ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

どうなった?コロナ禍の2022年度入試(2 私立大学編)

はじめに

 2022年度入試に志願した受験生は、二年間ものコロナ禍とポンコツ入試改革の余波で本当に気の毒でした。

 今回は河合塾駿台代ゼミの2022年度入試の分析を参考に、2022年度入試についてふり返ります。

 第2回は私立大学編で、首都圏と関西圏の大学が中心です。

参考

駿台予備学校

www2.sundai.ac.jp

河合塾 ガイドラインの記事 2022年4,5月号

www.keinet.ne.jp

代ゼミ 首都圏の私立大学には強いです。

www.yozemi.ac.jp

過去回

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

目次

 

0 2021年度入試「改革」のおさらい

  • センター試験→共通テストに
  • 英語成績提供システム→2019年11月にストップ
  • 国語と数学に記述式→2019年12月にストップ
  • 主体性評価→Japan e-ポートフォリオが2020年4月に運用停止
  • 共通テスト→「思考・判断力をより試す」は情報処理能力勝負、「実生活の場面」は非現実、国語は出題者の利益相反から実用的文章は消滅し、DNCはあのリーディングとリスニングで四技能が測れていると強弁し、2022年の数学ⅠAは現役教員さえ時間内に解答できない仕様に
  • 入試改革→そもそも「入試で教育を変える」という理念がおかしい上に、それを制度に落とし込むことができず、改革は土壇場で次々挫折、共通テストだけが残り、入試改革は扉の外れた自動車のようにポンコツ化したが、負けを認めない文科省は各大学への個別の働きかけに戦略を変える
  • 首都圏私立大学は大胆な入試改革を行うものの、初年度は受験生には不評で志願者を減らす
    関西圏私立大学は以前から公募制推薦で学力も調査書も見るシステム、昨年度から文科省の顔を立てて英語外部試験を活用する方式を追加するものの、定員全体からすれば多くはない、など変更は小幅

2 私立大学編

① 一般方式 志願者は微増も2020年の水準には程遠く

文科省の発表より 一般選抜(確定版)

  募集人員 入学志願者数 倍率 受験者数 合格者数 入学者数
2019年度 272,178 3,890,167 14.3 3,716,421 936,227 221,396
2020年度 273,997 3,775,790 13.8 3,600,296 1,008,391 213,422
2021年度 271,994 3,227,938 11.9 3,063,895 1,077,652 201,116

*2019年度入試(現大学4年生 定員管理厳格化のピーク)

 2020年度入試(現大学3年生 センター試験最終年度 現役志向)

 2021年度入試(現大学2年生 ポンコツ入試改革初年度 浪人激減)

 入試改革初年度は志願者数が減る一方、大学側が定員管理厳格化の「さじ加減」を覚えて合格者数を増やしたため、競争は緩和しました。

 2022年度については、駿台は最終志願者数は約327万人前後、2021年から微増と予想しています(242大学ののべ志願者数から計算 上記リンク)。それでも2020年の水準から約14%減少しています。

 ぶんぶんの学校の場合、のべ志願者数が減っている最大の理由は受験生ひとり当たりの受験校数が減っていることです。予備校も同様の分析をしています。

 個別のケースはお話しできませんが一般的な傾向として、国公立第一志望の人は私立は併願とガチガチ安全校、関関同立第一志望の人は4大学ローラー作戦はやめてその中から1、産近甲龍から1に出願し、同じ大学の複数方式(受験料割引あり)や複数日程を使う、という人が増えました。

 日本のGDPはダダ下がり、庶民の給料は上がらない、こどもを大学にやる家庭のコア層は「非課税世帯」よりも多少収入がある世帯なのに、新しい制度ではそこへの支援が減っています。受験生の保護者は怒るべきです。

毎日新聞の記事

mainichi.jp

 駿台「共通テスト難化によって実施後出願の共通テスト利用方式が減った」と指摘しています。

共通テスト利用方式 代ゼミのHPより

  2021年 2022年 比較
募集 志願 倍率 募集 志願 倍率 増減 指数
合計 46,477 824,993 17.8 46,032 813,424 17.7 -11,569 98.6%
既存 46,477 824,993 17.8 45,435 804,513 17.7 -20,480 97.5%
新規           597     8,911 14.9    8,911  
実施前出願 21,825 566,203 25.9 21,779 559,283 25.7 -6,920 98.8%
実施後出願 24,652 258,790 10.5 24,253 254,141 10.5 -4,649 98.2%

 これを見るとたしかに実施後出願の減り幅が大きいですが、実施前出願も減っています。共通テストの出願者自体が減っていること、受験生が出願数を絞ったことが一因と考えられます。

 なお河合塾は「共通テスト利用は例年並み」と分析しています。駿台より私立大学のサンプル数が20校ほどが少ないため、実施前出願の偏差値上位校の比率が高いからと思われます。

 ぶんぶんは共通テスト利用は「掛け捨て保険」みたいなもので、これが本命という人は少ないし、大学もそれを見越して多めに合格者を出すので、この方式の増減で一喜一憂する必要はないと考えます。

*発展:関西圏は商売上手

 関関同立は国公立との併願関係が強く、三月入試を除いて共通テスト利用は実施前締め切りです。

 一方中堅私立大学は共通テスト利用を前期(実施前)・中期(実施後)・後期(三月)のように複数回実施していて、入試結果を見ながら追加できる設計です。

 また個別試験はどこも共通テスト自己採点後が締め切り、共通テストで「やらかした」生徒が大急ぎで追加出願できるようになっています。

 駿台はまた「中下位大学での一般選抜から総合型選抜などの特別選抜へのシフトの強化」という考察もしています。

 「中下位大学」ってちょっと失礼ですが、ぶんぶんの経験によると、一昔前は「定員を埋めるのに一苦労な大学」はAOや推薦でバンバン合格を出していました。

 定員管理厳格化の折、これら大学に受験生が殺到してちょっとした「特需」が発生しました。その後上位校が合格者を増やすと、これら大学では辞退者が続出、最終的に欠員が発生することもありました。

 そのためこうした大学では昨年度から学校推薦選抜で合格者を多めに出しています。一昔前に戻りつつあるということです。

② 系統別志願状況

 文系では昨年度落ち込みが激しかった外国語・国際関係系統のうち外国語系は依然低調、国際関係は持ち直しました。法学部は前評判通り人気、経済・経営系はやや苦戦しました。

 理系では理、工、農とも復調、医療系では薬学部が人気、国立では不人気だった歯学部は日本大学が新方式を導入して受験生を集めました。

 薬学人気はコロナ禍で新薬開発を志す人が増えたからですよね!きっと。

 人気の実学・資格系でも生活科学と教員養成は志願者を減らしました。生活科学は女子大不人気の影響、教員養成は、国立は三重大学が大量に減らした以外は全国的に微減なので、私立専願組が減った、受験生が併願校数を絞った、国立は教育学部でも私立は他学部に出願した、去年の三重大学がイレギュラーで教員志望者自体が順調に減っている、などが原因でしょう。

 各地で教員採用試験の倍率が低下しているようですが、文科省が教員のブラックな労働環境を改善せず、「教師のバトン」などでごまかそうとした結果です。( *`ω´)

③ 地域別志願状況

 予備校によると、今年度は国公立と同じく首都圏が復調傾向です。

 ここ数年は経済格差拡大とコロナ禍で首都圏私立の「ローカル化」が進みましたが、上位校が合格者を増やしていること、入試方式の新設、千葉工業大学の「コロナ禍対応で共通テスト利用方式は無料」作戦などで、多少戻してきたようです。

 某知恵袋で「東西南北」と呼ばれる地域拠点私立大学(北海学園東北学院、南山、西南学院)も受験生を集めています。「国立がダメなら地元のシュッとした私立」志向は継続中です。

④ 主要大学 首都圏編

上記リンク、河合塾調べから作成

大学ごとの志願者数や合格者数はこちら

www.keinet.ne.jp

大学 方式 2022 2021 2020 2019 22/21 21/20
早稲田 一般計 79,046 74,820 88,609 92,787 106% 84%
早稲田 共通テ計 14,796 16,839 15,967 18,551 88% 105%
慶應義塾 一般計 37,894 36,681 38,454 41,875 103% 95%
上智 一般計 5,124 5,412 26,156 27,916 95% 21%
上智 共通テ計 17,380 20,857     83%  
東京理科 一般計 35,059 33,468 36,099 36,838 105% 93%
東京理科 共通テ計 18,198 15,833 18,963 22,512 115% 83%
明治 一般計 76,328 71,551 75,693 80,033 107% 95%
明治 共通テ計 25,606 27,458 26,914 31,271 93% 102%
青山学院 一般計 24,614 20,056 46,683 46,287 123% 43%
青山学院 共通テ計 23,225 20,067 11,139 14,117 116% 180%
立教 一般計 40,146 44,099 39,817 42,077 91% 111%
立教 共通テ計 22,500 21,376 21,491 26,719 105% 99%
中央 一般計 44,842 45,247 48,408 49,378 99% 93%
中央 共通テ計 18,513 32,110 36,820 42,087 58% 87%
法政 一般計 79,538 65,756 71,423 75,199 121% 92%
法政 共通テ計 28,743 25,194 32,205 40,248 114% 78%
1)増えた大学

法政大学

 MARCHの中でもお手頃感があって順調に志願者を増やしていました。昨年度やや不人気だったことの反動と、共通テストが荒れて駆け込みで一般受験が増えたことで志願者を増やしました。実志願者数は明治大学と1,2を争います。

青山学院大学

 入試改革で学部個別入試は共通テスト併用方式(個別試験は学部学科ごとの思考力問題)となり志願者が激減しましたが、それを聞きつけて受験生が戻ってきました。とはいえ2020年の水準にはほど遠いです。

2)減った大学

上智大学

 2年続けての減少です。昨年度一般選抜がTEAP方式、共通テスト併用(個別は思考力問題)、共通テスト利用のみとなり、私立専願生に敬遠されました。「上智大学以外考えられない!」受験生にとっては朗報です。

中央大学

 入学検定料の特別措置を廃止したため、特に共通テスト利用方式が激減しました。大学独自の試験は微減です。

立教大学

 2021年度から学部ごとの試験をやめて「全学入試」を複数日導入、また一般試験で英語が課されず、共通テスト(RとL)の成績と英語民間検定の点数のいい方を使う(つまり個別の英語試験の準備が不要)になりました。

 これによって初年度は大学の目論見通り志願者数を増やしましたが、2022年度は反動で一般入試の志願者が1割減りました。

 なお2023年度の入試ガイドでは、共通テスト利用では英検©準1級合格(CSE2300点)で共通テスト英語85%相当です。最近英検©はインフレを起こしているとはいえ準1級保持者が二技能ク○仕様の共通テスト170点と同じはかわいそうな気がします。

 一般入試の方は出願締め切り後にすべての受験生のスコア・得点に対して統計的処理を行うので、自分の英語の持ち点は不明なままです。

 ぶんぶんは、使えるスコアに学校で模擬試験みたいに教員が実施する(その気になればあんなことこんなこと以下略)検定が含まれているのが腑に落ちません。

3)まとめ

 表を見ると、2022年度に志願者が増えた大学は2021年度入試で志願者が減った大学です。首都圏難関大学は共通テストを使ったり、思考力問題を出題したりと独自性をアピールしていますが、受験生には「いかに労力少なく合格するか」の方が関心事です。

 ただし昨年から増えた大学もピークの2019年、2020年の水準からは程遠いです。

⑤ 主要大学 関西圏編

河合塾、上述より引用

大学 方式 2022 2021 2020 2019 22/21 21/20
関西 一般計 57,632 56,108 59,441 63,364 103% 94%
関西 共通テ計 20,024 22,437 20,444 23,391 89% 110%
関西学院 一般計 25,768 22,585 22,250 25,491 114% 102%
関西学院 共通テ計 11,445 10,251 10,051 12,056 112% 102%
同志社 一般計 37,726 36,490 39,654 42,571 103% 92%
同志社 共通テ計 8,128 7,991 10,292 11,144 102% 78%
立命館 一般計 51,191 48,148 57,590 53,027 106% 84%
立命館 共通テ計 27,770 26,805 37,192 34,979 104% 72%
京都産業 一般計 23,661 24,929 33,139 32,060 95% 75%
京都産業 共通テ計 11,851 13,362 19,110 17,901 89% 70%
近畿 一般計 105,110 86,337 99,652 105,953 122% 87%
近畿 共通テ計 38,788 34,184 28,975 33,008 113% 118%
甲南 一般計 8,607 8,881 10,740 12,562 97% 83%
甲南 共通テ計 5,294 5,148 7,040 8,888 103% 73%
龍谷 一般計 33,267 38,406 39,336 41,044 87% 98%
龍谷 共通テ計 18,925 14,538 10,428 10,469 130% 139%
1)増えた大学

関西学院大学

 関関同立は軒並み志願者・合格者とも増やしていますが、特に関学が志願者を増やしたのは、今まで文系、理系一日ずつだった全学日程が二日とも受験できるようになったこと、理系学部で理科・数学重視方式のオプションが新設されたことなど、受験機会が増えたことが一因です。

 第一志望の受験生にとってはチャンスが増えて嬉しい仕様ですし、大学側にとっても「のべ志願者」を増やす効果的な方法です。ただしできる人は全勝、そうでない人は全敗もありえます。(´・ω・`)

 共通テスト利用も増えています。前期は昨年度の共通テストがセンターと同難易度だったので積極的に出願、後期は一縷の望みを託して、でしょうか。関学のHPより。

  2022年度 2021年度
志願者 合格者 倍率 志願者 合格者 倍率
共テ1月 8,606 2,844 3.0 7,767 2,081 3.7
共テ3月 1,524 469 3.2 781 368 2.1

 合格者は個別試験、共通テスト利用型とも増加し、大学全体で15,829人(2.4倍)(2021年は12,444人(2.7倍))と競争は緩和しました(河合塾、大学HPより)。

立命館大学

 昨年度は志願者約2万人の減少でしたが、今年度は志願者を増やしました。合格者も多めに出しています(32,627人2.6倍、2021年度は 31,943人2.5倍)。

 関関同立の中では唯一試験による後期入試を行っています。昨年度は前期で人が集まらず後期試験で多めに合格者を出し、ぶんぶんのところの生徒もおかげで合格しましたが、今年度は前期から多めに合格者を出しています。

 入試は「水物」です。どうしても合格したい大学は、同じ試験日に高得点重視や他学科併願などのオプションを付けるよりも、複数の試験日を使って問題の「当たり」や大学の出方を待つ方が得策だとぶんぶんは考えます。後期まであきらめちゃダメです。

近畿大学

 理工学部から分離した情報学部が受験生を集め、産近甲龍では一人勝ち、全国第一位の「のべ志願者数」ですが、実志願者数は首都圏私大の方が多いです。

dot.asahi.com

 入学式の恒例行事。『風雲!たけし城』の「よくぞ勝ち残った、我が精鋭たちよ!」という決め台詞を思い出しました。

www.youtube.com

2)減った大学

京都産業大学

www.kyoto-su.ac.jp

大学HPのデータを加工

  2022年 2021年
出願 受験 合格 倍率 出願 受験 合格 倍率
前期スタ3 8,676 8,471 3,828 2.21 9,462 9,304 3,256 2.86
中期スタ3 2,557 1,283 347 3.7 2,518 1,439 520 2.77
後期 1,775 1,630 277 5.88 2,193 1,960 742 2.64
前期共利3 2,588 2,563 879 2.92 2,993 2,963 437 6.78
前期共利5 615 612 264 2.32 674 669 171 3.91
後期共テ利 448 442 75 5.89 441 434 69 6.29

*共通テスト利用は、3教科は文系学部、5教科は理系学部 他にも方式あり。

 志願者数が減少気味の京都産業大学ですが、昨年度は前期でやや合格者を絞ったため中期後期で受験生を確保していました。今年度は公募や前期から多めに合格を出しています。

摂南大学

www.setsunan.ac.jp

大学HPの発表を加工

  2022年 2021年
出願 受験 合格 倍率 出願 受験 合格 倍率
前期3教科 9,056 8,795 4,135 2.13 7,478 5,116 868 5.89
前期2教科 5,096 3,601 1,340 2.69 7,895 7,719 3,099 2.49
後期 585 536 301 1.78 657 602 244 2.47
前期共テ 1,718 1,690 596 2.84 3,472 3,386 639 5.3
中期共テ 266 263 78 3.37 2,393 2,343 433 5.41
後期共テ 1,034 1,014 290 3.5 483 454 107 4.24

 摂南大学大阪工業大学の姉妹校で、「摂神追桃」と呼ばれる中では文系・理系・医療系(薬は看板学部)を併せ持つ総合大学です。

 共通テスト利用は、前期が共通テスト前、中期以後が共通テスト後が締め切りです。前期の共通テストプラスも3教科型は共通テスト前が締め切りです。

 つまり摂南大学は、最後は私立専願にするにしても、ギリギリまで科目を絞らず勉強した人に来てほしいように思えます。「自称進学校」の指導を十分理解した戦略です。

 大学独自試験は前期3科目型で合格者が激増しています。こちらの方が偏差値上位校に抜ける可能性があるので妥当な策です。

 駿台が資料で名指ししている激減した共通テスト利用ですが、共通テスト前出願の前期も半減しています。昨年度の高倍率の影響か、受験生が点数を見てからで十分と考えたのかもしれません。

 中期が2,000人も減っているのは駿台の分析どおり共通テストの点数低下が原因、後期の増加は上位校全落ち受験生が来たことが一因と推察します。

 

まとめ

  • 大都市圏私大は「ローカル化」と「受験校の絞り込み」が進んだが、定員厳格化の落ち着きと複数回入試の導入で「のべ志願者数」はやや増加。しかしポンコツ入試改革前の水準には戻らず
  • 偏差値上位大学は多めに合格者を出すようになり、競争は緩和
  • 文科省の意向に沿って大胆な入試改革をした大学は、初年度は受験生に敬遠されたが、2022年度は反動でやや増加。ただし上智大学は一人負け
  • 受験生は試験の形式や昨年の倍率から受験先を決める傾向がある。昨年度低倍率の大学は人気、高倍率の大学は敬遠という「隔年現象」は受験の風物詩
  • 先立つものは勉強