ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

三年生11月 受験生と保護者の「不安」について考える

 11月になりました。受験生はここからは受験一色です。


 とはいえ9月、10月の模試の結果で第一志望が軒並みE判定、ラストのマーク模試や記述模試が惨憺たる結果だと、「合格できるのか」と不安になることがあります。

 また3年の夏休みから受験勉強を始めた生徒は、残り2ヶ月で5教科7科目を仕上げることがいかに困難であるかに気がつき、「推薦で終わりにしたい」「社会は捨てた」「数学が不要な大学ないですか?」などそわそわし始める頃です。

 

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*発展 親切な担任の先生はこの時期「後期も中期も出願しろ」「国公立出願の第2パターンを考えろ」とアドバイスしてくれます。「第一志望は無理」と宣告されているみたいに聞こえるのは考えすぎです。


 先日、河合塾スクールカウンセラーである野田裕美子さんの講演を聴く機会がありました。

 臨床心理士・医学博士の野田さんは認知行動療法がご専門で、長年受験生や保護者のメンタルサポートに携わり、現在は医療機関や企業などで幅広い層の心のケアに活躍されています。

 主に受験生を抱える保護者向けの話でしたが、参考になることがありましたので、了解を得てその要旨を紹介し、受験生のストレス軽減方法について考えます。

 

 

 

講演の内容

 

1 思春期の心の発達について

  •  思春期から青年期への移行は「自律」から「自立」への移行である。
  •  「自律」は自分の行動を自分でマネジメントできること。
  •  「自立」は自分の「生活」(衣食住)、「経済」(生活に必要な金の出入り)「精神」(自分の気持ち)をマネジメントできること。
  •  保護者の仕事は子どもが「自立」のゴールを切れること。
  •  しかし最近は「自律」があやしい生徒が少なからずいる。自分の気持ちが「自分の持ち物」になっていないため自分で決められない、自分が「どうしたい」かが分からない。
  •  原因のひとつは保護者との関係。「何を言っても聞いてもらえない」「答えがあって考える余地が与えられない」と感じると、考えるのが面倒くさくなることがある。
  •  思春期は「心の交通整理の初心者」。自我とは「したいこと」(本能)と「するべきこと」(超自我)とのバランスを取ること。保護者は「大目に見る」。「こうすればいい」と指導するよりは、できるように見守る。

 

2 「不安」とは何か

 

  •  不安を感じると人間は「逃げるか戦うか反応」”flight” or “fight” を起こす。これは非常時における生体の正常な反応である。
  •  具体的には逃げる(戦う)に必要な筋力、呼吸、循環器の機能が上昇し、不必要な消化器の機能が低下する。
  •  しかし人間は現在文化的な生活をしているので、逃げたり戦ったりすることで不安は解決しない。そのため脳は身体の変化それ自体をさらに「不安」と感じ、反応が増幅する。
  •  パフォーマンスを上げるためにはある程度不安や緊張があった方がよい。しかし緊張がある一線を越えると急激にパフォーマンスは落ちる。

 

3 「不安」と上手に付き合う

 

  •  不安と上手に付き合うには「レジリエンス」(心の復元力)が必要である。「不快にならない」ではなく「不快なことがあっても崩れない」。
  •  保護者は子どもの「不安を消そう」と応援するよりも、「そういうこともあるよ」と不安を否定しない方がレジリエンスを高めることにつながる。
  •  レジリエンスは学習によって修得できる。穏やかに人と関わりを持つ、柔軟に物事を受け入れる姿勢を身につける。
  •  受験は「収束思考」。答えがひとつでいかにそこに最短距離でたどり着くかを競う。創造性は「拡散思考」。ひとつの答えにこだわらない柔軟さが必要。
  •  不安と上手に付き合うには「自己効力感」(自分が「何かをやっている」という実感)と「自己肯定感」(自分は「こんなものかな」という実感)が必要。
  •  不安と付き合うための方法のひとつが「Doingモード」と「Beingモード」の切り替え。
  •  「Doingモード」では、例えば悪い成績を取ると人間は「希望の大学に行けない」「どうしよう」と「do」で考える(認知)。その結果いらいらし(気分)、おなかが痛くなり(身体反応)、教科書を開くが頭に入ってこない(行動)。
  •  「Beingモード」は、この「認知」と「行動」を変える。つまり自分は「今どうあるのか」を大事にする。
  •  例えばペットが死んだ時、「泣いてばかりだとあの子が天国に行けないからやめよう」と思えば余計につらくなる。むしろ「私は悲しい」という気持ちと付き合う。

 

4 受験期のお子さんと向き合うヒント

 

  •  ひとりの人間として敬意を持って、まず彼らの世界観 ”internal reality” を教わる。これを受け止めた上で助言する。
  •  できれば余裕を持って、少し距離を取って見るもよし。
  •  「でも」「だけど」はやめてみる。賛成かどうかは別としても「ふーん」「なるほど」とまずは受け止める。
  •  急がず、気負わず、指導せず。
  •  普段の生活は「Beingモード」で。試験だけの生活を中心にすると視界が狭くなる。自分が今どういう状態にあるか、客観視できる心の余裕を育む。

 

 

講演を聴いて


 カウンセラーさんとお話しする機会がありますが、生徒、保護者、教員、誰かと話す時は必ずまずちゃんと相手の思いを受け止めます。

 

 教員はどうしても「○○したら?」とすぐ解決方法を言いたがります、つまり「Doingモード」です。「相手がどうあるのか」「何を考えているのか」をまず受け止めることから始めたいです。

 また保護者も教員もつい生徒の先回りをして不安を取り除こうとする傾向にあります(担任顔負けの出願指導をする保護者もみえます!)。

 もちろん悪気があるわけではない、むしろ愛情からの行為ですが、それが生徒の不安に対する耐性を弱めたり、かえって生徒の不安の原因になるなら逆効果です。

 

 「私たちのゴールは何か」について目線を合わせなければと思いました。

 

*発展:学校にとっては「進学実績」(地域の評価)よりも、生徒の自己実現の方が優先なのですが、アンテナが敏感になっている受験生は先生の言葉の端々から「先生がどっちを向いて話しているか」を微妙に嗅ぎ取ります。それが生徒の不安を増幅させることにもつながります。注意したいです。


 不安はひとつ取り除けばまた出てくるものです。「不安や緊張感を楽しめ!」って言いますが、受験のまっただ中にいるとそんな余裕はなかなか持てないです。

 せめて不安はただちに解決すべきものではなく、うまくつきあいながらしのいでいくもの、と視点をチェンジすることが必要と感じました。

 

 あと受験生の皆さん、緊張しておなかが痛くなるのは自然の摂理です! そういうものだと割り切りましょう!(整腸剤は持っていた方が安心です)。

  

 野田さん、河合塾のみなさん、ありがとうございました。

 

河合塾のページ

www.keinet.ne.jp

 

去年の記事 別のカウンセラーさんの講演

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com