ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2020年度の「大学入学共通テスト」について考える(1 マークと記述)

 2017年7月13日に文部科学省から「高大接続改革の実施方針等の策定について」が発表され、2020年度からの「新テスト」の概要が次第に明らかになってきました。

 

高大接続改革の実施方針等の策定について(平成29年7月13日):文部科学省


 一、二年生向けの「高等学校基礎学力テスト」は「高校生のための学びの基礎診断」に、受験生向けの「大学進学希望者学力評価テスト」は「大学入学共通テスト」となりました。

 英語は、2023年までは「共通テスト」の英語試験が民間の認定試験と平行して実施されます。

 この「大学入学者選抜改革」は「高校教育改革」と「大学教育改革」とセットになっています。

 

*発展:「高校教育改革」は「教育課程の見直し」「学習・指導方法の改善と教員の指導力の向上」(アクティブ・ラーニングは「主体的・対話的で深い学び」に)「多面的な評価の推進」、また「大学教育改革」は「三つの方針」(アドミッション→カリキュラム→ディプロマの3ポリシー)の公表の義務化、です。


 今回はこの「新テスト」について、文部科学省の資料を参考に解説します。

*今回は長文なので不要な部分は読み飛ばしてください。

 

 

1 なぜ「入試改革」?

 

 現行の学習指導要領では、子どもの「生きる力」は「知識、技能」「思考力、判断力、表現力」「主体的に学習に取り組む態度」、いわゆる「学力の三要素」からなる「確かな学力」をバランスよく育成することで育まれる、としています。

 学校現場には従来の「知識伝達」ではなく「話し合い活動」や調べたことや考えたことを発表し合う「言語活動」「探究的な学習」に取り組むことが求められました。いわゆる能動的学修(アクティブ・ラーニング)です。

 

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次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ(案) - 文部科学省

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/08/22/1376199_2_1.pdf#search=%27%E6%96%87%E9%83%A8%E7%A7%91%E5%AD%A6%E7%9C%81+%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E5%AD%A6%E5%8A%9B%E8%A6%B3%27

 

 しかし、2014(平成26)年10月16日「高大接続特別部会における答申(案)取りまとめに向けた要点の整理(中央教育審議会高大接続特別部会(第20回)資料1)」は、高等学校の問題をこう指摘しています。

 

 いわゆる「進学校」は、「学校の教育目標が選抜性の高い大学への入学者数を競うことに偏っている場合」(国立至上主義?)、受験のための教育に終始するため主体性が育まれない、そのため「社会の現場をリードするイノベーションの力を大学において身に付けることは難しい」としています。

 またいわゆる「進路多様校」は、「少子化の進展等により大学への入学が一般的に容易になっている」ために、生徒は目標に向けて懸命に努力しなくても大学に進学できてしまう、そのため「主体性や学修のための明確な目標が不足しているため、大学においてもそれができない」としています。

 

 こうした現状から課題として浮かび上がってくることは、高等学校においては、小・中学校に比べ知識伝達型の授業に留まる傾向があり、学力の三要素を踏まえた指導が浸透していないことである。ここには、一般入試においては、知識の再生を一点刻みに、一度限りの結果で問う評価から転換し切れていないこと、またAO入試、推薦入試の多くが本来の趣旨・目的に沿ったものとなっておらず、単なる入学者数確保の手段となってしまっていることなど、現行の多くの大学入学者選抜における学力評価が、学力の三要素に対応したものとなっていないことが大きく影響していると考えられる。

 

 さらに、大学教育の問題点についても指摘しています。

 

 大学教育については、我が国の大学生の学修時間は米国と比べて依然として短く、授業の形態についても、一方的な知識の伝達・注入のみに留まるものが多く見受けられる。大学教育において学生にどれだけの付加価値をつけて社会に送り出せているかという観点からは、依然として社会からの厳しい評価があり、国民、とりわけ学生や経済界は、大学教育の現状に満足しているとは言い難い。また、大学教育の場が、多様な学生が切磋琢磨する環境となっておらず、主体性を磨くことなく、自ら目標を持ってそれを実現していく力を身に付けないまま、社会に出る学生も多い。
  大学において育成すべき力とは何かを明らかにした上で、大学入学者選抜や高等学校教育との連携の在り方を変えていかなければ、大学入学のその先を見据えた、自らの人生を切り拓くための目標を高校生に持たせることも難しい。

 

資料3 高大接続特別部会における答申(案)取りまとめに向けた要点の整理(中央教育審議会高大接続特別部会(第20回)資料1):文部科学省

 

 つまり、

  • 大学は経済界が求める人材を育成できていない
  • それは大学教育に問題があるから
  • それは高校が大学で通用する人材を育成していないから
  • それは大学入試が知識偏重だから

    という具合です。

 だから「高校教育改革」と「大学教育改革」と「大学入学者選抜改革」を一気にやってしまおう、ということです。

 

*発展:私は、高校で暗記→大学で「ものの考え方」→現場で「実践」とその都度「スクラップ・アンド・ビルド」した世代で、企業も学生を「育てる」余裕がありました。

(「ブラック企業」の社員の自尊心を傷つけて反抗する気力をなくさせるのは教育ではありません)。

 企業はグローバル化や国際競争で社員を教育している暇がない、だから大学に「完成品」を求める、大学も高校に「完成品」を求める、ということでしょうか。

 


2 「高校生のための学びの基礎診断」

 

 「AO入試や推薦入試の学力担保」という話もありましたが、最終的には「文部科学省が一定の要件を示し、それに即して民間の試験等を認定する仕組みを創設する」となりました。

 つまり入試には活用せず、各高等学校で「基礎学力の定着に向けたPDCAサイクルを構築するため」に「業者のテスト」を使ってください、ということです。

 ただし「業者のテスト」はこれまでの高大接続改革で示された条件(国数英、一部記述式、英語は4技能、知識・技能が中心だが他もバランスよく出題、結果は段階表示)を満たしたものを文部科学省が「高校生のための学びの基礎診断」のひとつと認定するそうです。

 
これって高校で実施しているアレとか?

(しっ! 声(以下略))

 


3 「大学入学共通テスト」

 

① 概要

 

 2020年度(2021年度入試)から実施、日程と出題教科・科目は当面センター試験と同じです。

 内容は、知識・技能を十分有しているかの評価も行いつつ、思考力・判断力・表現力を中心に評価を行います。

 数学と国語ではマークシート方式に加えて記述式を導入(理科と地歴・公民は新課程後)します。

    英語は4技能を評価し、2023年までは民間の資格・検定試験と共通テストの英語を大学が選択利用(どちらかor両方)できるようにします。

 記述問題の作問と採点は大学入試センターが行います(採点は民間業者を活用)。

 成績は、マーク部分は現行より詳細情報を提供、記述式は段階別評価を予定しています。また国語の成績は従来の「近代以降」「古文」「漢文」ではなく「国語」として一括提供することを検討しています。

 

モデル問題

www.dnc.ac.jp

 

 

② マークシート式問題

 

 思考力・判断力・表現力をより重視した作問をするそうです。

 具体的には複数のテクストや資料から情報を読み取る(TOEIC(R)のダブルパッセージ。センターの英語で既出)、正解が複数ある(世界史のサンプル問題)などです。

 現代文のサンプル問題は、「触覚」と「聴覚」を言語化した短歌に関するふたつの文章を読み(問1は語句の意味、問2~問4は内容理解)、その両方を含む短歌をグループ学習している生徒の考察について適するものを選ばせる(問5)ものです。

 ダブルパッセージにアクティブ・ラーニングの場面と出題形式は目新しいですが、従来の評論文も二項対立の整理が必須でした。

    発問に対する正答の根拠をテクストから拾うという手順、求められる知識や思考力もセンター試験と大差がないように思います。


 大きな変更点は問題例2で、『平家物語』とそれを読んだ二人の対談を読んで、古典の解釈と、二人が古典をどう読んでいるかの両方が設問になっています。

 ただ「複数のテクストを読む」「現代文と古文を融合する」「対話文を読む」など形式面で頑張りすぎた?ためか、古文の解釈部分は知識問題にとどまっている印象です。これなら普通に古文を読解した方が頭を使います。

 

 「深い学び」は学校の「アクティブ・ラーニング」に任せて、試験問題までその形式にこだわる必要はないと思います(以上個人の感想)。

 


③ 記述式問題

 

 5月に国語と数学の問題が公表されています。

 国語のモデル問題1は、「街並み保存地区景観保護ガイドライン」・父と姉の会話・提案書を読んで、情報を取り出したり、対立点を整理したりする問題です。問4は景観保護に肯定的な姉に賛成する立場で文書から情報を取り出す問題です。

 モデル問題2は「駐車場契約にまつわるトラブルの回避」についてです。契約書と大家さんの言説の矛盾点、契約書の曖昧な点を論理的に見つけます。いわゆる「クリティカルシンキング」です。


 記述式ですが自分の意見を書くわけではなく、誘導に従って提示されている文章からその根拠を拾って文章にする「条件記述」です。

 記述問題は点数化せず「3~5段階で評価」の予定ですが、サンプル問題は「すべての条件が満たされている解答のみ配点」になっています。

 やっぱりテストでは「多面的な評価」より客観性?

 

 

追記 3/27

 

    3月26日の大学入試センターの発表によると、国語と数学の記述式問題の採点について、民間業者の採点中にセンターが3回程度点検する方針だそうです。

    昨年11月の試行調査で採点結果を点検したところ、答案の0.2%に修正する必要がありました。

 試行調査や本番の採点は、入札を経てセンターから委託される民間業者(今回はベネッセ)が担当します。

    採点は正答の条件を満たしているかなどの観点で同じ答案を2人が評価し、一致すれば成績登録、一致しない場合は「採点リーダー」が採点し、それでも一致しなければ採点責任者が総合的に判断し、不明点はセンターとすりあわせました。

 国語の64.500人分、数学の53,664人分の答案から計約38,000人分を無作為抽出し、科目ごとの専門家らが点検したところ、0.2%にあたる85人で修正が必要でした。

    うーん、かなりの労力です。新テストは50万人規模、「表現力は各大学の個別試験に任せてよいのでは」と思ってしまいます。

    あと請負業者が集める採点者は、いつも模擬試験の採点をしている人々ですよね?

 

詳しくはこちら

http://www.dnc.ac.jp/sp/news/20180326-01.html

 

 

まとめ

 

 国語の新テストは、「読み物」だけでなく「実務的な文章」や「議論」を読解する、日本語運用能力がより問われる形式になりました。

 記述式は誘導がちゃんとあり、「正答の条件」と複数の「解答類型」が用意されているので、採点がぶれないようになっています。

 基本は高校の国語総合の学習内容です。一つの文章を精読するだけでなく関連する図書にもあたる、正解のない話題について討論するなど、他教科、総合学習、人権LHRなどに真面目に取り組むのが高得点の近道のようです。(つづく)

 

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