混じっているのが、英語教育に長けた立教大学らしくありません。
ちなみに法政大学の英語外部試験利用入試が出願資格とする検定は英検、TOEFL(IBT)、IELTS、TOEIC4技能、TEAP、TEAP(CBT版)、GTEC(CBT版)、ケンブリッジ英検と公開会場の検定(英検も文系は本会場実施の準1級以上)です。調べがついているみたいです。
なお首都圏は様々な英語外部試験がお金があれば何度でも受験できる環境だからこの方式が成り立つのであって、地方から受験する人は従来方式で受験した方が勝負になるのではと思います。
ESATJの問題点が一発で理解できる動画。これと似た某検定も隣の人の声が聞こえるのは同じ。
6)青山学院大学
法学部の共通テスト利用選抜で5科目型が新規実施されるなど、文系学部を中心に共通テスト利用選抜が拡大します。新規方式は既存の方式より科目負担が増えるケースが多いので、志望欄の動向では新規方式は敬遠されています。
しかし科目数が増えるほど合格に必要な得点率は減る傾向にありますから、青学ファンにはチャンス拡大と言えます。
7)その他トピック
- キャンパスが都心に移転した大学は人気。中央大(法)は多摩キャンパス/八王子市から茗荷谷キャンパス/文京区大塚へ移転で志望欄に書く生徒が増加
- データサイエンス学部が雨後の筍のように急増。ただし受験する場合は文系寄りか理系寄りかをよく調べる(入試科目で発展理科があれば理系)
主な新設学部
亜細亜大(経営・データサイエンス)、北里大(未来工)、東京都市大(デザイン・データ科学)、明星大(データサイエンス)、神奈川大(情報)、湘南工科大(情報)、順天堂大(健康データサイエンス )
*他に新設専門職大学で東京情報デザイン専門職大(情報デザイン)
3 コロナ禍対応
① 早稲田大学
- 試験時間中を含む試験場では不織布マスクの着用(○ベノマスク不可)。
- 無症状の濃厚接触者は「特例措置」での受験が可能
- 行政機関のPCRや抗原検査等の検査結果が陰性(メールで写真を送る)
- 濃厚接触者の認定を受けたものの行政検査を受けられない場合は抗原定性検査キット(各自で用意)での検査結果の写真をメールで送る
- 公共の交通機関を利用せずかつ人が密集する場所を避けて来場する
- 試験当日の朝、再度抗原定性検査キットを用いて検査を行い、陰性の結果を写真をメールで送る。陽性だと受験不可
- コロナ禍で受験できなかった場合は「特例措置」で大学入学共通テストの成績を用いて合否判定。新たな受験料は不要
首都圏の難関私大は学部ごとの一発勝負が多く、他日程への振り替えができません。大学入学共通テストでの合否判定がよくあるパターンです。
しかし抗原検査キットって1個いいお値段ですよね?
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② 駒澤大学
医療健康科学部を除くすべての学部で3月7日のT方式への振替受験が可能です。対象は共通テスト利用と2月4~8日の入試で、3月7日にコロナで受験できなかった場合は3月20日に⼩論⽂・⾯接・⼝頭試問による振替試験を行います(医療健康科学部は3月7日のT方式がないのでその日に小論文・面接・口頭試問による試験)。
詳しくは受験予定の大学のHPを参照してください。
まとめ
- 少子化の中で新学科を設立したり定員を増やす大学が多い
- 首都圏私立大学は「コロナ禍慣れ」からか人気回復傾向
- 入試改革で科目負担が大きくなったところは受験生(おそらく科目を絞っている生徒)に不人気。つまり負担が大きい方ほどチャンスの芽はある
- 地方から首都圏私立を目指すなら課金ゲームの英語外部試験方式よりも個別試験や共通テストをかませる方式が無難
- 大学間の併願関係と自身の伸びしろを勘案して、チャレンジ・実力相応・安全の三つを無理のない計画で受験する
私立大学の一般選抜の出願は早いところは12月末から、共通テスト前後がピークです。12月中に受験計画を練りましょう。
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