ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

世界史の入試問題について考える(付録 東大・一橋の傾向)

 ブログの管理画面を見ると、一橋大学の回にアクセスをいただいています。見てくださっている方(「全然だめ」と思われている方を含めて)ありがとうございます。

 最初に解答例を作ったときは生徒と同じように制限時間内で作りましたが、だいぶ時間もたったので、ブログの解答例を順次手直しします。

 社会科研究会の紀要にこのブログを加筆・修正したものを投稿しました。その際に東京大学一橋大学の出題内容を私なりに要約したものを載せたので、ブログにも付録としてアップします。

問題編はこちら

今年度の世界史の入試問題について考える(その1 東京大学2016) - ぶんぶんの進路歳時記

世界史の入試問題で試される力について考える(その3 一橋大学2016) - ぶんぶんの進路歳時記

 

 駿台の「京大・阪大・神大入試問題研究会」のテキストを一部参考にしています。駿台難関大学志望者向けのイベントが盛んです。

www2.sundai.ac.jp

 

その1 東京大学の第Ⅰ問

年度 課題 字数 Type
2001 エジプト5000年の歴史 540 B
2002 近代中国のアメリカと東南アジアヘの移民とその中国への影響 450 A
2003 帝国主義時代の運輸・通信手段の発展とアジア・アフリカの植民地化および各地の民族意識の高まり 510 A
2004 16~18世紀における銀を中心とする世界経済の一体化 480 C
2005 第二次世界大戦中の出来事が1950年代までの世界に与えた影響 510 A
2006 近代以降のヨーロッパにおける戦争の助長・抑制傾向の具体的状況(三十年戦争フランス革命戦争第一次世界大戦の3つの時期について) 510 B
2007 11~19世紀の世界における農業生産の変化と意義 510 C
2008 1850~70年代におけるバクス・ブリタニカの展開とそれへの対抗 540 A
2009 18世紀前半までの西欧・西アジア・東アジアの政治と宗教の関係 600 C
2010 中世末から現代にいたるオランダの世界史的な役割 600 B
2011 7~13世紀、アラブ・イスラーム文化圏をめぐる動き 510 C
2012 20世紀のアジア・アフリカにおける植民地の過程とその後の展開 540 A
2013 17~19世紀のカリブ海・北米地域での開発、非白人系の移動と軋轢 540 C
2014 19世紀のロシアの対外政策がユーラシアの国際情勢にもたらした影響 600 A
2015 13・14世紀「モンゴル時代」の経済・文化を中心とした交流の様相 600 A
2016 1970年代後半から1980年代にかけての東アジア・中東・中米・南米の政治状況 600 A
2017 前2世紀以後のローマ、春秋戦国以後の黄河・長江流域で古代帝国が成立するまでの社会変化 600 C
2018 19~20世紀、女性の活動、参政権獲得や女性解放運動 600 B
2019 19~20世紀オスマン帝国の衰退。冷戦後の紛争との関連を考えて 660 B

 

 type

課題の立て方

A

広い範囲を時代を区切って俯瞰し、関係性を考える

8

B

特定地域やトピックを長い時間軸で概観し、変化を考える

5

C

広範囲をやや長い時間の中で俯瞰し、関係性や変化を考える

6

 

  

四象限にしてみると(個人の感想です)

 

狭いスパン

 

 

 

広いスパン

狭い地域

 

 

 

2018 

2006

2001

 

 

 

 

  2019

2010

 

 

 

2018 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2014

 

 

2013

 

 

 

2005

2002

 

2004

2011

 

 

2003

 

 

 

2009

 

 

2008

2012

2015

   

2007

広い地域

2016

 

 

 

 

 

 

*傾向:

  • 最近は「広い地域をテーマに基づいて俯瞰する」出題が多い。
  • 2013年は2002年の「かぶせ」、2015年の問題も類題がある。
  • 東京大学の第Ⅰ問には「現代の問題について歴史に問いかけてその糸口を探す」という東大の姿勢を「入試を通して世に問う」という意図がある。「帝国」「経済のグローバル化」「宗教的寛容」はよく出題される。
  • 昨今の西アジアの情勢や風刺画に対するテロなど、「宗教的寛容」が問われる昨今だが、入試問題では現在は様子見状態。

 

*対策:

  • 単元をまたぐ事項の共通点や関連性を見つけるためには、まずは単元ごとの学習で年号の知識をしっかり入れる。資料集の「○○世紀」の地図や、「東南アジアの民族運動」のような地図付き整理の頁を頭に入れて、年代や地域から事項を思い出せるようにする。
  • 授業には「これはあれと関連がある」と常に比較と関連づけマインドでギラギラしながら臨む。
  • かぶせ問題は「東大の学習は東大の過去問でしてください」というメッセージ。過去問をやって関連事項を洗い出す。
  • 定番テーマについては東大の過去問の前に、難関私立でリード文がしっかりしている問題(関東なら慶応や立教、関西なら同志社)をやって知識をつける。

 

 その2 一橋大学の過去問

 

 
2004 宗教改革の比較 ピョートル1世 サファヴィー朝ムガル帝国文学革命の意義。
2005 身分制議会の特徴と比較 冷戦を核兵器の開発と抑制の観点で語る 東南アジアへのインド人中国人移民増加の理由を出身国の国内問題と現在の問題と絡めて書く
2006 オットー1世の歴史的意義 ケルン大聖堂をめぐる中世都市の自治ドイツ帝国ナショナリズム アウラングゼーブ。マンサブダール制。清の統治。典礼問題
2007 フランクの分裂~オットー1世の戴冠 ルイ16世の即位と革命前の改革 太平天国と洋務運動
2008 ハンザ同盟13世紀~17世紀 米西戦争アメリカの太平洋進出 韓国併合と光緒新政
2009 カール大帝と地中海。ピレンヌテーゼの再考 18世紀の第二次英仏百年戦争 1920年~40年代の日本の朝鮮統治
2010 11世紀~13世紀の皇帝権と教皇権の闘争 第一次世界大戦と女性の社会進出 バンドン会議西安事件インド国民会議
2011 フス戦争の意義 1850年~70年代のヨーロッパの動き 三藩の乱
2012 ナントの勅令の意義 国際連盟国際連合が直面した問題 イギリスの東南アジア進出と清朝冊封体制の変化
2013 東方植民の経緯と近代での経済史的意義 フランス革命は革命か 甲申政変
2014 ワットタイラーの乱と中世封建制の解体 チェコの歴史と良知力 明清交代と朝鮮
2015 カール大帝のローマ滞在の理由とカールの戴冠の意義 ECとASEANの歴史的役割の変化について比較する 清朝の対外関係の特徴とその崩壊過程
2016 聖トマスとアリストテレス都市国家論の比較 18世紀プロイセンで建てられたユグノー教会とカトリック教会の歴史的背景 1940年以降の朝鮮半島情勢と、朝鮮戦争が中国と台湾に与えた影響
2017 新大陸の銀がスペインの盛衰や16~17世紀のヨーロッパ経済に与えた影響 ハイチとアメリカ合衆国奴隷解放の特徴。ラテンアメリカの独立の担い手と独立後の経済政策。ブラジルの独立の特徴 ザイトンを取り巻く11~13世紀の国際関係
2018 11~13世紀のヨーロッパの「空間革命」とその経済・社会・文化への影響 歴史学は経済学と近代歴史学の相違。それが生じた歴史的背景を対比させつつ 三・一独立運動と五・四運動の背景、展開、意義
2019 東欧でカトリックを受容した王国。身分制議会の展開 第二次英仏百年戦争の経過と後の世界史に与えた影響 中国国民党中国共産党の争い。1949年まで


『詳説世界史B』中世ヨーロッパの節と第Ⅰ問の出題 

出題

内容

出題

内容

ゲルマン移動

 

 

十字軍

2013

2018

東方植民

空間革命

フランク台頭

 

 

商業復活

2008

ハンザ同盟

ローマカトリック

 

 

都市の自治

2006

2016

ケルン大聖堂

聖トマスの国家論

カール大帝

2003

2009 2015

ピレンヌテーゼ

カール大帝

封建制の解体

2014

ワットタイラー

フランク分裂

2001

2006 2007

オットー1世

教皇権衰退

2011

フス戦争

ノルマン

 

 

イギリス身分制議会

2005

2019

身分制議会

封建社会

 

 

フランス王権伸張

 

 

荘園制

 

 

百年戦争

2014

ワットタイラー

教皇

2002

2010

叙任権闘争

ヴォルムス協約

ドイツとイタリアの分裂

2000 

ハプスブルグ家

ビザンツ

 

 

レコンキスタ

 

 

東ヨーロッパ

 

 

文化

 

 

中世史以外

2004 2012

2016

宗教改革 ナントの王令

アリストテレスの国家論

 

 

*傾向:

  • 中世前期はヨーロッパの成立に関わるカール大帝とオットー1世が、中世後期は社会・経済にまつわる出題が多い。キリスト教関係の出題もあり。
  • 単発の事件の説明ではなく、背景と影響が問われる。
  • イギリス史が少ない(アンチ東大)。

* 対策:

  • 中世史用語ノートを作る。現在のヨーロッパとヨーロッパ中世のあり方をマクロに比較しつつ、ミクロなことも覚える。
  • 事項について背景→契機→経過→結果→影響の5点で説明できるようにする。背景と影響が聞かれるので政治と社会・経済・宗教を関連づけて考える。
  • 一橋のOB(駿台曰く「一橋レジェンド」)が何を研究しているのか、多少は知っておく(文庫、新書レベルで可。やり過ぎ注意)。

  

『詳説世界史B』のアジア近世、近現代のアジアの節と第Ⅲ問の出題

出題

内容

出題

内容

東アジア世界の動向

 

 

WW1後アジアアフリカの民族運動

2009

2018

 

2019

朝鮮統治

三・一独立運動と五・四運動

国民党と共産党

清代の中国と隣接諸地域

2006 2011 2014

清の統治 典礼問題 三藩の乱 明清交代

世界恐慌ファシズム

2010

西安事件

トルコ・イラン社会

2004

サファヴィー朝

第二次世界大戦

2009

朝鮮統治

ムガル帝国と東南アジア交易

2004 2006

ムガル帝国 アウラングゼーブ マンサブダール制

戦後のアジア諸地域の自立

2016

朝鮮戦争

オスマン帝国の動揺と西アジア

 

 

第三世界の台頭

2010

バンドン会議

南アジア・東南アジアの植民地化

2005

インド人移民 イギリスの進出

途上国の民主化

2015

ASEANの変遷

東アジアの激動

2007 2012 2015

太平天国 冊封体制 冊封体制

地域紛争

 

 

世界分割

 

 

 

 

 

アジア諸国の改革

2008 2010 2013

インド国民会議 韓国併合 光緒親政 甲申政変

 

 

 

*傾向

  • 中国と朝鮮半島近現代史が多いがインド、東南アジアも出題されている。
  • 近世史も侮れない。特に清朝初期。
  • 二年続けて戦後史が出題された。
  • このブロックは統治やグローバル化など東大に近い問題じゃなくて法学、経済系最高峰の一橋らしい問題も出題される。

*対策

  • まずは清朝から現代中国までの通史、同時期の朝鮮半島の動きを完璧にする。
  • 統治や経済に関わる出題が多いので、授業中から社会科学系マインドで臨み、その系統の入試問題(この範囲は難関私立の定番)をやり込む。
  • 政治経済の時間を世界史の時間と思って真剣に取り組む。