ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

世界史の学習法について考える(その4 試験に出やすい用語の法則 センター試験編)

 教科書には太字のところとそうでないところがあります。大学入試では確かに太字が主に出題されますがその数は膨大で、しかも太字でない用語や文章部分も出題され、その問題が合否の分水嶺になる場合もあります。

  センター試験は教科書に載っていることから出題されます。しかし教科書の本文だけでなく地図中の都市・地形の名前、図版のキャプションなど隅々から出題されるので、そのすべてを漏らさず暗記するのは現役生にとって困難です。

  一部私立大学ではさらに教科書に載っていない用語が出題されます。私はそうした問題を「ドボン問題」(解けないことが前提の捨て問題)と呼んでいます。

 「ドボン問題」は満点を取らせない、受験生を「えぐって」簡単な問題や時間配分をミスさせる、大学のブランド維持(笑)、などの意味があると思われます。試験会場では「ドボン問題」はきっぱりあきらめます。また勉強する時も出そうにない用語を覚えるよりは他教科に時間を使った方が合理的です。

 

 和田秀樹先生も同じことを各所で書いています。コミックだとこれ。

和田式 逆転の受験勉強法: 全教科攻略のコツがわかる! (新マンガゼミナール) : 和田 秀樹, 宮前 めぐる : 本 : Amazon

 

 どこまで用語を覚えるか、「ドボン問題」と「合否崖っぷち問題」をどう見分けるのか、限られた時間で世界史の学習を進める際に必ずぶつかる難問です。

 これを解く鍵は「相手の立場に立って考える」です。

 入試は大学からのメッセージ、答案は大学への返信です。出題者は「こういうことができる、こんなことに関心がある生徒が欲しい」と考えて作問します。これに関係する用語は、たとえ教科書の隅に載っていたとしても出題される可能性があります。

  山川出版社の『世界史用語集』には「この用語は何社の教科書に載っているか」が数値で表されています(大学も作問の時にチェックしています)が、どれが「崖っぷち問題」かはその大学の「ポリシー」によります。これは過去問に示されています。

  今回は先生に「はい、これテストにでまーす」(笑)と言われなくても「この用語は出る!」と自分で判断する方法について考えます。

 

初級編が済んだら上級編はこちら

世界史の学習法について考える(その4 入試頻出用語の法則 上級編) - ぶんぶんの進路歳時記

 

1 世界史で求められる力のおさらい(ブログの「学習方法その1」参照)

 A 世界史で身につけたい視点と力:「今の世界と日本を相対化する」

  1. 人類の歴史の中で、世界各地で独特な文化が営まれてきた→歴史的事実の知識がありその内容の説明(5W1H)ができる。複数の歴史的事実について共通点、相違点を説明できる。
  2. 世界の文化は時間的、空間的なつながりの中で育まれた→複数の歴史的事実を組み合わせて、その経過や因果関係を時間と空間の視点から説明できる。
  3. 日本も各時代で様々な地域文化を受容しながら独自の文化を創り出してきた→日本を世界の歴史の中に位置づけ相対化できる。
  4. 現在私たちが直面している課題を「歴史に問いかける」ことを通じて考察する→歴史的事実と因果関係から仮説を立てることができる。

 

 B 大学はどうやって生徒をふるい落とそうとしているの?

  1. 大学にふさわしい人…「物事の特徴を知る→それらを比較・関連づけする→それらを使って仮説を立てる」のサイクルがまわせる。
  2. 丁寧な勉強をしている人…当てずっぽうではなく、紛らわしいものを判別し、ややこしい漢字やカタカナが自信を持って書ける。
  3. 計画性がある人…国数英は早めに完成し、3年生の後半(近現代史、戦後史)に世界史にエネルギーが使える。
  4. 試験科目以外の授業も集中している人…他教科と重なる事項の知識。
  5. この大学に絶対受かりたいという意志がある人…過去問のやり込み、傾向分析。

 

 A、Bを踏まえて、テストで出題される用語のパターンを分類します。

 

見出しの記号(難易度)

◎マスト知識。

○できないと差がつく。一周目から気をつけて覚える

△できると差をつけることができる。二周目の知識。センター9割を狙う人向け。

▲答えられるとかっこいいが無理に覚えなくてよい。難関大学向け。

 

2 テストで出題されるパターン初級編「さいふについとくてん」…完答必須

 1 ◎(さい):最初、最大、最後

  • キュロス2世(最初)→ダレイオス1世(最盛期)→ダレイオス3世(最後)
  • 国史だと王朝の成立年(例:北宋960年)、建国者(趙匡胤)、その王朝のはじめて制度(文治主義、殿試、士大夫)、滅亡年(1127)、滅ぼした人(金)、滅亡の原因(靖康の変)。
  • リディアは打刻貨幣の作成、パガン朝は上座部仏教が東南アジアで広がる最初。

*Aの1。この用語を知っていればある王朝のストーリーを大まかに言うことができますし、「どこの文化はこれが特徴」を現在とのつながりの中で言うことができます。

 

 2 ○(ふ):複数 教科書の単元をまたいで2回以上登場する

*Aの2。複数単元の関連性がわかっているか、事項を聞いたときに「あれ、これって昔出てきた」と過去にさかのぼる努力をしているか、つまり「頭を使って授業に臨んでいるか」が見られています。差が出るところ。

 

 3 ◎(に):日本もの

*Aの3 学習指導要領にも明記。試験で必ず聞かれます。

 

 4 ○(つい):対(セット)で記憶するもの

  • ペア…モエンジョ=ダーロ(シンド地方)とハラッパー(パンジャーブ地方)
  • 数字…五賢帝、十字軍、選挙法改正、囲い込み、第○共和政、中東戦争
  • シリーズ…オスマン帝国スルタンやアメリカ大統領のように連続する人物の業績整理
  • パック…ダレイオス1世、ド=ゴール、ジョンソンのようにひとりで複数の業績がある場合。均輸と平準、王安石の新法、ニューディール政策、条約の内容など政策や決め事のパッケージ

*Aの1。客観式試験で語句を入れ替えて間違い選択肢を作るときの鉄板。内容も覚えてヒントから判別します。センター試験高得点の第一関門。

 

 5 ◎(とく):特徴もの その地域や時代のトピックをずばりあらわす用語。

  • 市舶司:唐の国際性  殿試:北宋の文治主義 ジャムチ:元の重商主義 里甲制:明の農村中心主義 公行:清代の貿易統制

*Aの1。センター試験の約5割はこの知識で解答可能。

 

 6 ◎(てん):転機 その事件(おもに戦いや条約)で流れが変わる

*Aの1。(さい)と同じく、歴史のストーリーがわかっているかの指標。

 

3 中級編 ○芋づる

 例1:玄奘

  • 横の芋づる「いつ→唐の太宗=7世紀」「どこ→ヴァルダナ朝 ナーランダー僧院」「どうやって→往復陸路」「だれ→ハルシャ王」「何→大唐西域記
  • 縦の芋づる 前 法顕(東晋時代 グプタ朝 仏国記)後 義浄(南海寄帰内法伝 シュリーヴィジャヤ 大乗仏教

 例2:両税法

  • 横の芋づる「いつ→唐 780年」「だれ→楊炎」「何→夏秋二回、資産に対して課税、銭納と現物」
  • 縦の芋づる 前:均田制(北魏 人に課税)→両税法(唐 資産に課税)→後:一条鞭法(明 銀納)→後:地丁銀(清 人頭税廃止)

 

*いくら用語を覚えても入れるべき空欄に入れられなければ意味がない。記憶するときには常に「だれがじゃ~」「ど~してじゃ~」(笑)と「5W1H」を意識する。中国史では王朝ごとの建国者、成立年号、首都を覚えるのは基本。

*授業は単元別でも入試はテーマ別。授業中に「似たようなものがあった」と「モヤッ」としたら、必ず教科書をさかのぼって関連事項を復習する。

*さらに上級者になるには、例1のシュリーヴィジャヤ→大乗仏教からボロブドゥール→アンコール=ワット→ヒンドゥーと東南アジアの宗教のあり方を復習し、例2の租税の銀納から日本銀、メキシコ銀→アカプルコ貿易→ポトシ銀山と連想する。

 

 このように、用語を覚える時に「最盛期って書いてあるからこれは来る」「これは『つい』だ、三つとも覚えよう」と意識します。

 

 後半は上級編 難関私大で合否を決する瀬戸際編です(続く)