ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

今年度の世界史の入試問題について考える(その1 東京大学2016)

 一応歴史のカテゴリーにいるので、今回から入試の解説をしたいと思います。

 私の学校は関西圏で、京都大学大阪大学を受験する生徒が毎年いるので、自分の勉強のために解答例を細々と作っています。駿台が3月に主催する入試問題研究会には欠かさず参加するので、やはり自分で解答例作っていかないと当事者意識が湧きません。

 こういうブログは他にすごいのがあります。新参者ですが頑張ります。

 ただ、解答例を公開することが目的ではなく、大学は高校生のどのような力を試そうとしているのか、そのために普段から何をすればいいかを考察するのが目的です。また高校生が手持ちの駒でどこまで書けるか考えます。

 問題は河合塾、日経のサイトを参照してください。

kaisoku.kawai-juku.ac.jp

追記 資料編を別に立ち上げました。

世界史の入試問題について考える(付録 東大・一橋の傾向) - ぶんぶんの進路歳時記

 

他のログで用語頻出用語のパターンを紹介しています。第2問、第3問について出題パターンを追加しました。

さ 最初最後 ふ 複数出現 に 日本もの つ セットもの と 特徴 て 転機

ま 紛らわしい や ややこしい こ 細かい り 理由推理 ぜ 有名事項前後 ゆ由来 て 抵抗 ク 他教科 グ グローバル

世界史の学習法について考える(その4 入試頻出用語の法則 上級編) - ぶんぶんの進路歳時記

東京大学 2016年

第1問

課題 1970年代後半から1980年代にかけて 東アジア、中東、中米、南米の政治状況の変化

条件 新冷戦の時代に1990年代以降につながる変化が生まれつつあった

用語 アジアニーズ イラン=イスラーム共和国 グレナダ 光州事件 サダム=フセイン シナイ半島 鄧小平 フォークランド紛争

 

東アジア

中東

中米

南米

70後半

プロレタリア文化大革命終了

四つの現代化 朴正煕暗殺

エジプト=イスラエル平和条約でシナイ半島返還 イラン=イスラーム共和国

 

 

80前半

光州事件

鄧小平の改革開放政策 アジアニーズ台頭

イラン=イラク戦争 フセインが台頭 インティファーダ激しくなる

レーガングレナダ侵攻

フォークランド紛争

軍事政権崩壊

80後半

天安門事件

 

累積債務

累積債務

90年代

韓国民主化進む 中国の経済躍進

湾岸戦争 パレスティナ暫定自治協定

 

BRICs

 

解答の方針

 「1990年代以降の流れ」がヒント。70年代の「多極化」によって各地で米ソ支配に対する異議申し立てが出てきた。新冷戦は「資本主義か社会主義か」という門切り型の物言いでその要求を押さえつけようとした(アフガニスタン侵攻、イラン=イラク戦争グレナダ侵攻、天安門事件はその最たるもの)。それが冷戦崩壊で90年代に吹き出した(湾岸戦争、ユーゴの内戦、その他諸々)ととらえます。

 このように「新冷戦」を冷戦の流れの中で位置づければ文章になりそうですが、現役生はこの範囲をそこまで理解するのは時間的に厳しいです。昨年「全斗煥」が書けない生徒が多かった(私の生徒もそれはミスったそうです)から「過去問かぶせ」かもしれません。

解答例

中華人民共和国では70年代末にプロレタリア文化大革命が終了し、80年代に鄧小平による改革開放政策が本格化し、外資を受け入れて経済発展が進んだ。しかし共産党一党支配に対する民主化要求が起き、89年の天安門事件で弾圧された。韓国では開発独裁を続けていた朴正煕大統領が79年に暗殺されると民主化要求が高まるが、80年の光州事件で弾圧された。しかし80年代の盧泰愚大統領の時に民主化が始まり、アジアニーズの一角として経済発展が進んだ。エジプトは79年にイスラエルと平和条約を結び、シナイ半島返還と引き替えにイスラエルを承認するが、サダト大統領は暗殺され、80年代にはパレスティナイスラエル占領地域でインティファーダが激化して混迷が深まった。イランでは79年の革命でイラン=イスラーム共和国が成立しイスラームに基づく政治と反米路線をとったため、アメリカは80年にイラン=イラク戦争が発生するとイラクサダム=フセイン大統領を支援した。中米では70年代末から各地で反米左翼政権が誕生し、ソ連キューバの支援を受けたので、アメリカが80年代にグレナダへ侵攻するなど各地で軍事介入を行った。南米では各地で軍事政権が支配していたが、アルゼンチンが82年にイギリスとのフォークランド紛争で敗北して軍事政権が倒れると、各国で民政への移管が進んだ。(563字)

*高校生が書ける最低ラインを意識して何も見ずに書きましたが、現役生だと細かい年号や盧泰愚インティファーダ(新課程の詳説世界史に写真が載っています)は難しい。ヒントのサダム=フセインとイラン=イラク戦争を結びつけられるか、レーガングレナダ侵攻を知っているか、は差がつくところです。私は「ソ連アフガニスタン侵攻で西側がモスクワ五輪をボイコットし、グレナダ侵攻で東側がロサンゼルス五輪をボイコットした」と50代の思い出話をしますが、そのようなヨタ話を生徒は覚えてないですよね、きっと。

第2問

記号:◎マスト ○合格には解答したい △差をつける問題 ▲難しい ×無理

(1)() と、り◎イクター制 

○軍人に対して給与を支給する代わりに給与に見合う土地の徴税権を認める制度。裁判権など徴税権以外は行使できない。(54字)

() に、り◎カピチュレーション

○ヨーロッパ商人に対して帝国内での自由通行、商業の自由、治外法権を認めた権利。19世紀には不平等条約の口実となった。(58字)

(2) と、り▲(a)官僚を等級に分けそれに応じた給与を認める一方、等級に応じた一定の騎馬を準備させて帝国に奉仕させた。(58字)

(b) てスンナ派を信奉してヒンドゥー教徒へのジズヤを復活させたため、ヒンドゥー諸侯や、シク教徒の反乱を招き、帝国が分裂した。(58字)

(3)

グ○イギリスではクロムウェルが航海法を発布してオランダ商船をイギリスとの貿易から閉め出し、英蘭戦争を有利に進めた。フランスではルイ14世がオランダに出兵し、コルベールが東インド会社の再建や王立マニュファクチャーを設立して重商主義を推進した。(117字)

*問1センター試験の定番で書けて当然、問2(a)は私大のややこしい穴埋めで出てくるが内容は書きづらい。(b)は「徴税が難しくなる」を書きたいが現役生には難しい。問3はフランスとオランダの関係が難しいが後は有名な話。

   

第3問

1と◎クレイステネス 2て◎陳勝 3と◎コロッセウム 4て◎ミュンツァー 5と◎シク教  6て◎シパーヒー 7て◎パリ=コミューン 8て△五・三〇事件 9て◎ホー=チ=ミン  10て◎ペレストロイカ

*さすがは反権力を公言してはばからない東京大学、いつもながら第3問は権力に抵抗した人や団体のオンパレード。全問正解したいです。

 東京大学は1番でマクロな視点(同時代横広がりが多く、たまに特定地域時系列)、2番で用語の正確な説明、3番で私大的一問一答(特に権力に抵抗した人、教養的なことが聞かれる)という構成です。2番3番は授業中にしっかり固めて、1番は学んだことを横から、縦から見る癖を授業中からつけた上で、トレーニングしたいです。「過去問かぶせ」出題は、「過去問を元に学習するように」という東大のメッセージですね。