ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

どうなる?コロナ禍の2022年度入試(② 私立大学編)

はじめに

 2022年度入試を受験する高校三年生は、ポンコツ入試改革の余波と引き続くコロナ禍(どちらも人災?)で本当に気の毒です。

 前回に引き続き河合塾の「模擬試験の結果から今年度入試の動向を分析する会」で聞いた話を公開されている範囲で引用し、大学HPで裏を取りながら、2022年度入試について考察します。第二回は私立大学です。

 予備校は経営上チャレンジをすすめるということを念頭に置いて聞いてください。

参考

www.keinet.ne.jp

目次

 

1 基本編

① 受験生を取り巻く環境

  • 2021年度の高校三年生は約112万人 1994年度の約205万人から半減
  • 進学率約56%。つまり現役受験生は推定約63万人
  • 2022年度の大学収容力は約63万人
  • 浪人生が減少しているので、選ばなければほぼ大学に行ける模様

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参考「18歳人口の減少を踏まえた高等教育機関の規模」

https://www.mext.go.jp/content/1413715_013.pdf

② 入試改革のゴタゴタとその影響

  • 文科省は「学力の三要素」の観点で入試を行なうよう指導している。
  • 文科省は主体性評価については調査書を活用するように迫っている。
  • 文科省は大学に民間英語検定の活用を迫っている。
  • 首都圏の私立大学には文科省の意向に沿って一般入試で大規模な入試改革を行なうところもある。
  • 近畿圏の私立大学はすでに推薦での調査書の点数化(主に評定平均値)は行なわれていて、英語検定利用も共通テスト利用方式(共通テスト英語との比較)や特定学部での利用にとどまる大学が大半。

③ 生徒の志向

  • ポンコツ入試改革の余波とコロナ禍で現役志向が強まり、浪人が減少傾向。
  • 共通テストの出願者は人口減・浪人減から全体では減少だが、首都圏では一般入試で共通テスト必須の大学があるので出願者が増えている。
  • 模擬試験の志望校記入では地元志向が継続もコロナ禍沈静化で大都市圏回帰の兆しもあり

2 私立大学編

① 受験生が減っているのに定員は拡大?

 私立大学では引き続き大学の新設(大阪信愛学院大、令和健康科学大)、学部・学科の新設、入学定員の増加が進んでいます。

 学部・学科の改組では情報、建築、国際、心理などキャッチーなものが目立ちます。

 人気の情報系では近畿大学が情報学部、名城大学情報工学部を新設しました。両大学は中堅国立大学理系の併願先でもあります。

 入学定員の増加は34大学1,991名で、これに新設大学と学部新設による定員拡大を合わせると、最大約3,000名の増加になります。

 受験生が減少しているからこそ、私立大学は学生確保のためにトレンドの学部を立ち上げるのに躍起です。まさに学生の「取り合い」です

 一方で大学側は定員管理厳格化の「さじ加減」がわかってきたようで、2021年度入試では上位校は受験生が減ったのに合格者は増加しました。いわゆる「易化」です。

 その影響で上位校の併願校で辞退者が続出、追加合格を出すとその併願校に辞退者が続出して追加合格という「辞退と追加の連鎖」が生じました。その結果定員割れでスタートの中堅大学もあるそうです(複数の入試担当者から聞いた話)。

 私立大学は時間とお金と体力があれば何校でも受験可能ですから、希望大学には強気で行きましょう。もちろん合格には学力が必要です。

② 地元志向は相変わらず?

  首都圏私立大学は、現政権下での実質賃金の下落と新型コロナウイルス感染症の影響で、このところ志願者の「関東ローカル化」が進みました。

 河合塾の模試志望欄分析によると、東北、甲信越、東海の首都圏に近い地区では、2022年度も地元志向と首都圏の敬遠傾向は継続しそうですが、コロナ禍鎮静化に伴い、北海道、中国・四国、九州地区では首都圏の大学を志望する割合はコロナ前の状況に戻りつつあるそうです。

 私立大学のバリエーションが少ない地域の受験生にとって首都圏は魅力的です。こんなデートもお金が許せば可能です。

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③ 入試変更は小幅

 首都圏の私立大学は2021年度に大幅な入試改革を行なったので、今年はあまり目立った制度変更はありません。

詳しくはこちら。

www.keinet.ne.jp

昨年度の記事

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

③ コロナ禍の保険は共通テスト?

 先日大学入試センターから大学入学共通テストの志願者数が発表になりました。

 志願者数は 530,367 人で対前年度比 4,878 人減、うち既卒者は 76,785 人で対前年度比 4,222 人減です。今年度の高等学校等卒業見込者(現役生)のうち共通テストを出願した割合(現役志願率)は 45.1%と過去最高となりました。

resemom.jp

河合塾によると、高校の学科区分別では普通科で志願者が減少した一方、工業科や商業科、総合学科等で志願者が増加したそうです。そうした学科の受験生には国公立私立とも「専門学科推薦」があり、国公立大学の場合はセンター試験免除が基本でした。河合塾は「大学志願者の裾野が広がっている」と結んでいます。

 従来首都圏ではセンター試験未受験者(受けても3教科)がけっこういたのですが、昨年度の入試改革で共通テストの利用が広がり、出願者が増加しました。

 またコロナ禍で欠席した生徒は個別入試から共通テスト利用に振り替える大学もあるなど、共通テストが感染拡大時の「保険」の役割を果たしています。

 この影響で、河合塾の模試志望欄では首都圏私大の共通テスト利用方式が増えています。出願の時は全国で感染が拡大していた時期、国際的スポーツ大会の影…あ、誰か来たようだ。

 国立との併願関係が強い関西私立大学では以前からセンター利用が盛んでした。センター試験は基礎力を測る良問で、かつセンター試験後すぐに私大一般入試が開始されることから、中堅私大の中にはセンター試験に準じた出題をするところもありました。

 一方共通テストの問題は私大のそれとは似ても似つかない教科もあり(特に英語)、一般試験の勉強の足しになるのか気がかりです。

④ コロナ禍で公務員志向と留学敬遠、医療系、情報系は人気継続

 系統別では、文系では国公立大学と同様に法学部を志望欄に書く生徒が増える一方、語学・国際系は不人気です。

 河合塾によると、これまで文学部系統を目指していた中位偏差値層が減ったそうです。この系統の学生は公務員を有力な就職先とするので、先行き不透明な中で彼らが法学部にスライドした(経済系は増えていない)、つまり公務員志向がより強まっていると推察できます。

 法学部人気を押し上げている別の要因として、中央大学法学部が2023年4月に多摩キャンパス(八王子市)から茗荷谷キャンパス(文京区)に移転することがあげられます。志望欄に書く受験生が去年より増えています。

 外国語・国際系については、最近大学は「ネット留学」に力を入れ、電車の広告に「今年は留学に行けます!」と載せたり、人気回復に躍起です。

 生徒の志望動向では上智や法政の国際系が軒並み不人気です。一方首都圏の中高一貫校では低学年から英語4技能に励み、海外留学を売りにするところもあると聞きます。富裕層の志向と私大の動向はリンクしないのかもしれません。

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 薬学部は相変わらず人気ですが、私立だと6年間で1,000万円以上の学費は覚悟してください。ベンツを買うのは我慢しましょう。

 また国立大学とは違って私立大学は国家試験の合格率(在学生の受験率)が大学によって激しく違うので、次の表も大学選びの参考にしてください。

第106回薬剤師国家試験 大学別合格者数 令和3年3月24日 厚生労働省医薬・生活衛生局

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/sankou3.pdf

⑤ 英語資格・検定試験活用は首都圏でやや増加

2022年度入試から英語資格・検定試験活用の幅を広げた大学

中央(理工):英語外部試験利用方式の新規実施

東洋:共通テスト利用方式(前期)で資格・検定試験が全学部利用可能に

法政:

グローバル教養:一般選抜(A方式)で大学独自の「英語」の試験を廃止し、英語資格・検定試験の成績を利用する

社会、国際文化:英語外部試験利用入試の新規実施

 入試改革元年までの間、私立大では英語資格・検定試験の活用する動きが拡大しましたが、2021から2022年度にかけては微増です。

 私立大学の中で「1方式でも検定利用入試があるところ」は約37%ですが、全入学者数に占める割合は令和2年度調べでは一般入試で15.6%です。

大学入試のあり方に関する検討会議(第27回)配布資料より

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 首都圏ではあらゆる英語検定を何度も受験できるので、お金持ちは「検定慣れ」して高スコアを取り出願する戦略もあります。ぶんぶんの住む場所とは違う風景です。

 なお検定料は、

実用英語技能検定2級 9,700円(本会場)

同準1級 10,700円(本会場のみ)

GTECCBT(外部会場、学校実施ではない方)9,900円

TEAP4技能 15,000円

IELTS 25,380円

と、外部会場実施の検定はそれ相応のお値段です。スコアの価値を保証するためにセキュアの確保をしようとすれば経費(会場費や人件費)がかさみます。

 立教大学は2021年度から一部を除いて学部別入試をやめてすべて全学部入試にし、英語の試験もやめて共通テストか外部検定スコアになりました。

 同じ学部が複数日受験可能なことと(近畿大学の受験者数が日本一なのはこれと併願の組み合わせのため)、「個別試験の英語の勉強をしなくていい」というお手軽感?から受験者を増やした模様です。

 ただし一般入試で各検定のスコアが何点に換算されるのかは事前に教えてもらえない(出願が済んでから統計処理する)仕様で、これは今年度も同じ、問い合わせが多いのかQ&Aにもそのことが載っています。

*英語外部検定を国立大学で必須化する話が出たとき、ぶんぶんが最も疑問だったのは「用途の違う複数の検定を点数化して比べられるの?」でしたが、立教大学には共通テストを含めてそれらを公平に扱う奥義があるみたいです。

 関西圏の難関私立一般選抜では、一部大学の一部方式を除いてスコアがなくても受験可能、各大学とも「挑戦状」のような英語の試験を揃えて受験生を待ち構えます。

「身の丈入試」って言い放った文部科学大臣がいました。これはマイタケ。

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⑥ 偏差値上位校が人気

 「2021年度入試は入りやすくなった」という噂を聞いてか、早慶・MARCH・関関同立を志望欄に書く生徒が増えています。

 某知恵袋で「東西南北」とも呼ばれる首都・関西圏以外地域のトップ私立(北海学園東北学院、南山、西南学院)も堅調です。「経済的理由などで国立ダメなら地元の私立」という受験生は景気が悪い時には増えます。

 一昨年度の人気沸騰を嫌って昨年度には志望欄から激減した日東駒専と成成明武(成城、成蹊、明治学院、武蔵)は反動で人気回復傾向です。

 とはいえ今年度も入りやすいとは限りません。すでに関西圏の公募制推薦では昨年低倍率だった大学の競争が激化しています。勉強しましょう。

まとめ

  • 私立大学は地元志向継続も首都圏の大学はエリア外からの人気がやや回復
  • 昨年度偏差値上位校が受験者を減らし合格者を増やしたために、今年度はチャレンジする受験生が増える気配
  • 昨年度に首都圏では大幅な入試改革が出尽くしたので、今年度の変更は小幅
  • 法学部人気、国際系不人気、医療系、情報系人気継続は国公立と同じ

 これはネットの情報かつ模試の志望動向です。受験生は必ず志望大学の募集要項を見て、担任・保護者と相談しながら出願先を決めてください。