多くの進学校では一年生の夏休み前に「文理選択」の話があります。
「文理選択」は二年生で文系、理系、どちらのコースを選ぶかのことです。
現在の大学入試センター試験の選択科目は、文系は地歴・公民から2科目と理科の基礎科目を2科目、理系は地歴・公民から1科目と専門理科から2科目が必要です。
したがって文系は地歴1公民1、理系は専門理科2科目を受験に耐えるぐらいに仕上げる必要があります。時間割には限りがありますから、必履修科目はクリアしつつなるべく受験に使う科目の授業数を増やすために、二年から文系理系を分けることになります(三年から文理選択して間に合うのはかなりの進学校)。
なぜ7月から文理選択を考えるかというと、来年度どの教科に何人の先生が必要かを報告する期限があって、そこから逆算すると7月に説明開始となります(各校で段取りは若干違います)。
ただ生徒からすれば、一年生の一学期がやっと終わったのにいきなり「なりたい職業を決めて、行きたい大学を決めて、文理選択をしなさい」と言われても当惑する場合が大半です。
一年生の文理選択では「この職業」と決めうちするよりは、もう少しラフに考え、「これかこれだったら文系(理系)かな」ぐらいがいいと思います。あまり職業にこだわりすぎると(例えば医者か英語の教師)分裂します。
そこで今回は、どういう学問が文系か理系かを考え、文理選択の参考にしてもらえればと思います。
*実技試験中心の体育学部、芸術学部は文理を問わないので省略しました。
*各専攻の研究内容が知りたくなった人には「夢ナビ」が面白いです。資料請求サイトの中でも模擬授業など学問への感心をそそる構成になっています。
1 文系理系ざっくり見取り図
文系学部 | 境界線 | 理系学部
法学部 経済学部 社会学部 | 看護学部| 医学部 歯学部 薬学部
芸術学部 体育学部 | |
| 教育学部 |
(国 社 英 児童 家庭 養護教諭 技術 数 理)
|生活科学部 |
(保育 被服 食物栄養 住居)
文系理系の大まかな指標
1 国公立大学の場合センターの理科選択
文系学部は基礎2が基本(理系の文転組のため専門1でも受験可(60分100点))
理系学部は専門2が基本。看護や栄養の一部で専門1+基礎2(130分 200点)
*生活科学や看護は文系理系両方から受験可能な大学もあるが、難関は理系。
2 理系は二次試験で数学ⅢCが必要。
*数ⅢCなし理系もあるが、その場合でも理科は専門科目必要
*あくまで概略ですので、必ず志望大学の受験科目を確認しましょう!
東進のHPの説明が親切です。
2 文系編
文学部系統…人間について考える
内容:中世ヨーロッパの大学の「自由七科」に起源を持つ、学問の中の学問です。人間の生き方や文明の本質について様々な角度から考えます。
いいところ:「常識」「当たり前」を疑う力がつく。この「物事を相対化する力」があれば民間、官公庁、教育現場とどこでもやっていけます。
専攻:文学、哲学、歴史学、地理学、心理学、考古学
*発展:心理学は文学部(実験的な心理学。マウスやラットも使う)、教育学部(臨床心理学)にある。文学部の中でも計算など理系的要素が強い。医学部にある(精神医学、脳科学)のは純粋理系。
*発展:地理学は西日本では人文地理学が強いので文学部にあるが、自然地理学が強い東日本では理学部にある場合有り。
将来:高校教諭、司書、学芸員、臨床心理士などの資格が取れるが、職を得るのはハイパー難しい(特に臨床心理士)ので、大多数は民間企業へ就職します。教員、公務員には強いです。
外国語学部系統…言語と異文化への関心
内容:外国の言語を学ぶための学部です。言語の背景にある歴史や文化なども研究領域です。
よいところ:語学力はあらゆる職業でマストなスキル。背景の文化も知っていれば異文化コミュニケーションの幅が深まります。
専攻:英語、中国語など各種言語専攻(ヒンディー語など少数言語もあり)、国際関係学、国際文化学
将来:高校教諭、通訳案内士、旅行業務取扱管理者などの資格が取れるが、大多数は民間企業への就職。
法学部系統…法律のスペシャリスト
内容:医学部と並ぶ最古の学問領域です。法曹資格を得るためには法科大学院へ進学します。法律学科は法律と社会のあり方について研究します。政治学科、政策学科は国や地方公共団体の行政や政策について学びます。
よいところ:法律に基づいて発想する力(リーガルマインド)や実際に法律をどのように使っていけばよいのかに強くなる。コンプライアンスが叫ばれる企業、官公庁で重宝されます。
専攻:刑法、民法その他法律系統、政治、国際政策法、総合政策
将来:法曹(判事、検事、弁護士)、司法書士、行政書士になるには法学部マスト。ただし多くは民間企業に就職します。公務員にも強いです。
内容:経済学は経済活動全体のメカニズムについて、経営学は実践的な企業経営、商学は販売戦略を中心に扱います。
よいところ:最前線で活躍するビジネスパーソンを目指すなら、経済の原理や企業経営に精通していて損なことはない。また経済をフィーリングではなく数字で考えることができるようになります。
*発展 文系ですが大学で数学の知識が必要です(特に微分積分)。京都大学や大阪大学の経済学部には理系型入試があります。理系から文系に転向してきた生徒の多くが目指す学部でもあります。
専攻:経済学、経営学、商学、国際経済、会計、経営情報、金融、マーケティング
将来:民間企業が中心ですが、公認会計士、税理士、フィナンシャルプランナー、中小企業診断士と資格を活かして起業する人もいます。
社会学系統…社会現象を考察する
内容:社会学は同時代的な出来事をアンケート、調査、フィールドワークなど数量的な手法を用いて考察します。基本的にあらゆる人間の営みが学問の対象になります。文学部に置かれている場合、単独の学部を構成する場合があります。
社会福祉学部は、社会の弱者である高齢者、こどもなどの課題に注目し、社会制度や社会保障を研究します。また福祉のスペシャリストの養成を目指します。単独の学部(日本福祉大学がパイオニア)や、文学部や家政学部から独立して学部になったところもあります。
よいところ:社会学はアニメやネットなど、とにかく関心のあるどんなことを調べても研究になります。統計を駆使するので数学に強くなります。社会福祉学は少子高齢化を最前線で支えるための理論とスキルが身につきます。
専攻:社会学、メディア学、観光学、地域科学科、社会福祉学科、人間福祉学科
将来:社会学部は基本的に民間企業に就職します。社会福祉学部は社会福祉士、ケアマネージャーの資格を取ることができます。
教育学系統
内容:教育学部は教育の理論研究、教育行政、教育心理について研究します。教員養成課程は幼稚園、小学校、中学校教員を養成します。
*発展 大阪大学を除く旧7帝大の教育学部は前者です(大阪大学は人間科学部の中にある)。各都道府県にある国立の教員養成系大学は後者ですが、学科の中に理論や心理の専攻がある場合があります。
よいところ:教員免許は他大学でも取得することは可能ですが、教育学部出身の先生は授業の方法から生徒指導まで鍛えられ方が違います。小中の教員になるなら教育学部一択でしょう。
専攻:教育学、教育心理学、小学校教員、中学校教員(教科の専攻あり)、特別支援学校教員、養護教諭、幼稚園教諭
*発展 教員養成系のうち理科、数学、技術は理系です。養護教諭は文系型、理系型両方ありますが、最近は看護師の資格を持つ養護教諭が増えてきて、両方の資格が取れることを売りにする私立大学もあります。幼稚園教諭は文系です。
追記
*発展 教員養成系は私立にも老舗があります(関西だと仏教大学と四天王寺大学)。ところが「団塊の世代」の教職員大量退職+不況による資格志向から、私立大学の保育・児童系統を母胎とした教育学部の新設が相次ぎました。中には保(厚生労働省の管轄)・幼・小・中(文部科学省の管轄)の免許をとれることをうたう大学もありますが、4年ですべての資格がとれるかどうかは大学の案内を確認しましょう。
将来:教員採用試験を受けて教員を目指しますが、採用人数は限られている(特に芸術、養護教諭などはきわめて狭き門)ので民間企業に就職する人も多数います。
文系学際系統
人文・教養学部…純粋な教養学部(国際基督教大学、国際教養大学)、文学部と法学部がくっついている学部(島根大学、三重大学)、国立の旧教養部が単独の学部に昇格した文理融合型(京都大学、名古屋大学)に大別できます。
地方創生学部…従来から「地域・政策」という名を冠した法学、経済学系統の学際学部が存在しましたが(奈良県立、北九州市立)、最近文部科学省は「競争型予算」で国立大学に「地域創生」の研究を奨励し、その結果教育学部のゼロ免(教員取得を目指さない)課程の一部が廃止され、「地方創生」を目指す新学部が立ち上がりました。
よいところ:大学によっては従来学部と大差ないところもありますが、最近は確立された学問や文系と理系の境界に新しい学問が生まれる傾向にあります。
文部科学省のページ
ベネッセの記事
理系は次回(続く)
一年生7月 文理選択について考える(理系編) - ぶんぶんの進路歳時記
*イラストはこちらをお借りしました。
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