2025年からの大学入学共通テストや大学入試についてのニュースで気になったことをまとめました。
前回
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
目次
1 2025度の大学入学共通テストは負担増?
① 6教科8科目受験?
参考資料
資料1 令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テストに関する検討状況について
資料2 令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告(補遺)(令和3年9月29日付け文部科学省高等教育局長通知)
資料3 平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について(令和3年3月24日)
河合塾の解説。2025年度のところ
2025年度大学入学共通テストの出題科目
資料2のスクリーンショット
国立大学協会(以下「国大協」)のHPで「入試選抜の基本方針」をみると、
2020年度以降の「大学入学共通テスト」導入後もこれまでの方針を踏襲し、全ての国立大学は、「一般選抜」においては第一次試験として、高等学校等における基礎的教科・科目についての学習の達成度を測るため原則5教科7科目を課す。
*具体的には以下が基本パターン
- 全員:国語、数学(2科目)、外国語
- 文系:上記に加えて地歴公民から2、理科から1(理科基礎2)
- 理系:上記に加えて地歴公民から1、理科から2(発展理科2)
とあります。
2025年度についてはまだ公式発表はありませんが、「情報も必須」と心づもりしておきましょう。
ちなみに同じページを見ると「英語民間試験と国語記述式に関するガイドライン」(共通テストと民間英語検定の両方使うという指示)は廃止されたみたいです。
前国大協会長の筑波大学の永田学長が、ご自分の大学は骨抜きしておきながら、他大学には「みんなで決めたこと」と英語民間検定の利用にこだわった、あのガイドラインです。今更感満載です。
参考 2021年5月の記事
② 何が問題?
1)生徒の負担増
単純に「科目増」なので生徒の準備量が増えます。5教科7科目だけでも私立の3教科に比べればかなりの負担、そこに1科目増加です。
2)教科書・授業内容・カリキュラムの再考
情報の新教科書は「情報を共通テストで出題」という話が降ってわく前に編集されているので、自由度の高い教科書が多いです。
また情報は必履修2単位、多くの高校は家庭基礎や芸術と同じく1年生で履修して終了です。受験に必要となれば教材や授業内容も変わってきます。
国立至上主義高校の三年生のカリキュラムは、体育以外は共通テストで受験する科目で埋め尽くされています。一年生から全教科の授業でパソコンをガンガン活用するのに情報Iが入試対策のため三年生の履修というのはおかしいです。
参考
3)情報教員の不足
ぶんぶんの現勤務校は大きめなので情報の専任教員が教諭(正規採用)で1名いますが、規模の小さい高校だと常勤や非常勤講師、他教科で情報の免許を持っている人が掛け持ちで教えている場合もあります。
全国の高校に専任の情報教員が配置され、小学校からの情報教育が軌道に乗ったので「試験に入れてみよう」ではなく、「共通テストで試験科目にすれば情報教育が促進される」と理念先行で導入するのは、先の入試改革の失敗を反省しているのか疑問です。
4)浪人生はどうするの?
資料2より
新たな出題科目『情報Ⅰ』については、現行の教育課程における選択必履修科目「社会と情報」「情報の科学」に対応する経過措置を講じることとする。経過措置科目を出題するか、『情報Ⅰ』の試験問題の中に選択解答できる問題を出題するかは、今後、大学入試センターにおいて検討する。
新カリキュラムで現役生が学ぶのは次の通りです。
- 情報社会の問題解決
- コミュニケーションと情報デザイン
- コンピュータとプログラミング
- 情報通信ネットワークとデータの活用
このうちプログラミングの内容を浪人生は履修していないので、経過措置を設けるとのことですが、とはいえ現役生の時には入試科目でなかったものを浪人してからもう一度勉強しなおすのは負担です。2024年度に現役志向が強まる可能性があります。
「いらすとや」さんの「モブプログラミング」(グループで協力して同時にひとつのプログラムを書く)のイラスト。私もグループ学習で似た方法を使います。なお共通テストの「情報」は紙で解答です。
2 2025度の大学入学共通テストは試験時間が延びる?
① 地歴公民の新科目の扱い
資料2より引用(編集済み)
- 地理歴史及び公民については、以下のとおりとする。
- 上記6出題科目のうちから最大2出題科目を選択。
- 『地理総合、歴史総合、公共』を選択する場合については、出題範囲(「地理総合」、「歴史総合」、「公共」)のうち、いずれか2科目(「地理総合」及び「歴史総合」、「地理総合」及び「公共」、「歴史総合」及び「公共」)の内容の問題を選択解答。
- 2出題科目を選択する場合においては、以下の組合せ以外の出題科目の組合せ
を選択。
『公共、倫理』と『公共、政治・経済』の組合せを選択することはできない。『地理総合、歴史総合、公共』を選択した者は、選択解答した問題の出題範囲の科目と同一名称を含む科目の組合せを選択することはできない。
組み合わせ表 資料2のスクリーンショット
つまり、同一名称を含むものの選択は不可で、「歴史総合・地理総合・公共」は3つから2つを選択するので、選択しない科目をもうひとつ受験することは可、ただし「歴史総合・日本史探求」と「歴史総合・世界史探求」は科目が被っているけど選択可能です(探求から出題されるから?)。たぶん。
科目が一新されますが、受験の段取りと時間は同じです(1科目60分、2科目130分でうち回収時間10分)。
② 「理科基礎」はひとまとめで「発展理科」と同時間帯?
現行の大学入学共通テストは2日目の最初が理科基礎、次に数学①②、最後に発展理科でしたが、2025年度からは情報の試験時間を捻出するために理科基礎と発展理科を一緒の時間帯でやるみたいです(1科目60分、2科目130分でうち回収時間10分)。
なお理科基礎は現行と同じで4科目の中から2科目を選択します。
③ 数学②は10分延長 ベクトルは共通テストで必要
資料2より引用
グループ②については、『数学Ⅱ、数学B、数学C』の出題範囲のうち、「数学B」及び「数学C」は、「数学B」の2項目の内容(数列、統計的な推測)及び「数学C」の2項目の内容(ベクトル、平面上の曲線と複素数平面)のうち3項目の内容の問題を選択解答。
文科省は経産省に「時代は情報」と言われて反論できないのか、「統計的な推測」をやらせたいみたいです。とはいえベクトルも共通テストで出題されるので、新カリキュラムで文系は数学Bまでにしていた高校は大慌てで変更しましょう。(´・ω・`)
なお頓挫した記述式の慣れの果てで現行の共通テストは数学①のみ70分でしたが、数学②も70分になります。また専門高校向け科目はなくなりました。
④ 国語も10分延長 科目『国語』って何?
資料1
多様な文章を提示し、より思考力・判断力・表現力等を発揮して解くことが求められる問題を重視した出題を一層工夫していく観点から、問題量を増やす方向で問題作成の方向性や構成等を検討します。
資料2
現在測定している内容を維持した上で多様な文章を提示する観点から、90 分とする。
問題量が増えるので試験時間が現行の80分から90分になるということです。
なお科目が『国語』です。他科目は正式な科目名が書かれている中での「謎表記」ですが、資料3によると、必履修科目の「現代の国語」および「言語文化」の内容を出題範囲とし,近代以降の文章(論理的な文章,実用的な文章,文学的な文章)及び古典(古文,漢文)を扱うとのことです。
公的な文書でお得意の「複数テキストを参照させる」を使う必要はないです。注釈に書いておくのが親切対応です。
後学のために、今話題なのが某社の「現代の国語」に近代文学が入っているのはルール違反じゃないか、高校は新カリキュラムで「文学国語」の扱いに窮している、です。
新カリキュラムの国語は以下の通りです。
必履修科目(全員履修)
- 「現代の国語」:実社会・実生活に密着した文章
- 「言語文化」:文学的な文章、古文・漢文
選択科目
- 「論理国語」:評論文・実用的な文章
- 「文学国語」:文学的文章を扱う
- 「古典探究」:古文・漢文
- 「国語表現」:自分で文章を書く系
もし「文学国語」が学校の都合上設置できない場合、文学的な文章の講義は一年生で終了、あとは自習ということになります。
試験はともかく、古今東西の文学作品を授業で扱うことには意義があるとぶんぶんは思うのですが、ここも文科省は経産省に頭が上がらないのか、「実用」を気にするあまり自国の精神文化を蔑ろににしているようにも見えます。自称保守派は怒るべき。
参考
日本学術会議の提言
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t290-7.pdf
⑤ 時間が長くなると何が起きる?
1)問題が増えたら意味ない?
共通テストは「思考力や判断力をより試す」という触れ込みなので、時間が伸びても問題量が増えれば結局はスキャニングやテクニック(分量が増えたリスニングは短期記憶)に頼ることになります。
たしかに国語と数学②は時間キツキツだったという話はよく聞きました。しっかり考えさせたければ、時間はそのままで問題量を減らすという方法があってもよいのでは、と個人的に思います。
2)マーク模試が一日で終わらない?
またこれは大学入試センター的にはどうでもいいことかもしれませんが、共通テストの模擬試験に困ったことが起きそうです。
ぶんぶんの勤務校は共通テスト模試は、土日と拘束すると生徒の休みがなくなる。二日分の監督バイトを集めるのが大変、土曜日にオープンスクールなど行事が入ることもある、などの理由で一日で消化することが多いです。
空き時間が出ないように理科と地歴公民の受験を詰めた時間割を作りますが、それでも終了は18時30分ごろ、交通不便な地域の終バスに間に合うかどうかです。
また予備校の公開会場の模試は一日完結で、受験型によって始まる時間が違うので、理系の生徒は終わると20時過ぎだったりします。
これが単純に情報60分+国語10分+数学②10分=80分伸びるので、学校実施の場合は朝の8時ぐらいから始めても19時ぐらいまでかかる計算です。公開会場は悲惨です。
3)英語の問題はあのままでいいの?
話題になってはいませんが、共通テストの英語、特にリーディングは英語民間試験の利用を前提にして、私立一般や国立二次の足しにならない内容にわざとしてあります。
しかし共通テストに英語民間試験を活用する案は永久に葬られたので、もうそんな問題を作る必要はどこにもありません。
日本中に「誤りを認めたら社会的に抹殺されるから嘘で塗り固めてごまかす」風潮がまかり通る今日この頃ですが、DNCさんには潔く、センター試験のような多様な基礎的知識・技能・思考力が一度に試せる良質な問題に戻してほしいです。
まとめ
- 2025年からの共通テストは、国公立大学が情報を必須にした場合は明らかに受験生の負担増になります。
- 制度切り替え前の2024年度は現役志向が高まるかもしれません。
- 時間が伸びても問題量が増えればじっくり考えることにはつながりません。
- 50万人規模で国公立大学の一次試験として実施されるナショナルテストは、あれもこれもと欲張るのではなく、高校での基礎的な学習成果に絞って出題した方が目的にかないます。
- 「入試制度をいじって教育を変える」は英語民間試験と国語数学記述式で失敗したのに、誤りを認めたくない人がいるようです。シャア大佐に笑われます。
- 英語はセンター試験のコンセプトに戻すことを希望します。