地方私立大学が次々と公立化しています。その秘密に迫ります。
いらすとやさんの地図を加工しました。
前回
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
3 公立化のメリット
a 定員割れから脱却
福知山市の資料によると、高知工科大学では2008年 745人→ 2009年(公立化) 5,812人→ 2010年3,242人と急増、他大学でも公立化後に受験者が増加しています。
福知山公立大学も倍率が2015年1.0倍から公立化初年度の2016年(私立型入試)に11.8倍と上昇しました(旺文社パスナビ)。
2017年(国公立型入試)からは定員を50人から120人に増やし、志願者926人を集めました(大学HP)。
山陽小野田市立山口東京理科大学は2017年度(国公立型入試)から中期日程(工学部では貴重)を実施し、定員26人に992人が志願しました(大学HP)。
b 「地元愛され度」が上昇
ある大学の広報から聞いた話ですが、公立化してからインターンシップの受け入れ先が急増したそうです。「私の街の大学」という意識が高まったといえます。
静岡文化芸術大学は、JR浜松駅地下で学生がオープンカフェを運営したり、中山間地域の耕作放棄地でゼミ生が棚田で米作りをしたりして、地元の人と交流し、地域が抱える課題に向き合う取り組みを行っています(大学案内)。
c 地元負担が増えるのでは?
国立大学の場合は「運営費交付金」が国から、私立大学の場合は「私学助成金」が私立学校振興・共済事業団経由で法人に入ります。
*発展 国立大学は法人化以降、競争的経費の拡大や職員の削減など改革を迫られましたが、文部科学省は2016年度から86の国立大学を「世界最高水準の教育研究」「特定の分野で世界的な教育研究」「地域活性化の中核」の3グループに分類し、グループ内で高い評価を得た大学に対して運営費交付金を手厚く配分するとしています。世知辛いです(笑)。
一方公立大学については、基準財政需要額や単位費用など様々な係数をかけて学生一人当たりの経費を算出し、その金額が総務省から自治体に「地方交付税」として納付され、自治体から公立大学(法人)に渡されています。
「公立大学」というと県民・市民の税金が使われているように思えます。
確かに開学時はかなりの額の「持ち出し」が発生します。「公設民営」は大学の施設一式を自治体が用意します。「公私協力」の場合も、上述の福知山市のように私立大学を誘致する際に自治体の予算が投入されます。
しかし、大学を運営するための経常経費については国からの地方交付税と学生からの納付金で主に賄われます。
鳥取市の資料によると、鳥取環境大学の2009年度決算額(定員充足率54%!)のうち、授業料等の収入が791,427,000円(収入の49.5%)、私学助成金が189,352,000円(同11.8%)で、内部留保を取り崩す状態でした。
公立化した場合の試算では(充足率100%の場合)交付金が1,035,399,000円(同58.7%)、私学助成金と桁が一つ違います!
出典:公立化前後の収入構造の比較 鳥取市HP
鳥取市公式ウェブサイト:鳥取環境大学の公立大学法人化への取組について
発展 経費の算出方法
この交付金のおかげで授業料を国立大学並みに設定できます(年間約50万円。私立理系学部の約1/3)。だから学生が増える、自治体の腹は「公立化移行」そのものではさほど痛まない。
ん? いいことずくめ??
(しっ! 声がでかい(笑))
あれ、地方交付税って国のお金です。それにしては県外者の入学金が割高です。初期投資の回収分だと思われます。
d 難易度
河合塾が予想する各大学の入試難易度(前期 抜粋)
ボーダー得点率=合格確率50%
科目数は各大学HP
大学 | 学部 | センター教科-科目数 | ボーダー得点率 | 二次試験教科数 |
高知工科 | システム工A | 5-7 | 57% | 2 |
名桜 | 国際B | 2(3)-3 | 57% | 1 |
静岡文化芸術 | 文化政策 | 3(4)-4 | 69% | 2 |
公立鳥取環境 | 環境B | 3-3 | 61% | 1 |
山陽小野田市立山口東京理科 | 工 機械A | 5-7 | 51% | 2 |
福知山公立 | 地域経営3教科型 | 3-3 | 67% | 小論文 |
長野 | 環境ツーリズム | 3(4)-4 | 60% | 小論文 |
出典
センター試験は平均点が約60%になるように作られています。各県の国立大学に比べれば手が届きそうな難易度です。
また私立大学の名残りで、センター試験5教科に加えて3~4教科で受験できる入試方式もあります(教科数が少なければボーダー得点率は高くなる傾向)。
だから「国公立であれば全国どこでも行きます」「3教科で受験できる国公立ありませんか」という人に合格のチャンスがあります。
「国立至上主義」の先生も「出願指導」の選択肢が増え、高校の国公立大学合格者数の増加が見込まれます。
ひょっとしたらみんなが幸せ??
(しっ!声(以下略))
*発展 2017年度の福知山公立大学、全国から志願者を集めましたが、入学者が地元京都(12人)を上回ったのは兵庫県と愛知県(各14人)でした(大学HP)。
まとめ
- 公立大学の大きな目的のひとつは地域の要望を踏まえた人材育成です。
- 私立から公立化した大学には、もとから公立大学のような大学と、自治体が誘致した大学とに分類できます。
- 公立化の契機は定員充足率の低下と地独法ですが、公立化の際に地元と話し合い、教育内容の見直しが行われています。
- 地方交付金のおかげで授業料が安くなり志願者は増加して財政面が改善、地域との連携も順調と、公立化による好循環が生まれているようです。
感想
少子化が進む中で多くの地方私立大学は定員割れしています。
露骨な言い方をすると、「地方私立大学の公立化」は生き残りの「手段」としては資格系学部新設よりもはるかに強力です。
なぜなら受験生の保護者(私も)にとって当面最大の課題は学費です。資格系学部は授業料が高額、将来の就職の保証も100%ではありません。
しかし今後すべての地方私立大学が公立化するのはおそらく無理です。地方交付税も無尽蔵ではありません。いつか必ず限界が来ます。
私立大学の淘汰はある程度仕方がないでしょう。とはいえ先日の答申のように23区の大学の入学者を規制すれば地方の私立大学に人が集まるとも思えません。
所在地に関わらず「知の拠点」になり得る私立大学を育成する一方、保護者負担を軽減する別の支援(奨学金など)を考える必要があると感じました。
おわりに
静岡文化芸術大学は、担当者が毎年私の勤務校を訪れ、単位がやばくなった卒業生の三者面談までしていただき(実話)感謝しています。浜松のキャンパスにも行きましたが、非常に意欲的な取り組みをされています。
私立大学であれ公立大学であれ、やはり「行きたい!」と思える教育内容から大学を選びたいです。