ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2020年度からの大学入学共通テスト(英語成績提供システム2019年11月)

 11月1日から「英語成績提供システム」で目まぐるしい動きがあって、ついていけないのですが、最低限のことをまとめました。

目次

  

1 大学入学共通テストに導入される英語民間検定、来年度からの実施を見送り

【大学受験】英語民間試験の見送り決定、2024年度より導入 | リセマム


身の丈発言

www.asahi.com

 

 11月1日に萩生田光一文部科学大臣は「令和2年度の大学入試における英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送る」と発表しました。

 大学入試における新たな英語試験については令和6年度に実施する試験から導入することとし、今後一年を目途に検討し、結論を出すとしています。

 大臣メッセージによると中止理由の核心はこうです。

英語教育充実のために導入を予定してきた英語民間試験を、経済的な状況や居住している地域にかかわらず、等しく安心して受けられるようにするためには、更なる時間が必要だと判断するに至りました。

 

ん~?

 

 システムが延期になったのは、萩生田大臣のBSフジ番組内での「身の丈発言」がきっかけですが、経済的格差以外にも問題点が山積です

 

 大学入学共通テストで英語民間試験を利用することの問題点(6月の国会請願)

1. 「各資格・検定試験とCEFRとの対照表」に科学的な裏づけがない

2. 試験の質に関する実質的な審査は行われていない。試験の運営は各民間試験団体に丸投げされており,第三者が監視・監査する制度がない。

3. 全員がトラブルなく受験できる目処が立たず,混乱・不安が広がっている。

4. 合否判定にまったく,あるいは,最小限の影響しか与えない民間試験の使い方をしながら,全員に受験を課す国立大学が多い

5. 受験機会の不平等←これが中止理由

6. 4技能やスピーキング能力が向上する確証がない。 

詳しい解説 

 1、野党合同ヒアリングで議員が指摘した通り、CEFRの比較表を決めた8人のうち5人は検定団体の人間、のこり3人も各検定と密接に関わっています。

yasaidemo.com

 

2、文科省民間検定団体に対しては指導はできないスタンスで、逆に8月末日付けの文書で大学や地方自治体に「検定団体に格安で会場を貸すよう」通知し、業者(英検は予約金集めて会場探しに奔走しているのでベネッセ)に便宜を図っています。

 6、そもそも進学率5割なのに、入試でスピーキングを試せば能力が向上するという発想が間違っています。残りの5割はどうなるのでしょう。授業の改善、少人数教育の推進など他の方法を考えるべきです。駅前の英会話教室で40人で授業しているところはありません。

 また大学入試センターは「センター試験にリスニングを追加したおかげでリスニングが向上した」というエビデンスを出すべきです。それなしで「日本人はスピーキングが弱い」というデータだけで「だから入試で検定」は論理の飛躍ですし、そもそも文科省が必要な施策をしていないからで、教員の責任にするのはお門違いです。

*発展:母語でも「おしゃべり」と「自分の意志を客観的に伝える」は別、後者は「読む・聴く」が前提です。英語を習って間もない児童・生徒のスピーキングが弱いのは当たり前です。

 

 高校生に英語検定を受けさせることが先、「グローバル化」の名を借りた「不安商法」「利益誘導」と勘ぐりたくなります。

 文科省はよく学校現場に「エピソードよりもエビデンス」と言いますが、そっくりお返ししたいです。



2 大学入試センター「共通ID」の申し込みを中止する

 大学入試センターは11月1日に「英語成績提供システム」に使用する「共通ID」の申し込みを中止しました。

共通ID発行申込書の取扱いについて

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00037984.pdf&n=%E7%94%B3%E8%AB%8B%E6%9B%B8%E3%81%AE%E5%8F%96%E6%89%B1%E3%81%84.pdf

 

 このシステムは、三年生で進級や退学、名前の変更などの処理が必要で、また生徒が非課税世帯かどうか調べるなど、個人情報の収集・管理を高校の教員が行います。高校の教員を政府の官吏とか思ってる?

 大学もこのシステムを使って英語の成績を請求する場合料金が発生します

 なお廃止ではなく延期なので蘇ってきそうです。

 

 このゾンビは脳幹を撃ったらアウトですけどね。

 

3 文科省 大学が独自で英語検定を使うか聞く

  1日の発表も「大学が二次試験で民間試験を活用するのは妨げない」でした。与党からは「民間検定を使う大学には補助金をつけては」と意見が出るなど「どうしたら大学が民間検定を使うか」に話が向いています。

 日刊ゲンダイは「利権」と舌鋒鋭いです。

www.nikkan-gendai.com

 

 正式な文書が11月15日に出ました。12月13日(金)までに各大学が態度を明らかにするよう求めています。

www.mext.go.jp

 

f:id:tokoyakanbannet:20191123134212p:plain

いらすとやの「 かわいいゾンビ」。

 

4 国立大学協会 「英語民間検定を必須とする」のガイドラインを撤回せず

【大学受験】英語民間試験導入見送り、国立大協会「残念であるとともに驚き」 | リセマム

https://www.janu.jp/wp/wp-content/uploads/2021/03/20191101-wnew-comment.pdf

 


 「国立大学協会」(会長・永田恭介筑波大学長)は9日の熊本市内の総会で、各大学が29日に二次試験の英語で民間検定試験を利用するかなどの対応について、一斉に発表すると決めました。

 国大協は2017年の基本方針で各大学に「一般入試の全受験生に共通テストの英語民間検定試験を課す」よう求めていました。会場からは「前提が変わった」として方針の見直しを求める声も上がりましたが、永田会長は「一度決めたもの」として退けました

 京都工芸繊維大学の羽藤先生によると、基本方針のアンケートは1週間以内の回答で、議論する間がなかったそうです。それを「みんなで決めたこと」と錦の御旗にする(しかも前提が崩れている)のは科学を標榜する大学としてどうかと思います。

 なお大学が独自で英語検定を必須にすれば大混乱必至です。

*会場で国大協に意見したひとりが京都工芸繊維大学長、私の中では理系生徒にすすめたい国立No.1です。

 

4 大学入試センター、「共通テスト」の英語は前の発表のまま

 https://www.dnc.ac.jp/news/20190607-03.html

 11月15日に大学入試センターは「大学入試英語成績提供システムの導入延期に伴う令和3年度大学入学者選抜大学入学共通テストの出題方法等について」を発表し、英語はリーディングとリスニングのみ出題、配点比率は100:100としました。

  私は英語のプロパーではありませんが、英語の四技能はバラバラにトレーニングするものではなく、どの学習でもすべての技能を意識し、どういう形のテストであれすべての技能が(配分は違うものの)試されると考えます。

 したがって「2技能だけ試す」はミスリード、「大学に英語検定を使わせたい=高校生の保護者に金を払わせたい」下心が透けて見えます(個人の感想)。

 

  私は、大学入試選抜の最大の目的は「うちの大学でやっていけるか」を見極めることと考えます。まず必要なのは外国の文献講読ですから、入試で「読む」に力点が置かれるのは当然です。

 したがって、共通の一次試験は「読む」「聞く」ベースで、会話文完成や語句並び替え問題など「話す」「書く」の代替問題を混ぜ、国公立大学の二次試験では長文読解、条件英作文、スピーキングの代替に自由英作文(または東京外国語大学のようなスピーキング試験)を課せばよいと考えます。

 

あれ、現行制度?!

 

*マーク式が多い私立大学の多くも、代替問題を駆使して四技能をバランスよく試す工夫がされています。

 

5 英検協会 「英検2020 1day S-CBT」は実施する

 英検協会は9月以降迷走が続いていましたが(ツイッターではHPの「お知らせ」が文科省や他社への恨み辛みが長いので「お気持ち」と表現)、11月20日付で「英検2020 1day S-CBT」の扱いを発表しました(詳細はHPの「重要なお知らせ」)。

 1回目の予約はGTECが沈黙していたこともあって約30万人とのことです。

 現高校2年生で予約をしていた人はキャンセル全額返金か、そのまま受験する(従来型英検より低料金で提供)を選べます。期間は12月3日(火)~12月24日(火)です。

 しかし日程は土日のみ、会場数も縮小、各会場・日時によって実施級が違います。

 この時期三年生は部活の試合などが立て込んでいて、本申し込みで都合のいい日が取れるかは不透明、またCBTを一斉かつ大人数で行うのも未知の領域です(英検CBTでは不具合やり直しの報告もあり)。不安払拭をお願いします。

 

6 GTEC、共通テスト版から撤退

 ベネッセコーポレーションは10月31日付けで「GTEC共通テスト版」の詳細を発表しました。(すでにHPからは削除) 

検定料:6,820 円(税込)(減免の場合5,460 円)

受検日:第1回(6月14 日)・第2回(7月19 日)のいずれかから1回、第3回(10 月4日)・第4回(11 月1日)のいずれかから1回。試験の開始は各検定日とも午後を予定。

受検地区:全国161 の受検地。申し込みは受検地の単位で行い、会場名は受検日の2週間前までに受検票で伝える。

申し込み:専用のWeb サイトから。申し込み期間は、第1回、第2回とも2020 年3月11 日から3月25 日、第3回、第4回は2020年7月10 日から8月4日。受検希望先(受検日・受検地)の席数が満席の場合は、受検日もしくは受検地を変更あり。

 2週間前まで受験場所がわからないとは「ミステリー列車」みたいです。

  また「地域別対応」という項目があり、

「会場や実施運営等について地域のご協力をいただくことで受検地や会場を拡充する取り組み」です。現在まで、多くの教育委員会や高等学校から「離島・へき地も含め、地域の実情に合わせた受検地を設置してほしい」というご要望をいただきました。このようなご要望に対し、弊社との協議を踏まえ会場や実施運営等のご協力をいただける都道府県(政令指定都市含む)において、「地域別対応」の準備を進めております。

 教育委員会や高校が「『うちの近所でGTECしてないよ~(涙)ベネッセさん何とかして~』とお願いに来たら考えましょう、その代わり高校でやってください」ということでしょうか。

 

 一転して11月13日付けで「 GTEC 大学入学共通テスト版の実施は行わない」と発表しました。

https://www.benesse.co.jp/gtec/fs/cuet/news/pdf/gtec20191113_01.pdf

しかしながら「GTEC」検定版は、出題構成や実施形式および提供スコアなどのテスト内容については 「大学入試英語成績提供システム」の参加要件を満たしていたため、2020年度に向けては、入試対応としての機能を向上させた「GTEC」検定版の受検機会を拡充することにいたしました 。

 来年度は現行の「検定版」です。検定料は6,380 円で共通テスト版よりも安いですが、今年度は5,040円なので1,000円以上の値上げです。(´・ω・`)

 

*発展:GTECは学校実施のため内容をご存じない方に説明します。公開情報ばかりですので、情報漏洩という批判は当たりません。

実施方法(CBT以外)

すべて教室で一斉実施。3技能はPBT(紙に書く)、スピーキングはタブレットの音声を聴きながら録音する。

*2019年当時はタブレットはふたりに1台で使いまわす。

種類(高校生向け)

  • アセスメント版:授業でGTECを体験。
  • 検定版:4技能版は2017年から。学校申し込み、学校実施。自校教員が事前に問題を仕分けし(「不正はいたしません」とサイン必要)、教員+学生バイトが実施・監督・発送する。スピーキング用タブレットは受験者数の1/2が送られてくるので交代で使用。オフィシャルスコアがもらえて、私立大学の英語検定利用方式に使える場合もある。
  • CBT版:個人申し込み。公開会場。私立大学には検定版不可でCBTのみ有効というところもある(明治、法政など)。
  • 共通テスト版:個人申し込み、公開会場で実施←廃止

 つまり検定版は「テスト内容」は要件を満たしていても「実施方法」がセキュア不足(その気になれば不正可能)なので共通テストには使えません。明治や法政、国立では広島大学が検定版不可なのもそれが理由と思われます。

 

 11月5日の衆議院参考人質疑では、学校カンパニー長が「教育委員会と高校の協力で共通テスト版も全国で実施準備が整いつつあった」と発言しています。


衆議院 2019年11月05日 文部科学委員会 #04 山崎昌樹(参考人 株式会社ベネッセコーポレーション学校カンパニー長)

 

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[英語民間試験]ベネッセも参考人・質疑 高大接続改革11/5 衆院・文科

 

 そこまで準備万端なら、学校会場・自校教員実施という「性善説」仕様ではなく、他団体と同じく公開会場、教員ノータッチの「セキュア万全仕様」を来年度から実施すれば、浪人も受験できますし、いいこと尽くめです。

 しかし結局中止、「本当は50万人規模で実施するのは無理だったのでは?」「高校を会場にして教員を動員する予定だった?」と疑ってしまいます。

 カンパニー長は「GTECはたくさんの高校で選ばれている」と胸を張りました。来年度実施予定の高校は、重いタブレットの運搬・入れ替えに無給でお励みください。

 また上手な生徒の答えを他の生徒がリピートする、タブレット入れ替え中の情報漏洩に厳正に対処してください。

 

おわりに

 次のようなニュースもありますが、国立大学には「民間英語検定を受験者全員に課すことの問題点」を再確認し、個別で民間試験を必須化すればどのような混乱が発生するか認識し、「科学の府」としての判断を願ってやみません。

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