共通テスト前で大人しくしていたのですが、謎のニュースが飛び込んできました。
目次
1 文科省 共通テスト4日前になって大学に「共通テストなしでも合否判定」をお願い
① 報道内容
文部科学大臣の会見
文科省通知の抄出 2022年1月11日
https://www.mext.go.jp/content/20220112_mxt_daigakuc02_000005144-1.pdf
- 大学入学共通テストを課している大学について、大学入学共通テストの本試験及び追試験いずれも受験できなかった受験生が出た場合に、個別学力検査、調査書等により合否判定を実施すること
- 出願した大学の個別学力検査の本試験、追試験及び別日程への振替のいずれも受験できなかった受験生が出た場合で、当該受験生が大学入学共通テストを受験している場合に、大学入学共通テスト、調査書等により合否判定を実施すること
- 出願した大学の個別学力検査の本試験、追試験及び別日程への振替のいずれも受験できなかった受験生が出た場合で、当該受験生が大学入学共通テストの本試験及び追試験いずれも受験していない場合に、当該受験生を対象とした再度の追試験の機会を設定し、個別学力検査を課す選抜を実施するか、それが困難な場合は、受験生本人が記載する活動報告書、大学入学希望理由書、学修計画書や、小論文、面接、調査書等を組み合わせた選抜を実施すること
- 再追試による選抜を行う場合は、令和4年度大学入学者選抜実施要項の「第4 試験期日等」に定めるところにかかわらず、対象となる受験生の再度の追試験を令和4年3月 26 日以降に実施し、当該試験期日に応じて、入学時期が4月1日以降になることもあり得ること
(゚Д゚)ハァ?
② どういうこと?
文科省は「追試の追試はない」というスタンスで、昨年度の「特例追試」(という名のセンター試験)も第二日程の追試でした。
昨年度は「共通テストだけで判定」がありましたが、今回は「共通テストを受験できなかって生徒も合否判定してください」です。
文科省はいつも最後は大学に丸投げ、利権が絡む英語外部検定、記述式、情報必須化では熱心に動き回るのに、危機管理は相変わらずドタバタです。
衆議院議員の城井崇(きいたかし)さんが文科省に聞き取った内容をTwitterにアップされているので引用します。着色はぶんぶん、
https://twitter.com/kiitakashi/status/1481201118260924418
オミクロン株の感染拡大下での入試救済策について文部科学省に聞き取り。
- 共通テストの本試・追試ともに受けられなかったケース(例 本試で風邪、追試でコロナ陽性。本試で濃厚接触者、追試で風邪)や個別入試で本試・追試・振替受験などいずれも受験不可のケースでの受験機会の確保を各大学に要請。
- 体調不良で受験不可の場合医師の診断書が必要。この場合の合格者は定員外での対応を可能とする。
- 大学側の対応は、緊急問題の準備ある大学もある、過去の個別入試結果データからの推定での合否判定あり得る、との想定。
- 4月以降に入学時期がずれた場合は大学が個別対応。(少人数に留まる見込み)
議員からは「共通テスト4日前の通知では現場準備整わない、受験機会の確保にはなるかもしれないが入試制度としては不公平だ(人数の多寡ではない)、結果レアケースになるかも知れないが準備せざるを得ない全ての大学の負担にもっと配慮すべき」などを文部科学省に意見したとのことです。
城井議員は英語外部検定や国語数学記述式のストップで先頭に立っていた方で、文面から受験生や大学のことをよく理解されていると感じます。
人数が少なかろうが、「入試の公平性」を確保するために大学は相応の準備をしなければなりません。それを文科省が共通テストの4日前に突然言って「ボクは責任果たしたからね、後は( `・∀・´)ノヨロシク」では、配慮を欠いていると言わざるを得ません。
感染状況が小康状態の時に文部科学省は第6波に備えて何をしていたのでしょう。真田工場長の爪の垢を煎じて飲むべきです。
③ ざっと問題点
1)国公立大学はアドミッションポリシーのもと共通テストを利用
a:共通テストだけで合否判定する大学
室蘭工業大学(後期)、北見工業大学(前期)、都留文科大学(前期)、琉球大学(一部学部の後期)が思いつきます。
北見工業大学は後期、都留文科大学は中期がメイン(前期残念組がターゲット)の大学なので、前期は共通テスト重視、中期後期は二次力重視の戦略です。
また共通テストあり推薦の中には二次試験がなく共通テストと志望理由書で判定するところもあります(大阪公立、神戸、奈良女子など)。
b:共通テストの比重が大きい大学
大阪教育大学や奈良教育大学は一次試験で学力を試し、二次試験は教員適性を試すために小論文や実技を課すコースが多いです。
小学校はすべての教科を教える必要があるので、どの教科にも苦手がない生徒を選抜するために共通テストの配点が高いのは合理的です。
一次と二次の比がそれほど極端でない大学に関しても、二次試験の点数だけで合否を決めると、緊急避難的措置とはいえ「入試の公平性」の確保が危ぶまれます。
城井議員の聞き取りの中に「過去の個別入試結果データからの推定での合否判定あり得る」とあります。
たしかに大阪大学や神戸大学では共通テスト上位何%、個別試験上位何%が「一抜け」する方式があります。しかし中堅国立は共通テストの結果で出願する生徒が多く、共通テストの得点と個別試験の成績が相関するとは限りません。
c:二段階選抜を行なう国公立大学
『ドラゴン桜』のおかげで「二段階選抜」が人口に膾炙したようですが、難関大学・医学部では、予告の倍率を越えた場合(あるいは基準点を越えなかった場合)は、共通テストの持ち点が低い受験生は二次試験に進めず不合格になります(受験料は返還されます。同じ日程で他大学への出願し直しはできません)。
学校推薦選抜でも二次面接に進める人を共通テストでしぼる(名古屋大学)、総合型選抜で合格内定をもらった後共通テストで基準点を超えれば合格(千葉大学)など、一般選抜以外でも共通テストを学力の担保に使うことが幅広く行なわれています。
上記のyoutubeを見るとTBSの記者(『ドラゴン桜』のキー局)がこの件を質問していました。文部科学大臣の返答を聞くと、そもそも「二段階選抜」の意味がわかっていないご様子でした。政策決定者がこの認識では先が思いやられます。
このように文科省から三つのポリシーを口やかましく言われて、考え抜いた上で共通テストを利用している国公立大学がいきなり「共通テストなしで合否判定」となると、緊急避難とはいえ入試の公平性という点ではかなりの難題が生じます。
「言うはやすし」ですが、実施は容易ではありません。
毎日新聞の記事
2)個別学力検査が無理なら総合型選抜?!
総合型選抜は一般選抜と違って各学部・学科のアドミッションポリシーが色濃く出ていて、実施内容も学部学科で別、形式も小論文と面接だけでなく基礎学力も問いますし、共通テストを課す大学もあります。
国公立大学で総合型選抜を実施している大学は総じて一般選抜以上の労力を割いています。まさか文科省は「国公立の総合型選抜は書類と面接だけのお手軽入試だから、その感じで受験生を救済してあげて」なんて思っていないですよね?
3)その他
首都圏では先の入試改革の折に、個別試験を作るのを減らして共通テストを一般選抜で利用する私立大学が増加しています。
また国公立大学、私立大学ともに個別試験が受験できない生徒への救済措置として共通テストを利用する大学があります。これも見直しが必要です。
2 まとめ
文科省が「共通テストを受けられなかった受験生を救済してください」と言うのは簡単です。ぶんぶんも受験生が自分の責任ではないことで受験をあきらめる事態は避けたいです。
その一方で、大学入試は精密細工のようになっていて、どこかをいじれば全体のバランスが崩れる、特に入試の信頼性の根幹である「公平性」が崩れるのが最も深刻で、大学はその確保のために多大な労力を払っています。
今回のドタバタを見ると、文科省は「こうすればこういう影響が出る」という見通しが甘い、また大学入試を「軽く」考えている、と感じてしまいます。思い付きを制度に落とし込むのが難しいことはポンコツ入試改革で思い知ったはずですが。
さらに文部科学大臣が会見でまったく訳が分かっていないように見えるのは受験生、保護者、高校、大学にとって不安材料でしかありません。
役所の言うことを何の批判もなく「広報」するメディアも問題です。
とにかく受験生は体調を整えて共通テストを受験し、もし体調が悪ければ無理せず追試を申請してください、としか現時点では言いようがありません。
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