一学期が終わりました。三年生は三者面談で第一志望の大学を絞り込みます。
面談の中で「◯◯大学はいいぞ、公立で3教科受験も可能」と、聞き慣れない大学を薦められた人もいるのではないでしょうか。
近年、地方の私立大学が、自治体が設置や運営に関与する公立大学に鞍替えする動きが進んでいます。
2016年には2校、2017年には1校が公立化し、2018年度には2校が公立化予定です。背後には地方私立大学の厳しい現実があるようです。
1 公立大学
『公立大学ファクトブック2015』によると、2015年時点で公立大学の数は86校です(大学院大学含む。2005年は73校)。
学生数は148,766人(全体の5.2%)、教員数は13,126人、教員一人当たりの学生11.3人(国立9.4人、私立20.0人)です。ただし職員は少なめです。
国立大学が「国立大学法人」という独立行政法人に移行した(職員は国家公務員ではない)のと同様に、2004年から県立・市立大学も「公立大学法人」への移行が進み、2014年時点で65法人が70大学を運営しています。
43大学が1学部の単科大学、19大学が2学部と小規模な大学が多く、国立総合大学に匹敵する学部を有するのは大阪市立大学などごくわずかです。
全174学部のうち1/4以上(49学部)が看護、保健系統です。これは1992年の「看護師等の人材確保の促進に関わる法律」にもとづいて、自治体が看護大学を新設したためです。次に多いのは社会科学系統(25学部)です。
公立大学の多くは、地域の要請で特定の分野の人材を育成する目的で作られた、小規模かつ実学志向の大学といえます。
収入は授業料など自主財源と設置者負担(後述)からなりますが、全体では4:6の割合です。授業料収入の割合が高いのは数校で、69大学では全収入の半分以下です。
授業料は国立大学とほぼ同額です。県外生は入学金が高い場合があります。
2 公立化の2パターン
私立大学から公立(法人)化した大学
大学名 | 所在地 | 開学年 | 公立化年 | |
1 | 高知工科大学 | 高知県香美市など | 1997 | 2009 |
2 | 名桜大学 | 沖縄県名護市 | 1994 | 2010 |
3 | 静岡文化芸術大学 | 静岡県浜松市 | 2000 | 2010 |
4 | 公立鳥取環境大学 | 鳥取県鳥取市 | 2001 | 2012 |
5 | 長岡造形大学 | 新潟県長岡市 | 1994 | 2014 |
6 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 | 山口県山陽小野田市 | 1995 | 2016 |
7 | 福知山公立大学 | 京都府福知山市 | 2000 | 2016 |
8 | 長野大学 | 長野県長野市 | 1974 | 2017 |
9 | 公立小松大学 | 石川県小松市 | 1988 | 2018予定 |
10 | 公立諏訪東京理科大学 | 長野県茅野市 | 2002 | 2018予定 |
この後は各大学、自治体のHPおよび次の論考を参考にしています。
鳥山亜由美 「私立大学の公立大学化―その背景と過程」
佐藤龍子 「公立大学研究の複雑さと困難性 : 公設民営大学(私立大学)の公立大学法人化を例として」
旺文社教育情報センター 2016年度3月
a 公設民営大学の公立化(1~5、8も該当)
「公設民営大学」とは、地方自治体が主体となって大学設置を計画し,設置経費のすべてを公費で賄った上で、学校法人に施設を寄付して運営される私立大学です。
こちら
公立化の嚆矢となった高知工科大学は、1991年に橋本大二郎知事の「高知に工学部を」という公約から設置が計画されましたが、すでに県立大学(高知女子大学)があり、「人口200万人以下の県は県立大学1校」という当時の規制に阻まれました。
そこで高知県が設置費用約268億円すべてを負担し、1997年に公設民営大学として高知工科大学が開学しました。男子高校生の県内残留率が上昇するなど一定の成果を上げましたが、2006年には定員割れしました。
転機は2003年、「地方独立行政法人法」の施行です。第21条に地方独立行政法人の業務として「大学又は大学及び高等専門学校の設置及び管理を行うこと」とあります。
この制度を利用して高知県は総務省と文部科学省に「設置者変更」を届け、学校法人は施設を高知県に寄付して解散、2009年4月から高知工科大学は「公立大学法人」が設置者となりました。
*高知女子大学は高知県立大学となり、現在は同一の公立大学法人が管理しています。
b 公私協力方式から公立化(6,7,9,10)
「公私協力方式」は自治体が財政的支援を行って私立大学を誘致することです。
福知山公立大学の前身は成美大学(京都創成大学(2000年)が2010年に名称変更)で、「北近畿地方唯一の4年制大学」として、福知山市は新校舎建設工事費等に27億円の支援を行い、開学しました。
「北近畿への若者の定着」が目標でしたが開学以降定員割れが続き、「大学基準協会」から「不適合」の判定を受けるなど、厳しい経営が続きました。
こうした中、市民から成美大学の公立化を求める声が上がり、市は有識者会議を設置します。議論の末「北近畿地域における地方創生,地域再生を図る」目的で市は公立大学法人設置認可申請を行い、2016年4月に公立化します(福知山市HP)。
確かに自治体が地域活性化のために私立大学を誘致したものの、経営が悪化し撤退になると若者人口が減少するなど地域にもダメージです。
だからといって「経営が悪化したから公立化」では住民に説明がつきません。福知山公立大学は公立化を契機に地域活性化に資する新しい学科を立ち上げたり、教育プログラムの充実を行っています(大学HP)。
他大学も地域の要望に応える実学系学部・学科を新設しています。
山陽小野田市立山口東京理科大学は、地元産業の人材確保を目的として当時の自治体が東京理科大学を誘致して1987年に設立した短大が前身(95年より山口東京理科大学)です。しかし近年は定員割れが慢性化していました(大学HP)。
市は大学の公立化を考えますが、国立の山口大学にも工学部があります。そこで県内初の薬学部(これまでは県外へ出ていた)を新設します(2018年予定)。
3 公立化のメリット?
私立大学の公立化は、生徒・保護者にもメリットがありますし、自治体にもメリットがあります。キーワードは「地方交付税」です。(続く)