ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

アニメ×ジェンダー@フレンテみえ2022

はじめに

 ぶんぶんの身体の90%はアニメと特撮でできていますが、まるで私のために開催された講演会に行ってきました。

 企画は三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」、講師は横浜国立大学須川亜紀子教授、時代によって移り変わるジェンダーや男女のあり方などがアニメ作品にどう反映され、私たちに影響を与えてきたのかを考察します。

 講演後に講師に直撃し、「講演内容をブログで記事にしてもかまわない」とお声をいただいたので、その様子を伝えます。

 枠内は聞いた話、それ以外はぶんぶんの独り言です。

 会場の生涯学習センター

www.center-mie.or.jp

フライヤー

須川先生は日本アニメーション学会会長です。

www.jsas.net

目次

 

1 アメコミヒーロー

  • 「ヒーロー」の元祖はアメリカ合衆国のDC・コミックやマーベル・コミックに登場するキャラクター。

参考

www.rere.jp

  • DC系で有名なのは『スーパーマン』(1938)。主人公は宇宙人で普段は地球人の新聞記者で、事件が起こると着替えて超人的な能力を発揮する。
  • 同『ワンダーウーマン』(1941)はアマゾン族の王女(女神)という設定で、普段は市民として生活する。事件が起こると変身し武術や装備で戦う。
  • マーベル系で有名なのは『スパイダーマン』(1962)。普通の高校生(理系)が放射能を浴びた蜘蛛に刺されて超人的な力を獲得する。強盗犯を見逃したことで親代わりの叔父が殺され、正義のために力を使うことを決意する
  • アメリカ合衆国は男性中心文化で「ヒーロー=強い男性」としてで単独で活動。スパイダーマンは叔父から「大いなる力には大いなる責任が伴う」と諭されるが、これはアメリカ合衆国的価値観

テレビシリーズのワンダーウーマン役リンダ・カーター の写真。星条旗がモチーフ。著作権表示に欠陥が含まれているためパブリック ドメイン

ぶんぶんの考察
  • ヒーローの超人的な能力は外的なもの(宇宙人、神、科学)に由来しがち
  • 「ワシントン=建国の父」のようなアメリカ合衆国の家父長的世界観がアメコミヒーローの背景。一方女性は「とらわれた妃」(『スターウォーズ』のようなスペースオペラなど)が多い。

2 日本のヒーローの原型

  • 日本のスーパーヒーローのうち、ソロヒーローの典型が「ウルトラマンシリーズ」と「仮面ライダーシリーズ」。
  • ウルトラマン』(1966)は宇宙人で宇宙の警備員、地球でも地球防衛の公務員として生活。権力の側にいて人々を守るという設定。アメコミヒーローは普段は民間人(スーパーマンは権力を監視する新聞記者)なのとは対照的
  • 仮面ライダー』(1971)は大学生が悪の組織によって改造人間にされたが逃亡して組織と戦う。改造前の職業や改造された理由はそれぞれ違い、それが戦う動機に影響する
  • 日本のヒーローは変身してもうひとつのアイデンティティで戦う
  • 秘密戦隊ゴレンジャー』(1975)は集団ヒーロー。国連の下部組織に所属する設定。ひとり一人は弱いが全員の力を結集して敵を倒す。メンバーの紅一点はダブル(ハーフ)の設定。
  • 戦隊ものは時代を下ると女性のメンバーが増え、その地位(メンバーの中か外かなど)も多様になる。最新作では最初に変身するのは女性

モモレンジャー小牧リサ

www.iza.ne.jp

戦隊もの最新作

www.tv-asahi.co.jp

ぶんぶんの考察
  • 日本の変身ヒーローも超人的能力は外から由来
  • 怪獣・ロボットものの主人公は国際的軍事組織の極東支部に所属する。日本の国際連合に対する過度な期待の現れ
  • 高度成長期は男女の役割が固定化する時代。ヒーローは強い男性が基本、ヒーローと行動を共にする女性は職場の花(「セクシャリティー担当」)や後方支援
  • ウルトラマン』のアキコ、『ウルトラセブン』のアンヌ両隊員は専門職(科学者、医師)で戦闘にも参加。隊員間は対等な関係で、私服姿(アンヌは水着もあり)やデートのシーンもあり、「have it all」の先駆
  • ウルトラマンA』(1972)は男性隊員が女性隊員(実は月星人の末裔)と合体して変身する
  • モモレンジャーが「ダブル」なのはジェンダーバイアスと西欧コンプレックス
  • ウルトラ兄弟は家父長を頂点とする擬制的家族関係
  • 戦隊ものの女性増加は、ジェンダーフリーの流れもあるがセクシャリティー(隣で見ているお父さん狙い)という面も

アンヌ役ひし美ゆり子。制服がパツパツなのは急遽降板した役者のそれを着用したから。Twitterでご健在です。

マグネロボ ガ・キーン』は、科学者が私財を投じて作ったロボットを、修行でマイナス電子を身につけた科学者の娘と、事故でプラスの電子を得た男が合体して操縦します。『パシフィック・リム』を観た時、ぶんぶんはこの監督の日本アニメへの造詣の深さに仰天しました (´・ω・`)

youtube東映チャンネル


www.youtube.com

 

3 男女向けヒーローの系譜

参考 東映アニメーション

lineup.toei-anim.co.jp

① ヒーローの類型

超人系、スポコンもの、ロボット、ロボットの操縦士、アイドル、頭脳系

男性向け:格闘もの(肉弾系、操縦系)

女性向け:魔法少女もの

ぶんぶんの考察
  • 戦後まもなくの少年マンガの主人公は年少者で、鍛錬で力を得て大人を打ち負かす。「物量では勝てないが技術では勝る」という西欧コンプレックス
  • ヒーローは基本大人の秩序を守るために戦うが、学生運動華やかなりし頃は権力から逃避したり権力に刃向かう「ダークヒーロー」も出現し、支持を得る

② 1960年代のヒーロー ロボットと魔法少女

  • 鉄腕アトム』(1963):主人公は原子力電池を搭載したAIロボット。博士が死んだ子どもの代わりに作った(しかし子どもの代わりにはならないのでサーカスに売られる)→原子力への期待
  • 鉄人28号』(1963):主人公は父が作ったロボットをリモコンで操縦する。敵にリモコンを渡ると鉄人は自分の敵になりうる→科学技術への期待と恐怖
  • 魔法使いサリー』(1966):主人公は魔法の国の王女。他者の視線から人間界の理不尽を魔法で解決する
  • ひみつのアッコちゃん』(1969):主人公は普通の人間。善行によって魔法のコンパクトを得る。人間の理不尽を「上位者」(警察官など)に変身することで解決する
  • 高度成長期は男女の役割が固定化する時代。男性は力によって弱者を守る。女性は弱者の立場から価値を一時的に逆転させて強者の不正を糺す
ぶんぶんの考察
  • ヒーローは父親(死亡しているまたは敵に捕らわれの身)が作った機械を操作して世界平和と家族のために悪と戦う。家父長的世界観
  • ジャイアントロボ』(1967)はロボットが最後は主人公の命令を聞かず最適解を見つけて実行する。「シンギュラリティ」の先駆
  • 「弱者が偶然手に入れた敵のテクノロジーを敵以上に使いこなす」は日本の西欧コンプレックス+「プロジェクトX」的戦後ナショナリズム
  • 魔法少女で人間が特殊な能力を授かるのはその「善行」を評価された場合。ウルトラシリーズの「他人を守ろうとして落命した人間が宇宙人から力を授かる」は同じ図式
  • アッコちゃんは立場を一時的に逆転させて強者の不正を糺す、つまり家父長的権威主義そのものは否定しないどころかむしろ補強している

③ 1970年代のヒーロー スーパーロボットと強い女性?

  • マジンガーZ』(1972):高校生が祖父が作った内部操縦型の巨大ロボットを操縦する(祖父が死に際に主人公にロボットを託す)。主人公は不良っぽい。主人公とともに戦う女性も女性型ロボットを操縦するがパワー不足で引き立て役。
  • ガッチャマン』(1972):紅一点はダブル。短いスカートとパンチラはセクシャリティ
  • 魔女っ子メグちゃん』(1974):魔法の女王候補者が地球で修行する。ライバルの候補者と競い合いながら友情らしきものが芽生える。スポ根ものの影響。女性向けアニメで日常の中での競い合いが描かれるのは画期的。お風呂をのぞかれるなど主人公はセクシャリティーの対象だが泣き寝入りはしない
  • 花の子ルンルン』(1979):主人公は花の精の血を引くもの。魔法は念じた服に着替える力。王子の王位継承のために花を探す旅にでる。ついに花をすべて見つけて王子はルンルンに求婚するが断られ、王子は王位を捨てる、ディズニープリンセス逆張り
  • 1970年代は女性の生活に変化。高学歴化(短大が多く四年生は少数派)、長期就労化(クリスマスケーキ=25歳までには寿退社)、晩婚化が進む
  • 安保闘争ウーマンリブ中ピ連(性の自己決定権)などを通じて女性の権利意識が高まる
ぶんぶんの考察
  • 1970年代は校内暴力華やかなりし時。主人公が高校生で不良系はこの影響か。ただし戦う動機は平和(家族から世界まで)と親族の仇(特に父、兄など男系)など従来を踏襲している
  • ソロヒーローの典型であるロボットものに味方のロボットや複数で合体するロボットなど「戦隊型」が出現。女性搭乗員もいて集団の葛藤も描かれるようになる
  • 宇宙戦艦ヤマト』(1972)はSFアニメにストーリー性やドラマ性(主人公が仲間とともに戦う中で成長する)を持ち込んだ画期的作品。森雪は後方支援かつセクシャリティーの対象だが、ストーリー上大きな位置を占める
  • ソロヒーローは基本「自分が正義であること」を疑わないが、葛藤するヒーローも現われる
  • 男性ソロヒーローものの女性は保護すべき存在や後方支援的役割が多いのは従来通りだが、女性の敵も出現する。右半身が女性で左半身が男性という悪役も存在
  • 集団ヒーローものの女性は、戦闘参加、主人公との淡い恋愛、セクシャリティーだけでなくヒーローをピンチに陥らせたり救ったりとストーリーの起点になる

スーパーロボットレッドバロン』(1973)の真理隊員(牧れい)はミニスカートで敵を蹴り飛ばす。パンチラはもちろんアンダースコート

④ 1980年代 戦いに悩むヒーロー、女性上司、魔法少女復権

  • 機動戦士ガンダム』(1979):主人公(14歳)は偶然手に入れたマニュアルでロボットを操縦できてしまったことで戦争に巻き込まれる。戦うことに疑問を持ちながらも(途中で戦いを放棄する場面もある)人として成長する。
  • 超時空要塞マクロス』(1982):主人公(民間人パイロット。優柔不断)は偶然戦争に巻き込まれる。戦争と恋愛が同時進行し、女性の上司(主人公は最終的にアイドルよりもこちらを選ぶ)、同僚、アイドル、敵が登場する。
  • ミンキーモモ』(1982)魔法のプリンセス(サリー型)。魔法で大人になり人々の夢を実現する。
  • 魔法の天使クリィミーマミ』(1983):10歳の少女が善行で魔法のアイテムを授かり(アッコ型)、変身してアイドルを目指す。 
  • 1979年に女子差別撤廃条約、1985年に男女雇用機会均等法と1980年代は女性の社会進出が本格化する時代。アイドル全盛期。女性消費者をターゲットにするマーケティング。政治の世界の「マドンナ旋風」
ぶんぶんの考察
  • ガンダム』は、ロボットを「主人公の分身」ではなく「兵器」と描いた点と「無関係な民間人が戦争に巻き込まれる」展開が画期的
  • マクロス』は歌と三角関係をサブテーマとする。アイドルやロックの隆盛が背景だが、ガンダム以後にホモソーシャルな「殺戮の袋小路」に陥ったSFアニメに出口を与えることになる
  • ガンダム』『マクロス』におけるクルーの多国籍化、男女比の均等化は『ヤマト』の「逆張り」でもあり、社会情勢の変化の現れでもある。ただしセクシャリティー表現はヤマトと同じく随所に描かれる

⑤ 1990年代

  • 新世紀エヴァンゲリオン』(1995):ヒーローが戦うことに意味を見出せない。女性パイロットも男性パイロットと同等な力を発揮する。正体不明な敵との戦い。「男らしさ」の機能不全
  • 美少女戦士セーラームーン』(1992):「地球を救う」という男性的なテーマに女性が初参入する。ただし友情も恋も大事にする(have it all)。パワーアップするとファッションが派手になるのは「女性にとって美は力」という表徴
  • ポスト・フェミニズムの時代。ガールズパワー、ライオットガール運動(1990年代初頭にアメリカ合衆国で始まった、フェミニズムのメッセージを載せたパンクミュージックなどのサブカルチャー運動)

⑥ 2000年代以降

  • NARUTO』(1999)『BLEACH』(2004):様々なタイプのヒーローが個性を活かして戦う。弱い主人公の成長もの。女性も対等な力
  • ワンパンマン』(2009):ヒーローを仕事(趣味)でやっている。無気力
  • Tiger and bunny』(2011):LGBTのヒーロー
  • 正義と悪の境界の曖昧さや正義が本当に正義なのかをが描く作品が増加
  • プリキュア』(2004~):女性がアイテムで変身し、地球の平和を守る。肉弾戦で男性の力は借りない。敵を倒すのは「浄化」。男性がプリキュアに変身するシーズンもあり
  • 鬼滅の刃』(2016):主人公は普通の少年で家族を殺されて戦いに身を投じる。強さと弱さを兼ね備えていて、従来の「男性ヒーロー的価値観」はライバルの方に置かれる。女性も対等な能力を持つ
  • 背景にジェンダーの多様性や男性性や女性性の再考の動き
ぶんぶんの考察
  • ウルトラマンシリーズの「公務員が地球の平和を守る」は継続。女性隊員は主人公の先輩であることが多く、通常は女性が上位だが主人公が変身することで関係が逆転する。「怪獣を殺すことが正義か」で主人公が葛藤するのは、1960年当時から語られている
  • ジェンダーフリーの時代とはいえ、アニメが「国民的娯楽」の地位を失い市場を縮小させる中、グッズ販売など別の力が働いて、女性キャラが必要以上にセクシャリティーを強調するような描かれ方をする場合がある
  • 「父の敵」「父親との確執」など父子同心円的関係や、主人公(敵も)の戦う動機に家族が関係するのは変わらない
  • プリキュア』『鬼滅の刃』は巻き込まれ型、アイテムによる変身や個々の必殺技、友情や家族愛など、これまでのヒーローものの典型を踏まえつつ、世相を織り込もうとする姿勢も見られる

まとめ

 この講演会の後改めてアニメや特撮の設定を見直し、私たちが無意識のうちに刷り込まれているものは何かについて考察することができました。

 ぶんぶんは幼少期に「魔法少女ものは女の子が観るもの」と思っていたので、ジェンダーバイアスにどっぷり浸かっていたことも再確認しました。(´・ω・`)

 刷り込みの多くは「家父長的世界観」に関わるもので、それを相対化するアイテムとしてジェンダーの視点は有効です。

 ゴジラ好きのぶんぶんが『シン・ゴジラ』に違和感を覚えたのは、「怪獣と戦うのは公務員」という図式が「国を守るのは政府与党のナショナリストと有能な官僚で、下々はその指示に従っていればいい」と肥大化している点と改めて気が付きました。

 須川先生が指摘していた「ディズニープリンセスは王子の迎えをひたすら待つ」ほど露骨ではないにせよ、様々な表現にはその表現者の無意識の思い込みがあり、うっかりしていると私たちもそれを無批判に受け入れる可能性があります。

抜群に面白い

 最近の特撮やアニメの中には、従来のヒーローもののフォーマットから脱しようと試みるものが見られますが、ただの「逆張り」でなく「脱構築」して新しい表現にまで高められるかは、クリエーターの力量にかかります。

 ただし昨今は「資金回収」という別の変数も加わるので大変です。

 最後に、須川先生と重県男女共同参画センターさん、有意義な時間をありがとうございました。ぶんぶんも「日本アニメ学会」に入れてほしいです。