はじめに
ポンコツ入試改革にコロナ禍のダブルパンチで、2021年度入試を受験する高校三年生は本当に気の毒です。
前回に引き続き河合塾の「模擬試験の結果と志望欄から今年度入試の動向を分析する会」で聞いた話を公開されている範囲で引用し、大学のHPで裏を取りながら、2021年度入試について考察します。第3回は関西編です。
河合塾の模試は公開会場が中止になり、浪人および首都圏・近畿圏の現役生のデータが減っています。また予備校は経営上チャレンジを奨める傾向にあることをお含み置きください。
公募制推薦の最新の結果も付け加えます。
参考
目次
1 基本編
① 受験生を取り巻く環境
- 2020年度の高校三年生は約114万人
- 進学率約56%。つまり現役受験生は推定約63万人
- 2021年度の大学収容力は約63万人
- 浪人生の共通テストの志願者は4万人から2万人に減少
- 浪人生の減少により、選ばなければほぼ大学に行ける模様
参考「18歳人口の減少を踏まえた高等教育機関の規模」
https://www.mext.go.jp/content/1413715_013.pdf
「大学への進学者数の将来推計について」
② 入試改革のゴタゴタとその影響
- 文科省は「学力の三要素」の観点で入試を行なうよう指導している。
- 文科省は主体性評価について調査書を活用するように迫っている。
- 文科省は大学に民間英語検定の活用を迫っている。
- 関西圏の私立大学は従来から公募制推薦で調査書を活用(評定平均値を点数化)、英語民間検定も一部入試方式で活用している。
- 関西圏では首都圏のような大幅な入試変更を行なう大学はない。
③ 生徒の志向
- 2020年度入試ではポンコツ入試改革を敬遠して現役志向が強まり、2021年度入試では浪人が激減している。
- 模擬試験の志望校記入では勝負を避ける傾向や地元志向が顕著。
- 偏差値上位校は競争緩和だが、偏差値帯の帯の低い方へと志望校を伸ばしていく生徒は相変わらず多い。
2 関西私立大学編
① 全体
1)関西私立大学のヒエラルキー
関西の私立大学は「関関同立」(関西・関西学院・同志社・立命館)と「産近甲龍」(京都産業・近畿・甲南・龍谷)が総合大学です。
加えて単科系(大阪経済・大阪工業・関西外国語など)、「摂神追桃」(摂南・神戸学院・追手門・桃山)、資格系(仏教・畿央・京都橘など)、女子大(京都女子・同志社女子・武庫川女子など)が8大学と併願関係を持っています。
国公立大学も京都・大阪・神戸・大阪市立を軸に、独自の強みを持つ国公立大学が切れ目無く存在しています。
これらの間には併願の「定石」があるので、ぶんぶんのような訳知りが「この持ち点なら国公立は前期神戸、後期滋賀、私立は同志社を一般、立命館はセンター利用」と指南します。この辺が「私立王国」の首都圏との違いです。
2)模試から見る受験生の動向
河合塾の模試の志望欄では、関関同立と産近甲龍は前年並み、昨年膨張した摂神追桃は減っているそうです。
一方で共通テスト利用方式を志望欄に書いている生徒が増えています。浪人を避けたい国公立第一志望者が併願で「超安全校」まで書いている、私立専願の人もリスクヘッジで共通テスト利用を検討していると思われます。
学部系統では文系が減り、理系は農学部以外は堅調、栄養と看護が人気回復しています。コロナ禍で医療に目覚めたということですよね!
② 2021年の公募制推薦・総合型選抜の結果(速報)
1)早く決めたい?
「新型コロナウイルス感染症の影響で生徒が早めに受験を終わらせようとする」という噂が立っていましたが、ここまでの結果は大学によって違います。
関西圏の公募制推薦の多くは併願可能で筆記勝負、いわゆる「プレ一般入試」です。この方式では「産近龍」が「生態系の頂点」になります。
河合塾の速報および各大学のHPの出願者速報を見ると、龍谷と近畿が志願者増、他では大阪学院、大阪産業、大和が増加していますが、それ以外は減っています。
2)減っている大学
2021年度入試の公募制垂線の志願者は総合評価型(調査書を点数化してテストに加算)、基礎評価型(テスト勝負)とも前年よりやや減少、一方合格者は定員増もあって昨年度以上出ています。HPより。
公募制 | 2021年度 | 参考 2020年度 | ||||
受験者 | 合格者 | 倍率 | 受験者 | 合格者 | 倍率 | |
総合評価 | 7,271 | 2,474 | 2.9 | 7,349 | 2,065 | 3.6 |
基礎評価 | 4,799 | 507 | 9.5 | 5,638 | 458 | 12.3 |
2021年度の公募制推薦Aでは受験者14,294名に対して合格者6,295名、倍率2.3倍(2020年度は受験者15,780名、合格者4,896名、倍率3.2倍)です。
受験者が減る一方で合格者が増えています。摂南大学はここ2年程定員厳格化による「安全志向」から多くの受験者を集めましたが、関関同立で追加が出ると産近甲龍に辞退者が出て、そこが追加合格を出すと摂南に辞退者が出る、という「玉突き」が生じていました。
本年度はそれに備えて多めに合格者を出したと考えられます。ビビらずチャレンジした人はラッキーだったかもしれません。
3)増えている大学
学校推薦全体で志願者が約2,000人増加しています。
2教科型入試では、学部によって人気・不人気が発生しています。
予備校の予想に近い動向です。国際はコロナ禍で留学が難しく不人気の予想でしたが、受験生は例年並み、合格者が増加したため倍率は下がりました。
志願者は昨年度から約3,700人増加し、合格者も約2,800人増えています。
ただし理系(理工、生物理工(和歌山)、工(広島))で志願者が減少しました。合格者は増えているのでチャレンジした人はラッキーでした。
他学部は出願者、合格者とも増加しています。不人気と言われていた法学部も志願者を集めました。「ひとり勝ち」の様相です。
留学必須の国際学部は出願者は増加し、合格者は減っていています。合格最低点は例年並みです。
4)総合型選抜
入試統計が上がっている大学が少ないのですが、京都産業大学のHPを見ると志願者がやや減っています。
AO | 一次選考 | 二次選考 | ||||
志願者 | 受験者 | 合格者 | 志願者 | 受験者 | 最終合格者 | |
2021年度 | 302 | 301 | 143 | 141 | 137 | 95 |
2020年度 | 362 | 351 | 164 | 148 | 140 | 105 |
EduAの記事は、大都市圏では休校が長引いたり部活動の全国大会や英語民間検定の中止・延期が相次いだため、準備に時間がかかり「アピールポイント」が必要な総合型選抜は出しづらかったと分析しています。
河合塾調べによると、関西圏の多くの大学で志願者は減少しています。ただし一部大学が総合型選抜を増大した(おそらく公募制推薦を振り替えた)影響で、全体では定員と志願者は増えています。
5)まとめ
- 総合型選抜は休校の影響で敬遠気味。
- 公募制推薦は、定員管理厳格化が一段落し、志願者増・減にかかわらず合格者をしっかり出すようになった。
一般入試はどうなるでしょうか。( ̄ー ̄?).....??
③ 大学別トピック
*これは12月18日の情報です。最新情報は各大学のHPで確認してください!特に「濃厚接触者で無症状」の方の扱いが変更される可能性があります。
1)関西大学
後期一般入試が廃止され後期は共通テスト利用だけになります。また一般入試はこれまで2月1~7日の前半は学部個別、後半は全学部でしたが、すべて全学部入試になります(情報学部のみ個別あり)。出題形式は従来のままで前半は記述が多めです。
新型コロナ禍で欠席の場合は、受験料を返金して後期の共通テスト利用を申し込みます(後期を実施していない商学部と社会学部は別対応)。
感染が拡大した場合は一般入試の延期も想定しているそうです。さすがは社会安全学部を有するだけのことはあります。あ、危機管理学部ってのが東に(以下略)。
2)関西学院大学
理工学部が理・工・建築・生命環境と4学部体制になり、定員も増加しました。人気のようです(場所は新三田)。また一次手続きの締切が2月14日から2月24日に延長、入学金も30万円から20万円と他大学並みになりました。
一般入学試験に出願し、新型コロナウイルス感染症等に罹患したなどの理由で受験ができなかった者を対象として、追試験を2021年3月3日(水)に行ないます。
www.kwansei.ac.jp
3)同志社大学
理系で共通テスト方式の希望者が増えているそうです。難関(京都・大阪)第一志望者は早稲田や慶応を併願受験したりしますが、東京は勘弁ということでしょうか。
コロナ禍で2021年度一般選抜入学試験を受験できなかった入学志願者には「特別試験」を 2021年 3月 7日(日)に京田辺キャンパスで実施します。試験科目は文系型は英語と国語、理系型は英語と数学です。
京田辺キャンパス。かつてはのどかな田園地帯でしたが、最近は開発が進んでいます。
4)立命館大学
従来立命館大学は、私立専願は一般入試狙い、難関・準難関国公立志望者はセンター利用科目数多めが鉄板でしたが、今年の動向では共通テスト利用が減り、一般が増加しています。
一般入試の出願者が新型コロナウ イ ルス感染症等に罹患した場合は、所定の手続きの上、別日程への振替または入学検定料の返還が可能です。
5)京都産業大学
理学部のある中堅私立大学は少ないため、一般、共通テスト利用とも人気を集めています。獣医学部になれなかった生命科学学部は農学部系統不人気のあおりを受けています。
新型コロナウイルス感染症等に罹患・濃厚接触者になった、当日熱がある人は受験できず、別日程への振り替えが可能です。
6)近畿大学
ここ数年難易度が上昇、国公立大学の併願先として定着しました。一方で昨年度は辞退者が続出し3,000人以上の追加合格を「やらかし」ました。そのため今年からは「繰り上げ合格候補者」を設定します。
今年の動向では共通テスト利用が人気で、従来は立命館を押さえにしていた国公立志望者が志望欄に書いていると考えられます。
コロナ禍で欠席した生徒は別日程への振り替えが可能です。後期を欠席したら返金になります。
7)龍谷大学
文系メインの大学なのでやや苦戦の予想でしたが公募は堅調でした。共通テスト方式は前期中期で2科目方式を新規実施します。
コロナ禍で欠席した場合は受検料を返還します。濃厚接触者はPCR検査陰性・無症状・公共交通機関以外で来校可能なら別室対応、欠席は受検料を返還します。
8)甲南大学
模試の志望欄では志望者は集まっていませんが、好きな人は好きな大学です。コロナ禍で欠席の人は追試験を実施します。
まとめ
定員管理厳格化は一段落し、各大学とも合格者を増やしています。数年前よりは「勝負をすればどうにかなる」状態です。一方で受験生の現役志向、安全志向は加速しているようです。
コロナ禍が収束する目処が立たない中、感染拡大地域に進学することへの不安はあるでしょうし、経済的に苦しい家庭もあります。「〇〇大学は狙い目だからつっこめ!」と言われても、すんなり「ハイ」とは言えないかもしれません。
とはいえその大学に行きたいなら準備して勝負するしかないです。
情報は刻々と変るので志望大学のHPを確認してください!