センター試験の自己採点結果をどう見るか、国公立大学に出願する際に注意すること、後編です。
前編はこちら
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
*ネットの情報はあくまで参考です。必ず三者面談で詳細なデータを見て、担任の先生の指導を受けてください!
目次
1 大学発表の合格者最高点、最低点、平均点を見る
① 長期波動を知る
いくら自己採点の結果とにらめっこして「あと10点あれば合格」とわかっても、大事なのは「本当に他の受験生よりも10点多くとれるのか」です。
次に見るのが各大学から発表されている合格者の最高点、最低点、平均点です。これは各国公立大学のHPに公開されています。
公開されているデータ(大学名は一応伏せます)を参考に、架空のデータでシミュレーションします。考え方を参考にして、自分の志望校に当てはめてください。
A大学 合格者の最高点、最低点、平均点(過去5年)
センター試験:文系5教科8科目 900点満点(傾斜なし)
個別試験:国語300点 英語300点 600点満点
合計:1500点満点
過去5年と直近2年の平均
|
試験 |
配点 |
最高点 |
% |
最低点 |
% |
平均点 |
% |
5年平均 |
センター |
900 |
715 |
79.4% |
546 |
60.7% |
622 |
69.2% |
個別 |
600 |
453 |
75.5% |
298 |
49.7% |
368 |
61.4% |
|
総得点 |
1500 |
1115 |
74.4% |
932 |
62.1% |
991 |
66.1% |
|
直近2年平均 |
センター |
900 |
714 |
79.4% |
551 |
61.3% |
620 |
68.9% |
個別 |
600 |
474 |
79.0% |
322 |
53.8% |
384 |
64.1% |
|
総得点 |
1500 |
1122 |
74.9% |
949 |
63.3% |
1005 |
67.0% |
② 個別試験の目標点を割り出す
センター試験の合格者平均は622点、ここ2年は620点(69%)です。
予備校はボーダーライン(定員のギリ 河合塾では合否が五分五分ライン)を594点(66%)、C判定585点、B判定610点、A判定630点と予想しています。またD判定は合格者最低点とほぼ同じ558点としています。
5年間の合格最低点の平均は932点、ここ2年は950点です。ぎりぎりは危険なので最低点と平均点の半分ちょい上、975点を仮に「目標ライン」とします。
予備校の二次ランクは、50.0以上がD、52.5以上がC、55.0以上がB、57.5以上がAです。定員のほぼ半分でB、上位1/4をAと「打って」あるようです。
そこでDを個別の最低点325点、Bを合格者平均点385点と仮定し、30点で刻んでCは355点、Aは415点と仮定します。
見やすくしておきます。最低ライン950点 目標ライン975点(数字は推定)
センター |
|
個別(推定) |
|
偏差値 |
630 |
A |
415 |
A |
57.5 |
610 |
B |
385 |
B |
55 |
594 |
ボ |
355 |
C |
52.5 |
558 |
D |
325 |
D |
50 |
a:センターボーダーの人
594+325=919は不合格、594+355=949は危険、594+385=979はギリギリ目標点です。
過去問で合格者平均以上がとれる=二次力B判定以上が必要です(判定だと「センターC・二次B・総合C」、以下「CBC」と表記)(数字は推定)。
b:センターA判定だけど二次力が不安な人
630+325=955は危険、630+355=985は目標点です(「ADC」や「ACB」)。センターでしっかり取っていれば、合格者平均点をやや下回る点数が「逃げ切り」ライン、二次力不安な人は同じA判定でも多めのA判定が欲しいです(数字は推定)。
c:ボーダーライン外(河合塾の「注意」ライン)の人
550+425=975です。データではセンター合格者最低点+400点が合格者最低点になっています。個別A判定57.5を上回る学力が必要です。記述60.0は予備校のランクでは準難関大学ボーダーか旧帝チャレンジ層の学力です。
それでも個別の最高は450~470なので、センターで500点を下回れば逆転の可能性はほぼゼロといえます(数字は推定)。
まとめ
- センターの持ち点と、自分の二次力およびその大学の個別試験の難易度を照らし合わせて、個別試験の目標点を割り出します。
- 去年の合格最低点ではなく、合格最低点と合格平均点の「長期波動」を見て、その中間ぐらいの点数を目標にしましょう。
*注意 このシミュレーションはセンター:個別=3:2の場合です。傾斜配点や比率が違えば事情も変わります。考え方を参考にして、自分の大学に当てはめてください。こういう計算は担任に任せて受験生は勉強しましょう。
*追記 2021/1/19
紹介した大学は昨今の安全志向から受験層がやや変わって、合格最低点が1000点を超えるようになりました。そうした変化にも注意してください。
2 目標点を取るための戦略
① 二次試験で大逆転は難しい
ここからが本丸です。過去問を解いて、本当に逃げ切りや逆転が可能な目標点がとれるのか、とれないなら何をすればいいかを分析します。
まず配点を見ます。シミュレーションの大学の個別試験は国語と英語が各300点。国語は現代文2題、古典・漢文の全4題(枝問各3~4題)、英語は総合問題が3題(枝問各5題)です。枝問ひとつがだいたい20点の計算です。
内容的にはセンターレベルで全て記述式です。
つまり1ランク上の偏差値まで30点=1問半、2ランク上まで60点=3問です。
こう考えると「人より2,3問多く得点すれば逆転可能じゃん!」と思いますが、それは「数字のトリック」です。
国公立はセンター試験で(嫌いな言い方ですが)ある程度「輪切り」され、似た実力の受験者が集まります。他の受験生と同じ点数を取った上でさらに彼らができない2問を「完クリ」するのは困難です。難関になればなるほどその傾向は強まります。
そもそも二次の記述完全解答は国語や英語ではほぼないです。
ただ中堅国公立なら高得点の可能性は残ります。
たしかに「一見さんお断り」の大学もありますが、「学校の勉強をちゃんとしていたか」を問うオーソドックスな出題をする大学が多数派です。
② 過去問研究から戦略を立てて学習する
一度制限時間を決めて解き、先生に厳密に採点してもらってください。思い込みは禁物、テストは他人が採点するものです。
全く歯が立たない人がセンターの出遅れを挽回するのはほぼ無理なので志望変更を勧めます。
合格最低点がとれる人はまだ伸びます。過去問研究から「その大学が何を要求しているのか」を見抜き、「その大学の入試問題を解く力」を養いましょう。
例えば英語は下線部和訳の出来が合否に直結します。「主語を取る」「典型構文を使って和訳する」など、その大学が求める力を重点的に復習し、再び過去問に取り組むというように循環学習をします。
また「△△学部の先生が作ってる?」といった大問ごとの頻出テーマも見えてきます(自然科学や心理学の話題が多いとか)。同難易度の大学、個別試験用の教材を使って、頻出ジャンルの語彙などを増やします。
*追記 入試問題は通常「サービス問題」「合否瀬戸際問題」「ドボン問題」からなります。「どこでふるい落とすか」にも必ず傾向があり、そこで点が取れるかが合否を分けます。
過去問の分析は学校の先生を活用しましょう。「○○大学の入試対策は任せろ!」という先生がいるはずです(たぶん)。「他の生徒にプラス1問上回るならここ」と「崖っぷち問題」を教えてくれます(おそらく)。
このように志望大学の入試問題から「求められる学力」を見抜き、適切な教材を使って学力を志望大学向けに「アジャスト」することが合格への最短ルートです。
判定の根拠は10月の記述模試、実際の勝負はその大学の個別試験です。本番には他大学第一志望で二次力のある生徒も来ます。ボーダー付近の第一志望者が彼らに勝つには大学への愛着と周到な準備しかありません。
*発展1 ただし過去問と同じ形式が必ず来るとは限りません。名古屋大学の英作文は下線部英作が続きましたが、2015年に突然自由英作文が復活しました。決め打ちせずに演習テキストや私立の問題を利用して「広く」待ちましょう。
*発展2 いわゆる「旧帝」は個別試験の配点が高いとはいえ、志願者はセンター試験で大量点、難解な個別試験も55%取れれば上出来の「守り」の戦いです。だからセンター試験でボーダーを下回ると「2ランク下げ」(文系なら京都大学相応の生徒が名古屋大学を受験する)以外は合格は厳しくなります。
*発展3 医学部医学科は、1「総合大学で共通問題」、2「総合大学で一部問題差し替え」、3「単科大学で独自問題」の3パターンに分類できます。1は易しい問題を大量得点、3は難しすぎる問題の我慢合戦です。自分の学力の「癖」にフィットする大学を選びましょう。
まとめ
- 受験はかけ算(倍率)ではなく足し算(合格に必要な点を取る)です。過去問を解いて合格ラインを越えるかどうかを判断し、出願するか志望変更するかの参考にします。
- 「合格のためにはどの科目で何点取るか」を考え、そのための準備を先生と相談し、適切な教材をやり込んで「志望校の問題が解ける実力」を養成しましょう。
- 記述模試の判定を覆す唯一の可能性は「志望大学へのこだわり」です。「受験生は冬から伸びる」と「最後まであきらめるな」の本領です。
おわりに
業者のデータばかり見ていると「数字のゲーム」に陥りがちです。「○○大学だったら合格確率80%だ」とか「あと何点あれば逆転できる」と数字だけ並べて進路指導した気になってはいけません。受験は会議室でするものではありません(笑)。
受験は生身の人間である生徒が必要な勉強をして、必要な点数がとれれば合格、とれなければ不合格です。シビアな現実です。
大学も偏差値順に並んだ「記号」ではなく、それぞれが「こういう学生が欲しい」という思いを持ち、それが配点比率や入試問題に反映されています。
教員がすることは目の前の生徒、大学、入試問題と向き合うことです。
「背中を押す」とは励ますことだけではなく、生徒の持ち点、伸びしろ、入試問題の分析を材料に戦略を立てて戦う、無理なら別の道を探す、という合理的な指導であるべきです。
受験は「水物」です。適切な準備をしても必ず報わるものではありませんが、合格した人は必ず最後まで努力しつづけています。この「最後まであきらめない」気持ちは教員の根拠あるサポートがあって育まれます。
私は、私自身がその大学を受ける気持ちで生徒と一緒に汗をかくことにこだわりたいです。
とはいえ私も最終手段で「応援」を発動しますけど(笑)。