ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2019年度(2020年度入学者選抜)入試の基礎知識

 このところ2020年度(2021年度入学者選抜)入試の話ばかりしているので、今回は現在の三年生の入試について、トピックをまとめました。

 入試制度変更で割を食っているのはむしろ今の受験生ではないかと心配します。

 こちらを主に参考にしています(営業さんには許可をとりました)。某社さんの説明会には今年は行ってないなー。まあ自社商品の宣伝(以下略)。

www.keinet.ne.jp

 

2020年度入試のトピック

  1. 大学志願者数は減少の見込み
  2. 新入試を翌年に控えて、学部学科の新設や改組は小幅
  3. 新入試を意識した動き
  4. 私立大学の定員厳格化と都心回帰

 

1.大学志願者数の減少

 18歳人口は 116.7 万人と前年から約8000人減(前年比 99%)、受験人口は約65.9万人程度と予想されます(河合塾調べ)。 

 大学入試センターによると、本年度のセンター試験志願者数は前年度よりも19,132 人減少の557,698 人で、現役生は前年度よりも 12,716 人減少の452,234 人、・既卒生は前年度よりも 6,306 人減少の100,376 人 、高卒認定等の志願者は前年度よりも110人減少の 5,088 人です。

 一方で、大学の入学定員の増加は、大学の定員増ー定員減=6,382人です。つまり理論上は「入りやすくなった」と言えます。

 

www.daigaku23.com

 ただし、来年度の制度改革が原因で、高三生に「浪人したくない!」という心理が働いています。

 河合塾の模試に志望校を書く欄があり、それの分析では難関国立(旧帝大+一橋・東工・神戸)は志望者数微減、成績層は変わらずですが、地方の国立大学を書く人が増えています。これは他社の模試でも同じ傾向です。

 私立大学も同様で、偏差値上位校は人気薄、昨年来沸騰していた中堅校も「合格しない」との噂が立って人気薄、従来は入りやすいと言われていた偏差値帯の大学の人気が沸騰しています。

 つまり上位校を目指す生徒は「石橋をたたいて渡る」かのごとく、かなり幅広く出願するつもりであると考えられます。

 

2.学部・学科の新設や改組

 国公立大学では情報学部人気を受けて、福知山公立大に情報学部)、長崎大に情報データ科学部が新設されます。

 既存の情報系は難化傾向で国立至上主義の先生は出願指導に困っていました(他の学部なら通るのに (´・ω・`) )。そういう指導をする高校には朗報です。

 

 宇都宮大と群馬大は「共同教育学部」の設置します。入試は各大学で実施し、出願時に希望する分野(専攻)を指定します。

http://www.gunma-u.ac.jp/wp-content/uploads/2019/01/26d38f9e24c84660f827fc1b82f38930.pdf

 子どもは減るし、教員の労働環境はブラックだし、政府は業務を減らさずに夏休みに超過勤務分をまとめ取りしろとかめちゃくちゃだし、これでは教員のなり手は減る一方、教員養成課程もジリ貧必至です。

www.jiji.com

 また国立大の理工系を中心に、学科・課程の大括り化を行いコース制等を導入する動きが進んでいます。昨年度は三重大(工)で実施、今年は 岐阜大(教育)、愛媛大(教育)、九州大(芸術工)、鹿児島大(教育、理、工)で実施されます。

 この方が定員管理に融通が利きますし、新しい研究は学問と学問の隙間に生まれますし、最近は学問横断的な研究が普通です。

 

 私立大学では①国際系(専修大、神奈川大、中京大西南学院大など)、②スポーツ健康系(駿河台大、広島国際大など)、 ③医療系(国際医療福祉大(福岡薬)、日本赤十字看護大(さいたま看護)、岐阜医療科学大(薬)など)、このところのトレンドの系統が新設されます。 

 

3.新入試シフト

① 選抜方法のシフト

 国公立大学では2019年度から2020年度で、前期(-67)後期(-219)中期(+45) 別日程(+63)推薦(+171)AO(+299)と、前期・後期の定員が推薦・AOにシフトしました。2015年度には定員に対する推薦・AOの割合は18%、2020年には20%と、まだ私立大学に比べれば割合は少ないですが、確実に増加しています。

 

② 多面的評価

 いくつかの国公立大学の一般入試で面接が追加されます。特に教員養成・医療系学部を中心に導入が拡大します。九州大(医学科)の新規実施で、医学科は全国公立大が面接実施になりました。

 また一般入試で調査書・志望理由書等を点数化して活用する大学があります。

 鳥取大は一般入試(小論文・面接を課さな い学部・学科)でセンター試験・個別試験の合計点とは別に調査書の加点枠を設け、合否判定に利用します。学部によっては、調査書のほかに、エントリーシート(仮称)や自己評価シートをあわせて点数化します。 

 弘前大(医-心理支援科学)では、調査書および志望理由書をA~Dの4段階評価し(10点~40点)、合否判定に利用します。

 

 面接と志望理由書はいいとして(担任の仕事は増えます)、調査書の記載事項をどう扱うかは慎重に願います。

 例えば部長が2点、ボランティア経験1点、など高校生活が点数化されると、部長が1か月交代になったり(笑)、国立(以下略)の先生が「このボランティア行ったらワンポイントアップだぞ!」とすすめたりと、高校がディストピア化します

 カントが生きていたら卒倒します。 2020年度入試からはどの大学でも「主体的評価」をするようですが、あまりシャカリキにならないでいただきたいです。

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4.私立大学の定員厳格化と都心回帰

①定員厳格化

 私立大全体で定員超過の是正が進み、2019年度の定員充足率 は102.7%になりました。「定員厳格化」はほぼ落ち着いたと言えます。

 ここ2,3年の「定員厳格化」および「現役指向」から中堅校の受験者数が膨張しましたが、昨年は上位校の「合格者絞り込み」が止まりました。そのため関西圏では何が起きたかというと、

受験生が「関関同立は難しい」と敬遠する

しかし関関同立の定員の絞り込みは一段落、力のある生徒は合格する

関関同立クラスの生徒が産近甲龍を併願で大量に受験

すごい受験生が来たので歩留まりを見誤る

合格者が関関同立にも合格したので辞退が大量に出た

年度末に大量の追加合格を出した

産近甲龍の併願校にも安全志向ですごい受験生が来てた

合格者を絞ったら産近甲龍が追加合格を出して辞退者が続出した

 

 という大混乱が発生しました。この影響か、今年は産近甲龍公募推薦の倍率が下がりました。

 この安全志向は今年がピークになるので、私立大学を受験する場合、難関の倍率が下がるので積極的にチャレンジ、併願も受験し、仮にそれらが不合格でも後期試験まで頑張り、ポロっと追加合格が来るのを三月いっぱい待つ、という戦略が必要です。

 つまり「受験の長期化」です。

 

② 都心回帰

 すでに都心へのキャンパス移転は進んでいますが、今年度は専修大(商)が生田から神田へ、愛知学院大(法など)が日進から名城公園へ移転します。

 ちなみに愛知県民以外に説明すると、愛知学院大学の日進キャンパスは、名古屋駅から直通バスまたは地下鉄とバスで57分かかります。(´・ω・`) 名古屋から名城公園までは地下鉄で15分です。

 

まとめ

 私は「浪人前提で第一志望に出願させる」にも「判定でAかBのところを受けさせる」にも与しません。「会議で決めた通り生徒に出願させるのが担任の指導力」とうそぶく高校があるそうですが、耳を疑います。

 私は、その生徒が納得できる志望校を自ら選び、そのために最大限の努力をし、それを教員がサポートする、そして結果は受け入れる、という指導方針です。受験は会議室でするものではありません。「生徒とともに汗をかく」が私のモットーです。

 もちろん、家庭の事情で浪人ができないなら第一志望を下げる、併願校をタテに長く受験するしかありませんが、同じ考えを持つ同じ学力との生徒との勝負になります。

 また難関大学が人気薄と言っても上位層の実力は変わらない(ワンチャン狙いが減っただけ)、合格したければ勉強しかありません。

 まずは冬休みに最後の追い込み、私立は幅広く出願しておき、国公立はセンターの結果を見て考える、とシンプルに行きたいものです。

 

おわりに

 河合塾は予備校が事業の中心ですから、チャレンジを進めるのは当然です。うちのエリアに来る営業さんは、私が自社の利益優先で生徒の不安を煽って教材を買わせる業者には冷たいことを知ってか知らずか、研究会では「第一志望は譲れない。で、浪人したらぜひわが塾へ」と「落ち」をつけて会場を沸かせます。

 このメタ認知(自分のしていることを客観視する)は進学指導で重要です。

 高校の先生は必ず情報(私のブログも含めて)には何らかの意図があると自覚し、しっかり史料批判して、自分がどこを向いて仕事をしているのか(国立の数を増やすのか、生徒の幸せを考えるのか)意識しながら進学指導に臨んでください。