ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

世界史の入試問題について考える(1 東京大学2017)

 国公立の前期試験、みなさん実力を発揮できましたか?

 昨年度に引き続き、問題を解きながら来年度に向けてどのような準備をしたらよいか考えます。

 

*解答例の方針

  • 解答例は受験生と同じように何も見ないで書くことを基本にしています。ただしブログに載せる以上推敲はしています(本番では推敲している暇はないです)。
  • 教科書の記述を超えない程度にしていますが、一部先生が授業で必ず話す(はずの)知識は入れます。
  • 解答例の紹介ではなく、解答へのアプローチの仕方や新三年生が何を準備するかについて考察することが主眼です。
  • 予備校の解答例の方が練られているのは当然です。当方はそちらと勝負する気はありません。解答例が知りたい人はそちらを見てください。だから比べないでください(笑)。

 

*発展 2月に定番テーマについて特集をしましたが、2017年の名古屋大学の世界史で「魏晋南北朝仏教道教」「士大夫」「冊封体制」の説明問題が出ました。予備校風に言うと「ズバリ的中」ですが、別に名古屋大学の対策をしたわけではないですし、定番テーマは必ずどこかで出ます。ただ名古屋大学を受験した人がブログを見ていただいたなら幸いです。

 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

入試問題の現物は日本経済新聞、読売新聞、毎日新聞より拾ってください。

 

 

東京大学 2017年

 

第1問

課題 前2世紀以降のローマ、春秋時代以降の黄河・長江流域について、「古代帝国」が成立するまでの二地域の社会変化。

条件 古代帝国の類似性と法則的な発展が論じられてきた。しかしそれぞれの地域社会の発展、帝国統治者の呼び方の登場の経緯には違いがある。

語句 漢字 私兵 諸侯 宗法 属州 第一人者 同盟市戦争 邑

 

語句から芋づる ローマか中国かで使う

漢字 中 漢字文化圏 始皇帝が篆書に統一

私兵 ロ 有力者が無産市民を私兵化

諸侯 中 周王から封土を与えられる

宗法 中 宗族が守るべき規範

属州 ロ 征服活動で得た海外領土

第一人者 ロ アウグストゥス、第一市民

同盟市戦争 ロ 内乱の1世紀 イタリア半島の自由人に市民権が認められる

邑 中 都市国家

 

マトリックス

 

ローマ

中国

背景

属州の拡大による自作農の没落 ラティフンディアの拡大

周王の封建と宗法による邑の連合国家

契機

奴隷の反乱 同盟市戦争 市民権の拡大

周室の内紛、遊牧民の侵入で周王の権威が低下

経過1

有力者が無産市民を私兵化

有力者が周王の権威を元に諸侯を統率

経過2

有力者の私的な同盟

諸侯が王を自称し富国強兵政策

結果1

最も強力な有力者が属州を監督し、その富で軍隊を維持して治安を守る

王が貴族を介さず役人を派遣して農民を直接支配する

結果2

オクタウィアヌス地中海世界を統一

秦王政が黄河と長江流域を統一

皇帝概念

元老院からアウグストゥスの称号 共和政の伝統を名目上は守る

王の上位権力である皇帝の称号を創始した

影響

市民の自由な経済活動を保障する帝国

政治制度を整え官僚を地方に派遣する中央集権的な帝国

 

解答例

ローマでは前2世紀に長年の対外戦争と属州からの穀物流入で自作農が没落して市民皆兵が崩れる一方、属州で富を蓄積した騎士が奴隷制大農場を拡大した。こうした中で属州や奴隷の反乱が相次いだ。そこで有力者は無産市民を私兵化して反乱を鎮圧し互いに抗争した。カエサルは広大な属州を支配下におさめ、その収入で軍隊を維持しローマ世界の治安を守る体制を構築した。彼の暗殺後オクタウィアヌス地中海世界を平定し、元老院からアウグストゥスの称号を得て、市民の第一人者と自称して共和政の伝統を守り、同盟市戦争以後拡大したローマ市民権を持つ者の自由な活動を保障する地中海帝国を確立した。黄河流域では周王が諸侯と主従関係を結び、同族集団が宗法にもとづいて結合する都市国家の邑の連合政権を形成したが、周室が衰退すると有力諸侯が周王の保護を名目に諸侯と盟約を結んだ。この春秋時代から実力主義の風潮が強まり、戦国時代には周室の権威は失墜し諸侯は王を自称し戦国の七雄が覇権を競った。鉄製農具の普及で生産力が高まると小家族経営が可能になり、七雄の秦は法家の思想を採用し、郡県制で農民を直接支配して軍備を整え、他の6国を破って黄河・長江地域を統一した。秦王政は諸王の上に立つ権力者という意味で皇帝の称号を創始し、全国に郡県制を敷き、法を整備し、度量衡・貨幣・漢字を統一して官僚制や文書行政による集権的な帝国体制と漢字文化圏を構築した。597字

 

ポイント

 ローマ帝国秦帝国が成立するまでの「社会変化」を比較して論じる。

 ひとつは社会のあり方。前者は「自作農からなる市民皆兵の都市国家」から「独裁者が管理する属州の富で傭兵を維持する地中海帝国」へ、後者は「氏族的な都市国家の連合体」から「皇帝が小農を直接支配する官僚制帝国」への変化。

 もうひとつは地理的広がり。前者は「ローマ人だけの都市国家」から「ローマ市民権を持つ者の地中海帝国」へ、後者は「黄河流域だけの文化圏」から「漢大陸全体の文化圏」への変化。この2つを要領よくまとめれば解答になる。

 

 たぶん使いにくいのが「漢字」という指定語句。

 ローマ帝国は官僚があまりいない。一方で中華帝国は官僚による文書行政が特徴。文字を篆書に統一したのは中央の命令を地方に伝えるため(始皇帝展で政府の命令を記した竹簡が展示されていた)。

 解答例では「漢字」を氏族支配から文書行政への変化という意味で使った。

 

今後に向けて

 今回はここ数年の時代を区切って世界を俯瞰する出題ではなく、「帝国のあり方」を抽象的に比較する出題だった。

 知識の出し入れだけではなく、抽象的な概念が比較できるかが問われている。馴染みのある範囲なので受験生的には「よしっ!」だが、実は書けそうで書けないタフな問題。

 最難関大学を受験するなら、ただ用語を覚えるのではなく歴史の「論理」にも注意する。「冊封体制」「世界の一体化」「帝国主義」など、授業中に抽象的な話が出てくれば漏らさず聴き、論述演習で復習する。

 

*発展 古代史オンリーで最近の出題とはテイストが違うように見えるが、アメリカ合衆国中華人民共和国の覇権のあり方に関する婉曲論評ともとれる。穿ち過ぎ?

 

 追記 3/24

*発展 京都大学の典型問題分析で「古代ローマとヨーロッパ中世封建制の軍制と社会のあり方を比較する」問題を紹介しました。京都大学はこうした社会経済と政治のあり方の関連性を問う出題がよくあります。第一志望の過去問研究はマストですが、決めうちはやめましょう。

 

第2問

難易度

◎マスト ○書きたい △難しいが差がつく問題 ▲完全解答は難しい

 

問(1)(a)ポーランド人の国家が隆盛した時期の状況とその後衰退した背景 90字以内

解答例▲

14世紀カジミェシュ大王の時に発展し、ドイツ騎士団に対抗するため同世紀末にリトアニアと合併してヤゲウォ朝が成立した。しかし貴族が強大化して王朝断絶後は選挙王制となり国内が分裂した。90字


ポーランドプロイセン人をキリスト教化するためにドイツ騎士団を誘致したらこの人たちも困った人で(笑)、彼らに対抗するために同じ目に遭っているリトアニアと合併したというのは有名な話。2015年の阪大に類題。


(b)ドイツ統一の際南部に存在した少数者集団と、当時いかなる政策が彼らに対してとられたか。60字以内

解答例○

ドイツ政府は南部に多いカトリック教徒を帝国の敵ととらえて政教分離を進める文化闘争を起こして現地の中央党と対立した。57字

*教科書には政教分離の具体例が書いていないので高校生にはこれが限界。

 

問(2)(a)清朝は藩部を掌握するためにどのような政策をとっていたのか。60字以内

解答例○

清は理藩院を設置して現地の有力者の自治を認める間接統治を行った。また現地の伝統的な文化や風習などを認めて懐柔した。57字。

 

ウイグルではベク制、チベットではダライ=ラマの制度が具体例。清朝は漢族社会では中華皇帝、遊牧民地域ではモンゴルの後継者として振る舞った。

 

(b)シンガポールの独立の経緯について、多数派住民が誰かに触れながら 60字以内

解答例△

マレーシア連邦が成立した時にその一部となるが政府がマレー人を優遇したのでこの地の多数派の中国系住民が不満を持ち分離した。60字


京都大学で既出。戦後史の有名問題。マレーシアはマハティール、シンガポールはリー=クァン=ユーが開発独裁の指導者として有名。今年出来が悪いと来年第3問で「かぶせて」くるかもしれないので周辺事項を復習すること。


問(3)(a)ケベック州が英語以外の言語を母語とする状況が生まれる前提となった、17世紀から18世紀にかけての経緯。60字以内

解答例○

17世紀にフランスが毛皮取引等を目的に北米に植民地を開発したが、七年戦争でイギリスに敗北しパリ条約でこの地を割譲した。58字


*高校生は「フレンチ=インディアン戦争」を書いて「毛皮取引…」を削る。


(b)南北戦争を経て奴隷制が廃止されるが、その後も南部諸州ではアフリカ系住民に対する差別的待遇が続いた。その内容 30字以内、

解答例▲

州法で選挙権が制限され公共施設の使用などが白人と別にされた。30字

その是正を求める運動の結果制定された法律  ◎公民権

その時の大統領  ◎ジョンソン


*関東の私大では定番の「ジム=クロウ法」の説明。授業で「バスボイコット事件」のビデオを見ると印象に残る。

 

今後に向けて

第2問は毎年同じで、有名語句だけ覚えないで意味もちゃんと分かっていて書けるかどうかが試される。普段の心がけ。

 

第3問

難易度

◎マスト ○書かないと差が付く △書くと差が付けられる

出題パターン

ま:紛らわしい や:ややこしい こ:細かい知識 り:理解・推理 ぜ:有名ものの前後・左右 ゆ:由来・フルネーム て:抵抗


問1 ま△シャープール1世  問2 ◎ウマイヤ朝 り○メロヴィング朝

問3 こ○グスタフ=アドルフ 問4 ◎トラファルガーの海戦

問5 や○李鴻章       問6 ぜ△サン=ステファノ条約

問7 ◎ファショダ事件    問8 て△ベトナム独立同盟

問9 こ○アメリカ合衆国ソ連、イギリス  問10 ◎グロティウス

 

東京大学志望者なら全問正解必須。

問5 漢字は正確に書く練習を。関西人は書ける(鴻池)

問1、問6、問8 「ど忘れ」に注意。

問9 PPAPならぬPTBT(笑)

 

今後に向けて

紛らわしいもの、有名どころの「いつどこだれ」や前後の知識、権力に抵抗した人は東京大学および難関私立大学の定番。日頃の心がけおよび難関私立大学の過去問の活用。