高校入試で問われる社会科の学力について考えます。後編です。
2 歴史分野 日本の歴史を時系列に把握し。歴史的事項の背景や結果がいえる。
大枠
歴史は「文法」に沿って事項が取捨選択されて「ストーリー」になっています。まずはマクロな歴史観を押さえることです。中学の日本史はこのような感じです。
「日本列島は東アジアの一角にあり、中国の影響を受けながらも征服されることなく独自の文化を育んだ(豪族→貴族→武家)→19世紀にヨーロッパの進出にさらされるが、近代化を受容して国民国家を建設した→その過程で周辺地域と戦争した→敗戦→戦後は平和国家、西側の一員として先進国になった→現在は課題が山積」
初級編
一番単純な出題パターンは「豊臣秀吉のしたことは? ア源氏を破って太政大臣になった イ検地と刀狩りを行って兵農分離を進めた ウ京都に新しい天皇をたてて南朝と対立した エ生類憐れみの令を出した」(三重県 平成27年度)です。これは簡単に正解できます。
ところが「ア~エはそれぞれ誰のことか」、「ア~エを時代順に並べるとどうなるか」と聞かれた場合、ちゃんと分かっていないとごっちゃになります。だから名前から事項、事項から人物や時代が瞬時に思い出せるようにしておく必要があります。
同じく三重県の平成23年の問題で、遣唐使船、元寇の船、朱印船、ペリーの外輪船のカードが並んでいて、「コロンブスの船」(キャラック船の一種)はどことどこの間に入るか、とあります。日本史のストーリーが時系列に入っていて、鉄砲伝来と大航海時代がつなげられるかが問われています。
対策
まずは教科書で先史時代から現代まで時系列に、どの時代にどのようなことがあったかをおさらいします。
この時にも「歴史の法則」を使います。王朝、幕府ごとに
① できた(いつ、誰が、どうやって)
② 調子いい(新しい政治制度や経済発展)
③ 傾いた(きっかけの事件や世の中の変化)
④ 滅んだ(いつ、誰が、どうやって)
の4サイクルで考えると頭に入ります。
次に教科書の索引を開いて、用語から「○○時代の△△のこと」と説明できるか試し、抜け漏れがあれば該当ページに戻る、というようにシャッフルで言えるトレーニングをします。「紛らわしい」事項、例えば守護と地頭、江戸時代の三大改革、徳川○○の時に何をした、などは表にして整理し、また書きにくい漢字をリストにして反復練習をします。
発展
ライバルに一歩先んじるためには、重要な出来事については名称だけ覚えず「背景→契機→経過→結果→影響」の5点で整理します。
同27年の問題に「天保小判を万延小判に作り直した理由を答えよ」とあります。
この場合、背景:開国した→契機:為替レートが違った→経過:外国人が国内の金貨を持ち出して香港で銀に交換した→結果:日本から金が流出したので小判の質を下げた→影響:インフレーションが発生した、を理解しておく必要があります。
さらに自分なりに「それはずるい」「為替相場は必要だ」と「つっこみコメント」をつけて記憶します。ちなみに大学の歴史学は現在経済史や金融史が流行で、高校入試でも江戸時代の改革や琉球王国の役割などが出題されるので要注意です。
まとめ
歴史は過去のことを過去として学習するのではなく、現在の視点から過去を見て現在を見直す学問です。正確に事項のいつ、どこ、だれ、なぜが言えるだけでなく、現在の出来事との関わりを考えながら、歴史を面白がりましょう。この力がつけば高校の世界史や日本史も怖くありません。
3 公民分野 政治や経済について問題意識があるかどうかを試す。
大枠
公民は政治(憲法、三権、選挙、地方自治)、経済(市場、財政、労働、社会保障)、国際(国際政治、国際経済)、社会(環境、少子高齢化)の分野からなります。
理解するのは次の3ポイントです。
①原理(憲法の条文や経済の仕組み)
②運用と課題(それにまつわる事件)
③最近の話題
例えば女性の権利の問題であれば、①憲法の「両性の平等」や国際的な規約→②女性差別の実態や男女雇用機会均等法→③均等法の改正や選択的男女別姓です。
基本
原理の部分は憲法の条文、制度・法律名を正確に書く練習をしましょう。「内閣の助言と承認」など憲法の文言通り省略せずに書きます。
経済では景気対策や円高・円安は仕組みを理解します。運用と課題は「法律にはこう書いてあるけど実際にはそうはいかない」という部分が聞かれます。教科書の説明部分やコラムを注意して読み込みます。この時も「うまく考えましたね」などとつっこみを入れながら覚えます。
私の県では「持続可能な開発」についてたびたび出題されます。環境と開発のあり方については理解しておきましょう。
発展
公民分野は入試直前まで完成しない、もっとも定着が難しい部分です。ですから県立高校の場合は公民で難解な問題はあまり出ませんし、出てもみんなが解けません。
また説明問題も用語の意味を理解していればできる問題は確実に解きましょう。
三重県の平成27年度の問題に、「安全保障理事会の決議が反対する国が少ないのに否決されている」というグラフを見て説明するものがありました。「拒否権」の言葉だけでなく内容も正確に覚えることを心がけましょう。
4 まとめ
- 高校に来て成績が伸びる生徒は「準備ができる」生徒です。
- 公立の高校入試は「頭の良さ」を競うものではなく「準備の量」を競います。過去問は公開されていますし、難しい問題は正確に書く、論理を理解する、など準備が必要なものです。出題者は「授業を落ち着いて受け、受験勉強に真摯に取り組んでいる生徒」が点を取れるような問題を作っています。
- また過去問の間違い選択肢が今度は正解になることがありますが、これは「過去問をできた、できなかったではなく、過去問を使って関連事項を復習してください」というメッセージです。つまりよい準備をした人が高得点をとれるようになっています。
- 高校で成績が上がる勉強法は「比較と関連づけ」です。地理は空間で、歴史は時間軸で比較し、「この気候が生活に影響している」「あの事件があったからこうなった」というように事項の関連性を見つけます。
- そして、何より大切なのが「好奇心」や「探求心」です。勉強を高校合格のためだけに嫌々取り組むのではなく、「へぇ、そんなことがあるのか」「それはあかんやろ」「そこってさらにどうなってんの」と発見や疑問を持って取り組んでいる生徒こそ、高校や大学が求める人材です。
このように高校入試問題を詳しく見ていくと、「高校に来てからも通用するような力を授業や受験勉強で蓄えてください」という出題者のメッセージが見えてきます。
受験生はもう一度授業で先生が話したことを思い出しながら今取り組んでいる教材を見直し、現在の2年生はとにかく授業を大事にしてください。