はじめに
「冬には感染第6波が来る」という予想がありながら「想定外」と居直る文部科学大臣、その場しのぎの大学へのお願いしか打つ手がない政府・文科省の後手ぶりが露呈した実施2年目の大学入学共通テストでした。
国公立大学の出願は前期・後期・中期とも来週の月曜日(2022年1月25日)からです。
受験生は自己採点の結果をもとに三者懇談を経て最終的な出願先を決めると思います。国公立大学は基本的に全国を視野に入れるのですが、今年はコロナ禍による不安よりも得点率の低下が受験生も不安に陥れているようです。
本日は河合塾およびベネッセ・駿台連合の自己採点の結果と分析をもとに、国公立大学の2022年度入学者選抜の行方を占います。
なお予備校は「果敢にチャレンジ、浪人するなら我が校へ」がビジネスモデルだと「メタ認知」した上でお聞きください。
参考
大本営 得点調整は今年度はありません。
ベネッセ・駿台。閲覧しようとすると属性(受験生か保護者か)を聞かれます。何データ取ってんのよ!(#゚Д゚)
目次
1 データ編
① 自己採点 総合成績平均
河合塾 | ベネッセ・駿台 | |||||||
2022 | 2021 | 2020 | 差 | 2022 | 2021 | 2020 | 差 | |
58文系 | 520 | 564 | 547 | -44 | 508 | 552 | 548 | -44 |
57理系 | 523 | 581 | 552 | -58 | 513 | 572 | 559 | -59 |
② 科目ごとの平均点
大学入試センターの発表 2022年は1月19日現在の中間集計。2021年と2020年は確定平均点。矢印上向きは増、下向きは減 1本で5ポイント
教科科目 | 2022 | 2021 | 2020セ | 2022-2021 | 増減 |
国語 | 110.25 | 117.51 | 119.33 | -7.26 | ↓ |
世界史B | 65.83 | 63.49 | 62.97 | 2.34 | |
日本史B | 52.81 | 64.26 | 65.45 | -11.45 | ↓↓ |
地理B | 58.97 | 60.06 | 66.35 | -1.09 | |
現代社会 | 60.83 | 58.4 | 65.37 | 2.43 | ↑ |
倫理 | 63.29 | 71.96 | 53.75 | -8.67 | ↓ |
政治・経済 | 56.79 | 57.03 | 57.3 | -0.24 | |
倫、政経 | 69.73 | 69.26 | 66.51 | 0.47 | |
数学ⅠA | 37.96 | 57.68 | 51.88 | -19.72 | ↓↓↓ |
数学ⅡB | 43.06 | 59.92 | 49.03 | -16.86 | ↓↓↓ |
物理基礎 | 30.4 | 37.55 | 33.29 | -7.15 | ↓ |
化学基礎 | 27.73 | 24.65 | 28.2 | 3.08 | |
生物基礎 | 23.9 | 29.17 | 32.1 | -5.27 | ↓ |
地学基礎 | 35.47 | 33.52 | 27.03 | 1.95 | |
物理 | 60.72 | 62.36 | 60.68 | -1.64 | |
化学 | 47.63 | 57.59 | 54.79 | -9.96 | ↓ |
生物 | 48.81 | 72.64 | 57.56 | -23.83 | ↓↓↓↓ |
地学 | 52.74 | 46.65 | 39.51 | 6.09 | ↑ |
英語リーデ | 61.81 | 58.8 | 116.31 | 3.01 | |
英語リス | 59.45 | 56.16 | 28.78 | 3.29 |
③ 平均点は900満点時代(2004年から)では最低
共通テスト初年度はセンター試験ラストと平均点は同程度でした。一転して2022年は5教科8科目文系で44点マイナス、5教科7科目理系は58点のマイナスになりました。
最大の原因は数学ⅠA、数学ⅡBの難化です。
数学以外は平均点6割管理がまあまあできたみたいですが、数学だけは「違う力学」が働いたのでしょうか。
ぶんぶんは職場の数学教員に解答をお願いしたところ、「問題そのものは面白い」といいながら解答の完成にはかなりの時間を要していました。プロパーが制限時間以内で解けるか微妙なものを50万人規模が受験する一次試験で出題するのは問題ありです。
もし大学入試センターや出題者がこの結果を見て「どうだ参ったか!」と思っているなら昭和の数学教師です。
河合塾の説明会資料よりスクリーンショットで引用(以下同じ)。公開されているものの引用は出所明記でOKと、毎回営業さんから許可をいただいています。
難関受験者なら文理とも8割越えマストの数学ⅠAですが、分布表では8割以上が激減しています。さぞショックだったでしょう。
数学ⅡBは読む量が多かったものの傾向がガラッと変わったわけではないので、受験生は数学ⅠAのダメージを引きずったのかもしれません。ヨチヨチ( *´д)/(´д`、)アゥゥ
予備校の共通テスト解答速報より講評を引用
河合塾 数学ⅠA
典型的な問題が少なく、目新しい問題が多かったため、ところどころの設問で戸惑った受験生が多かっただろう。また、解答の方針を立てにくく高度な思考力を要する設問もあり、難易度は高かったと思われる。
駿台予備学校 数学ⅡB
総ページ数は19~21ページ(計算用紙を除く)で、昨年より5ページ増加した。
全体を通して幅広い知識の活用が求められ、難易は昨年より難化。
EduA の記事 清史弘さんの分析
数学の難化は特に成績上位層にダメージが大きく、8割以上得点した人は昨年の3割に減少、6割~8割(地方国立~準難関大学)層も8割に減少しています。
得点が5%目減りしたので、5教科7科目フル受験で80%越えが目標の旧帝大は75%程度、70%が目標の地方国立大学は65%と、約5%ずつぐらいボーダーライン(合否が五分五分の得点帯 以下「ボーダー」)が下がったと考えていいでしょう。
2 分析編
① 全体
リサーチ段階では、難関10大学を書いている人は微減、準難関・地方拠点大学は人気薄、地方国立大学は微減です。
5教科7科目を課す大学はどの大学もボーダーラインが平均点の低下分(5%)程度ダウンしています。
平均点が下がると、受験生は偏差値帯がより低い大学に志望変更したり、昨年低倍率だった大学・学部に集まったり(隔年現象。東海・北陸の大学で頻繁に発生)、共通テスト数学の配点が少なかったり、共通テストより二次試験の配点が高い大学を考えたりします。
しかし今回は受験者が多い数学が難化したので条件はみな同じ、模試でそこそこの判定を出している人は慌てる必要はないかもしれません。
また平均点が下がる年は後期に出すところがなくて出願しない生徒が増えます。リサーチでも志望欄に後期を記入する人が減っています。
国公立大学後期は前期と同時に出願し、前期に合格した人は欠席しますし、先にそこそこの私立に合格をもらった人も欠席するので、例年56%欠席します。
今年はさらに後期がスカスカになる可能性があるので、「是が非でも国立」というなら「出願しなければ合格はない」ので、後期までしっかり受験しましょう。
参考
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
② 地域別
リサーチでは北海道、北陸、四国の大学を志望欄に書く生徒が増えています。その他は昨年並みです。
持ち点が少ない生徒に対して担任が予備校の合否判定システムをパチパチたたくと、地方の国公立大学ならよい判定が出ることもあります。
一次試験が「荒れる」とリサーチ段階ではそうした大学に人気が集まるものの、結局出願しないとか、出願しても志望順位の高い私立に通ったので受験しないという生徒が大量に出て、結局後期の実質倍率はスカスカというという事態が発生します。
ぶんぶんはその昔理学部のイベントに参加しましたが、地方国立の理学部には意欲的な研究をするところや、むしろ地方に巨大な施設があることを知りました。合否判定システムとにらめっこするより、研究内容をよく調べましょう。
薩摩川内市にある電波望遠鏡。『ウルトラセブン』の地球防衛軍みたいです。最寄りの大学は鹿児島大学。
兵庫県佐用郡佐用町にある大型放射光施設、SPring-8(スプリングエイト)。『劇場版科捜研の女』に登場。最寄りの大学は兵庫県立大学理学部。Koji101さん撮影。クリエイティブ・コモンズ 表示 3.0 非移植
③ 系統別
文系では法学部は前評判通りの人気で、成績上位層、下位層とも志望者が増えています。文学部は上位が減るものの、共通テストで65%のあたり(従来の70%の層)は引き続き厚いので、難易度は例年通りと思われます。
社会・国際系はコロナ禍の影響で人気薄、経済・経営系も今の政治が経済を適切に回すことができていないためか人気薄です。
例外は大阪大学外国語学部です。ここは旧大阪外国語大学で、阪大の中では最も共通テストの得点率が低くても合格できるため、外国語系不人気の中でもリサーチでは人気です。「阪大」の名前につられて流入が起きそうな気配との予備校の分析です。
教育系は相変らずの人気薄、各都道府県にある教員養成系は一次試験の配点が高く(小学校ではひとりで全部教える必要があるから当然)難易度も大差ないので、持ち点が少ない受験生には厳しい戦いになりそうです。リサーチでは教員養成系志望者は5割〜6割の辺に集中しているそうです。
とはいえ教科指導は後回しで雑務が多く、そのすべてに専門的スキルが求められる上に定額働かせ放題というブラックな世界に飛び込む覚悟は尊敬します。入試では志望理由書、小論文、面接など教員としての適性が問われますのでご準備ください。
理系は理・工・農とも堅調です。ただし工学部は情報人気に喰われて機械が人気薄です。情報系は学際系(データサイエンスとか)が相変わらずの人気です。
リサーチでは先の阪大と同じく「難関大学の中で入りやすい学科探し」が始まっていて、京都大学工学部では一番入りやすい学科を書く生徒が増加しています。
医療系では歯学部、薬学部が人気です。ぶんぶんが昔業者の人と話をしたときに、医学部が無理そうになると西日本は薬学部、東日本では歯学部にシフトする傾向があるそうです。
ただし医学部は従来85%以上が一次試験の当たり前でしたが、今年はライバルも点を減らしているので80%ぐらいからチャレンジ可能とのことです。
生活科学は資格志向の女子が集まる系統ですが、リサーチではあまり書かれていません。ショックで国公立をあきらめて私立を考えているのかもしれませんが、「みんなもできていない」と知ったら出願する可能性はあります。
④ 近畿圏スペシャル
近畿圏は難易度順で京都→大阪→神戸→大阪市立が隙間なく並んでいます。大阪市立大学と大阪府立大学が合併して大阪公立大学(略称がないので以下「ハムちゃん」)になりましたが、この序列に変化はなく、神戸D判定でC判定のハムちゃんに下げてもそこにはライバルが多数待ち構えています。
ハムちゃん工学部は統合の結果、旧大阪府立にならって後期を中期に全振りしたため、名古屋工業大学の後期がリサーチ段階で増えています。名古屋大学志望者には迷惑な話です。
どの大学も上位者が減っているので、多少持ち点が低くてもこれまでまずまずの判定が出ているならチャレンジしましょう。
かつてセンター3教科85%がボーダーという「文系虎の穴」だった京都府立大学文学部は、2021年度に5教科5科目型に変更したら志望者が激減しました。その反動で今年はリサーチでは人気回復です。
新規の奈良女子大学工学部は認知が進んでいないのかボーダーは低めです。この後共通テストで思った点数が取れなかった女子が出願してくる可能性もあります。
3 問題編
河合塾と駿台の講評、知り合いの先生の話、ぶんぶんが解いた感想です。数学はすでに触れたので省略します。
① 国語
構成は昨年と同じく評論、小説、古文、漢文の4題で、改ざんされた公文書やお花見の出席者名簿やホテルの領収書のような実用的な文書は出題されませんでした。
その代わりに現代文2問の最後に「教室シチュエーション問題」が取ってつけたように出題されています。
大問2は登場人物の心の動きを追っていく小説定番の出題で、文章も面白く設問も適切ですが、突如生徒が文中の「案山子」について「理解を深めようと」と「季語としての案山子」を調べてきた話が挿入されます。
最後の小説全体に関わる問題はこの生徒が調べた内容を無理やり挿入した短文を正誤判断するのですが、正直季語の話はなくても回ります。
平均点低下は古文がやや難解だったからと考えられます。
② 英語
「英語四技能はバランスよく」はどこへやらです。
リーディングは相変わらず実用的な架空の文章が延々と続きます。精読していたら時間が足らないので、要領よく「飛ばし読み」するテクニックが求められます。うーん、それって思考力?
先輩のアドバイス「図書館でビデオを見る時は自前のヘッドフォンを用意」が「ファクト」だったり(図書館がそんな大事なことを先輩のコメントの形で知らせる?)、アメリカ合衆国の大学近くの家電店はどこも炊飯ジャーを置いてあるとか(しかも2万円を切る)、突っ込みどころも忘れず仕込んであります。
リスニングも問題構成は昨年とほぼ同じでした。第6問Bも音声だけで4人の会話の内容を特定する「スパイ養成問題」でした。
リーディング、リスニングとも昨年と同じテイストだったため、高校での「パターン学習」が功を奏したのか平均点は上昇しました。それって英語力?(´・ω・`)
英語の問題は外部検定の活用は頓挫したのに相変わらずバランスが悪いままです。大学入試センターが国語の第二問に出てくる少年のように意固地になっているのか(これは共感できません)、英語外部検定を復活させて利権を貪ろうとする悪代官と御用商人が暗躍しているんじゃないかと邪推してしまいます。
まとめ
- 数学の新傾向出題で平均点は文系理系とも900点満点で5%低下
- 8割以上の上位者が激減、国公立大学のボリューム層(60%~80%)も減少
- リサーチでは志望を下げる(他大学、同大学)、後期をあきらめる人が続出
- 文系は法学部人気、理系は堅調、医学部志望者は歯・薬を検討中
- みんなできていないから「ボーダーが5%下がる」と思ってチャレンジ
- 問題はノイズ(主に太郎さんと教室の仲間たち)が多すぎ。たまにいい問題があるものの、トータルでは情報処理能力の勝負になりがち
- 去年と同傾向の科目は「パターン学習」の成果で平均点が上昇し、新傾向は平均点が下降する。「いたちごっこ」のはじまり
- 共通テストは基本国公立大学の一次試験なのに多くを盛りすぎ
大手メディアは相変らず「共通テストは思考力を重視」と文科省の言説を広報しています。思考力と情報処理力は違います。メディアはちゃんと取材して批判的に報道していただきたいです。批判は共通テストを育てます。
まあ政治の報道を見る限り無理か。(´・ω・`)