ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2025年度以降の大学入学共通テスト(記述式は断念?2021年4月)

はじめに

 2019年12月17日に萩生田文部科学大臣が、共通テストの国語と数学の記述式の実施を見送ると発表しました。

発言要旨

 英語成績提供システムのストップに加えて、e-ポートフォリオの運用停止と、入試「改革」の目玉が相次いで挫折し、共通テストだけが残った格好になりました。

 これを受けて、いったい何が問題だったのかを検証する「大学入試のあり方に関する検討会議」が開かれることになりました。

 以下引用はこちらの資料から

www.mext.go.jp

 2020年1月から始まり、直近では2021年4月2日の第24回が開催されました。youtubeでライブ中継があるので、ぶんぶんは進路担当の職務として仕事が空いている時に視聴をしていました。

 感想を言うと、正直「議論」ではなく、それぞれの立場の人が来て意見を言って終わり、「会議しました」というアリバイ作りという印象でした。

 議論すべきは「英語民間検定を共通テストの代わりに使う」が高大接続システム改革の最終答申で唐突に出てきたこと、記述式は難しいという意見がありながら無視されたこと、利益相反疑惑など、ポンコツ入試改革の意思決定のプロセスの検証です。 

 例えば記述式の問題点について、南風原朝和東京大学名誉教授は2017年の最終答申前の会議でこう指摘しています。
www.mext.go.jp

 現実に行おうとしていることというのは,単文の記述式である,それから条件付きの記述式である,そして,採点はその条件に適合しているかどうかをチェックするというものであると。悪い言葉で言えば,ちょっと中途半端な記述式ということになるかと思います。国立大学の二次試験などでやっているような本格的なものであれば,先ほどのメリットの最初のもの,思考・判断能力とか表現というものは測れるかもしれませんけれども,そういったものと,今,実際に行おうとしている条件が合っていれば正解とするという,短い記述式でこういったことが実現できるかというと,これはかなり離れてることだと思うんですよね。

 まさに南風原先生の言うとおりになったのですが、こうした意見がなぜ無視されたのかを検証するどころか、会議では、京都工芸繊維大学の羽藤先生が英語成績提供システムの問題点を理路整然と説明し、委員がぐうの音も出なかった次の回に、英語検定業者がプレゼン大会をはじめる始末です。 

 さらに会議の途中でパブリックコメントを求めたり(ぶんぶんも書きました)、各大学の記述式や英語民間検定の活用状況を調査するなど、後手後手です。 

 今回は第24回の会議の様子を紹介し、最終まとめの予習とします。 

 前回

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

目次

 

1 大学入学者選抜における多面的な評価の在り方に関する協力者会議

① 学力の三要素を選抜で利用する 

また、一般選抜については、大学の規模や設置形態、学部・学科等によっては、志願者数や入試業務の制約から、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」の評価に
比重を置き、学力検査や小論文などが中心の評価方法となることも想定されるが、
その場合であっても、例えば、希望する志願者には、高等学校での活動・実績を通し
て身に付けた能力・スキルや経験が大学入学後の学習にどう活かせるか等を簡潔に
記載した資料の提出を求めて選抜の一部として活用している事例などがあり、各大
学はこのような事例も参考として取り組むことが考えられる。

 今年、入試改革に積極的な早稲田大学立教大学が、一般試験の出願時に受験生が主体性に関する作文を入力する、ただし選抜には利用しない、合格後の指導の参考にするとしました。

 受験生からすると、共通テストの直前の追い込みをしたいときに選抜に関係しない文章を書くことになります。合格者の提出書類に入れておけばいいのでは?

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 また青山学院大学は2021年から一般試験で学部学科ごとの表現力問題を導入したところ、従来通りの経済学部と全学入試以外は軒並み志願者減少です(次回で詳述)。

 受験生は通常一般入試では複数の大学の似た学部を受験するか、どうしてもその大学というなら難易度の違う学部を通しで受験します。そう考えると大学ごと、学部ごとに問われる力が違うと出願しづらいのは当然です。受験生の根性の問題ではありません。

 会議ではこの件については「一定の成果が上がった」と考えているみたいですが、大学と受験生にしわ寄せがいっただけにも思えます。  

 

② 主体性評価

 いわゆる「主体性」を評価することについては、高大接続改革において「多様性・
協働性」も含めて「主体性等」と呼称されるようになるなど、用語の定義が明確でな
いとの指摘や、「主体性」を客観的に評価することは困難ではないかといった懸念が
示されている。
  この点に関しては、「主体性を持ち、多様な人々と協働しつつ学習する態度」の評価に当たって、主体性・多様性・協働性という要素に分けてそれぞれを評価したり、「主体性を持ち、多様な人々と協働しつつ学習する態度」のみを取り出して評価したりするということではなく、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」と合わせて学力の3要素を多面的・総合的に評価することを明確にした上で、高等学校・大学関係者の共通理解を図っていくことが必要である。

 批判は耳に届いているようですが、依然として「主体性」の定義については回避しています。

 いつものをあげておきます

note.com

 なお提出書類については「志願者本人記載資料やポートフォリオなど各大学が定める方法により、直接大学に提出することが適当である」とあり、e-ポートフォリオは宇宙の塵になったみたいです。あれ、なんで挫折したのか、政治的プロセスや利益相反について検証しないんですか?

これ

gendai.ismedia.jp

www.jcp.or.jp

,

③ 調査書

「各教科・科目等の学習の記録」については、各教科・科目の観点別学習状況の項
目を直ちに設けることはせず、今後の高等学校における観点別学習状況の評価の
充実の状況、大学における観点別学習状況の活用方法の検討の進展等を見極めつ
つ、条件が整い次第可能な限り早い段階で調査書に項目を設けることを目指し、
引き続き高等学校・大学関係者において検討を行うこととする。

 各教科科目の「観点別評価」の記載はとりあえず先送りです。

 問題は新調査書の第2面です(教科科目の成績以外)。

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(゚Д゚)ハァ?

 2021年度入学者選抜からのはこれ

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所見欄の6観点がない! 元の書式に戻った?

 

 昨年が新様式1年目で、三年前から担任は生徒から情報を集めや入力に多大な労力を使いました。自治体の調査書入力システムも新書式にするのにもお金と時間がかかったのに! シレっと変更? 調査書作った責任者は出てきて説明するべきです。 

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2 記述式問題の出題のあり方について【案】 

 引用すると長いのでダイジェストで解説すると

  1. 記述式の出題は、自らの考えを論理的にまとめたり、それを的確に表現する能力を見るために必要。マークシート方式には限界がある。
  2. 大学入学共通テストへの記述式問題の導入が見送りになったのは、①採点者の確保、②正確な採点、③採点結果と自己採点との不一致、④民間事業者の活用に伴う利益相反の懸念の指摘、⑤採点をめぐる制約から望ましい記述式に限界があることの指摘、が理由。
  3. 国公立大学にアンケートを取ったところ①「大学入学共通テストで記述式を出題すべき」について肯定的意見が8% 、否定的意見が91%、②「一般選抜で記述式を充実すべき」については、肯定的意見が78%、否定的意見が20%。私立大学においては、①肯定的意見は17.4%、否定的意見は81.5%、②肯定的意見は51.8%、否定的意見は47.4%。
  4. 国公立大学では、一般入試全体(全教科)で国立の99.5%、公立の98.7%のテストが記述式を出題、私立大学では、一般入試全体(全教科)では54.1%が記述式を出題。

 

(゚Д゚)ハァ?

 

 2は先述の南風原先生が指摘していたことであり、試行調査で明らかになったことです(過去ログに詳細あり)。

 議論すべきは、問題点が見えていながら「できる」の一点張りで無理やり突き進んだ、そのプロセス(とその背景)ではないでしょうか? 

 採点についてはこのような記事もありました。

www.nikkan-gendai.com

 また文科省が国語や小論文の実施が少ないことだけを取り上げて「国公立大学は記述問題を課しているところが少ない」と記述式導入を正当化しようとして、東北大学にミスリーディングを見破られたこともありました。

根拠の論文 「国公立大学 記述式 東北大学 調査」で検索すると当時の新聞記事も出てきます。

https://www.adrec.ihe.tohoku.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2018/04/f0e6e4c5977521bf74f10d1864863ce1-1.pdf

有料記事

www.kyobun.co.jp

 つまり詳細な調査をしないで、その時の会議出席者の不勉強と印象だけで、共通テストに記述式を導入しようとした訳? その反省は?

 ぶんぶんはこの会議は資料のみの閲覧で、議事録がまだ上がっていないのですが、視聴した人の話では「記述式は各大学の裁量に任せましょう」だったようです。

resemom.jp

 

おわりに

 繰り返しになりますが、記述式(と英語民間検定の必須化)が無理ゲーなのは始まる前からある程度分かっていて、実施が近づくにつれて制度のほころびや利益相反疑惑が次々と明るみになっても、文科省は強行突破しようとしました。

 会議はそれを反省するべきであって、会議の結論が「記述式は大事だけど共通テストでは無理だね!」では困ります。それではまた同じことの繰り返しになります。

 事実「情報を共通テストで必須化する」も「これからはAIの時代だ。共通テストで情報を導入すれば高校生の情報スキルがアップする」と、英語民間検定や記述式の焼き直しに思えます。

 高校教育や大学入試の「当事者」である教員、保護者、生徒は過去のことを忘れず、教育改革の動きを注視し、英語成績提供システムや記述式に待ったをかけた時のように、マズいことには声をあげていく必要があると痛感しました。