はじめに
3月24日に大学入試センター(以下DNC)から2025年以降の共通テストの科目について発表がありました。最終的には文科省が決めるそうです。
毎日新聞の記事
今回はDNCの発表を引用しつつ、現在の共通テストとの変更点について解説します。
目次
- はじめに
- 1 破綻した入試改革について反省した?
- 2 国語は小説も出題される
- 3 地歴公民は科目変更でやや複雑
- 4 数学 数学Cは必須
- 5 理科はほぼ前と同じ
- 6 外国語は現行通り
- 7 情報が新設
- 感想
1 破綻した入試改革について反省した?
現在,文部科学省の「大学入試のあり方に関する検討会議」において,大学入学共通テストと各大学の個別入試との関係,記述式問題の導入,英語4技能の評価等について議論されているところであり,今後,当該会議の検討結果を踏まえ,必要な対応を行うものである。
議論中だから今回の案には記述式や英語民間検定の活用は盛り込んでいないとのことです。しかし現状では何も解決していないです。
ぶんぶんは「検討会議」の様子をYouTube中継で何度か視聴しましたが、今回の件を全く反省せず執拗に英語民間検定導入にこだわる私立高校の代表と称する人がまだ委員に残っていますし、エビデンスに基づかず個人的な経験談(レストランの店主のつぶやき)だけで英語民間検定を推す人がいたりします。
さらに大学の英語教育の専門家が「英語民間試験を入試に代用する問題点」について完全に説明しているのに、次の回には業者が来てプレゼンまがいのことをしたりと、文科省自身が改革の失敗を反省していない、「議論だけしました」とアリバイ作りをしているようにも見えます。
ゾンビが復活しないか監視が必要です。ゾンビは脳幹(以下略)。
蒸し返し。ここであがった問題点は何か解決しましたか?それどころか英検協会は公開会場を値上げして、ますます「身の丈入試」になってますよ!
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
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さすがにCBTはいったん諦めたみたいです。「全国的に均質で質の高い受験環境」は英語民間検定をごり押しする人や検定業者にも言ってあげてください。
(1) CBTの検討
令和7年度大学入学共通テストではPBT(Paper-based Testing:紙で実施する試験)で行うこととする。
大学入学共通テストをCBT(Computer-based Testing:コンピュータ等で実施する試験)で行うメリットは大きいが,単なる学力試験・調査等をはるかに超える実施水準が求められる大学入学者選抜の性質を考えると,全国的に均質で質の高い受験環境(パソコン,ネットワーク等)の確保,トラブルが生じた場合の対応体制の構築,新しい試験の在り方に対する受験者を含めた社会全体の理解などについて,細やかな検討が必要である。これらを踏まえ,引き続き,CBTに関する調査研究を進めることとする。
2 国語は小説も出題される
出題科目は『国語』の1科目とする。
『国語』は「現代の国語」及び「言語文化」の内容を出題範囲とし,近代以降の文章(論理的な文章,実用的な文章,文学的な文章)及び古典(古文,漢文)を扱う。また,国語で一つの試験時間帯とする。
「現代の国語」と「言語文化」で出題ジャンルはコンプするので「国語総合」から出題される現行から変更なし、「実用的な文章」(駐車場の契約や生徒会の模擬議論)は2021年の共通テストでは追放されましたが新課程の「目玉」なので出題されます。
追放されたのはおそらくこれが原因です。
旧課程では1年生で「国語総合」、2年生で「現代文」「古典」を履修していたと思いますが、新課程では現代文が「論理国語」と「文学国語」に分かれました。
自称進学校は理系偏重のきらいがあり、理系クラスは国語の時間数が少ないので、もし「文学国語」がカリキュラムにないと文学作品の学習は1年で終わりです。大丈夫?
3 地歴公民は科目変更でやや複雑
地歴
出題科目は『地理総合,地理探究』,『歴史総合,日本史探究』及び『歴史総合,世界史探究』の3科目とする。
『地理総合,地理探究』は「地理総合」及び「地理探究」の内容を,『歴史総合,日本史探究』は「歴史総合」及び「日本史探究」の内容を,『歴史総合,世界史探究』は「歴史総合」及び「世界史探究」の内容を,それぞれ出題範囲とする。また,公民と組み合わせた科目として,『地理総合,歴史総合,公共』を出題する。
(注1)『地理総合,歴史総合,公共』の出題範囲(地理歴史及び公民の必履修3科目)のうち,いずれか2科目(「地理総合」及び「歴史総合」、「地理総合」及び「公共」、「歴史総合」及び「公共」)の内容の問題を選択解答させる。
公民
出題科目は『公共,倫理』及び『公共,政治・経済』の2科目とする。
『公共,倫理』は「公共」及び「倫理」の内容を,『公共,政治・経済』は「公共」及び「政治・経済」の内容を,それぞれ出題範囲とする。
また,地理歴史と組み合わせた科目として,『地理総合,歴史総合,公共』を出題する。
出題科目の選択方法
出題科目の選択方法は以下のとおりとし,地理歴史及び公民で一つの試験時間帯とする。
・『地理総合,地理探究』,『歴史総合,日本史探究』,『歴史総合,世界史探究』,『公共,倫理』,『公共,政治・経済』及び『地理総合,歴史総合,公共』の6科目から最大2科目を選択させる。
・ただし,『公共,倫理』と『公共,政治・経済』の組合せを選択することはできない。
・また『地理総合,歴史総合,公共』で選択解答した問題の出題範囲の科目と同一名称を含む科目の組合せを選択することはできない。(同一名称を含む科目の組合せとは,『地理総合,歴史総合,公共』の地理総合と『地理総合,地理探究』,『地理総合,歴史総合,公共』の歴史総合と『歴史総合,日本史探究』及び『歴史総合,世界史探究』,『地理総合,歴史総合,公共』の公共と『公共,倫理』及び『公共,政治・経済』の組合せをいう。)
(例)『地理総合,歴史総合,公共』で「地理総合」及び「公共」を出題範囲とする問題を選択解答した場合,『地理総合,地理探究』,『公共,倫理』及び『公共,政治・経済』を選択できない。また,歴史系科目から2科目を選択できるようにする。
いわゆる「国立文系」で地歴・公民2科目受験の人は、『歴史総合,日本史探究』と『歴史総合,世界史探究』の「歴史総合かぶり」はOK、ただし『地理総合,歴史総合,公共』には「同一名称を含む科目は選択できない縛り」がかかるということです。
つまり『地理総合,歴史総合,公共』は国立文系向きではなく、地歴公民1科目でOKの理系、文系アラカルト、専門高校を想定しているみたいです。
したがって従来通り東大狙いの人は地歴から2、それ以外の人は地歴1、公民1が基本戦略になります。
ん~?
日本史と世界史の組み合わせがOKなら、その「歴史総合」の出題内容は違うということ??
なお単位数的には、旧帝大の4単位×2=8単位が2+4単位+4単位の10単位と負担増、大阪市立大学のように「公民は現代社会も可」だったところは6単位が10単位に増えます。
世界史の先生と相性が悪くて公民2科目(現代社会と倫理)受験という離れ業はできなくなりました。
4 数学 数学Cは必須
出題科目は『数学Ⅰ,数学A』,『数学Ⅰ』及び『数学Ⅱ,数学B,数学C』の3科目とする。
『数学Ⅰ,数学A』は「数学Ⅰ」及び「数学A」の内容,『数学Ⅰ』は「数学Ⅰ」の内容をそれぞれ出題範囲とする。
『数学Ⅱ,数学B,数学C』は「数学Ⅱ」,「数学B」及び「数学C」の内容を出題範囲とする。
(注2)『数学Ⅰ,数学A』の出題範囲のうち,「数学A」については,2項目の内容(図形の性質,場合の数と確率)に対応した出題とし,全てを解答させる。
(注3)『数学Ⅱ,数学B,数学C』の出題範囲のうち,「数学B」及び「数学C」については,「数学B」の2項目の内容(数列,統計的な推測)及び「数学C」の2項目の内容(ベクトル,平面上の曲線と複素数平面)に対応した出題とし,このうち3項目の内容の問題を選択解答させる。
数学Bの2項目、数学Cの2項目から3題を解答なので、数学Cは文系も必要ということです。自称進学校だと「文系は数学Bまで」というカリキュラムを考えていたかもしれないので、教務主任さんはこのブログを見て対策を考えましょう。
なお数学②の選択科目で専門高校向けの「簿記会計」と「情報処理基礎」は廃止、そちらに在籍する生徒さんが国公立大学を受験する場合はベクトルまで学習する必要が起きる可能性があります。カリキュラム的に大丈夫?
5 理科はほぼ前と同じ
出題科目は『物理基礎,化学基礎,生物基礎,地学基礎』,『物理』,『化学』,『生物』,『地学』の5科目とする。
『物理基礎,化学基礎,生物基礎,地学基礎』は「物理基礎」,「化学基礎」,「生物基礎」及び「地学基礎」の内容を出題範囲とする。
『物理』は「物理」の内容を,『化学』は「化学」の内容を,『生物』は「生物」の内容を,『地学』は「地学」の内容を,それぞれ出題範囲とする。
(注4)『物理基礎,化学基礎,生物基礎,地学基礎』の出題範囲(「物理基礎」,「化学基礎」,「生物基礎」,「地学基礎」)のうち,いずれか2科目の内容の問題を選択解答させる。
理科総合がまとめて1科目扱いになりましたが、2科目選択解答なので現行と同じです。理科選択のAパターン~Dパターンも現行通りです。
6 外国語は現行通り
外国語
出題科目は『英語』,『ドイツ語』,『フランス語』,『中国語』及び『韓国語』の5科目とする。
『英語』は「英語コミュニケーションⅠ」,「英語コミュニケーションⅡ」及び「論理・表現Ⅰ」の内容を出題範囲とする。『ドイツ語』,『フランス語』,『中国語』及び『韓国語』は,『英語』に準ずる。
『英語』の試験形態は,引き続き,問題冊子,マークシート式解答用紙及びICプレーヤーを使用して実施する方式とする。なお,ICプレーヤーを使用して実施する試験は『英語』のみとし,別の試験時間帯で実施する。
*出題科目の選択方法
『英語』,『ドイツ語』,『フランス語』,『中国語』及び『韓国語』の5科目から1科目を選択させる。
DNCは共通テストの英語民間の英語検定に丸投げして完全撤退のつもりが批判を受けて、2024年まではしぶしぶ出題することになりました。おかげで英語はリーディングとリスニングだけ、あれほどこだわった「英語4技能をバランスよく」はどこかへ行き、リーディングは薄味、リスニングは短期記憶を問う、国公立大学の一次試験としてはお寒い内容でした。
2025年度以降も引き続きしぶしぶ出題するそうです。(´・ω・`)
なお英語以外は受験者が少ないからDNCはやめたいみたいです。
まあ例の特例追試も新規で作成できず2014年作成のセンター試験バックアップ問題を使用、しかも初見の読解力を問う現代文はセンター過去問を手直しただけ、中の人のやる気を疑ってしまいます。
7 情報が新設
出題科目は『情報』の1科目とする。
『情報』は「情報Ⅰ」の内容を出題範囲とする。
また,情報で一つの試験時間帯とする。(検討の考え方)
新学習指導要領では,2科目(「情報Ⅰ」,「情報Ⅱ」)が設定され,これらのうち「情報Ⅰ」が必履修科目とされている。
また,「未来投資戦略2018―「Society5.0」「データ駆動型社会」への変革―(平成30年6月15 日閣議決定)」により,「義務教育終了段階での高い理数能力を,文系・理系を問わず,大学入学以降も伸ばしていけるよう,大学入学共通テストにおいて,国語,数学,英語のような基礎的な科目として必履修科目「情報Ⅰ」(コンピュータの仕組み,プログラミング等)を追加する」とされている。
このため,必履修科目「情報Ⅰ」の内容を『情報』として出題する。
情報を新設する根拠が経産省が進める「Society5.0」で、学問の府を統括する文部科学省がその粗雑な議論に反論すらしないのは情けない限りですが、ここではその是非は立ち入りません。
以下の論考は面白いです。「Society5.0」は20世紀的で管理主義的発想という鋭い指摘です。
高校や受験生に関わる問題点は以下です。
- 情報は必履修にも関わらず情報の教員(正採用)がすべての高校に配置されていない。非常勤や臨時免許で回している高校は授業は何とかなっても受験対策までは難しい。大規模・大都会の高校とそうでない高校の格差が懸念される。
- 「国策大学」に堕した国立大学は文科省の意向には逆らえないので、国立大学は「情報」を必須にする可能性が高い。つまり学習負担が増える。
- そもそも「共通テストで情報を必須にすれば教員も真面目に取り組むし高校生の情報技術が上がる」という「入試改革で教育改革」という議論が、記述式や英語民間検定導入の失敗を踏まえていない。
- 現在の共通テストの時間割、二日間とも夕方までかかる中で「情報」をどこかに入れると、さらに帰宅時間が遅くなる。
毎日新聞 有料記事
感想
- 今回の発表は前回のものからあまり変わっていません。
- 2020年度の入試改革の破綻についての反省を踏まえているのか、そもそも反省しているのか疑問が残ります。
- 新課程のカリキュラムで理系で文学国語、文系で数学Cをおいていない自称進学校は早急に見直した方がいいです。
- 受験生にとっては地歴公民の単位数増加と情報新設で負担増、専門高校の生徒は数学で負担増です。
- 県教育委員会は高校にパソコンやネットワークを整備して仕事が終わりではなく、すべての高校に情報の専任正規教諭を配置するべきです。
今後の情報に注視し、ダメなものはダメと言いましょう。