ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

世界史の学習法について考える(その4 試験に出やすい用語の法則 難関大学編)

 世界史は「膨大な用語を覚える暗記科目」というのは否定できませんが、「こういうことができるようになってほしい」という歴史の「文法」があって、それに基づいて歴史的用語が選択されています。その求められている力から逆算して、どの用語を覚えるのかを考えます。後編は上級編です。

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世界史の学習法について考える(その4 入試頻出用語の法則 初級編) - ぶんぶんの進路歳時記

 

4 上級編 難関私大で合否を決する瀬戸際編…「まやこりぜゆてくグ」

 

見出しの記号(難易度)

◎マスト知識。

○できないと差がつく。一周目から気をつけて覚える

△できると差をつけることができる。二周目の知識。センター9割を狙う人向け。

▲答えられるとかっこいいが無理に覚えなくてよい。難関大学向け。

*無印の用語は見出しの難易度、それより難しいものは用語の頭に難易度あり。

 

1 ○(ま):紛らわしい…セットもので特に内容の判別が難しいもの。

*勉強量を計るために紛らわしいものを判別させるのは効果的。他教科でも頻出。

*対策:ゴロを使うなど工夫する(例:望厦(ぼうか)はあめりか)。表にする。

 

2 ○(や):ややこしい…難解な漢字、濁点がわかりにくいカタカナ語

  • 国史…拓跋氏、▲羯、△鄒衍、康煕帝、総理各国事務衙門
  • イスラーム…ワクフ、ウラマーウンマ、△ミスル
  • インド…ガウタマ=シッダールタ △マンサブダール、△ディーワーニー ザミンダーリー制
  • その他…エンコミエンダ制 ▲マンジケルトの戦い 

*(ま)と同じく努力の量を計るのに効果的。内容も言えるようにする。

*対策:書き取りのある国立、難関私立受験者は書いて覚える。模試や過去問で「ややこしい」と思ったらリストアップ。教科書に出てなくて過去問に出るもの(チャルディラーンの戦いとかクチュク=カイナルジ条約とか)は基本忘れるか頭の隅程度。

 

3 △(こ):細かい…事項に対する正確ないつ・どこ・何

  • マリ王国の文芸の都はトンブクトゥ→何川の上流にある?…ニジェール川
  • ピョートル1世はスウェーデンと争った→その王は?…カール12世
  • 隋は大運河を建設した→そのうち黄河と涿郡(元北京)を結ぶのは?…▲永済渠
  • 唐の首都は長安        →今の何省にある?…▲陝西省

*中級編「だれがじゃ~」の細かいもの。

*対策:大学によって出題の癖がある。京大は川や山を聞いてくる。中国の省名は昔の立命館の定番(最近は少ない)。過去問を研究して頻出範囲は二周目の学習の時に網を張る。二次で世界史が課されない国立志望者は無理をしない。

*教科書に載っていないもの(例えばアドワの戦いで勝利したエチオピアの「メネリク2世」とか)は基本「ドボン問題」。自分で難しい言葉は探さないこと。

 

4 ○(り):理解・推理:教科書の記述を把握しているか。知識をヒントから運用できるか。

  • 穀物法はラテンアメリカ穀物輸入を防ぐために制定された…○or×?
  • 隋の大運河のうち通済渠は華北と(    )を経済的に結びつけるために、永済渠は対(     )戦の補給路として必須だった。
  • コルテスがアステカ帝国を滅ぼしたときのスペイン王は?(       )
  • 上下エジプトが統合され(  )エジプトのメンフィスに首都が置かれた。

*歴史的思考力を試す本丸。もっとも「差がつく」ところ。最初のふたつは教科書の記述を理解しているか。残りふたつは知識を組み合わせる問題。三つ目は年号から事項を推理(二次の論述で必ず問われる力)、四つ目は立命館の意地悪問題だがメンフィスの位置から上か下か推理する。

*対策:教科書の太字だけ覚えず論理を理解する。事項が出てきたら年代やその位置を記憶する。○○世紀から事項が思い出せるトレーニングをする。

 

5 △(ぜ)…前後左右:重要事項の周辺の出来事

  • 唐代に市舶司が広州に置かれたが、宋代に新たに置かれた都市は?…泉州
  • 11世紀にヨーロッパでは聖地巡礼が盛んになるが、それはイェルサレムとローマともうひとつはどこか…▲サンチャゴ=デ=コンポステラ
  • 戊戌の変法で康有為とともに活躍したのは?…▲梁啓超

*難関私大の定番パターン。一通り学習ができた人が「二周目の勉強」をしているか見ている。例は教科書に載っている。載っていないものは「ドボン問題」だから覚えなくてよい(例えばドンズー運動のファン=ボイ=チャウの前後もので、フランスの協力で啓蒙運動を行ったファン=チュー=チン)。

*対策:私立文系の人は数学と理科を捨てた時間を「二周目の知識」のために使う。難関国立の人は普段の授業で「あともうひとつ」が一瞬目に入った瞬間に記憶に入れる。世界史はセンター試験までという人は無理をしない。

 

6 ○(ゆ)…由来もの:

*歴史が今とつながっていることを理解しているかを問う問題。私大頻出。

*対策:普段からの心がけ。先生の与太話をチェック。

 

7 ○(て)…抵抗もの

*大学の多くは反権力(東は将来権力の中枢に進む人材を養成する東京大学、西は滝川事件の京都大学立命館大学)。現状に対する批判精神を持って世界史を学んでいるかを問う。国立二次と難関私大の一問一答問題の定番。

*対策:普段からの心がけ。先生の与太話をチェック。

 

8 ○(く)…他教科クロスオーバーもの

  • 日本史もの…漢委奴国王、勘合貿易、秀吉の朝鮮出兵朱印船、明治以降
  • 倫理・政治経済もの…現代史、政治や経済の原理、国際経済、思想
  • 科学・音楽・美術もの…人名、作品や発見したこと
  • 地理もの…エルベ川、▲カルパティア山脈、▲アラル海・シル川・アム川

*基本は世界史の教科書に出ているもの。他教科の時間に「あ、これ世界史で出てきた」と思えるかが試される。

*対策:世界史以外の時間もちゃんと授業を聞く。文化史を学習する。地名が出てきたら必ず地図を見る。

 

9 △(グ)…グローバルもの

  • 用語…エリュトゥラー海案内記 オケオ カーリミー商人 トレドとパレルモ アカプルコ貿易 アシエント 華僑とインド人労働者 ジャガイモ飢饉 ▲海底ケーブル モールスとマルコーニ ▲アジア通貨危機 
  • 論理…▲東南アジアの「インド化」 トルコ人の西進 モンゴルの影響 14世紀の危機 大航海時代の影響 カリブ海やアジアの三角貿易 冊封体制とその解体 18世紀と19世紀のヨーロッパのアジア進出の相違点 ▲日本の東南アジア貿易

*Aの4 最近の歴史学の関心事。国立二次ではマスト。

*対策 このテーマは資料集の方が充実している。該当ページをしっかり読む。

 

 

まとめ

 

 「まやこりぜゆてくグ」は受験生が「ちゃんと勉強しているか」を試しています。

  • 「まやこ」は「丁寧な勉強」です。「何となく分かっている」ではなく、確実に書ける、似たものを判別できる、いつ・どこ・何にも気を配る、です。
  • 「りてグ」は「歴史的思考力」です。歴史的事項を年号や地図とつなげて考えたり、過去と現在をつなげて考えることできるかです。
  • 「ぜゆク」は「好奇心」です。授業で「へえ~」と思ったり、「もう少し調べてみよう」とか「他の科目もを世界史の視点で受講しよう」など、主体的に世界史を学んでいるかどうかです。

 長らくこの仕事をしていますが、世界史は「全く勝負にならない」と「ものすごくできる」生徒がはっきりします。受験のために嫌々暗記しても頭に入りませんしテストで書けません。「世界史の文法」に沿って面白がったり、考えたり、怒りに震えたりしする生徒の成績の伸びは絶大です。

 

 ちなみに私は「まやこりぜゆてクグ」用語集というプリントを作ってあって、センター試験や私立入試の前の最終チェックに利用します。

 

 また「さいふについとくてん+芋」「まやこりぜゆてくグ」の中にも最初から覚えるべきもの、二周目の学習で覚えるものがあります。

 基本的な事項がちゃんと入っていないのに特定の範囲だけ細かい知識を持っていても受験には役立ちません。まずは一周目で◎○を覚え、二周目で突っ込んだものを覚えるようにします。

 

 次回は難易度の判別について、入試問題等を利用して具体的に考えます。