ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

今なら聞ける大学入学共通テストの基礎知識(2 入試の変化)

 大学入学共通テストの基礎知識、第2回は入試制度の名称変更と内容の変更について解説します。

前回 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

1 入試区分の呼び方が変更

  • 旧「一般入試」⇒新「一般選抜」
  • 旧「AO入試」⇒新「総合型選抜」
  • 旧「推薦入試」⇒新「学校推薦型選抜」

 

2 入試内容が変更

① 総合型選抜

 AO入試は「詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって,入学志願者の能力・適性や学習に対する意欲,目的意識等を総合的に評価・判定する入試方法」でした。

 しかし入学した学生の学習意欲が問題になり、総合型選抜では「調査書等の出願書類だけでなく、各大学が実施する評価方法等又は大学入学共通テストのうち、少なくともいずれか一つの活用を必須化する」となりました。

 具体的には小論文、プレゼンテーション、口頭試問、実技、各教科・科目に係るテスト、資格・検定試験の成績などを活用します。

f:id:tokoyakanbannet:20200409163250p:plain

 すでにそのような取り組みは行われています。

京都工芸繊維大学

www.kit.ac.jp

 2020年度入試の場合、第一次選考では講義・レポート作成(学域ごとに実施)、課題提示・レポート作成(一般プログラム・一般)英語スピーキング・ライティング(一般プログラム・グローバル)地域課題レポート(地域創生Tech Program)が、第二次選考では各専攻ごとの口頭試問や課題が課されます。

同志社大学

www.doshisha.ac.jp

 出願するのに出願資格(評定平均値、活動歴、検定スコア)、志望理由書、自己アピール文、自由エッセイと大量の提出物が必要、第二次選考では小論文、面接、プレゼンが課されます。

 このように国公立や難関私立のAO入試は要求水準が高く、正直一般入試で受験した方が楽です。一方中堅私立大学の第一次選考ではオープンキャンパスのミニ講義とレポート作成というように比較的軽量です。

 各大学の総合型選抜は多少ボリュームアップすると考えられますので、入試ガイドが発表されたら(5月以降)確認しましょう。

 

② 学校推薦型選抜

 推薦入試は「出身高等学校長の推薦に基づき,原則として学力検査を免除し,調査書を主な資料として評価・判定する入試方法」でしたが、こちらも総合型選抜と同様に何らかの学科試験を課すことになりました。

 関西の私立大学の公募制推薦ではすでに筆記試験(基礎学力検査)が当たり前です。

 国公立大学の場合も、従来のセンター試験を課さない推薦も小論文などの筆記試験や口頭試問が課されています。

 問題は指定校推薦です。通常指定校推薦は評定平均値をクリアした生徒が高校の推薦を受けて出願、試験は面接だけです。

 早稲田大学は、合否に関係しないものの、2021 年度入学者を対象とした指定校推薦入試より、「大学入学共通テスト」のうち英語、国語、数学(I・A)の受験を必須とします(国際教養学部は英語外部検定試験、英語での⾯接、志望理由書を利用)。

https://www.waseda.jp/inst/admission/assets/uploads/2019/09/2021ad_change3.pdf

 たとえば指定校推薦と公募制推薦を同日に行い、同じ学力検査を課す(合否には影響しないがあんまりだと指導が入る)という方法も考えられます。指定校推薦をもらったからといって遊び回ってはいけません。 f:id:tokoyakanbannet:20200409165336p:plain

③ 一般選抜

 変更点は2点です。

 ひとつ目は記述式や、客観式で思考力をより試す出題が増える予定です。

 教育改革の旗振りをしている人は事実を誤認しているようで大学にとっては迷惑な話ですが、関西圏の中堅以上の私立大学では数学と理科は記述式または記号と記述式の混合が主流です。世界史に関して言えば、立命館はほぼ記述、同志社は大問三題の中に各5問程度短答式の記述問題が組み込まれています。

 また国語や英語はマーク式であっても読解力や判断力が試される仕様です。「記号=サイコロ(以下略)」と決めつけるのは入試問題を見ていない方の思い込みです。

*なお入試改革の会議に出席されていて「国語記述式の自己採点も国語力」と仰っていた某先生の大学は入試問題がすべてマーク式と記憶していますので、ご工夫いただければと思います。

 

 もうひとつが「主体性評価」です。

 「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度をより積極的に評価するため、調査書や志願者本人が記載する資料等の積極的な活用を促す」とされています。

 例えば三重大学では工学部の後期で書面によるインタビューが予定されています。筑波大学では調査書の内容を点数化すると発表しています。

 志望理由書の提出については異存はありません(現在でも一般試験に面接がある大学は存在する)が、調査書の特に評定以外の記載内容を点数化するのには問題があると考えます。

 簡単に整理すると

  • そもそも「主体性」の定義が難しい。
  • プロセスの評価、結果の評価とも困難。例えばボランティアと部活、強豪校の控えと弱小校のエースを数値化して比較できるのか。
  • 大人の求める主体性を生徒が「演じる」という矛盾が生じかねない。
  • 既卒生、通信生、高認生が不利になる恐れがある。

  私は三番目が最も問題と考えます。入試で有利になるためにボランティアに行くとか部長に立候補するとか、それは主体性とはいいません。

 こうした批判もあってか、愛知教育大学では調査書を点数化するとしながら記載事項は点数化しないとしています。「大学入学後の指導の参考にする」と大人の対応をしている大学もあります(高校の負担は増えるのでイラッとしますが)。

*私が国立至上主義高校の進路部長なら、全員ボランティア体験必須、部長・キャプテンは月or週替わりにします。(`・ω・´)シャキーン もちろんしませんよ。

  主体性評価の闇についてこの漫画が簡にして要を得ています。

note.com

 

 JePについては、そのデータが大学のweb出願システムと直接リンクしません(活用するために新たなシステムを構築する必要あり)。JePがもじもじしている間にほとんどの大学がweb出願システムを構築したので、そこに志望理由書や学習計画書を添付すれば事足ります。

 もちろん学校の調査書データとJePのデータも互換性がありません。

 つまりJePは大学・高校・生徒にとってメリットがない、「オワコン化した」(駿台の石原氏の言)といっても過言ではないです。(´・ω・`)

 また公的なJePに入るのに民間企業ベネッセの「ハイスクールオンライン」のIDが必要という謎設定が問題になりました。これに対して文科省は「入口は一緒で中では別」と弁明していましたが、批判を受けて解消するそうです。だったら最初(以下略)。

 こうしたことから主体性評価については見直すらしいです。

www.nikkei.com


3 入試が後ろ倒しになる

河合塾のHPを参考

www.keinet.ne.jp

  • 総合型選抜…出願時期:9月以降、合格発表時期:11月以降
  • 学校推薦型選抜…出願時期:11月以降、合格発表時期:12月以降
  • 一般選抜:実施:2月1日以降。小論文、実技等が試験内容の場合は1月25日以降

f:id:tokoyakanbannet:20200410135306p:plain

 これまでは8月1日からAO入試出願可能で、正直夏休みが終わってすぐに調査書を作るのが無理ゲーで現場は困っていました。これに関しては緩和されました。

 推薦入試については、大学によっては文科省がしつこく言ってくる「定員管理」のため指定校推薦やスポーツ推薦の学生を確定した上で公募の合格者数を決めたいところです。特技は推薦でなく総合型に回した方が良さげです。

 一般については、関西では国立との併願関係が強い関関同立が2月1日から(国公立の前期試験の前に合否がわかる)、その併願校がその前後に入試を行なって、受験生が無駄な入学金を払わなくていいようになっています。

 一般選抜が2月1日以降になるとこのシステムが崩れます。例えば1月下旬の前期を推薦後期に、2月中旬の中期を一般前期に、という方法も考えられます(ルール上は問題なし)が、各大学はどう判断するでしょうか。

 

おわりに

 ただでさえ新テスト初年度で不明な点も多く、手探りの新学期なのに、新型コロナウイルスで一部地域の高校は休校、第一回全統共通テスト模試は公開会場は中止、英検のS-CBTも4月の分は中止です(文科省が民間英語検定を強行していたら大パニックになっていました)。

 このまま大学の休校が続くと8月から総合選抜のスクーリングを行うのは難しく、1学期の成績の出し方によっては推薦入試の評定平均値に不公平が生じかねません。民間英語検定を必須とする入試方式も実施困難です。

 「普通」と思っていたことが「普通」でなくなっています。この状態で大学入試を実施できるのか、文科省さんには頭を冷やして考えてほしいものです。

 繰り返しになりますが、高校生のみなさんは、大学入試で必要な知識や技能、考え方は大きく変化しませんから、基礎基本を今のうちに固めておきましょう。