ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

世界史の入試問題で問われる力について考える(立命館大学1)

 新テストの話ばかりで心が荒んできたので(笑)、気を取り直して入試問題から大学からの「受験勉強でこういう力をつけて」というメッセージについて考察します。

 今回は立命館大学を取り上げます。

www.ritsumei.ac.jp

*発展:「終戦記念日」に関西ローカルで岩井忠熊さんが取り上げられていました。

 岩井さんは京都大学から学徒出陣します。特攻艇「震洋」で特攻するため石垣島に移送中に敵軍の魚雷攻撃を受けて船が沈没、3時間泳いだ末に救助され、そのまま終戦を迎えました。復学し歴史研究に没頭、後に立命館大学の副学長になります。


岩井忠熊「特攻体験を語る」 その1

 

これも有名 

www.ritsumeikan-wp-museum.jp

 

 関西の偏差値上位大学は国公立・私立を問わず「権力をチェックする」「弱者の立場に思いをはせる」というスタンスです。「アンチ東京」という風土もありますが、将来企業の経営者や公的機関の管理職を目指すためには必要な資質です。

 立命館大学の特に世界史は、左右関わらず弱者を虐げる権力に対する厳しい目線、そして批判精神の土台となる「教養」が特徴です。

 「ちょっと難しいけど過去問やって視野を広げて」という大学のメッセージを受け取りましたのでお言葉に甘えて(笑)、東進と旺文社の過去問サイトを底本に、過去問を学習します。

 

東進 会員登録必須

www.toshin-kakomon.com

 

旺文社 会員登録必須

passnavi.evidus.com

 

1 過去6年間の出題内容(2月1日~4日の全学部 2019のみ7日学部個別あり)

   
2014 1 古代エジプト 日清戦争満州事変 古代ローマ 17世紀ヨーロッパ
2 洛陽の歴史 中華人民共和国 イスラムの成立 アジアアフリカ戦後史
3 開封の歴史 アヘン戦争辛亥革命 古代エジプト ライン川ドナウ川の歴史(中世~現代)
4 西夏の歴史 イエズス会の中国布教 十字軍 ドレフュス事件第三共和政
2015 1 東アジア10世紀高麗と契丹 国共合作と内戦 古代ギリシア世界の盛衰 南北戦争アメリカ19世紀後半
2 皇帝と宗族 三・一運動と日本の朝鮮統治 ローマ市の歴史 カントと東プロイセンポーランド
3 ベトナム李朝と陳朝 中華人民共和国 英仏百年戦争 ウクライナの歴史
4 後漢 朝鮮半島戦後史 駅伝制度と主権国家体制の形成 ジャガイモとアメリカ合衆国
2016 1 華北と江南 ベトナム戦争 ユダヤ古代ギリシア、モンゴルへの布教、17世紀ヨーロッパ文化 大航海時代
2 易姓革命 タイ王朝 ベーメンハンガリーポーランド ダヴィッドとフランス革命
3 史書の歴史 変法運動~袁世凱 エフェソスとアナトリアの歴史古代~19世紀 シュトレーゼマンとヴァイマル共和国
4 海の道と古代東南アジア 明末清初の社会と経済 中世の大学と文化 21世紀テロとアメリカの単独行動主義
2017 1 城郭都市の形成 ガンディーと孫文 イエズス会 プロイセン
2 郡県制と封建制 第一次世界大戦 イタリアと主権国家体制の展開 アメリカ合衆国の拡大と帝国主義
3 三武一宗の法難 元曲 地中海の海賊 ド=ゴールの時代
4 女真族 第二次世界大戦と戦後 古代オリエントギリシアの文字の歴史 スコットランドアイルランド
2018 1 科挙 明代の学問 ルネサンス以前のヨーロッパ世界の商業と貨幣 21世紀アメリカの大統領
2 唐王朝の系譜 義和団事件 白色から見るヨーロッパ 英仏の重商主義第二次百年戦争
3 唐宋変革 中国近現代史の重要事件 イベリア半島の歴史 ヒトラー政権と焚書
4 君主の称号と宗教 ムガル帝国 ゲルマン人の移動 スペインとラテンアメリカ
2019 1 土地制度 アヘン戦争華夷思想の解体 黒海をめぐる歴史 カタルーニャ地方とスペイン現代史
2 律令制 明代の朝貢関係 ローマ皇帝 アメリカ=スペイン戦争
3 トルキスタンの歴史 香港 ルネサンス アメリカ独立革命
4 文字と政治 アヘン戦争と中国内部の変化 キリスト教の成立 スターリンソ連
7 明の政治 中国現代史の重要会談 シオニズムパレスティナ難民 フランス革命

 

2 分析

 大問の構成は、Ⅰ・Ⅱが各10問、Ⅲ・Ⅳが各15問、合計50問です。

 形式はほぼ記述式で、空欄と設問に単語で答えます(日本史は記号問題があるのに)。記号問題も、たとえば2018年2月3日Ⅱと2019年2月5日Ⅱは事件を時代順に並び替える問題で、文中のヒントから時代を特定します。

 内容は、Ⅰが非ヨーロッパ(ほぼ中国、時々オリエント・インド)前近代、Ⅱが同近現代史、Ⅲがヨーロッパ前近代、Ⅳが同近現代です。

 

3 勉強法 

 Ⅰは中国史の統治に関わる部分です。リード文はテーマ性があり読んで勉強になります。空欄に入れるのは王朝名、人名、地名、制度、経済、文化なので、文中のヒント(いつ、どこ、なに)から知識を正確に引っ張ってくる必要があります。

 中国史の先史から清朝の前期まで、まずは通史で完成させ、その後テーマ史(制度史、経済史、外交史、文化史、地図)で演習というタテヨコ学習が不可欠です。

 

 Ⅱは、19世紀のヨーロッパ列強による中国の半植民地化と20世紀の日本の大陸支配に直面して、抵抗と近代化の受容を組み合わせながら自立する過程を、清朝末から現代まで「反権力目線」で一気に俯瞰する学習が必要です。

 教科書では、中国史の前近代はまとめて記述されていますが、近現代史はブツ切れになっていて受験生には前後の関係がわかりづらいです。山川出版社の『各国別世界史ノート』などを使ってぶち抜き学習しましょう。

 私は「中国史スペシャル」と称して、通史、経済史、外交史(東アジアや遊牧勢力との関係)、文化史、地図のプリントを準備しています。  

各国別世界史ノート―重要事項記入式

各国別世界史ノート―重要事項記入式

 

  Ⅲは一橋大学的なヨーロッパの基層に関わる教養的出題です。『ローマの休日』よろしく、市内観光をしながらローマ共和政について考える出題もありました。

 この部分は通常の受験勉強で対応可能です。ただ立命館大学のリード文は政治と文化の関係を論じる構成が多いです。

 受験生はまず政治史を完成させましょう。その後文化史を勉強する際に断片的に作者と作品名を暗記するのではなく、その時代背景や事件と関連づけて「ほう、ヨーロッパのこの思想があの事件や今のこの制度につながっているんだ」と「ひとりアクティブラーニング」しましょう。

 私は文化史の穴埋めプリントには必ず関連する事件(ポリビオス→第3回ポエニ戦争ローランの歌カール大帝イベリア半島攻め)をつけるようにしています。

 

 Ⅳは、定番のヨーロッパ史に加えて、時事問題を歴史に立ち返って考察する問題がよく出題されています。15年ウクライナ、17年スコットランド、19年カタルーニャ地方などです。19年のⅡ「香港の歴史」も同じです。

 現在のアメリカ合衆国のあり方を歴史をひもといて批判する問題は毎年のように出題されています(特に2018年の問題は今のこと)。まあ自由と民主主義を標榜する超大国なんですから批判は歓迎ですよね?

 西洋史研究の最近の話題も出題されています。

 「グローバル化」は、15年ジャガイモ、16年大航海時代、18年第二次英仏百年戦争ラテンアメリカは国立論述の定番です。18年のⅢ(白物の輸入品)、19年のⅠ(トルキスタン)もグローバル問題です。

 また18年「第二次英仏百年戦争」では、一橋大学の回に紹介した「財政・軍事国家説」がそのまま出ています。

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 最終的に空欄に入るのは教科書レベルの内容が大半(ドボンは解けなくてよい)、対策としては授業中の先生の話をギラギラしながら聞いて「これグローバルもの、要チェック!」という主体的な学習をする、早慶MARCHの過去問をする、をすすめます。

 一般書ですが、教科書のグローバルトピックを整理したいい本があります。 

教養のグローバル・ヒストリー:大人のための世界史入門

教養のグローバル・ヒストリー:大人のための世界史入門

 

*発展:立命館大学京都大学の世界史の問題はよく被ります。「京都大学も東洋学のメッカで「前近代・近現代」×「ヨーロッパ・非ヨーロッパ」という4問構成、「教養と反権力」という方針も似ています。

 最近では京都大学の2014年のⅡで中国の都市の歴史、2017年のⅣでカントと東プロイセンの話題が出題されています。

 

まとめ

  • ⅠとⅢは高校世界史の定番部分だが、政治、経済、文化を統合してヨーロッパと非ヨーロッパの「あり方」を自分なりに仮説を建てて教科書を読み進めると効果的。
  • ⅡとⅣは時事問題への関心と批判精神で教科書を読む。

 今の高大接続改革は「大学生が社会人になって役に立たない」のは大学入試が「暗記物に偏っている」「記述式がない」という分析から行われているようです(エビデンスは?)。

    しかし、最終的に試験で答えを書く(選ぶ)としても、学習のプロセスで「断片的な情報を批判的な視点で統合する」ことは不可欠です。

 そういう意図を持って作問すれば受験生は頭を使います。私の経験上、立命館の文系に一般入試で合格した生徒は「歴史を面白がる」「今の世の中ちょっとおかしい?」という「世界史頭」に達しています。

 

 次回は2019年の解答例をあげながら、学習のポイントについて考えます。