ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2020年度からの大学入学共通テスト(国公立大学の英語検定活用2019年11月)

はじめに 

 11月1日に文部科学大臣は「令和2年度の大学入試における英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送る」と発表しましたが、「各大学が個別試験で英語検定をシステムを介さず利用するのは妨げない」ともしました。

 大臣自身が「おすすめできない」と言っているのですが。

 国立大学協会は「一般試験の受験者に英語試験を課す」というガイドラインを撤回しない、大学入試センターは共通テストはリーディングとリスニングのみ、など制度上の問題が何も解決しないまま「検定の受検」が自己目的化している感があります。

 制度上の問題だけでなく「検定を入試に使えば英語四技能が向上する」という前提にすら疑問が呈されているにもかかわらず、推進派は「改革は止められない」「準備していた生徒が可哀想」など、批判に正面から向き合う気がないように思えます。

 

 しかし、これまでほぼ沈黙していた大手メディアも「身の丈発言」以降は入試改革の問題点だけでなく、背景にある利権や政治的圧力についても報道するようになり、高校生とお金を出す保護者の視線は日に日に厳しさを増しています

*発展:野党合同ヒアリングや委員会で「主体的で対話的で深い」とは言い難い政府関係者の様子は、すべて動画にアップされています。保護者の方は必見です。

 

前回

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

 現在ボールは大学に預けられています。11月29日(金)までに国立大学は態度を明らかにしますが、この制度に疑問をお持ちの大学を応援するため、現在の発表を取り急ぎまとめました。

 

1 公立大学

 国大協のガイドラインは関係ないので、文科省さんとの関係次第です。11月1日の発表の前から15校が「使わない」、20校が任意または共通テストと比べて高得点採用と、採用には消極的な大学が目立ちます。

 

名古屋市立大学

 予告では学部ごとに高得点、加点、理由書可とカオスでしたが、最新の予告では変更点の中から英語検定が消えました。つまり「使わない」ということです。11月1日付けと最も早い対応でした。

http://www.nagoya-cu.ac.jp/admissions/undergraduate/files/20191125/r3_gaiyou191101.pdf

 

三重県立看護大学

 「一切利用しない」になりました。単科看護大学は「利用しない」が多く、苦学して看護師を目指す生徒は一安心です。

 なお三重県は外国にルーツを持つ住民の人口割合が高く、学生の多くはポルトガル語も学び、実習ではそうした方々の中に飛び込んでいきます。「検定を受ければ四技能が向上する」と机上で考える方は爪の垢を煎じて飲むべきです。

http://www.mcn.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2019/11/20191108taiou.pdf

 

高知工科大学

 総合選抜で個別試験の代わりに「英語成績提供システム」を利用すると予告していました。いわゆる「英検を前年9月に予約する問題」ですが、総合選抜、一般入試とも検定は利用しないになりました。PDFは修正と取り消しの嵐です。

https://www.kochi-tech.ac.jp/entrance_info/img/669832b01584238876d6a13ff167443a.pdf

 

山陽小野田市立山口東京理科大学

 予告していた全ての英語認定試験の利用を見送ります。

http://www.socu.ac.jp/uploads/images/2021eigonintei.pdf

 

九州歯科大学

 「2021年度一般選抜、総合型選抜、学校推薦型選抜においては民間の英語資格・検定試験の成績を利用しないことを決定しました」。

www.kyu-dent.ac.jp

 

秋田県立大学

 「本学の令和 3 年度入学者選抜ではすべての入試区分において、英語資格・検定試験の受験を求めず、その成績の提供も求めない」とし、検定試験で評価する予定だった英語力は「共通テストや一般前期日程の個別試験の他、調査書なども参考にしながら」評価します。

https://www.akita-pu.ac.jp/up/files/www/event2/e-gakubu/20191123yokoku_5.pdf

 

2 国立大学編 

 北海道(初年度のみ)、東北、会津、筑波技術、京都工芸繊維は活用しない、大阪を除く旧帝大や一部の大学は学校長の証明書も可という裏技、それ以外は文科省ガイドラインに忠実で、出願資格・加点で英語民間検定を必須にしていました。

 

東京工業大学

 民間英語検定を出願資格かつ二次試験でも加点、という最も突っ走った方針を打ち出していましたが、いずれも「利用しない」になりました。できれば授業料値上げも(以下略)。

https://admissions.titech.ac.jp/examination/pdf/2021yokoku201911_8240739.pdf

 

愛媛大学

 11月13日付、地方国立大学ではいち早く「英語認定試験の結果を出願資格として取り扱わない」になりました。

www.ehime-u.ac.jp

 

高知大学も取りやめ。赤字の上に取り消し線。

nyusi.kochi-u.jp

 

東京農工大学

 「令和3(2021)年度の本学の入学者選抜においては、英語資格・検定試験は利用いたしません。出願資格としていた「CEFR対照表のA2以上」を課すこともいたしません」とのこと。

www.tuat.ac.jp

 

広島大学

 全員必須は取りやめ。現行の「任意提出で英検準1級相当が一次試験の英語見なし満点」に戻りました。

 ベネッセコーポレーションが主催するGTEC検定版は、従来通り除外です。この検定は学校実施、先生が事前に問題を仕分けし監督します。情報保持体制(セキュア)に問題があります。

 教員はとりわけ高い倫理観が要求されますからインチキするはずないですが(だから他の職種なら停職事案でも懲戒免職になったりする)、試験は「ズルできるじゃん」と疑われる時点でアウト、入試に「性善説」はありえません。

 なおセキュリティーが確保されているGTEC(CBT版)は使えます。

https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/130338/20191114.pdf

*発展:従来型英検は本会場と準会場(学校実施)があり、準1級は前者のみなのでセキュアはOKです。 

 

山口大学

  「英語認定試験は,教科「外国語」の「英語」以外を受験する者においても必ず必要」という信じがたい方針を出していましたが、「一般選抜の全受験生及び共通テストを課す」「学校推薦型選抜で英語民間試験を課す」学部については、英語民間試験の活用を取り止めました。

 国際総合科学部では従来行っていた外国語検定試験の活用が復活します(GTEC検定版と英検2級も加点対象( ´_ゝ`)フーン)。

http://nyushi.arc.yamaguchi-u.ac.jp/nyushi_henkou/dat/ap/eigo_koushin.pdf

 

北海道大学

 学長不在とのことで「2021年度は使わない」から「2022年度からはCEFRのB2に5点,C1以上に20点を共通テスト英語の得点に加算」と方針変更がありました(中で対立・暗躍でもあるんですかね?)。一転「文部科学省及び大学入試センターによる英語認定試験活用方針等が定まるまでの間,本学一般選抜(個別学力検査等)での独自の活用は行わない」になりました。

https://www.hokudai.ac.jp/admission/R03_kyoutsu_20191125.pdf

 

静岡大学

 「点加算がCEFRの段階で8点刻み」という影響が出そうな加点方式でしたが、「令和3年度入学者選抜において, 英語民間試験を課さず、点数の加算も実施しない」とのことです。

 現行の入学者選抜において英語民間試験の成績を出願要件としている選抜区分は例外です。

 教育学部学校教育教員養成課程教科教育学専攻英語教育専修「大学入学共通テストを課す学校推薦型選抜」への出願要件については,次の英語力試験のいずれかを満たしている人が条件です。いわゆる「独自基準」です。

・日本英語検定協会実用英語技能検定(英検)2級以上合格( 1 day S CBT ® を含む)
TOEFL iBT ® テ スト 52 点以上
TOEIC ® Listening and Reading Test 500 点以上

http://www.shizuoka.ac.jp/nyushi/outline/pdf/eigo_enki.pdf

 

長崎大学

 多文化共生学部はB1以上出願要件と最も強気の設定でしたが、「共通テストの外国語を課す入学者選抜については2023年度までは民間英語試験を出願資格として活用しない」となりました。

 ただし多文化共生学部は英検準1級以上、TOEFL iBT61以上(その他あり)を一般選抜では共通テスト英語を「みなし満点」、総合型選抜では出願要件にするのはそのままです(帰国子女、外国人留学生入試は別途出願要件あり)。

http://www.nagasaki-u.ac.jp/nyugaku/admission/topics/pdf/R01/eigo_katuyou.pdf

 

三重大学

 検定必須でC1以上に10%の加点(三重県の先生が生徒に勧めるGTECadvancedはB2までなのに)という謎設定で羽藤先生にも取り上げられていましたが、使わないになりました。

 従来からの人文学部の推薦選抜の出願要件(英検準2級以上)と看護学科の社会人入試のそれ(TOEIC 500点以上)は継続です。

http://www.mie-u.ac.jp/exam/r3eigo011126.pdf

 

まとめ

 

 私は11月以前に複数の地方国公立大学の入試担当者と懇談し、「事態が変わったから変更しては」と聞いたところ、「国大協の方針に従っている。みんなで決めたことを守らない他大学が悪い」が1件(公開の場で聞いたから?)、それ以外は「影響は最低限にしています」「色々あるもんで」とすまなそうな顔でした。

*発展:地方国立(工学部が多い)が予算を減らされて「研究費か教養の英語教員の人件費か」という「悪魔の選択」を迫られ、後者を切ったら英語の試験ができなくなる、それで外部検定…という構図も考えられます。予算減らして「グローバル化」とか矛盾の極みです。大学の先生方、頑張って!

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 私は、大学入試はその大学の受け入れ方針、教育課程方針、卒業方針に基づいて「育てたい学生を選抜する」、すなわちその大学の教育方針そのもの、学問の自由や大学の自治の根幹だと考えます。

 「語学力を重視する学部の特別選抜」で英語検定を出願資格にするのはありでしょうが、すべての大学が一般試験で全員に必須にする理由はありませんし、それをしないから「大学が語学力を軽視している」という批判は当たりません。

 今回の発表を行うまでに、大学の中では様々な葛藤や対立があったと拝察しますが、職員の方々が「受験生のため」以前に「大学とは、入試とはどうあるべきか」に立ち戻っての結論と理解し、応援します。

 ちょっと「私の勧めたい国公立大学」が戻ってきたようです。

 11月29日には国立大学の矜持が見たい、ひたすらお願いです。

↓↓↓ これ 

http://bunbunshinrosaijki.hatenablog.com/entry/2019/11/30/105646