ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2020年度からの大学入学共通テストについて(2019年7月 英語民間検定を必須としない大学)

 2019年7月、国公立大学には「二年ルール」という不文律があり、2020年度(2021年度入学者選抜)入試についてそろそろ明らかになる時期です。

 ただし現時点で「大学入学共通テスト」(以下共通テスト)および「英語成績提供システム」(以下成績提供システム)について不確定な部分が多く、大学側もお困りではないでしょうか。

 本日は、6月末現在の国公立大学の英語民間検定の利用状況について、河合塾の6月18日付調べ(営業さんの許可は取りました)と大学の発表を参考に紹介します。

 

元ネタ

www.keinet.ne.jp

 

1 これまでのおさらい

 

ア)システム

  • 大学入試センター(以下DNC)は、外国語のうち「英語」について、2020年度から2023年度まで、「各大学はDNCが問題を作成し共通テストとして実施する試験と、民間の試験実施主体が実施する資格・検定試験とのいずれか又は双方を利用できる]としている。
  • DNCは「成績提供システム」を設け、本システムに参加する資格・検定試験について、受検生から申出のあった回の成績を一元的に集約する。
  • 高校2年生は学校を通じてDNCに「共通ID」の発行を申し込む。
  • 大学に提供される資格・検定試験のスコアは、高校3年生の4月から12月までの間に受検した2回までが利用できる。2年生で得たスコアはこの枠組みでは使えない。
  • 受験生は資格・検定試験の受検申し込みの際に、DNCから個人ごとに発行されたID を記載して「今回のスコアを大学受験に使う」と意思表示する。何回か受けて最高点を後から申告するのではない。
  • 検定団体からDNCに受検生の成績が送付される。受験生が送る必要はない。
  • DNCは要請のあった大学等に対し受験生の成績を提供する。提供される成績は、各試験のスコア、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)の段階別表示および合否がある場合はその合否。

 

イ)国立大学協会(以下国大協)のガイドライン(2018年3月30日)

  • DNCが認定した民間の資格・検定試験と、共通テストにおいて実施される英語試験を一般選抜の全受験生に課し、それらの結果を入学者選抜に活用する。
  • 認定試験結果の活用方法については、各大学・学部等の方針に基づき、次のいずれかまたは双方を組み合わせて活用することを基本とする。
  • ① 一定水準以上の認定試験の結果を出願資格とする。
  • ② CEFR による対照表に基づき、共通テストの英語試験の得点に加点する。

 

ウ)「要件を満たしている」と判断された英語民間検定®(実施団体)

  • 「英検」(日本英語検定協会)*一日完結型
  • 「IELTS」(ブリティッシュ・カウンシル、IDP:IELTS Australia)
  • TOEFL」(米ETS)

 

エ)制度の問題点(下のリンク先を参考)

  • 「各資格・検定試験とCEFRとの対照表」に科学的な裏づけがなく、異なる検定のCEFR(習得言語のcan doリスト)を生徒の合否に用いるのは不公正である。
  •  試験の質に関する実質的な審査は行われていない。試験の運営を第三者が監視・監査する制度がない。
  •  全員がトラブルなく受験できる目処が立たない。
  •  国立大学の対応が全く違う。
  •  受験機会の不平等文科省が3年生に限ったのは公平性のためだが、一転離島、僻地その他特別措置対象の生徒は高校2年生のスコアが使えるように。ただしB2(英検準1級)以上に限る。
  • 他にも色々不透明な部分が多すぎる。

nominkaninkyotsu.com

 

オ)今起きている問題

  • 検定団体とDNCとの間で正式な協定がまだ結ばれていない模様(6月末現在)
  • 会場や申し込み時期などが未定。意向調査して会場を決めるとか9月から予約開始とか高校現場が混乱
  • 英検「S-Interview」(スピーキングが対面式)は特別措置限定に
  • 「異なる検定のCEFRを入試に使っていいのか」という質問に対して文科省は「CEFRをどう活用するかは各大学の裁量」という回答*1
  • 「民間英語検定を使わない国公立大学は後で不利な取り扱いをされたりしないのか」という質問に対して文科省は「そういうことはない」との回答*2

*1はMBSより、*2は国会議員の方が問い合わせた結果。

www.mbs.jp

 

 

 

2 民間英語検定を受験していなくても出願できる大学一覧河合塾調べを加工) 

 

大学(学部等) 日程 提出 出願要件 CEFR 得点換算 備考
北見工業 前・後 任意     配点は前期で50点、後期で40点、未提出で0点
釧路公立 前・中 任意       調査書等の情報と合わせて合否判定時の資料として活用
公立はこだて未来 前・後 不要       利用しない
北海道 前・後 不要       利用しない
北海道教 前・後 任意     共通テスト英語の得点合計の2割程度を上限として加点
青森公立       成績が提出できない場合はその事情を明記した理由書を提出
青森公立     成績が提出できない場合はその事情を明記した理由書を提出
岩手県 前・後 不要       利用しない
東北 前・後 不要       利用しない
秋田公立美術 前・中 任意      
国際教養       共通テスト英語の得点と比較し、高得点を採用(等級を証明する書類での代替可)
筑波 前・後 任意     B2以上に加点
筑波技術(産業技術) 任意     参加試験の得点として、リーディング、ライティングの得点を評価対象とする
筑波技術(保健科学) 不要       利用しない
群馬県立県民健康科学 任意     共通テスト英語と比較し高得点を利用。英検、GTEC、TEAP、TEAP CBTのみ活用する
群馬県立女子(文) 前・後 任意     共通テスト英語の配点の1割程度を上限として加点
高崎経済(経済) 前・中 任意     一般選抜個別学力検査の総合点に加点
埼玉 前・後   A2   英語力確認書や成績を提出できない理由書での代替可
お茶の水女子 前・後   A2   参加試験を受検できず出願資格を証明することができない場合には、その理由を申し出ることとする
東京   A2   高等学校等による英語力の証明書や成績を提出できない事情を明記した理由書での代替可
東京医科歯科 前・後   A2   高等学校等の校長による英語力の証明書で代替可
東京芸術(音楽) 任意     一定のスコア以上で共通テスト英語を満点とみなす
東京農工 前・後   A2   成績を提出できない事情を明記した理由書の提出で代替可
一橋 前・後   A2   高等学校等による英語力の証明書や成績を提出できない理由を明記した書類での代替可
神奈川県立保健福祉 前・後 不要       利用しない
長岡造形 前・中 任意      
新潟県立看護 前・後 不要       利用しない
富山(人文、理、工) 前・後 任意     英語認定試験の結果を得点化したものと、共通テスト英語の得点を比較し、高得点の方を利用する
富山県 前・後 不要       利用しない
敦賀市立看護 前・後 不要       利用しない
都留文科(文-英文以外) 前・中 不要       利用しない
岐阜県立看護 前・後 不要       利用しない
浜松医科 前・後   A2   高等学校等による英語力の証明書や成績を提出できない理由書での代替可
愛知教育 前・後 任意      
愛知県立 前・後 任意     「共通テスト英語(75%に圧縮)十参加試験」と「共通テスト英語」のうち高得点のものを採用
愛知県立芸術(音楽) 不要       利用しない
名古屋 前・後   A2   高等学校等による英語力の証明書や成績を提出できない理由書での代替可
滋賀医科   A1   成績を提出できない理由書での代替可
京都 前・後   A2   英語の言語運用能力を認める書類で代替可
京都工芸繊維 前・後 不要       利用しない
京都市立芸術 前・後 任意     「共通テスト英語十参加試験(200点)」と「共通テスト英語(200点)」のうち高得点のものを採用
京都府立医科   A2   高等学校等による英語能力を証明する書類で代替可   
大阪市 前・後   A2   高等学校等による英語能力を証明する書類または理由書で代替可   
大阪府
前・中・後
  A2   高等学校等による「出願者にCEFR対照表のA2レベル以上の英語能力が備わっていることを明記した文書」での代替可
神戸市外国語 前・後 任意     「参加試験」と「共通テスト英語」のうち高得点のものを採用
奈良教育         高等学校等による英語能力を証明する書類で代替可   
奈良県立医科 前・後   A2   高等学校等の長等による英語の言語運用能力を有する旨の簡明な説明が示された調査書での代替可
奈良女子 前・後   A2   高等学校による英語の運用能力が記されている書類や成績を提出できない事情を明記した理由書での代替可
島根県立(総合政策以外) 前・後 任意     共通テスト英語と比較し高得点を利用。英検、GTEC、TOEIC、TOEFLiBTのみ活用する
岡山 前・後       やむを得ない理由により結果を提出できない場合は理由書を提出
岡山県 前・中・後 不要       利用しない
尾道市立(経済情報) 前・後   A2 同等の学力があることを示す学校長の証明での代替可
尾道市立(芸術文化) 前・後   A1   同等の学力があることを示す学校長の証明での代替可
広島市立(国際)
前・後
      ※B2以上で共通テスト英語を満点とみなす。参加試験が受験できない場合、理由書等の提出で代替可
(この場合加点なし)
広島市立(情報科学) 前・後       参加試験が受験できない場合、理由書等の提出で代替可(この場合加点なし)
広島市立(芸術) 前・後 任意      
福山市
前・後
任意     共通テスト英語の配点全体に対してCEFRレベルに応じた割合の分換算「上記で換算した参加試験の成績」と「共通テスト英語」のうち高得点のものを採用
下関市 前・中 任意     「共通テスト英語十参加試験」と「共通テスト英語」のうち得点割合が高いものを採用
高知工科 前・後 任意     「参加試験」と「共通テスト英語」のうち高得点のものを採用
九州 前・後   A2   参加試験の成績が提出できない場合はその事情を明記した理由書で代替可
熊本 前・後   A1   参加試験の成績が提出できない場合はその事情を明記した理由書で代替可
熊本県立(文)
前・後
任意     ※1:共通テスト英語を満点とみなす
※2:共通テスト英語を150点に換算した成績と「共通テスト英語」のうち高得点を採用
熊本県立(総合管理) 前・後 任意      
熊本県立(環境共生) 前・後 任意      
宮崎公立 前・後   A1   AIレベルと同等以上の成績であることを高等学校等が証明する文書で代替可
鹿児島
前・後
任意     認定試験の一定スコア水準を満たした者で、かつ共通テス卜英語受験者のうち筆記・リスニング各80%以上の得点を取った者は、それぞれの英語の得点を満点とみなす。80%未満の場合は、英語の得点の25%を加点する
名桜   不要       利用しない

 


 合計67件(約32%)が「成績提供システムの検定を受験していなくても出願することは可能」といえます(どなたか元データで追試をしてください!)。 
 河合塾が調べた212件の国公立大学・学部のうち、後で判明した分(大阪市立、奈良教育、名桜、岐阜県立看護、新潟県立看護)を含めて、42件(約18%)が「利用しない」または「書類提出で代替可」、25件(約12%)が「受験は任意で、受験してあれば利用する」でした。

 内訳は

  • 15件:利用しない
  • 16件:出願要件とするが、高等学校長等が英語能力を証明する書類で代替可能
  • 8件:出願要件とするが、受験できない理由書の提出で代替可能
  • 2件:加点に使うが理由書でもよい。その場合加点なし
  • 1件:共通テストと比べて高得点を採用するが、別の英語力を証明する書類でも可
  • 25件:提出は任意で、提出したら共通テストと比べて高得点の方を採用したり(10件)、加点したり(6件)、一定以上のスコアでみなし得点にしたり(2件)、その他評価に使う

名古屋市立大学も検定なしで受験可能ですが(0点扱い)ちょっと複雑なので整理して後日追加します。 

 

  旧帝大は阪大以外すべて、地域では北海道・東北に目立ちますが全エリアに存在します。いわゆる「地方国立」は少な目です。

 国大協の縛りとは関係ない公立大学で必須としないところがけっこうあります。

 

 しかし受験の主役は高校生です。第一志望の大学がここにない人もいます。

 「受験は必須」「CEFRのグレードに応じて細かく加点」など大学によって検定の扱いがまちまちだと、受験生の中には「その大学に合格できるかどうか判断できない!」「勉強より検定の練習した方がいい?」と困惑する人もいるでしょう。

 そして検定代を出すのは保護者です。大学受験だけでかなりの出費なのに、「子どもが一番有利になる検定はどれ?」と二年生のうちに手あたり次第検定を受験すれば、お金はどんどん出ていきます。

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 それなら「成績提供システムの検定は必須じゃないですよ!」と言ってくれる大学の方が好感が持てるので、受験生が検定を受験する・しないに関わらず、そういう大学に受験生が集中して不思議ではありません

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おわりに

 

 英語は4技能バランスよくできるに越したことはないです。自分の英語力を試すために外部検定を受験することも自由です。

 スピーキング試験は個人的には入試にそぐわないと考えますが、大学が自前で行えるならそれは大学の判断です(大学入試センターが実施するのが一番)。

 問題は、すでに多くの方が指摘されているように、今回の「英語民間検定を入試に使う」制度が公平性を欠き、段取りも悪いという点です。一生に一度になるかもしれない大学入試で、それは受験生にとって迷惑千万です。

 岐阜県立看護大学、名桜大学新潟県立看護大学は、現状では「公平性が保たれないおそれがあるとして、方針を覆して「利用しない」にしました。

 

 2012年度入試の「第一解答科目問題」では、その夏に文科省が突如変更を依頼し、混乱や当日のミスはあったものの、最終的に公平性は保たれました。

 このところの英語民間検定のドタバタを受けて、各大学が今後どのような判断をするのか注視したいです。