ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2025年度以降の大学入学共通テスト(英語民間検定 情報の新設2021年5月)

 2025年からの大学入学共通テストや大学入試についてのニュースで気になったことをまとめます。

前回

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

目次

 

1 英語民間検定を共通テストの代わりにするのは難しい

① これまでの経過

 2019年11月1日に、萩生田光一文部科学大臣は「令和2年度の大学入試における英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送る」と発表しました。
【大学受験】英語民間試験の見送り決定、2024年度より導入 | リセマム


身の丈発言

www.asahi.com

 システムが延期になったのは、萩生田大臣のBSフジ番組内での「身の丈発言」がきっかけですが、経済的格差以外にも問題点が山積です

参考 大学入学共通テストで英語民間検定を利用することの問題点(2019年6月 国会請願より) 

1. 「各資格・検定試験とCEFRとの対照表」に科学的な裏づけがない

2. 試験の質に関する実質的な審査は行われていない。試験の運営は各民間試験団体に丸投げされており,第三者が監視・監査する制度がない。

3. 全員がトラブルなく受験できる目処が立たず,混乱・不安が広がっている。

4. 合否判定にまったく,あるいは,最小限の影響しか与えない民間試験の使い方をしながら,全員に受験を課す国立大学が多い

5. 受験機会の不平等

6. 4技能やスピーキング能力が向上する確証がない。 

 

 1の補足、CEFRの比較表を決めた8人のうち5人は検定団体の人間、のこり3人も各検定と密接に関わっています。

yasaidemo.com

 

当時の参考人質疑


[英語民間試験]ベネッセも参考人・質疑 高大接続改革11/5 衆院・文科

こんなことも。スクープ元のNHKの記事は削除。

mainichi.jp

 そこで「大学入試における新たな英語試験については令和6年度に実施する試験から導入することとし、今後一年を目途に検討し、結論を出す」となり、「大学入試のあり方に関する検討会議」が開かれることになりました。

 

② 検討会議

大学入試のあり方に関する検討会議:文部科学省

 2020年1月から始まり、2021年4月20日の第25回は討議・ヒアリング(業者のプレゼン?含む)を踏まえ、英語民間検定の扱いについてでした。

www.kyoiku-press.com

  ぶんぶんも視聴しましたが、結局先述の懸念は当面解決する見込みがないので、2025年以降の大学入学共通テストでの英語民間検定の活用は無理という流れでした。

 ところが5月24日の第26回のあとの新聞記事はこうです。

www.nikkei.com

news.yahoo.co.jp

 視聴した人の話では、各大学が個別に一般試験で英語民間検定を活用することについて否定的な意見が多かったのに、新聞によっては「大学の個別入試支援」がデカデカ載っていたので(日経の上述の記事はまだまし)、Twitterでは疑問の書き込みが見られました。

 産経新聞文科省幹部の「大学個別の取り組みを強烈に推し進めるということになるだろう」という話がありますが、視聴した方の話では「『大学独自に四技能試験を作る場合は支援もありうる』であって、『民間試験活用を支援』などという委員は一人もいなかった」とのことです。

 

③ ぶんぶんの感想

 現場で高校生を指導するぶんぶんは、

  • 「英語四技能をバランスよく」という命題がそもそも疑問(5月21日に「入試改革を考える会」が開いた「第1回大学入学共通テストを検証する」の阿部公彦先生の話)
  • 大学入試は選抜が目的、入試問題は受け入れ方針に基づいて何をどの程度試すか優先順位をつけて作問されるべき
  • 共通テストでスピーキングをやりたいなら、英語民間検定での代用では不公平が解消できないので、大学入試センターが開発すべき

と考えます(個人の意見)。

参考

www.asahi.com

 会議の議論がただの「アリバイ作り」で、結論が最初から用意されているなら、ここまでの会議は何だったかと思います。

 委員の一人である末冨先生はTwitterで「まだアバオアクー、休戦協定はグラナダなので、委員は油断してはいけない」と非常に腑に落ちる発言をされていたので、土壇場で英語民間検定で保護者の懐を狙う勢力の横やりが入らないか、注視したいです。

 なお英検協会は英検2級を9,800円に値上げ(公開会場)しました。つまり2019年よりも経済的負担が増しています。会議で執拗に外部検定にこだわる委員は、情報から取り残されているのか、よっぽどのお金持ちなのでしょうか。(´・ω・`) 

 

2 国大協が2025年から共通テスト「情報」の必須化を検討中

① 新聞報道

www.asahi.com

 上記によると、国大協入試委員会で議論しているそうで、反対意見も一定数あるものの、「国を挙げてデジタルと言っている時に入試に入れないのは違うという意見が多く、引き続き議論することになった」とのことです。

 現在国立大学を志願する受験生は共通テストで最大

  • 全員:国語、数学(2科目)、外国語
  • 文系:上記に加えて地歴公民から2、理科から1(理科基礎2)
  • 理系:上記に加えて地歴公民から1、理科から2(発展理科2)

*理科は文系の場合発展1、理系の場合理科基礎2+発展1のパターンもあり

の5教科7科目が課されますが、それに情報を加えて6教科8科目ということです。

② 何が問題?

1)生徒の負担増

 単純に「科目増」なので生徒の準備量が増えます。5教科7科目だけでも私立の3教科に比べればかなりの負担、そこに1科目増加です。

 さらに情報はこれまで受験教科でなかった教科です。

 最近だと文系は理科1科目だったのが理科基礎2科目に増えましたが、同教科内の増加であり、さらに理科基礎そのものも平易なので負担はそれほどでもありませんでした。情報はまるっと別教科がひとつ負担になります。

2)教科書や授業の再考

 情報の教員に新しい教科書を見せてもらいましたが、「情報を共通テストで出題」の前に編集されているので、自由度の高い教科書が多いです。

 情報は必履修2単位、多くの高校は家庭基礎や芸術と同じく1年生で履修して終了です。受験に必要となれば教材や授業内容も変わってきます。

3)情報教員の不足

 ぶんぶんの高校は大きめの高校なので、情報の専任教員が教諭(正規採用)で1名いますが、規模の小さい高校だと常勤や非常勤講師、他教科で情報の免許を持っている人が掛け持ちで教えている場合もあります。

 つまり英語民間検定で問題になった「地域間格差」がここにも存在しています。

 ぶんぶんも世界史の補習は「ワンオペ」ですが、選択科目なので人数は知れています。一方普通科では情報教員は少数職種(芸術や家庭と同じ)、ひとりで共通テストを受ける受験生の補習等を引き受けなければなりません。非常勤講師には補習はお願いできません。

 このように情報を必須化することによる生徒の時間的・心理的負担および高校の人的不足について、国大協はよく情報を集めた上での検討なのでしょうか。学校にタブレットが導入されれば「GIGAスクール」が完成なわけではありません。研究者にしてはちょっと粗雑だと感じます。

4)入試改革の挫折を反省してる?

 情報の共通テストへの導入は「英語民間検定を必須化すれば英語四技能がバランスよく育つ」と同じ「入試に導入すれば教育が変わる」という理屈です。

 英語民間検定の時には国大協は後手に回って足並みが揃いませんでした。もし今回は国大協の方から文科省の意向に沿おうとしているなら、「反省」のしどころが違う、自ら「国策大学」に甘んじようとしているように感じます。それはぶんぶんが生徒に薦めたい「国立大学法人」ではありません。

 国大協におかれましては上記1)~3)について事実を把握したうえでご検討願いたいです。 

 

おわりに 

 この本によると文科省は省庁の中で最も弱小、そのくせ監督する大学や小中高には権威主義的、この「内弁慶」を利用して政治家や他省庁が教育に干渉する、いわゆる「間接統治」を仕掛けてきます。

 今回の入試改革のゴタゴタはまさにこれです。文科省の姿勢に乗じて「教育の市場化」を狙う勢力が暗躍しているように感じます。

 たしかに教育にはお金がかかります。いい教材は生徒の理解の助けになります。教育産業は営利企業ですからそれで利益を上げるのは当然です。

 ただその行き過ぎを防ぐ、「教育を食い物にする」かのような行為を許さず教育の機会均等をできる限り保証するのが、公教育を司る文科省の仕事のはずです。

 私は生徒と向き合って仕事をする一介の現場の教員、頼りは文科省です。文科省も国大協も、自分たちがどこを向いて仕事をしているのか自覚し、本来の任務に励んでいただきたいと願います。