5月10日、新聞各社が「文部科学省が2020年度から大学のアドミッション・オフィス入試(以下AO入試)や推薦入試について学力をみる試験の実施を義務付ける方針を固めた」と報じました。
おそらく「新テストの活用」を睨んでのことでしょうが、「AO入試と学力」は私の身近でもよく話題になります。
今回はAO入試の歴史と現状について、いくつかのサイトを紹介しながら考えます。
過去ログ
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
*栄美通信『全国大学・短期大学AO入試年鑑 2016年発行版』を参考にしました。
*大学の内部資料や入試担当者の話など裏情報は扱いません。
1 AO入試って?
AO入試は1998年度の『大学入学者選抜要項』にはじめて明記されました。その後2011年度に改訂され現在に至ります。
資料1 2017年度入試の『大学入学者選抜要項』
「第3 2の1」によると、AO入試とは
「詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって、入学志願者の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に判定する入試方法」
と定義され、実施に際して「以下の点に留意する」とあります。
① 入学志願者自らの意志で出願できる公募制とする。
② アドミッション・オフィス入試の趣旨に鑑み、知識・技能の修得状況に過度に重点を置いた選抜基準とせず、合否判定に当たっては、入学志願者の能力、適性、意欲、関心等を多面的、総合的に判定する。
③ 大学教育を受けるために必要な基礎学力の状況を把握するため、以下のア~エのうち少なくとも一つを行い、その旨を募集要項に明記する。
ア 各大学が実施する検査(筆記、実技、口頭試問等)による検査の成績を合否判定に用いる。
イ 大学入試センター試験の成績を出願要件(出願の目安)や合否判定に用いる。
ウ 資格・検定試験等の成績等を出願要件(出願の目安)や合否判定に用いる。
エ 高等学校の教科の評定平均値を出願要件(出願の目安)や合否判定に用いる。
④ ③ア~ウを行う場合にあっては、③エと組み合わせるなど調査書を積極的に活用することが望ましい。
AO入試は「ペーパーテストでは測りきれない、その大学の求める学生像にマッチする生徒かどうかを評価してください」という趣旨です。
高等学校の学習指導要領も生徒を多面的に評価するよう求めていますから、「出口」である大学にもそれを求めるのは当然の流れといえます。
資料2
資料3 私立大学を含むデータ
平成27年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要:文部科学省
AO入試は最初私立大学が導入し(有名なのが慶応大学のSFC)、現在は約10%がこの方式で入学しています。
国立では東北、筑波、九州が2000年度に実施、また「旧帝大」は後期試験を廃止する代わりにAOや推薦を実施するようになりました(国大協の方針)。
数的には少ないものの、2017年度に阪大の文系など新規参入の大学・学部が相次ぎ、AO入試の定員がやや増加しました。
2 どうして「学力評価の義務づけ」?
ところが高大接続の有識者会議からAO入試や推薦入試について「大学によっては「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」が十分に評価されていない」と指摘があり、2011年度の改訂で③「基礎学力の状況の把握」が明記されました。
実態はどうなのでしょうか。
資料4 2013年1月9日付けの中教審の資料
2012年度入試でのAO試験入学者は全体の8.5%(2000年の調査では1.4%)、うち私立は定員の10.2%がAO入試入学者(国立2.9%、公立1.9%)です。
上記2頁のスクリーンショット。文科省の資料は出所を明らかにすれば他に著作権が発生しなければ二次利用可。
定員充足率とAO・推薦入試の比率を比較すると。定員割れを起こしている大学ほどAOや推薦の実施率が高くなる傾向です(同5頁のスクリーンショット)。
9割以上の大学が「AO入試で学力把握措置をしている」と回答していますが、私立では8%が「実施していない」との回答でした(7頁)。
ベネッセが実施した「大学生基礎力調査」では、AO入試合格者は一般、推薦、センター利用の方式で合格した生徒より苦戦しているようです(12頁)。
一方国立大学では、AO入試合格者の大学での成績は一般試験のそれを上回るという結果も出ています(13,14頁)。
資料5 ベネッセ教育総合研究所「第2回大学生の学習・生活実態調査報告書」(2012年)
この調査でも、入試難易度が低い私立大学ほど推薦・AO入試の比率が高くなる傾向です(第1章第1節)。
「どんな入試方法で受験したか」別に3年生9月の学校外学習時間を集計すると(第1章第2節)、「1時間未満」は「一般・センター入試」は11.6%に対して「AO入試」は49.4%(0分が37.6%!)、平均時間は「一般・センター入試」が173 分に対して「AO入試」が79 分です。
勉強しなさ過ぎ!
資料6 ライセンスアカデミーのシンクタンク、進路情報研究センターの「AO入試・公募制推薦入試動向調査」(2014年、2015年)
「一般入試と比べてAO入試や公募制推薦入試で入学した学生の評価は」について、「学力が低い」という回答が突出(32%)していました(国公立だけだと8%)(2014 9頁)。
またAO・推薦入試で「不合格になった生徒の特性」(2015 9~11頁)は「コミュニケーション能力の不足」が3割を占め、次いで「志望動機が不明確」、「学力不足」は1割程度でした。
学力の担保は調査書と面接が多数派ですが、小論文やレポートを課した大学からは受験者の「語彙力や文章力の不足」が指摘されていました(2015、8頁)。
以上から「AO入試合格者は基礎学力が不足?」は、
「AO・推薦入試の割合が高く入試難易度の低い大学ほど当てはまる確率が高い」
と推論できます。
*あくまで「確率の問題」です。しっかり勉強している人をたくさん知っています。念のため。
国立大学のAO入試は、最難関の「かぐや姫入試」(笑)はちょっとやり過ぎですが、公表されている課題を見ると生徒の興味・関心と学力を丁寧に吟味する大学が多数派です。
また難関私立大学のAOも資格要件や課題がハードで「一般試験の方が合格しやすいのでは?」と思います。
そうした大学のAO入試入学生は学力も意欲も高いのが普通でしょう。大学の「二極化」を痛感しました。
3 高校に問題は?
私は公平性の観点からはペーパーテスト一発勝負の入試が一番と考えますが、基礎学力を担保しつつ、学部特性を時間をかけて試す入試方式もありだと思います。
またAO入試を準備する過程で生徒は大学の学びを実感でき、大学へ行く意味も明確になります。教員も力がつきます。
*発展 私は関西大学文学部のAO入試に複数回つきあいましたが(全勝)、志望理由書で2000字書くには生徒も私も自分に向き合わないと無理です。おかげで長文が苦にならなくなりました(だからブログも長い)。
ただ現場は「定員確保のために入試を軽量化する大学」と同様に複雑です。
受験生の中にはAO入試を「学力テストがないラッキーな制度」と考える人もいますし(AOがあるから急に第一志望という人もいる)、「一般試験では無理な生徒をAOで合格させたい」と考える先生がいるのも事実です(国立でこれをされるとモラルハザードが発生します)。
資料4の10頁、「AO・推薦入試の受験を選択する理由」で多かったのは「早く進学先を決めたかったから」と「一般入試へ向けての受験勉強は大変だったから」でした。
部活は3年夏まで頑張った生徒が引退直後にこの理由でAO入試を申し出たら、
「文武両道って何?」
と言いたくなります。
「軽量AO」があるから楽をしたくなるのか、私たちが楽を求めるから「軽量AO」があるのか、現代文の評論(笑)のような状態です。
資料6の「AO入試や公募制推薦入試に向かない生徒の傾向とは」(2014 13~14頁)によると、「積極的にコミュニケーションがとれない」「志望動機が明確でない」「アドミッションポリシーや求める学生像に合致していない」「AOや推薦を入りやすい入試手段としてしか見ていない」「本学についてあまり知らないが受験だけしてみる」と耳の痛い意見が並びます。
学校の指導が丸バレ(笑)
生徒が「楽に合格したい」から脱却しない限り、志望理由書が担任の「入れ知恵」による「後付け」から逃れられません。それでは面接で応答できないし、小論文やレポート課題ができなくて当然です。コミュニケーション能力以前の問題です。
教員も自戒しなければいけません。進路指導は合格がすべてではありません。
まとめ
- AO入試はその趣旨にフィットする生徒にはよい制度です。
- AO入試は学習意欲に欠ける生徒のバイパスではありません。
- 学力も適性もしっかり試してくれる大学のAO入試を選びましょう。
- 受験すると決めたら準備をとことんやって、その過程で「大学でやっていける力」を身につけましょう。
- AO入試で「高望み」はやめましょう。「一般試験でギリギリ勝負になる?」ぐらいの大学が妥当です。
- AO入試に合格したら残りの時間を有効に使いましょう。
最後に、京都工芸繊維大学の「ダビンチ入試」が気に入りました。
第一関門は理系の基礎知識・英語・日本語読解で、それをかいくぐった人が各学科の専門予備知識に挑みます。「万能人」の名を冠するにふさわしいです。
別の機会に解説したいです。