はじめに
2022年度入試に志願した受験生は、二年生、三年生の大事な時期をコロナ禍(と政治の不作為?)に振り回され、本当に気の毒でした。
今回は河合塾、駿台、代ゼミの2022年度入試の分析を著作権の範囲内で引用し、大学入試センターや文科省の発表も参考にしながら、2022年度入試についてふり返ります。
参考
大本営 「実施結果等」を参照
目次
0 2021〜2022年度入試のゴタゴタ
- センター試験→共通テストに
- 英語成績提供システム→2019年11月にストップ
- 国語と数学に記述式→2019年12月にストップ
- 主体性評価→Japan e-ポートフォリオが2020年4月に運用停止
- 国公立大学の態度→文科省に忖度から一転し、英語民間検定必須化は相次いで中止、主体性評価もコロナ禍を理由に入試での活用は保留が相次ぐ
- 共通テスト→「思考・判断力をより試す」は情報処理能力勝負になり、「実生活の場面」は非現実。国語は出題者の利益相反疑惑から実用的文章は消滅し、2022年の数学ⅠAは現役教員さえ時間内に解答できない仕様に
- 入試改革→そもそも「入試で教育を変える」という理念がおかしい上に、それを制度に落とし込むことができず、改革の多くは土壇場で次々挫折、共通テストだけが残り、改革は文科省の各大学への個別攻撃依頼に場所を移す
1 国公立大学編
① 共通テスト 志願者は減少・受験者は微増
センター試験・共通テスト 志願者・出願者数推移
2021、2022は上記大学入試センター資料。それより昔は『センター試験をふり返る』
年度 | 志願者数 | 昨年比 | 受験者数 | 昨年比 | 受験率 |
2013 | 573,344 | 103% | 543,271 | 103% | 95% |
2014 | 560,672 | 98% | 532,350 | 98% | 95% |
2015 | 559,132 | 100% | 530,537 | 100% | 95% |
2016 | 563,768 | 101% | 536,828 | 101% | 95% |
2017 | 575,967 | 102% | 547,892 | 102% | 95% |
2018 | 582,671 | 101% | 554,212 | 101% | 95% |
2019 | 576,830 | 99% | 546,198 | 99% | 95% |
2020 | 557,699 | 97% | 527,072 | 96% | 95% |
2021 | 535,245 | 96% | 484,114 | 92% | 90% |
2022 | 530,367 | 99% | 486,848 | 101% | 92% |
*2022年追試験受験者 915人(2021年 1,021人)
2021年度共通テストの志願者はポンコツ入試改革を嫌った浪人の減少で約2万人減少(約10万人→約8万人)しましたが、2022年度は現役生は昨年並み、浪人生はさらに約5,000人減少しました(76,785人)。
5教科7科目フル受験は273,368人で昨年より微増ですが、センター試験の時代から約2万人減っています。
申し込んで受験しなかった生徒も引き続き多く(21年度51,131人→22年度43,519人、センター試験の頃は28,000~30,000人程度)、コロナ禍で感染リスクが不安視される中、「生徒指導の一環としての受験」(指定校推薦者の受験など)が減ったと考えられます。
追試験受験者は昨年よりは減りましたがコロナ禍を反映して人数は多いです。
② 一般選抜志願者数は微増もセンター時代には戻らず
2022年度 | 2021年度 | 増減 | ||||||
募集人員 | 志願者数 | 倍率 | 募集人員 | 志願者数 | 倍率 | |||
国立 | 前期 | 63,637 | 179,320 | 2.8 | 63,716 | 177,178 | 2.8 | 2,142 |
後期 | 12,962 | 123,633 | 9.5 | 13,201 | 118,753 | 9.0 | 4,880 | |
公立 | 前期 | 16,308 | 54,677 | 3.4 | 16,198 | 58,225 | 3.6 | -3,548 |
後期 | 3,367 | 39,647 | 11.8 | 3,487 | 42,168 | 12.1 | -2,521 | |
中期 | 2,349 | 31,380 | 13.4 | 2,364 | 29,091 | 12.3 | 2,289 | |
合計 | 前期 | 79,945 | 233,997 | 2.9 | 79,914 | 235,403 | 2.9 | -1,406 |
後期 | 16,329 | 163,280 | 10.0 | 16,688 | 160,921 | 9.6 | 2,359 | |
中期 | 2,364 | 31,380 | 13.3 | 2,364 | 29,091 | 12.3 | 2,289 | |
合計 | 98,638 | 428,657 | 4.3 | 98,966 | 425,415 | 4.3 | 3,242 |
*2020年度の国公立前期:募集80051 志願 243052 倍率3.04
( ゚д゚)ハッ! 前期日程の倍率が3倍を切ってる!
第一志望で受験する(はずの)前期日程は昨年に引き続き3倍を割りましたが、国立大学については前期は微増、公立大学が落ち込んでいます。
公立大学の落ち込みは、主に系統別で不人気といわれた経済・経営系と、非医学科医療系の単科公立大学が志願者を減らしているのが原因です。
後者はもともと共通テストの目標点が相対的に低く、本命受験生が失敗すると志望変更先がない(私立に行く)こと、設立の経緯(地域の医療従事者を養成する)から地元志向で他大学からの流入もそう多くないことが要因と考えられます。
一方公立中期は、新規参入と、大阪公立大学が旧市大工学部後期を中期に回したことから膨張しました。ただその分公立後期が減って国立後期が膨張しています。
共通テストの難化でボーダーラインが軒並み下がったので、受験生は前期は強気に出願する一方、「一次試験が荒れると後期は棄権する人が増えてラッキーが起こる」と訳知りの先生に指導されて、後期も積極的に出願したと考えられます。
③ 系統別の動向
河合塾のサイトから引用(公開されているものは引用OKと営業さんから許可をもらっています)。前期と後期のスクリーンショット
文系前期で志願者が減ったのは昨年に引き続き社会・国際の中の外国語学部で、国際系は東京外国語と宇都宮が人気のため堅調でした。
人気と噂の法学部系統が昨年並みですが、河合塾によると法律学科は堅調な一方で政策学科系統が低調だったそうです。「法学部」を名乗るのは旧帝大などに多く、共通テスト難化で「いけそう」と思った受験生を集めました。
理系は工学部は前年並み、昨年度から不人気の農学部は反動で人気回復、理学部は昨年横浜国立大学の理工学部の「共通テストのみ」入試で志願者が激減、それが通常に戻ったので志願者を戻しました。
医療系では、コロナ禍の影響か薬学部が人気、医学科は例年並み、看護は公立の単科で受験生を減らしたものの全体では例年並み、歯学部、保健学科は前期は例年並みでしたが後期は出すところがないのか激減しました。
生活科学は成績上位の女子の多い系統で、ぶんぶんは共通テストなし推薦に合格して「一抜け」した生徒を何人か知っています。また女子は経験上浪人を嫌う傾向があります。「女子は翼を折られる」の一面です。
教育学部は、一日12時間労働は当たり前で残業代4%で定額働かせ放題、休憩時間ほぼなし、土日祝は部活でつぶれ、責任だけは山ほどあり、休職者が後を絶たないというブラックな労働環境が人口に膾炙した割には減っていません。(´・ω・`) 。
推測ですが、ぶんぶんの知っている生徒で、高校教員志望で文学部や理学部を狙っていたのですが共通テストで「やからし」て、同じことが勉強できかつ持ち点が相対的に低くても合格する教員養成課程に変更した人がいます。
なお全体の志願者減少は2021年に大膨張した三重大学教育学部が2022年に500人減らした分です。昨年度東海地方を絶対領域とする某予備校が判定システムで三重大学を大甘査定したため、持ち点の少ない受験生が殺到したことが膨張の原因です。
自演乙 (_´Д`)ノ
④ 志願者が増えた大学 減った大学トピック
1)増えた大学
昨年激減した北海道大学は反動で人気が回復しました。北大は以前から道外からの受験者が多いです。新入生はぜひシマエナガに出会って悶絶してください。
お取り寄せスイーツ 可愛すぎて食べられな~~い!
昨年度はコロナ禍対策で前期後期とも二次試験を廃止したため志願者が半減、さらに合格者にも逃げられて大量の二次募集をする羽目に。今年は「正常化」したので元の水準に戻りました。同じ理由で宇都宮大学も志願者を戻しました。
また東京外国語大学、一橋大学、お茶の水女子大など首都圏の大学が志願者回復傾向です。首都圏のコロナ禍は相変らずですが、やはりキラキラのキャンパスライフは魅力的です。
共通テストは一次カットだけなので、共通テスト失敗組が殺到しました。同じく一次で数学・理科を点数化しない京都大学工学部も志願者を増やしました。
東京大学も受験生を増やしました。共通テストの配点が低いことに加えて、どこかのドラマが「東大の入試問題は簡単」と触れ回ったこともあるでしょう。
前期では全国で二番目に大きな志願者数増加(803人)でした。
弘前大学はその前1,000人以上志願者が減りました。国立至上主義高校の先生は、共通テストの出来から前期出願予定の大学より合格確率の高い大学への志望変更をすすめる「出願指導」をしますが、この時前年度に低倍率だったところが狙われます。
こうして一年ごとに倍率が急上昇・急降下することを「隔年現象」といいます。
ただし国立(以下略)の先生は「国公立のシールが付いていれば何でもOK」ではなく(そういうダメ教員も存在する)、持ち点が少なくてもチャレンジでき、かつ研究や教育がしっかりしているという噂の地方国立大学理系をすすめる傾向があります。
ぶんぶんの守備範囲では福井大学、鳥取大学、徳島大学がおそらくこの二つの理由で志願者を集めました。ただし来年度は知りません。
東海・近畿エリア
工学部を新設した奈良女子大学が志願者増、昨年度5教科入試にして志願者が激減した京都府立大学が反動で志願者を増やしました。5教科とはいえ数学・理科の配点が低いので、「やらかした」生徒が去年の低倍率を聞きつけて志願したと考えられます。
薬学部を立ち上げて昨年度志願者を集めた和歌山県立医科大学は「会いに行ける公立薬学部」の認知が進んで(近畿で薬学部国立といえば京都と大阪で、無理なら徳島・富山、それも無理だと私学)、昨年度2.6倍から4.6倍と急増しました。
経営難の私立大学が公立化した福知山公立大学は、情報系の人気過熱でどこも難化する中、「比較的入りやすい」という情報を受験生が聞きつけたのか、昨年度から260%増と大変なことになりました。
*昨年知り合いがお子さんの後期福知山公立大学の受験に付き添ったところ、特急電車がどんどん人里離れたところに向かうので不安になり、車中でスマホを連打したら「ぶんぶんの進路歳時記」にたどり着いたそうです。閲覧ありがとうございます。(^^♪
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
単科の看護・医療公立大学が全国的に志願者を減らす中、一人勝ちだったのが三重県立看護大学(みかん大)です。地元勢はみかん大と三重大学医学部看護学部を両天秤にかけますが、前者は数学が1科目高得点、後者は2科目必須なので、数学が滅茶苦茶な年はみかん大の方に人が集まります。
2)減った大学
昨年度横国の「やらかし」のおかげで首都圏では一人勝ちだった千葉大学は、横国「正常化」で案の定志願者が減少です。
二年続けての減少、特に後期の出願者が激減しました。首都圏難関私立に合格できる力を持つ受験生が共通テストで持ち点を減らしたら、3月まで国公立を受験することに意味を感じないでしょう。
大阪公立大学
ハムちゃんこと大阪公立大学は、統合によって定員が大きくなった割に約800人志願者が減少しました。特に市大の看板だった経済、商の前期が低倍率でした。
旧府大時代から京大・阪大前期受験者の「保険」だった工学部中期が旧市大の後期と合体して学科を増やしたため1500人と膨張しましたが、所詮前期に合格すれば合格者にならない「あだ花」です。
駿台は「市大と府大はかぶる学部があっても難易度が違ったので、結果として両者で幅広い学力層を受け入れていたのが、統合で受け入れ学生の幅が狭くなったことが人気薄の原因」と分析しています。
ぶんぶんは旧市大に多くの学生を送っていますが、真面目で成績もそこそこな層がほとんどです。倍率が低くてもそういう学生が来れば無問題ですが、ハムちゃんの入学式はムービングスポットがグリグリ回るライブ会場のような演出だったそうで、新入生は面食らったかもしれません。
参考 近畿大学 これに比べればハムちゃんはおとなしい方
ハムちゃんについては大学から詳しい入試結果が発表されたら再度分析します。
まとめ
- 共通テスト受験者は、昨年度よりはやや増えたもののセンター時代の水準には回復せず
- 受験生は共通テストの平均点管理がずさんだったため点数を減らし、学校の出願指導で昨年入りやすかった地方国立大学に殺到した
- 昨年度急遽共通テストのみで合否判定にしたため志願者が激減した大学は、今年度は入試を通常に戻し、受験者も元の水準に戻る
- 首都圏の国立は人気回復傾向
- 受験生は各大学の特色よりも合格可能性で動く
- 国公立大学の実質倍率は約3倍、点数をみてフラフラするよりは、早めに志望大学を決めて、合格に必要な点数を取る力を養成しましょう
次回は私立大学編