ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

今更聞けない大学入試の基礎知識(1 国公立大学と私立大学)

 夏休みが近づいてきました。

 三年生は夏休み前後の三者面談で、どの大学の何学部を第一志望とするかをあらかた決めます。

 第一志望が決まらないと、夏休みの勉強の計画が立ちません。

 関西圏の話ばかりで恐縮ですが、文系なら「神戸大学大阪市立大学か」、「国立よりは同志社大学が第一志望」、「法学部か経済学部か」などで各教科への力の振り分け(特に数学)やセンター試験の目標点が変わります。

 

 私の県の進学校では三年生の担任や関係者が集まって「進路検討会議」を行い、生徒の様子を交流し、三者面談で何をアドバイスをするか意見を出し合います(「どうすればこの生徒の志望をかなえられるか」を相談する場なのに「○○県立大学なら合格可能性90%だ」と「入れるところ探し」ばかりする先生がいるので困ります)。

 

 この会議の資料として生徒に「進路希望調査」を書いてもらいます。第一志望はどこか、入試科目は何か、併願はどこか、浪人・下宿は可能かなどを記入するのですが、多くの生徒は固まってしまいます。

 多くの三年生は、行きたい大学があってもその大学が国立か私立か分かっていなかったり、センター試験が何か分かっていません。そんな生徒が「前期はどこで後期はここで中期は…」「センターで失敗した時の第2パターンは…」という業界用語を聞かされても、ほとんど世界史の時間です(笑)。

 

 そこで、今回から「今更他人に聞けない大学入試の基礎知識」を解説します。

 

Q1 担任が「国公立大学を目指せ」というのですが、そもそも国公立大学や私立大学って何ですか?

A1 国公立大学とは国が設置者である国立大学と地方公共団体が設置者である公立大学の総称です(正確には「国立(公立)大学法人」が設置者)。私立大学とは学校法人が運営する大学です。

 

 2015年度の調査によると、国立大学が86  公立大学が92 私立大学が604あります(注:2016年度に私立2校が公立に移行します)。

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2016/01/18/1365622_1_1.pdf

 

Q2 「国公立大学は授業料が安い」らしいですが私立とどれぐらい差があるのですか?

A2 国公立大学の初年度納付金はどの学部でも授業料535,800円と入学金282,000円(ただし公立大学は県外生の入学金が高め)、私立大学は入学金(約25万)、授業料(75~105万)、設備費(15~20万)込みで文系で115万円、理系で150万円(これ以外にも校友会費とかあり)。医療系と芸術系はさらに高額です。

 

 私が在学していた時は国立の授業料は年間20万円だったので、国立と私立の差は狭まりましたが、私立の医・歯・薬・看護学部の授業料を見ると、国立の「どの学部も同じ学費」は確かに「懐に優しい」です。国立を強く推す先生に理系が目立つのはそのためです。

 ただ国立大学の学費が安いのは「将来を背負って立つ人材だから国が援助しましょう」という意味であって(私学にも助成金がでていますが)、スーパーの夕方の特売とは違います。国立を目指す人にはそれ相応の覚悟を求めます。

 

国公立、私立大学の学費について 東進ハイスクールより

www.toshin.com

 

Q3 担任は「とりあえずA大学を目指して、センターが悪かったらB大学」と言いますが、両方とも受験できないんですか?

A3 国公立大学の一般試験は各大学同じ日に設定されています(例外あり)。複数の大学を何校も受験することができません。

 

 国公立大学の一般試験は、一次試験である大学入試センター試験(以下センター試験)、二次試験である大学ごとの個別試験(以下二次試験)からなります。

 センター試験の後に志望大学の前期、後期、中期試験に出願します(A4で詳述)。各大学の同一方式の入試は同じ日に行われますから、「今日は東大前期、明日は京大前期」はできません。大学の多くは2回(前期と後期)入試をします。1回だけの大学・学部もあります。

 したがって合格する可能性がほぼゼロの大学に出願すると、少ない機会が1回無駄になります。先生が「第2パターンを考えろ」というのはそのためです。

 

*追記:最難関国立や医学部では「二段階選抜」といって、受験者が予告した倍率を超えた場合、センター試験の点数の低い生徒を自動的に不合格=二次試験に来る必要なし、にします。

 

 一方私立大学は各大学が個別に入試日程を設定しているので、日程と体力とお金が許す限り、ひとつの大学を何回でも、複数の大学を何校でも受験できます。

 

  入試にかかる費用は、センター試験18,000円 国公立1回17,000円、私立1回35,000円で私立のセンター方式(後述)は1回15,000円程度です。

 

Q4 担任に「前期試験はA大学だとしても、後期にC大学はどうだ」と聞いたことのない大学の後期試験を勧められたのですが、国公立大学の前期試験、後期試験って何ですか?

A4 国公立大学の二次試験には「分離分割方式」と「公立大学中期日程」があります。分離分割方式とは、同じ大学・学部の募集定員を前期(2月下旬)と後期(3月中旬)の2つの日程に分けて、入試を行う方式です。

 

 分離分割方式では通常前期の募集定員が多く設定されます。また出願は前期と後期を同時に行います。

 後期試験は、前期に合格して手続きをした人は受験できません。後期は前期で落ちた人だけが受験する「敗者復活戦」です。

 

*発展:前期と後期は同時に出願するので、定員の少ない後期は新聞紙上では信じられない高倍率になります(前期は2~3倍ぐらい)が、前期合格者が抜けるので実際の倍率は平均で3倍ぐらいです。

*追記:後期は前期の合格状況によって激戦になることもあれば、欠席者続出で全入(受験予定者が前期で合格あるいは私大へ進学)ということも起こりえます(私の学校の進路主任は『進路の手引き』に欠席率の多い地方の国立大学の一覧を載せていました)。国立至上主義の先生が「最後まであきらめるな」と言う最大の理由がこれ(「第一志望をあきらめるな」というよりは「国立出願をあきらめるな」)です。

 確かに「合格したければ出願するしかない」ですし、運も実力のうちです。ただ私は「運任せ」や「出願させる進路指導」ではなく「実力でもぎ取る」進路指導を目指しています。三月に受験の準備をするのは(学力試験ならまだしも面接や小論文です!)過酷ですが、合格したいならとことんつきあいます。

 

 中期日程は公立大学の一部で実施されています。前期と後期の間に試験が実施され(3月上旬)、前期・後期を出願した人も出願できます(出願は前期後期と同時)。前期入試で合格して手続きすれば合格から除外されます。

 

*発展:中期日程を実施する公立大学は少なく、学部学科も限定されます。したがって大量の第一志望ではない人が併願で受験するので見た目の倍率はものすごいですが、大学も分かっているので、定員以上の合格者(歩留まり)を出します。大阪府立大学の工学域のような京大阪大前期組が受験する大学もあれば、「何としても…」という人の「最後の砦」的な大学もあります。

*追記:前期不合格で中期と後期にダブルで合格ということは起こります(学校的には国公立大「合格者」が増えます)。生徒はよく頑張ったと思いますが、私は「第一志望の前期に合格させたかった」と思うのでうれしさ半分です。

 

 このようなシステムなので、通常は第一志望の大学を前期に、第二志望以降の大学を後期、中期で出願します。もちろん第一志望を前期、後期と通しで受験することも可能です。

 したがって、「センター試験で□□%とれた時は、前期はA大学、後期はB大学。取れなかった時は前期C大学、後期…」というように、出願の組み合わせを何パターンかシミュレーションしておく必要があります。

 なお前期だけ(旧制7帝国大学に多い)、後期だけ(愛知県立芸術大学)、中期だけ(大阪府立大学工学域や名古屋市立大学薬学部)という大学もあります。

 

*発展:前期・後期の組み合わせには「筋」があります。例えば前期名古屋大学、後期名古屋工業大学です。どうしても名古屋工業大学に行きたい人が前期後期とも名古屋工業大学を出願した場合、前期は似たような学力の生徒との争い、後期は名古屋大学不合格組との争いになります。難関大学の第二志望に狙われやすい大学は前期で勝ち抜けたいものです。

 

 また、全く別日程の公立大学も一部あります。有名なのは秋田県にある国際教養大学ですが、国公立との併願が可能なため、その倍率は尋常ではありません。

 

 平成28年度国公立大学入学者選抜確定志願状況 文部科学省

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/02/__icsFiles/afieldfile/2016/02/18/1367317_01_1.pdf

 

追記 こちらも見てください!

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

 

Q5 国公立と私立って入試科目に違いがあるの?

A5    続く。